「なんかよォォォー、焼き肉してたら気ィ失ってたんだよな、変な御札身体に貼られてたし」
「ギャハハハハ、ウケるーッッッ」
「まあ良いじゃねえか、俺達に出来る事は焼き肉をすることだけだ」
「そうだな──スーパーの安いカルビをお前達と囲む」
「それが俺達の
「そんじゃあ皆さん一緒に──」
「昼もォォォ、焼肉っしょォォォ──」
ドゴシャァァァァッッッ!!
がらがらがら、と校舎の壁が崩れ、その中から動物霊が大量に溢れ出してくる。
当然のように鉄板も焼肉も全部滅茶苦茶に荒らされてしまうのだった。
路上焼肉部の皆さんは、揃いも揃って動物霊に蹂躙され、再び皆地面を舐める事になる。
【またしても何も知らない路上焼肉部の皆さん、全員撃沈】
崩れた壁から校庭に馳せ参じるのは、つるぎと双子たち。
相対するは──大量の動物霊を再び身に纏ったドードー怨鬼だ。
「ケケケケケッ!! さっきよりは、この
流石の物量に、つるぎ達も圧倒されざるを得ない。
加えて、時間が経つごとにドードー怨鬼の力が──というよりも、その胸に埋め込まれた
それを示すかのように、辛うじて人型を留めていたはずのドードー怨鬼の身体は風船のように膨れ上がっていた。
最早ドードー霊が主体ではなく、
氷のドームを作り出し、ドードー怨鬼を閉じ込めようとする凍花だったが、強大化した力の前ではドームの壁は意味を成さずあっさりと内側から破られてしまう。
すかさず真正面から拳を叩き込んだ雷花だったが──今度は霊体そのものに叩きこんでいるのに、全く響く様子が無い。
そこに土手っ腹に霊刀を突き立てるつるぎだったが──
「邪魔ヨッ!!」
ぶんっ、と何処から伸びてきたのかも分からない竜の如き尾が雷花とつるぎを薙ぎ払った。
「……ダメだ、話にならない……!!
「どうすんだよ、アレ……!!」
「ケケケケケケッ!! 呼んで獲ルと書いてコトリバコ!! ならっ、コウいう事も出来るわよねェェェーッ!?」
「ッ!?」
そして、一度飛び出した動物霊が再び吸い込まれていく。
だが、同時に──雷花、そして凍花の体からも動物霊が引き剥がされていく。
ライトニングクロー、クリオドラコン、そしてステゴサウルスが浮かび上がると同時に、3人の変身が解除された。
「──拡散した、動物霊が吸い込まれていく──ッ!!」
「引き剥がシテやるわッッッ!! お前達の動物霊、諸共ォォォーッッッ!!」
凄まじい勢いで空を舞う木の葉や木の枝も
つるぎは双子を思いっきり抱き締め、その軽い躰が飛ばないように必死に引き留める。
だが、身体に纏われた動物霊達は引き剥がされてしまうのだった。
「クリオドラコンッ!?」
「ライトニングクローッ!!」
「ステゴッ!?」
一気に
そして──更にドードー怨鬼の身体が膨れ上がり、巨大な怪物の如き姿へと変わる。
「──ケキャキャキャキャキャッ!! 所詮、封印術で無理矢理従わせていたにすぎない動物霊ッ!! そレが無くなれば、あんたらなんて只のッ!! 人間よッ!!」
ぐにゃり、と鞭のように変形した羽根が辺りを薙ぎ払い、つるぎ達は弾き飛ばされてしまった。
3人はグラウンドに転がされた。目の前に聳え立つのは──巨大なドードーを歪めた怪物である。
「ッ……く、う……ダメだ、変身できない……!?」
「マズい……御札に封じていた動物霊が全部、奴に吸い込まれた……!!」
「……万事休す、ですね……!!」
無理矢理霊を引き剥がされた上に、生身で薙ぎ払いを受けた事で三人は立つのもやっとだった。
雷花は打ちどころが悪かったらしく頭から血を流しており、凍花も足を怪我していて立ち上がれない。
立てるのは頑丈なつるぎだけだが──いずれにせよ、生身で戦うのは無謀だ。武器はもう──霊刀しか残っていない。
「……ケキャキャキャキャッ!! 見なさァい? 私、強イでしょォ? ケキャキャキャキャッ!!」
「贅肉だけ……肥え太った成金野郎ですね」
「借りパク野郎だよ」
「ちょっとッ!! あんたら今の自分の立ち位置分カってんのッ!?」
「概ね、俺達が人間の前で成す術なく捕まるドードーと同じ、とでも言いたげだな」
霊刀を支えにして、つるぎは立ち上がる。
「馬鹿言いなさいな!! 動物霊の力を借りてんのは、あんたらも同じッ!! むしろ私は、全絶滅動物の代表として、こいつ等の力を使ってやルのよッ!!」
「お前は賢いヤツだ、ドードー霊……自分が弱いのが分かっているから、
「つるぎさんを狙ったのも、動物霊が憑りついていないが故に、私達の中で相対的に霊感が低いから」
「そして、つるぎの強さを分かってたから」
「ええ、そうよッ! 結果は失敗だったけドねェ……でも、あんたらの動物霊ハ返しテ貰った!!」
ぶくぶくと膨れ上がったドードー怨鬼は口を大きく開ける。
動物霊の力を供給したことで解き放つ霊砲だ。
生身の人間が受ければ、全身が呪いに蝕まれてたちまち死に至る代物である。
「言い残す事はそれだけかしらァん!? おバカさん達ッ!!」
「1つ、言い残した事があった」
「あぁ!?」
「……動物も、
次の瞬間だった。
ドードー怨鬼の胸に埋め込まれていた
まるで、電子レンジで温めた卵のように中から弾け飛んだのである。
当然、口に溜めていた霊気は暴発。ドードー怨鬼は悲鳴を上げながら、転がっていく。
「ぎゃぁあああああああああ!? お前達、今度は何をした──ッ!?」
それを捕える手段は今のつるぎには無かったものの、みるみるうちにドードー怨鬼が痩せ細っていき、元の人型に戻っていく。
そして、最後に──下手人である3匹の動物霊がぽっかりと開いたドードー怨鬼の胸の穴から飛び出していった。
「俺達は何にもしていない。ただ、お前が欲張っただけの話だ」
「かつて、君達を絶滅に追いやった人間と同じ。力を手に入れた途端に、お前はそれを使わなきゃ気が済まなかったんだ」
「正直、助かりました。危険呪物を処分する手間が省けたのでね」
「ああああ!? どういう事ヨ、説明シなさいよォォォ!!」
『よう、久しぶりねェ……ドードーちゃん』
ズシン、と音を立てて──それは地面に降り立った。
がっしりとした体形の四足歩行の爬虫類だ。その背中にはプレート状の板が規則正しく並んでおり、尻尾には長いスパイクが生えていた。
その名は──剣竜・ステゴサウルス。
『あァ……久しぶりの娑婆だぜェ……!!』
隣にはかつてオーストラリアの平原を駆けたメガラプトラ(ラプトルではない)の同類が獰猛に吼えた。
全身には稲光が迸っており、首周りの羽毛が逆立つ。爪はオパール化しており、キラキラとラメが入ったように光り輝いている。
その名は──略奪者・ライトニングクロー。
『自由ッ!! 自由ーッッッ!!』
更に大きな翼を広げるのは全身が白い体毛に包まれた巨大な翼竜。
そのブレスは吐き出しただけで辺りの気温を一気に引き下げる。
その名は──翼竜・クリオドラコン・ボレアス。
3匹の姿を見た時、漸くドードー怨鬼は全てを察した。
「な、何で
『ただの動物霊ならなァ!! 俺ァ、長らくライカと一緒に居たんで、そこらのヤツとは出来が違うのよ!!』
「ぐぅ……見誤った……呪具の耐久性を……」
『狭かったし……』
「コイツは理由が適当だし……」
『私は何にもしてないわよ、便乗して外に出ただけね』
「コイツに至っては何にもしてないし……」
怒りに声を震わせるドードー怨鬼。何もかもが納得できない。
「バカがッ!! 何やってるのヨ、あんた達ィ!! 20年前の百鬼夜行の続きをしたいんじゃないのォ!?」
『俺ァ無理矢理故郷から連れて来られただけだしなァ……』
『飛べればそれで良いや』
『私も正直どうでも良いわね』
「モチベーションの温度差ァァァーッ!!」
同じ絶滅動物でも生息年代が違うだけで、この通りである。
まるで部活動でよくある光景でも目にするような気分で雷花は「大変そうだなぁ……」と他人事。
『とにかく俺ァ、暴れられりゃぁそれで良いんだよッ!! 鳥公ッ!! 勝手に俺達のやりてぇことを決めつけんなや!!』
「ライトニングクロー……ッ!!」
『つーわけで、ライカ。せいぜいオメーは俺に寝首掻かれないように気ィ付けるんだなァ……!!』
「ええ!? 何で最後ボクの方向いたの!?」
閃電の如き勢いでライトニングクローが再び雷花の身体に宿る。
『一人で飛ぶのは寂しいからよ……これからも頼むぜ』
「……私に力を貸してくれるんですか?」
『勘違いするなや、俺ァ飛びたいだけだぜ』
風の如き勢いでクリオドラコンが再び凍花の身体に宿る。
『あんたの守りたいって思い……私が生きてた頃と同じね。見届けさせて頂戴』
「……ああ、頼む」
ステゴサウルスの身体が無数の剣となり、つるぎの背中に突き刺さる。
3人の姿は──再び、悪霊を封じる鬼へと変ずるのだった。
だが、吸収した霊気がまだ残っているのだろう。
「人間に媚び諂う、畜生共ォォォ……!!」
「どうやら俺達は幸運だったらしい」
背中から霊気を帯びた刀を抜き、つるぎは言った。
「──霊は良くも悪くも生者の影響を受ける。こいつらは……目覚めた頃は手が付けられない暴れん坊だったがな」
──既に7年。
ライトニングクローもクリオドラコンも双子の中に居るうちに、彼女達の純粋で真っ直ぐな想いの影響を受けていたのだ。
もしも、霊や動物に悪意や危害を与えるような人間ならば、双子たちは霊たちから反旗を翻されていてもおかしくなかったのである。
「お前達、一体何なノよォォオオオオオーッッッ!!」
「人間にも色んなヤツが居る。そんな言葉は貴方には無意味かもしれませんが──」
「
「そういうわけだ。俺達は──生憎、
「抜かせェェェェーッッッ!!」
襲い掛かるドードー怨鬼。
しかし、地面に手を突いた凍花が一斉に辺りを冷気に包んで氷漬けにしてしまう。
「”氷結回廊”」
再び地面から足が離れなくなったドードー怨鬼目掛けて、雷花、そしてつるぎが迫る──
「おのれェェェーッッッ!!」
霊砲を撃ち放つドードー怨鬼。
しかし、大剣を目の前に突き刺し、つるぎはそれを真正面から受け止める。
そしてつるぎの肩を踏み台にして雷花が宙返りし、拳を握った──
「──”轟雷落とし”ッ!!」
稲妻が落ちるかのような一撃。
大きく仰け反ったドードー怨鬼の全身に衝撃、そして電気が走る。
ふらふらとよろめいた鬼に向かって──つるぎが霊刀を振り抜いて踏み込んだ。
「”封”ッ!!」
御札を刀に重ね、ドードー怨鬼の胸に突き立てる。
黒い靄が一斉に噴き出し、御札に吸い込まれていく──
「ぎゃあああああああああ!? クソッ、人間への恨み、決して忘れんぞ──ッ!!」
「ああ、俺達も忘れないさ。それが──俺達がお前達にできる、唯一の手向けだッ!!」
御札にはドードーの姿が刻まれる。
そして、間もなく──鬼の鎧は砕け散り、後に残るのは横たわる洞道コトリの姿だけだった。
白亜学園高校を覆っていた結界が崩れ去る。
解放された動物霊が学校から拡散していくが──つるぎ達に、もうそれを追いかける力は無かった。
「……一先ずは、終わったのか……」
「うん……」
「終わった、ということにしておきましょうか」
三人は変身が解けていく。
そして、力無く重なり合うのだった。
「ふっ、ふふ……やったね」
「……ああ」
「なんだか、どっと疲れましたね……」
「あ、つるぎ笑ってる! 珍しー!」
口元に微笑みを浮かべるつるぎは──照れくさそうに言った。
「……なに、幸いと思っただけさ。当たり前のように──お前達が隣に居るのがな」
双子はどっち派ですか?
-
雷花
-
凍花