堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで   作:タク@DMP

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第14話:霊の在り方

「つるぎ、大丈夫!?」

「……俺は、何とか……」

「アレは……ドードー!! モーリシャス島に生息していた飛べない鳥です!!」

「でも、首2本無いよ!?」

 

 そっちのドードーではない。

 

「姉さん……現実世界に首が2本ある鳥は生息してないし、進化しても3本にはなりません……」

「……ドードー……人間の言葉デ、”ノロマ”だっタかしらねェ……!! 私、その名前キライよ!!」

 

 ドードーは、かつて無人島のモーリシャス島に生息していた。

 

 天敵の居ない島で進化したドードーは、敵から逃げる術も戦う術も持たなかった。

 

 故に──人間が上陸したのが、彼らの運の尽きであった。

 

 彼らは肉こそマズく、おまけに文献によっては人に嘴で襲い掛かる事もあったらしく、嫌な鳥(ヴァルクフォーゲル)と呼ばれて忌み嫌われた。

 

 しかし、それでも入植者と人間が持ち込んだ外来生物による卵やヒナの捕食、生息環境の破壊によって、発見から僅か80年程度で彼らは絶滅することになる。

 

 嫌な鳥(ヴァルクフォーゲル)は、敢え無く幻の鳥となったのである。

 

「なぁにが嫌な鳥(ヴァルクフォーゲル)じゃァァァーッッッ!! 勝手に人のナワバリに入っておいて随分と勝手な言い草じゃないッ!! 人間はキライよッ!!」

 

 そんなドードーは、攻撃性こそあったという記述はあれど、人間を脅かすような強さを持った動物ではない。

 

 しかし、キメラ合成鬼として大量の動物霊の力を取り込んでいたドードー怨鬼は、自らの種の限界を超える力を手に入れたのである。

 

 おまけに、今も尚ドードー怨鬼の体には呼獲箱(コトリバコ)が埋め込まれており、エネルギーの補給源となっているのである。

 

「ケッカカカカ!! ライトニングクローに、クリオドラコン!! お前達、あの祠デ一緒だった生き物ネぇ。お前ら、人間がどれだけ野蛮な生き物か分かっちゃいない!」

「そりゃあ生息年代が違いますから……」

「こちとら滅ぼされたウラミがあるのよ!!」

「貴方達の恨みは御尤もですが──」

 

 それでも、つるぎも、双子たちも動物霊へのスタンスは一貫している。一貫させざるを得ない。

 

 どのような霊であっても、死者が生者の領域に干渉することは許さず、祓えるならば祓う。それが、霊術師のルールだ。

 

「──死者は……生者の領域に入ってはいけない。いいえ、()()()()()()()()

「……人間が絶滅しても、ドードーが復活するわけじゃないんだよ」

「それに、大人しく滅ぼされてやるつもりも微塵も無いがな」

「黙らっしゃいッ!! この恨み、晴らさでおくべきかッ!!」

 

 飛び掛かるドードー怨鬼。

 

 すぐに雷花が腕に掴みかかるが、想像以上にドードー怨鬼の腕力はすさまじく、軽々と投げ飛ばされてしまう。

 

 そこに、ドードー怨鬼の手から無数の青白い霊気が放たれた。それは、皆ドードーの姿をしており、ミサイルの如く雷花に突っ込んでいく。

 

 

 

「ウッソでしょッ!?」

 

 

 

 それらは全て雷花の身体に噛みつき──そして爆弾の如く爆ぜる。

 

 鱗を散らしながら、雷花は地面に落ちていく。

 

「雷花ッ──!?」

「よくも姉さんを──ッ!!」

 

 凍花が真正面から冷気を浴びせるが──凍り付いても動かなくなる様子はなく、そのまま凍花目掛けて突き進み渾身の蹴りが加えられる。

 

「凍花ッ!!」

「次は、お前デすわッ!!」

「……ティラコ獣鬼の封ッ!!」

 

 ステゴ剣鬼の変身を解除し、ティラコ獣鬼の力を借りたつるぎは、倒れた雷花、そして凍花を米俵のように抱え、その場から一気に跳躍して脱する。

 

 当然、逃がすはずもないドードー怨鬼だったが、そんな彼女を襲ったのは、大量のバッタの群れ。

 

「──ロッキー飛鬼の封ッ!!」

「ぎぃっ!?」

 

 御札から漏れ出す無数のバッタがドードー怨鬼の身体を覆い尽くす。

 

 その間に、つるぎは校内へと逃げ込むのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「どうしますか、つるぎさん……あいつ、強すぎますよ……!!」

「げほげほっ、めっちゃ咽る……」

 

 

 

 損傷した霊気を修復させるため、つるぎ達は校内で隠れ潜んでいた。

 

 雷花以外は変身を解除しているため、ドードー怨鬼からこちらの場所は悟られない。

 

 一方雷花は、電気信号でドードー怨鬼の位置を逆探知することができる。

 

 ただでさえキメラ合成鬼との戦いで霊気を消耗しているのにも関わらず、中から出てきたドードーは3人がかりでも対処が難しいほどの強敵だ。

 

 そうなれば一度、戦略的撤退を選ばざるを得ない訳で。

 

「あいつ、校舎に入った……こっちを探してる!!」

「……どこかで反撃に転じなければ」

「ああ」

 

(……かく言う俺も、最初の一撃で腹が痛い……あの鎧を着ていて、なおこのダメージか……!!)

 

 こりゃあ終わったら病院行きだな、とつるぎは嘆息する。骨も何本か折れていそうな勢いだ。

 

「……ドードーの人間への恨み……凄かったね……」

「霊は、よくも悪くも生者の思念で在り方を捻じ曲げられるものです」

「”人間に絶滅させられた悲劇の動物”という今日(こんにち)でのドードーの評価が、あのドードー霊の在り方にも関わっているというわけか」

「そうなりますね。結局の所、絶滅した動物が人間を恨んでいるかどうか、私達には分かるはずもないので」

 

(とはいえドードーに恨まれても仕方ない事をしているのには変わりないのですが……)

 

「ボク達がドードー霊にしてあげられることってないのかな?」

「残念ですが、ありません」

 

 ピシャリ、と凍花が言った。

 

 悲しいが──これが現実なのである。

 

「どっちにせよ、俺達に出来るのは──霊を封じる事だけだ」

「そうなのかなあ……死んでも恨みに憑りつかれるなんて、かわいそうだよ」

 

 生者が霊にしてやれることは──あまりにも少ない。

 

 そして、現世に現れた霊は、生者の思念で本来の在り方を捻じ曲げられる。

 

 霊は霊として現世に現れた時点で生前のそれとは別物になってしまうのである。

 

 それを強く思い知らされた出来事を、凍花は回想する。

 

「つるぎさん。私達のお父さんの事──覚えてますか?」

「ああ。忘れもしないさ」

「……霊って、()()()()()って思い知らされたよ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──城ケ崎姉妹の父は、彼女たちが幼い頃に亡くなった。

 

 だから、姉妹は父の顔も声も知らない。……そのはずだった。

 

 これは雷花と凍花が動物霊の力をある程度制御できて間もない頃の夏祭りでの出来事だった。

 

「雷花ー、凍花ー、何処行ったんだよー!?」

 

 荒神つるぎ、当時10歳。

 

 祭りの途中で居なくなった双子をつるぎは探していた。隣には付き添いの祖父も居た。

 

「……ったく、どうしたんだよ、あいつら……普段は傍に居てーって言う癖にさ」

「ワンパク盛りじゃからのう、二人共……」

「取り合えず聞きこみして回るしかないよな」

「ああ、待てつるぎ」

「何だよ、じいちゃん」

「……気を付けた方がええ。盆付近になると、人の霊が……生者に紛れて祭りに出る事がある」

「こっそり紛れてるって怖くない?」

「ああ。だから注意深く観察せねばならんのじゃよ──」

 

 

 

「だーからよォォォー、姉ちゃん、何で無視すんの? 俺とお茶すんの嫌なワケ? え?」

 

 

 

 秒で見つかった。

 

 双子の代わりに、祭りに紛れ込んだ霊が。

 

 女の人の肩に腕を乗せて何やら話しかけているが、当の女の人は全く気付く素振りが無い。

 

「チーマーの霊じゃ……足が半分無い……」

 

 ※チーマー……徒党を組んで反社会行為を働く。メンバーが大体同じカジュアルファッションをしていた。

 

「ナンパしてるけど、相手の人に霊感が無いからガン無視されてる……」

「取り合えず祓うか」

「あ”あ”あ”あ”あ”ッッッ!! 澄み切ったァァァーッッッ!!」

「消えてった」

 

 速攻で祖父が御札を貼り、チーマーの霊は浄化された。

 

 しかし怪奇現象は続く。

 

 

 

「クソッ!! クソッ!! 皆プレ〇テ2って……ハードの最先端はS〇GAなのに!!」

 

 

 

 ──今度は、祭りの会場のド真ん中で文句を言いながら家庭用ゲームをしている不審者の姿。それを見て祖父は、あれが何の霊かを看破した。

 

 

 

「ゲーマーの霊じゃ……コントローラーが半分無い……」

「何でそっちが半分無いんだよッ!?」

 

 

 

 このゲーマー、どうも愛用していたゲーム機諸共霊になってしまったらしい。

 

 此処が祭りの会場であることにも気づかず、一心不乱にぷよを積み上げている。

 

「あと、やってるハードがドリキャスじゃ」

「違う意味でセ〇の亡霊だーッッッ!!」

「取り合えず祓うか」

「オアァァァアァァァァーッ!! セー〇ーッ!!」

 

 こうして、ゲーマーの霊は浄化された。

 

「ワシら霊術師が祭りを巡回するのは、ああいう迷える霊を祓う為なんじゃよ」

「迷える霊じゃねーよ、血迷った霊だったよ」

「去年はチーかまの霊がおったのう、アレもチーマーと似たようなモンじゃ」

「チーとマしか合ってねーよ、チーかまの霊って何? 何でそんなもんまで霊になってんの?」

「食い物の霊は怖いぞ、動物霊と紙一重じゃ」

「嫌だよ俺、もうチーかま食えねえよ、じいちゃん」

 

 そんなこんなで聞き込みをしているうちに、双子の姉妹がどうも祭りの会場から外れた方に行ったというのをつるぎは知った。

 

 薄暗い裏参道の方に向かうと──双子の姿があった。

 

「おい、雷花ー、凍花ー、何やって──」

「待て──つるぎ。様子がおかしい」

 

 雷花と凍花は、じぃっと何もないある一点を見つめている。

 

 そして、嬉しそうに一歩、また一歩とおぼつかない足取りで何処かを目指して歩いていた。

 

 その先には何も無い。ただ薄暗い藪への入り口が待っているだけだ。

 

「雷花ッ!! 凍花ッ!! 何やってんだよッ!?」

「ッ……つるぎ?」

「つるぎさん──」

 

 二人は振り向くなり──虚ろな目で言った。

 

 

 

「──だって、お父さんが呼んでいるの」

「──だって、お父さんが呼んでいます」

 

 

 

「お い で お い で……お い で お い で」

 

 

 

 不気味な声が──つるぎと祖父にも聞こえてきた。

 

 この不協和音ともとれる声を、双子たちは──自分の「父」が呼ぶ声だと認識してしまっている。

 

「一人は寂シい……一人はァ……ッ!!」

「やれやれ、城ケ崎の小僧……こんな姿になりおってからに……今楽にしてやろうぞ」

 

 つるぎは双子を無理矢理引っ張って引き剥がし、祖父が前に出て──霊刀を振るう。

 

 間もなく、絶叫しながら薄暗い靄に覆われたナニカが藪の奥から現れた。

 

 しかし、つるぎの祖父に襲い掛かったのも束の間、霊刀に斬り伏せられ、そのまま霧となって消えていく。

 

 そして、悪霊が消えたのと同時に雷花と凍花の眼にも光が戻り──驚いた顔でつるぎを見るのだった。

 

「ッ……あ、あれ!? ボク達、いつの間にこんなところに!?」

「おかしいですね。お祭りの会場を歩いていたら……お父さんの声が聞こえてきて」

「……声なんて知ってるわけないだろ? お前らの父さん、お前らが赤ちゃんの頃に亡くなってんだぞ!?」

 

 それを聞き──雷花も凍花も顔を真っ青にして、手を取り合った。

 

「んなっ、じゃ、じゃあ、何だったの!? アレは!?」

「私達、だいぶ危なかったんじゃ……ないですか!?」

「……霊じゃよ」

 

 ぽつり、とつるぎの祖父が切なそうに言った。

 

「お前達の親父さんは生前、病気がちで……残していくお前達の事を心配しておった」

「でも、子供の心配をする親が、どうして霊になってからも子供を連れていこうとするんだよ」

「それが──霊というものじゃ。死んだ後は……生前の生き方も記憶も捻じ曲げられて、変わってしまうんじゃよ」

 

 覚えておくが良い、とつるぎの祖父は念押しする。

 

「たとえ身内の霊であっても、目の前に出てきたなら容赦なく祓え。生者の領域に入る霊は漏れなく悪霊じゃ」

「ッ……わ、分かりました……」

「父さん……」

「逆に、人もまた、濫りに死者の領域に入ってはいかんのだ」

 

 藪の奥を指差した祖父が言った。

 

「……あの奥は昔、殺しがあってのう……お前達くらいの女の子が埋められておったのが見つかったんじゃ……」

「ひ、ひえええええ……ッ」

「人が無念を抱えて死んだ場所は、死者の領域になりやすい。霊を祓いはしたが……結局ああいう場所は、()()()()()になる」

「元々この辺りは、霊が発生しやすい場所だったんだな……」

「そうなるのう。ワシら霊術師も、死者の領域全てに手を出せるわけではない。結局、()()()()()()()()()()()()()()て」

 

 結局の所、霊術師も全ての心霊スポットや霊に対処できるわけではない。

 

 故に、濫りに死者の眠る場所を荒らすのはご法度なのである。

 

「ワシらの願いは──死せる魂の安寧だからのう」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……いずれにせよ、生者に仇名すならば……霊は祓う」

「祓えないなら、せめて封じる」

「それが──ボク達、霊術師のやり方だッ」

 

 

 

 起き上がった3人の前に──再びドードー怨鬼が迫りくる。

 

 雷花の気配を嗅ぎつけて、此方までやってきたのだ。

 

 

 

「……ケケケケケッ!! 鬼ごっこは終ワりよ……ッ!!」

 

 

 

 雷花はドードー怨鬼の位置を電気信号で探知し、ずっと今まで位置を変えていた。

 

 だが──逃げた先は逃げ場のない袋小路。突き当りにある理科室の鍵は日曜故に閉まっている。

 

 

 

「お前達こそ間抜け(ドードー)ねッ!! わざわざ逃げ場のない場所に逃げ込むなんてねェッ!!」

 

 

 

 ドードー怨鬼の両手から鋭い鉤爪が生える。まるで猛禽類の足のようだ。

 

「あんた達はこっちの位置を把握してたんでしょうけど、その為には鬼に変身してないといけないでしょう!? こっちからも霊気の匂いで位置が丸わかり!!」

「……ッ」

「──疲れてるところ悪いけど、まとめて三人共引き裂いてやるわッ!!」

 

 そういってドードー怨鬼は地面を蹴り、飛び出す。

 

 しかし──もうそこから一歩もドードー怨鬼は進む事は出来なかった。

 

 足が、地面に縫い付けられてしまっている。

 

「んなッ……!? こ、これは──」

「”氷のトラバサミ(アイストラップ)”。冷気を圧縮させ、地面に配置していたんです」

 

 カチカチと音を立てて、ドードー怨鬼の足が凍り付いていく。

 

「相手にバレないようにするという性質上、あまり多くの冷気を使うことは出来ませんが、貴方の足と地面をくっつけることくらいは出来ますよ」

「ぎっ、貴様ら……こんな小細工を──」

「──お返しだッ!! さっきのなッ!!」

「”オシオキ!! 電気ビリビリ100パーセント”ッ!!」

 

 間もなく、雷花の鉄拳が、そして変身したつるぎの渾身の突きが──ドードー怨鬼に叩きこまれる。

 

 凍っていた足は地面から剥がれたものの、代償にドードー怨鬼は吹き飛ばされていくのだった。

 

 しかし──

 

 

 

「やらせるかァァァァ~~~~!!」

 

 

 

 ──吹き飛んだドードー怨鬼はその勢いで天井に鉤爪を食いこませて張り付く。

 

 胸の呼獲箱(コトリバコ)から──黒い靄が放出されていく。

 

 

 

 

「お前らまとめてェェェーッ絶滅よォォォォォーッッッ!!」

双子はどっち派ですか?

  • 雷花
  • 凍花
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