「──本当に、すまんッ……だが何があったのか、俺にはさっぱりで……」
ベッドの上で全裸で荒神つるぎは土下座していた。
目が醒めたら幼馴染の双子も全裸で自分の傍で寝ていた。
全く状況が掴めないし、何があったかさっぱり覚えていないが──生真面目な彼は土下座して平謝りするしかなかった。
知らないうちとはいえ双子たちの処女を散らしたであろうことは確定的に明らかだったからである。
「責任は必ず取る──」
「謝らないでください。これは私達が選んだ道なんです」
「どっちかって言うと、襲ったのはボク達側っていうか……むしろ、責任取るのはボク達の方って言うか」
「呪いを解く為に必要だったんです」
「呪い──!? 待て待てどんな呪いだそれは!?」
またしても何も知らないつるぎは、パニック状態になり、目を白黒させた。
「何で……どうして二人共、俺に……此処までしてくれる」
「つるぎ」
「つるぎさんっ」
そんなつるぎを落ち着かせるように──双子は彼に寄り添う。そして──「Chu♡」と頬に口づけするのだった。
「1つ勘違いしないでほしい事があります」
「ボク達は──つるぎの事がとっても大好きなのっ!! つるぎが、自分の身を投げ捨てても良いくらいボク達の事が好きなのと同じだ!」
「……だから、悲しい事を言わないで下さい。つるぎさんに居なくなられるより辛い事なんてありません」
「つるぎの代わりなんて、ボクには考えられない! それくらい、つるぎが大好きなんだよっ!」
「つるぎさんは、私達を傷つけたくないと思っているようですが──私達はつるぎさんと一緒なら、不幸になっても良いです」
「ッ……」
「だから……居なくなったらヤだよ」
つるぎは複雑な面持ちで二人を抱きしめる。
「ね、つるぎ。つるぎは責任責任って言うけど……ボク達にも責任あるよ」
「つるぎさんを此処まで追い詰めたのは、間違いなく私達ですから」
「しかし……今は──心の整理が付かない。返事は──その時で良いか?」
「……またお預けですか」
「今、返事をしても──誠実な答えが返せる自信がない。だが──お前達がどれだけの覚悟を以て、俺を生かしてくれたかは──分かったつもりだ」
抱き締める手の力が強くなる。
「──もう、居なくならない」
それが──今できる、精一杯の誓いだった。
「……それって、返事みたいなモンだよーっ!!」
「本当に……不器用なんですから」
「俺は大真面目に言ってるんだッ」
※※※
「お、俺が鬼に……ッ!?」
「そうじゃ」
リビングで勝手にP〇5を借りてモ〇ハンをやっていた冥土ナースがこれまでの経緯をつるぎに話す。
鬼と化して渋谷の町で暴れ回った事。そして暴れていたところを双子に鎮圧された事。
呪縛鎧の副作用で重篤な呪いに侵されており、そこを双子の解呪で命を拾った事──
「すまん……まさかお前達にこんな形で──」
「謝らないで! つるぎは悪くないもんっ!」
「そうです。つるぎさんに呪縛鎧を着せたクソッタレが居るはずですから」
「呪縛鎧と動物霊の併せ技じゃ。誰にやられたか、覚えは無いかえ?」
「洞道──洞道コトリだ。あいつが、妙なハコ型呪具を持っていた」
双子たちの目が殺気立つ。
「それだーっ!! やっぱりあの女だ!! そのハコ型呪具は
「ハナから狙われてたんですね、つるぎさん……!」
「……ああ。恐らくは……洞道コトリには動物霊が憑りついている。様子が明らかにおかしかったからな」
まんまとハメられたわけだ、とつるぎは悔やむように言った。
とはいえ、洞道が
「そんなわけで、問題は此処からじゃな。そろそろ鹿島ちゃんから
チャラッチャラッズゥゥゥーン……。
ボッシュートの効果音が冥土ナースのスマホから鳴り響く。どうやら着信音らしい。
「……お、鹿島ちゃんからじゃ。もしもし──あ、荒神の小僧? ピンピンしとるぞい。代われそうなら代われ? はいはい分かったぞい」
スマホを受け取ったつるぎは──鹿島からの電話に出る。
「鹿島さん──」
「おっ、つるちゃんか!! もう大丈夫そうか!? 呪いは!!」
「平気です。心配を掛けました」
「……良かったぜ。だけど、状況は激しく悪い! 先ず、各地に保管されてるはずの
※※※
「コトリバコ? ははっ、こないだ親父が死んだときにヤフオクで売っぱらっちまったよ──あの木箱、売ったらマズかったの? へへっ」
「何やってんだいこのバカ息子ーッッッ!!」
「ごばぁーッッッ!?」
──これが全てである。
京都のとある霊術師の家のバカ息子が、どうやら父の死を機に
結果、
おまけに、霊術師の家はそれが露呈するのを恐れており、今の今まで
鹿島が霊術師協会の名前を出して問い合わせた所、流出がバレたと思って勝手に向こうから白状したのだという。
「き、危険呪物をヤフオクで……ッ!? な、なんてバカな事を……!!」
「え!? ヤフオク!?
「メルカリじゃないだけマシかもしれませんね」
「そーなの!!?」
「オマケに、ヤフオクで
となると、全てが点と点で結ばれていく。
祠荒らしの犯人は──洞道コトリだ。
「問題は家の誰が
「……
「もしかしてそれって──昨日のつるちゃんのデート相手か!?」
「そうだ。まんまとしてやられた。しかも、動物霊が恐らく憑いている」
「なんてこった……だが、それなら洞道コトリの身柄をこっちで確保すれば──」
ザワッ
その時だった。
その場に居た4人は皆、全く同じ悪寒にも似た感覚を覚えた。
霊術師たちは、強い動物霊の力は遠くからでも感じる事が出来る。
だが、これは1つや2つではない。波のように複数の数の悍ましい気配が断続的に漏れ出している。
「……つるちゃん?」
「鹿島さん、大変だ。動物霊の気配が……無数に……ッ!!」
「ッ……こっちからでも感じたぜ!! こりゃあ、マズいかもしれねーな……」
「おい、小僧。大体の場所は分かるかい?」
「ああ──これだけ気配がデカければな」
「上等。そこまで連れてってやるわい」
「連れてくって……どうするの!?」
冥土ナースは──車の鍵を3人に見せつけた。
「乗りなァ……地獄へのドライブの始まりじゃーッッッ!!」
※※※
「フッフフフフ──さぁてと。動物霊もたっぷり集まりましたし……」
中からは無数の黒い靄が噴き出していった。その全てが、洞道の命令に忠実に従うように改造された尖兵たちだ。
日曜の学校の屋上には誰も居ない。
「荒神つるぎ、貴方には感謝していますわ。この私を、現世に呼び戻してくれたことを!!」
溢れ出すは、目をギラつかせた肉食恐竜。凶暴化した草食恐竜。
巨大化した古生代の昆虫や大ヤスデたちに、空を飛ぶ翼竜に怪鳥。
おまけに、日本には居ない巨大狼の群れや巨大ナマケモノに巨大サイなど、夥しい数の絶滅動物の霊が現れる。
だが、このままでは彼らは実体を持たぬ只の霊でしかない。故に──人に憑りつき、鬼と化すのである。
「絶滅タイムの始まりですわーっ♪」
動物霊たちは皆、洞道に集中して集まっていく。
彼らは混ぜ合わさり、ひとつの悍ましいナニカへと変貌していく。
洞道は動物霊たちに埋もれていき、やがて姿が見えなくなった。
「さア……百鬼夜行ノ続きを……始めヨウか!!」
【キメラ合成鬼 分類不明 合成生物】
現れたのは──頭は恐竜、胴体は毛皮に覆われた獣、尻尾は巨大ヤスデ、更に身体の表面には無数の動物霊が蠢く怪物だった。
※※※
──しかし、つるぎ達も到着が速かった。
というのも場所は自分たちがいつも通っている学校。
そして、冥土ナースの素晴らしい運転の元、僅か数分で学校まで辿り着いたからである。
「おっ、おえええ……吐くモノないのに吐きそう……」
「車酔いなんて、しないはずなのに……」
「何だい何だい、戦う前からバテちまってるじゃないかい」
「……マズい事になってるな」
「あええ? ボク達、窓の外全然見る余裕なかったんだけど……ゲッ」
つるぎ達もまた、校舎の屋上で咆哮する巨大な動物霊の集合体とも言えるその怪物を目の当たりにすることになる。
表面を覆うのが動物霊ということもあり、恐らくまだ人の眼には付いていない。
だが問題は、零れ落ちるようにして次々に動物霊が屋上から校庭に降りていることだ。
それが意味するのは──
「ぅぐぁあああああああああああ!?」
──鬼が、今学校に居る生徒の数だけ生まれるということである。
既に校庭は異形の鬼塗れ。全員が理性を失っており、這いずり回っている。
これが校舎の外に出れば──東京中に動物霊と鬼が拡散することになる。
「結界張っとる場合じゃないのう……お前達は、ただちに元凶を叩きのめすんじゃッ!! ワシゃ援軍を呼ぶッ!!」
そう言って冥土ナースはすぐさま自家用車を走らせて何処かへ行ってしまった。
いずれにせよ、この事態を座視することなどつるぎ達には出来ない。
双子たちは鬼へと変身。つるぎも霊刀を構える。
そして、覚悟を決めたように──言った。
「二人共──聞いてくれ」
「どしたの、つるぎ」
「……どうしたんですか、こんな時に」
「こんな時だからこそ、だ。後悔の無いようにしておきたい」
彼は目を瞑る。己の中に秘めていた思いを──解き放つように。
「城ケ崎雷花さん。城ケ崎凍花さん。ずっと──好きでした」
思わぬ告白に、双子は顔を見合わせる。
いつも以上に真面目で、しかし一直線ストレートなつるぎの言葉。
「……つるぎ」
「……つるぎさん」
「ずっと負い目を感じていた。それに──お前達二人を好きになってしまったのを」
つるぎ自身も鈍感だったわけではない。
双子たちからどのような想いを寄せられているか、知っていたつもりだ。
だが、生来より真面目だったつるぎは思い悩んだ。二人同時に付き合うという選択肢が──あまりにも不誠実なように思えたからだ。
何より、8股かけて女から刺されかけた祖父の武勇伝(?)を知っていたからでもある。
「だから祠の件で言い訳したんだ。俺は──自分の気持ちに向き合うのに逃げた。だけど──お前達は逃げなかった」
「そーだよ、つるぎ。ボク達は君から逃げたりしないっ」
「そんな情けない俺でも良いなら──」
「ナメないで下さい。今までずっと一緒に居たんです。格好いい貴方も、ダメな貴方も見て来てるつもりです」
「肝心な所でヘタレな所とかねー?」
「クソ真面目過ぎる所とかです」
「うぐ……だが、もう逃げん。お前達が覚悟を見せたんだ。俺も、これ以上逃げたら男が廃る」
つるぎは再び、災禍の群れに向き直る。
「──行くぞ、雷花。凍花」
「……うんっ!!」
「……勿論です」
先ずは──校庭に居る鬼たちの掃討だ。
彼らを放置していては、先に進めるものも進めない。
案の定、鬼たちは此方を見つけるなり、次々に襲い掛かってくる──
「オイオイオイ、荒神ィ!! 野球しようぜェェェーッ!! お前ボールなァ!!」
「野球だ野球だァァァーッ!! ヒャッハーッッッ!!」
恐竜人間と化した野球部の人間が一斉に襲い来る。
その群れを雷花は電気の爪で蹴散らし、凍花は一斉にブレスで凍らせて動きを止めていく。
だが、あまりにも数が多すぎる。このままでは消耗は避けられない。
事態を打開するため──つるぎは霊刀に1枚の御札を翳した。
「頼む……力を貸してくれッ!!」
『私の力を? 良いじゃない、良いじゃない』
「ッ!!」
御札を通し、声が聞こえてくる。
この中に封じられているのは、ステゴサウルスの霊だ。
そして、ティラコ獣鬼やロッキー飛鬼の時と違い、憑りついていたのが呪縛鎧だったからか、ステゴサウルスの霊は全て御札の中に封じられたのである。
『別に人間に恨みなんて無いもの。むしろ、勝手に改造されて頭に来てるくらいなのよねェ?』
「……大事な人を守る力が欲しいんだ」
『いいわよォ? 家族は大事だものねぇ? 大事大事。でも、人間に私の力、使いこなせる?』
鎧のようにつるぎの身体に黒い靄が纏わりついていく。
そして、背中には次々に刀や剣が突き刺さり、鎧武者の如き姿へと変わる。
だが──同時に巨大な尻尾が尾てい骨から生え、スパイクが飛び出すのだった。
「これが本当の……ステゴ剣鬼……ッ!!」
しかし、身体がとてつもなく重い。
部活で着ている胴着とは比べ物になりはしない。
全身に鉛の重りをぶら下げているかのようだ。そんな中でも、恐竜の鬼たちが次々につるぎに飛び掛かる。
(成程な──使いこなせるか? と問われた意味が分かった……ッ!! 凄まじく堅牢な鎧だが、恐ろしく重い!!)
しかし──
(だが、その代わり一撃もとてつもなく重いッ!!)
──飛び掛かってきた複数体を右手の剣の突きの衝撃波だけで大きく吹き飛ばし、もう1体を左手の剣で薙ぎ払う。
最早斬撃ではなく、衝撃波を飛ばしているような感覚だ。人間の時とは腕力も膂力も桁違いに高い。
死角から飛び掛かってきた2匹は──尻尾で薙ぎ払って打ち払う。野球のボールのように吹き飛んで行き、壁に叩きつけられた。
「これは……扱いきるまで時間が掛かりそうだ」
御札を握り、変身を解除したつるぎは、倒れた鬼たちに霊刀による突きを見舞い、封じていくのだった。
(今のところは重すぎる……決戦兵器として用いた方が良さそうだ)
おまけに、此処にいる鬼たちの大元である動物霊は全てレプリカ。御札を貼りつけても霊が吸収できず、そのまま拡散してしまう。
「つまり──
再び襲ってきた野球部員たち。
今度はそれをティラコレオの御札を切って、跳躍して躱し、上空からロッキートビバッタの御札を切ってバッタの群れを浴びせて蹂躙する。
御札に眠る動物霊の性能は、単なる強弱ではなくそれぞれ長所短所がある。状況に応じて、それぞれを使い分ければ良い。
「つるぎッ!! こいつら数が多いけど大したことないよッ!!」
「校舎に入って屋上に向かいましょうッ!!」
「ああ……百鬼夜行は食い止めるッ!! 此処でッ!!」
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双子はどっち派ですか?
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雷花
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凍花