「──こりゃあイカン。呪縛鎧に憑りつかれた副反応だ」
「じゅ、じゅばくがい?」
「言ってしまえば、ゲームの”のろいのそうび”みたいな呪具さね。装備すると滅茶苦茶強くなれるけど、その代わり呪われる。その証拠に、呪縛鎧の破片がつるちゃんの周囲に散らばってた」
流石オカルトショップの店長であり、呪具のプロフェッショナルというだけはあり、つるぎの身に何があったのかをすぐに鹿島は看破した。
「鎧の破片は大丈夫なんですか?」
「あれだけバラバラになってる時点で霊気は拡散しちまってる。破片は無害さね。それよりつるちゃんの方を優先すべきだ」
自室のベッドにつるぎは寝かされていた。
だが、ステゴ剣鬼を御札に封じ込めた後も尚、つるぎは苦しみ悶え続けている。熱も40度と非常に高く、一向に下がる様子が無いのだ。
「動物霊を呪縛鎧に封じて、つるちゃんに纏わせていたんだろーな──何者かが」
「いったい、誰が……肝心な所を見てなかった所為で犯人が分からないよーっっっ!!」
「呪縛鎧なんて、持ち運んでたら怪しさ丸出しだからな……まさか
「コ、コトリバコ? 何ソレ……」
「呪具や霊を圧縮して持ち運べる──いわば”呪具版四次元ポケット”さ。おまけに、呪具や霊を中で混ぜ合わせて改造することもできる」
だとしたら納得だ、と鹿島はつるぎの額に手を当てながら言った。
問題は
(となると、呪縛鎧は元々
「でも、先ずはつるちゃんをどうにかしねえとな」
「つるぎは霊に憑りつかれないのに、何で……呪いに?」
「霊と呪いじゃあ、
おまけに、呪縛鎧は人の中に憑りつくのではなく、外から纏う拘束具だ。
つるぎとは最も相性が悪い部類の呪具と言える。
「……そんな、呪いを解除する方法は無いのですか!?」
「その為に助っ人を呼んだのさ……とりま俺は此処で選手交代だ」
「鹿島のじっちゃん、何処に行くの!?」
「俺ァ、
ピンポーン
マンションのチャイムが鳴った。
「来たみてーだぜ……助っ人がな」
「す、助っ人!?」
鹿島がマンションの扉を開ける。
そこに立っていたのは──
「治療費はァァァ……荒神のクソジジイに請求で良かったんかのォォォ~~~?」
「おーう、久しぶりだな”冥土ナース”……!」
──腰が曲がった、しわくちゃのお婆さんだった。
しかし、服装は何故かメイド服。背中には巨大な注射器が背負われている。
「だ、誰ですか、この人……」
「呪いの解除なら、大体この人に任せときゃ問題ねぇ。……年はいってるが、腕は確かだぜ」
「メイドなんですか? ナースなんですか?」
「冥土のナースだ」
「今は立派な女医じゃて! ……若い頃の仇名の冥土ナースが呼びやすいから皆そう呼ぶんじゃァァァ、ケケケケケケ」
不気味に笑った冥土ナースは、つかつかと無遠慮につるぎの部屋へ入っていくのだった。
「ケッケッケ、ぷんぷんするのう~~~、呪いの匂いじゃ……ぷんぷんするのォォォォ~~~」
(ね、ねえ、大丈夫なのかな本当に……)
(こっちの界隈では有名な方らしいですし、大丈夫だとは思いますが……)
※※※
「あ~~~、そっくりじゃのォォォ……荒神のクソジジイの若い頃にソックリじゃのう……ワシもこの真面目そうな顔に誑かされたんじゃァァァ……」
(つるぎのじいちゃんと、何か確執があるみたいだね……)
(敢えて聞かないでおきましょう……機嫌を損ねたら大変です)
「さぁーて、状況は良くないぞォォォ……動物霊と呪縛鎧の併せ技、じゃったかのォォォ?」
つるぎの枕元で正座する冥土ナースは、古びた本をパラパラ捲りながら──「最高に冒涜的じゃのォォォ」と呟くのだった。
「それで暴れて……五体満足で全員生還、じゃったかのぉ? よくもまあ、これで済んだのォォォ、奇跡的じゃろうてェェェ」
「どういうことですか?」
「この小僧の力とステゴサウルスの霊、そして呪縛鎧じゃろ? なら、お前さん達程度なら簡単にバラバラに出来たじゃろうのォォォ」
「……でもボク達、無事だけど」
「この小僧が無意識でリミッター掛けてた証拠じゃろうてェェェ……お前ら、この小僧に助けられたのォォォ」
双子は顔を見合わせる。
あれほど手を焼かされた相手だったのに、こうして自分達が大怪我することなく帰って来られたのは、つるぎがすんでの所で力をセーブしていたからだと気付いたからである。
逆に言えば、もしもつるぎの理性が完全に蒸発していた場合──あの場に居た全員は死んでいたわけで。
「ッ……つるぎ。暴走しててもボク達の事、分かってたんだ……」
「それくらい、呪縛鎧の力は強いんじゃァァァ……おまけに恐竜系の動物霊は力が強い……おお、くわばらくわばら」
「それで、つるぎさんは治るんですか……?」
「結論から言えば治る!! ただし、すっごく面倒臭いがのォォォ」
冥土ナースは振り向くと、巨大注射器を床に立てかけた。
そして、カルテらしき書類を二人に手渡す。だが、達筆過ぎて何を書いているのか、双子にはさっぱりなのだった。
「……今の小僧は、体内に複数の重篤な呪いが茨のように絡みついておる状態じゃァ。普通はこうはならん、動物霊と呪縛鎧を併用した所為でこんな事になっておる」
「どうすれば治るんですか……?」
「解呪の方法は幾つかある。軽めのものなら、すぐじゃがな……今回は非常に重いッ!! 故にこっちも最終手段を使うしかなかろうてッ!!」
「最終手段って……ッ!?」
つるぎの上半身を脱がし、御札を体中に貼り終えた冥土ナースは額の汗を拭うと、サンライズ立ちで巨大注射器を抱えた。
「このトクダイ注射器の出番じゃァァァーッ!! ただしッ!! あまりの痛みと苦痛と負荷で、患者は2分の1の確率で死ぬッ!!」
「2分の1!? そんなものに任せられませんッッッ」
「だから最終手段って言うとるじゃろがーッ!! お前ら呪いナメすぎじゃーッ!! 重篤って言うとるじゃろーッ!!」
「ごめんなさいッッッ」
「てか、その注射器、何なの!?」
「患者にブッ刺して呪いを吸い出すための呪具じゃーッ!! 馬に使う笹針みたいなもんじゃのーッ!!」
(絶対に違うと思います……だって馬に使うにしたってデカすぎでしょ、その注射器)
曰く。
こいつを患者の体にブッ刺し、体内の呪いを全部吸い出してしまうのだという。
なるほど注射器には御札が大量に貼られていた。しかし、冥土ナースの言う通り、多大な出血と患者への負荷を伴うらしい。
ただでさえ呪いで消耗している患者にこれを使うのは非常に危険らしい。注射器の大きさからしても危険な匂いしかしないのだった。
「20年前の百鬼夜行の時はこんな事も言ってられんから、ブスブス刺してたんじゃがのう……見事に生還率は2分の1じゃったのう……」
「こ、怖ァ……」
「で……あともう1つの方法なんじゃが、こっちは生還率は
「そんなのがあったんですか!? じゃあ、20年前に人がブスブス死ぬ必要はなかったのでは!?」
「こっちは時間が掛かるんじゃよ。ワシだって好きでブスブス刺してたわけじゃあないわ」
結局の所、どちらの方法にもデメリットは存在するのだ、と冥土ナースは語る。
20年前の百鬼夜行では、注射をすぐに打たねばどちらにせよ死ぬような呪いにかかった霊術師が続出したらしく、やむを得ず解呪師たちは注射をブスブス患者に打っていったという。
「しかも、もう1つの方法はオマエ達に
「お願いっ! ボク達、つるぎを助けたいんだ!! 何だってする!! 何だってやる!!」
「私もです。後悔したくありません。何でもします!!」
「どうしよっかのォォォー……」
「ならば取引です。報酬を上乗せしましょう」
「トーカ!? 報酬って──」
凍花が何処からともなく取り出したのは──白い夢の箱であった。
「──ドリキャスです」
「もうドリキャスは良いよッッッ、しかもまだ持ってたのソレ!?」
当然だが、こんなもので取引ができるわけがない。
「おおお……!! ドリキャス……!! 懐かしいのう……!!」
できちゃった……。
「爆死したゲームハードの集合霊を祓った時以来じゃ……」
「何でそんなもんまで霊になってんだよ!! しかも爆死って言っちゃってるし!!」
霊とは言うが、所謂付喪神というものである。ワゴンセールに並べられた有象無象のゲームハードの集合霊だ。
ゲームハードも動物と同じ弱肉強食の世界なのである。知らんけど。
「良いじゃろう、ドリキャスに免じて教えてやろう……」
「それで良いんだ!? こんな所で役に立つ事あるんだ!?」
「やりました姉さん」
「激しく納得がいかないッ!!」
「それで、もう1つの方法は何なんですか──ッ!?」
「──房中術じゃ」
「……」
「……???」
黙りこくる凍花。そして、頭に「?」を浮かべる雷花。
そんな二人に、冥土ナースは専門家としての立場から「房中術」の詳細を説く。
「元は中国古来に伝わる男女の交わりで健康を得ようと言うアレじゃ。しかし、霊術師はこれを応用して解呪法として確立した」
「……交わり……?」
「姉さん、要するに……」
ぽしょぽしょ、と凍花が噛み砕いた意味を雷花に耳打ちする。
すぐに、雷花の顔が真っ赤になっていく。
「えっちなことじゃん!?」
「はい……」
「じゃから言ったろ、条件さえ合えば──とな。粘膜接触で直接体内から呪いを絞り出すのじゃ」
「生々しい!!」
「散々つるぎさん誘惑しておいて、今更何を恥ずかしがっているんですか」
「い、いざってなると、流石に」
「嫌ならさっさと注射をブスッと打つぞ」
「待て待て待て、待ってェーッ!? ストップ!!」
別に嫌なわけではない。しかし、望んだ形ではない上に心の準備が出来ていない、というのが実情だ。
「さっき言ってた条件って……!?」
「鬼じゃないと呪いを搾り取れんのじゃよ」
「つまり変身しろと……」
「鬼は呪いに耐性があるからのう。そのまま吸い出した呪いを滅却できる」
「……変身して……つるぎと、えっちな事を──」
「さぁ──どうする?」
「あ、ぐぅ……雷花……凍花……」
呻くような声がつるぎから聞こえてきた。
「お、俺の事は良い……お前らだけでも……助かってくれ」
「……」
「……」
「俺は死んでもいい……だが、お前達、だけは……」
ブチッ
イラッ
「──犯します」
「──犯すね」
「判断が早いのうッ!?」
双子は──キレた。
此処までの余韻をブチ壊す双子の爆弾発言に、流石の冥土ナースも戸惑った。
既に双子は鬼へと変身しており、準備万端といった様子だ。
キレた理由は当然、自分自身の事はどうでも良いと言わんばかりのつるぎの言葉だった。
しかし──双子からすれば、そんな発言は有り得ない。愚の骨頂も良い所だ。
「……私達さえ助かれば良い? 自己犠牲精神も大概にしてください」
「つるぎの代わりなんて居ないし要らない。つるぎの居ない世界なんて考えられない」
「あー……注射は要らなさそうじゃのう。取り合えずマニュアル置いておくから、困ったら呼ぶように……」
注射針を背負い、冥土ナースは部屋を後にする。
ベッドには、苦しそうに呻き続けるつるぎ。そして──そこに馬乗りになる双子たち。
彼女達の頬には、解放した野生を示すかのように鱗がびっしりと生えており、目は爬虫類のそれへと変わる。
ステゴサウルスは草食動物。
だが、ライトニングクローもクリオドラコンも肉食動物。
どちらがマウントを取られるべき存在かは最初から分かり切っていたのだ。
「──上等です。言葉で分からないなら、最初っから身体で分からせれば良かったんです」
「──ボク達が、どれだけ君の事が好きか……思い知らせてあげるよ」
……なんか目的が変わっている気がするが──結果的に荒神つるぎの呪いは解かれた。
乙女の怒りの怖さを改めて思い知る冥土ナースだったが──彼女もかつて、つるぎの祖父を包丁片手に追いかけた「8人の彼女」の1人であったことは言うまでもない。
(うん──青春じゃのうッ!! 今日も善い事をした気がするのうッ!!)
冥土ナースの顔は──何処か晴れ晴れとしていた。
(それにしても双子二人同時とは……罪作りなのは血筋か……)
※※※
「う、ぐぅ、頭が……」
チュン、チュンチュン、と雀の鳴き声で荒神つるぎは起き上がる。
体が想像以上に軽い。
だが──どうして自分が自室で寝ているのか、彼にはさっぱり分からない。記憶が飛んでしまっている。
(何でだ、あの後どうなった……? アレは、動物霊の類に違いないが……)
その時である。つるぎは、自分のものではない寝息に気付いた。
「うにゃぁ……つるぎぃ……好きぃ……」
「え……?」
「うぅん……つるぎさん……お慕い、してます……ずっと……」
「え……?」
両手に花。
そんな言葉が似合う構図だった。
言い訳など微塵もしようがない場面だ。しかし、つるぎには昨晩の記憶どころか、デートの途中からの記憶が無いのである。
「え……?」
しかし、そんなつるぎに構うことなく、双子たちは彼の丸太のような腕を自らの柔肌に押し付け、多幸感に満ちた顔で眠っていた。
彼女を作るなら、結婚が前提。相手は当然1人。その想いは死ぬまで貫き通す──そんな荒神つるぎの価値観は見事にブチ壊される事になる。
「え……?」
──こうして自分に向けられた好意を散々見て見ぬフリをしてきた堅物剣鬼は──双子姉妹に敢え無く”
「あ、おはよ……つるぎ」
「……もうすっかり、呪いは解けたみたいですね」
目を擦りながら起き上がり、大きな胸板に自らの身を任せてくる双子たち。
此処からは──剣鬼が双子姉妹に”
双子はどっち派ですか?
-
雷花
-
凍花