──間もなく、東京の霊術師たちの手で拡散した動物霊達は封印されることになった。
洞道コトリも憑りつかれていた間の事は全く覚えておらず、本人のあずかり知らぬ所で監察処分が下されたものの、普通の生活に戻れるらしい。
洞道はつるぎに助けられた事なども覚えておらず、一連の事件が全てドードー霊のマッチポンプによって行われたことを、つるぎ達は末恐ろしく感じるのだった。
結局の所、力が強いだけの動物霊よりも、このように策謀に策謀を重ねてくるタイプの動物霊が一際厄介で恐ろしいのである。
こうして東京で起こった百鬼夜行騒ぎは
学園ないし東京に、平和が戻ったのだ──
「つーわけで、
──なる訳がないので、即刻お家取り潰し騒動に発展したらしい。知らんけど。
※※※
「──結局の所、真相はこうだろう」
鹿島は冥土ナースに語る。
曰く、長い間ドードー霊は洞道の身体に潜んでいた。
それこそ、意識を混濁させて記憶を失わせる程に同化は進んでいたはずだ、と。
そして彼女の知識や記憶を吸収したドードー霊は、考えたのだ。
自分は弱い。だが、呪具さえあれば力を付けて百鬼夜行を起こせるはずだ──
そこに都合よくヤフオクに流される危険呪物。買わない手はなかった。
幸い洞道コトリは大金持ちの娘、普段からブラックカードを渡されている程に小遣いは困らない。
……まさか本物とはドードー霊も思いはしなかっただろう、と鹿島は語る。
これから先、ヤフオクに危険呪具を流すバカタレが現れない事を祈るばかりだ。
「しかし──その度に、勇気のある霊術師たちが戦って何とかしてくれるじゃのうなァァァ!! ケッケッケ!!」
「何とかしてくれるじゃないんだよ、二度と起こるべきじゃねーんだわ、こんなふざけたケース」
残念だが、霊術界では時たまこのようなふざけたケースによる大惨事が起きるのである。
それを考えると、憂鬱が止まらない鹿島であった。
(んまあ、でも──結果的に、つるちゃんの方は色々解決したみてーで良かった)
事件後に会った時のつるぎの晴れやかな顔を思い出す。
悩みが吹っ切れたような顔だった。
(ま、刺されねえように程々にな──つるちゃん)
※※※
そんな騒ぎから一週間ほど経った土曜日の事。
「つーるぎーっ!! 遅いよーっ!!」
「稽古が重なっていたのは言ってたはずだ」
「……真面目ですね。デートだというのに」
「此処最近休みがちだったからな。少しでも顔を出さねば」
この間の埋め合わせ、と言わんばかりにつるぎと双子はデートに出かけていた。
とはいえ、朝の稽古の時間が重なっていたので、予定は多少調整せざるを得なかったのである。
「此処からはもう稽古の事は考えん。お前達の事だけ考える」
「にしーっ! さっすがつるぎ、デートも真面目ーっ。でも、デートの時はほどほどに、ねっ♪」
「ええ。楽しみましょう」
三人で付き合う、と言う事に不安が無くなったわけではないつるぎだが、少なくとも両隣で彼の手を握る双子たちの顔は幸せそうだ。
「とゆーわけでっレッツゴー!!」
「……今日は私達がつるぎさんを独り占めです」
「ああ」
つるぎは、双子を連れて──渋谷の街を歩く。
双子との会話は弾む。傍にいるだけで、楽しい気分だ。
「ね、つるぎつるぎっ! ボク、この新作食べたいっ!!」
「良いじゃないか、一緒に入ろう」
「私、この生クリーム特盛のやつが良いです」
三人でクレープを食べながら歩く。
そんな中、雷花がふと言い出した。
「でもさぁー、3人で付き合うってなったのは良いけど、これじゃあ今までとあんまり変わらない気がする……?」
「うーん、3人で出かける事は沢山ありましたからね」
「あのなぁ、俺はそれなりにドキドキしてるんだぞ……」
「そうなんですか?」
「……ずっと好きだった女の子と、恋仲になったんだ。浮かれるな、という方が無理だ」
それを聞いて、双子は顔を見合わせた。
ずっと好きだった女の子、と言われ──二人はニヤける。
「ねえねえねえ、なーんでボク達の事好きなの?」
「教えてください」
「……そ、それは……お前達は俺を怖がらないから……」
「それだけ?」
「それだけですか?」
「だから、洞道さんに靡いたんだね」
「靡いてはいない!!」
人聞きが悪い、とつるぎは訂正を求める。
じと、と此方を睨む双子姉妹。どうやら、今までの事があるだけに、直接思いのたけを伝えてくれなければ気が済まないらしい。
「……その。雷花は──いつも明るいだろう。俺相手にも話を合わせてくれるし……辛い時も一緒に居ると元気が出る」
「……えへっ、えへへへへへ」
「それに……実は誰よりも相手の気持ちを考えてくれるだろう? 同い年だが……しっかりしていて、姉なんだな、と思わされる」
「……」
「明るい」は言われ慣れているが、「しっかりしている」とは言われ慣れていなかったからか、雷花は顔を真っ赤にしてフリーズしてしまった。
「ここぞという時は、いつも頼りにしている」
「……」
「大変です、姉さんが処理落ちしました」
「パソコンか!?」
「そ、そうなんだ……ボク、頼りになるんだ、へーえ……」
目が泳ぎ、顔を真っ赤にして俯いてしまう雷花。
クレープを食べる手も、すっかり止まってしまっていた。
「た、確かに頼りになるお姉ちゃんとして見られてたのはやぶさかじゃないっていうか、で、でも、ボクは皆のアイドルで、あんまりお姉ちゃんってキャラでもないっていうか、むしろ妹っぽいって言われることが多いし」
「姉さんストップ!! 何言ってるかもう聞こえません!!」
「うーにーっ、やめてよ急に、どういう感情で居れば良いの、ボク!?」
「お前が言えって言ったんだぞ」
「そーだけどぉ……」
鬼になっていないのに尻尾が生えて嬉しそうにブンブン振っているのを空見する凍花だった。
「……全く、姉さんはチョロいんですから」
「それと凍花は──」
「私もやるんですか!? 言っておきますけど、私は姉さんと違って可愛げもないし、愛想も良くないですし──そ、そりゃあ姉さんと同じ顔だから、か、顔に関しては! 可愛いのは当然と言えば当然ですが」
「何言ってるんだ、凍花は顔以外も可愛いぞ」
「ひぅっ……」
どくん、と凍花は自分の心臓が跳ねた音が聞こえた。
「か、可愛くなんてありません……」
「興味のあるものにすぐに飛びつく所とか、分かりやすく目をキラキラさせている」
「ッ……な、何ですか。私の目、そんなに見てたんですか」
「正直、凍花ほど何考えているか分かりやすいヤツも居ない。見ていて飽きない」
「目は口ほどにものを言う、ってね!」
「ッ……も、もう、殺してください……」
ヤカンのように蒸気が凍花の頬から湧いて出て来そうだった。
「だが──凍花と一緒に居る時間は、とても落ち着く」
「落ち着く……」
「ああ。とても心穏やかで居られる」
「……そう、ですか」
「ボク達こんなに正反対なのに、両方好きになったんだねー、つるぎは」
「だから言い訳のしようがない。俺は──お前達両方が好きなんだ」
散々辱められて思考回路が停止した凍花の手を引っ張り──雷花は笑みを浮かべた。
「……じゃあ、ちゃーんとボク達二人のことを見てくれてるってことだよねっ!!」
「当たり前だ」
「……そうですね。つるぎさん、絶対に私達の事間違えませんから」
「ああ、こんなに違うのに間違えるわけがない」
双子は顔を見合わせた。
双子であるが故に、よく間違えられてきた。
親ですら彼女を間違える事があった。
「双子」であることは、彼女たちにとってアイデンティティでありコンプレックスだった。
皆が皆「城ケ崎姉妹」として見て、自分達一人一人の事を見てくれないのではないか? と幼ながらに考えていた。
だが──荒神つるぎが彼女達を間違えた事は、今まで一度もない。
きっとそこに惹かれたのだ、と双子は考える。つるぎは何処までも真っ直ぐで、純朴で──傍に居なきゃ、と思わせる少年だった。
「だから、今見ている光景も夢なんじゃないかって思ってるよ、こんな素敵な二人と付き合えてな」
「夢なんかじゃないよっ! だから──もっと夢みたいな事をしようよっ!」
「もう我慢する必要はありません、つるぎさん。勿論、私達ももう、我慢する必要はないですよね?」
「お前達……そうだな。俺ももう我慢はしないさ」
つるぎは満足していた。
この3人で過ごせる日々をこれからも守りたいと心の底から誓うのだった。
「……言質取ったよね?」
「ええ、取りました」
──尚、問題は此処からだ。双子は全く満足などしていなかったのである。
※※※
──その昔、つるぎは祖父から正座で話を聞いた。
「つるぎよ。女の子を怒らせてはいかんぞ。すっごい怖いんじゃぞ」
「おじーちゃん何やったの?」
「……8股がバレて、全員から刺されかけた」
流石のつるぎも呆れた。
どっからどう見ても、祖父の自業自得である。
その時の祖父の情けない顔ったらなかった。亡くなった祖母には聞かせられない。
「だからマジで気を付けるんじゃぞ……いや本当マジで」
「マジで何やってんの」
──この時、つるぎは「こうはなるまい」と決意したのだ。
……まさか数年後、自分も同じ目に遭うとは思わなかったのであるが。
※※※
「おい、お前達──これはどうなっているのか説明しろ」
──気が付けば、荒神つるぎは見知らぬベッドに寝かされていた。
二人が「足が疲れたので休憩したい」と言って腕をがっちりホールドしたまま何処かへ誘導するので、一体何処だろう──と思ったら、場所は怪しい光が照らすお城のような建物。
ふーん、異文化研究館か何かかな、と現実逃避したがそんなわけもなく、万力の如き力で腕を掴まれたつるぎはそのまま中まで連行。
部屋の鍵を閉められ、そんでもってベッドに叩きこまれた次第である。
「──これはどういうことだ」
「またまたー、スッとぼけちゃってえ」
「一回ヤったなら二回も三回も変わりませんよね?」
じり、とベッドの上で詰め寄る双子姉妹。彼女達の眼は──笑っていなかった。
まだ変身していないはずなのに、捕食者の如き眼光を放っている。
「おい待て。あれは只の解呪であって、ノーカンだろう。二人同時に付き合うというイレギュラー行為をしてるんだ、せめて清いお付き合いをだな──」
「うんうん、つるぎのそういう堅物なところ、ボク好きだよ」
「ええ。真面目で絶対に私達以外と浮気しなさそうなところ、好きです」
双子たちは手を取り合う。残念だが結果も結論も変わりはしないのである。
幾ら被食者が言い訳を述べたとて、捕食者からすれば何も意味は無いのである。
「でも、それはそれとしてさ、ボク達の好意を今の今までずぅっと無視してきたのは糾弾されるべきだと思うワケだよ」
「……ええ。その分はしっかり返してもらわないといけませんね」
鱗が双子たちの頬にびっしりと生え揃い、大きな尻尾が尾てい骨を伝うようにして現れた。
あーあ。もう逃げられないぞ♡
「二度と他の女の子の所に行かないように、ボク達のニオイをたっぷり付けなきゃ」
「二度と他の女の子の所に行かないように、私達の魅力をたっぷり刻み込みます」
「ス、ステゴッ!! ステゴ剣鬼の封──」
「ステゴさんなら鹿島さんの所にメンテナンスに出したじゃないですか──私が」
「あ、あああ……しまった……ッ!!」
こんな事もあろうかと、つるぎの考えていそうな事は既に先んじて凍花は潰していた。
善意でメンテナンスに出したフリをして──このような事態に陥った際、つるぎが実力行使に出る事を予期していたのである。
「流石だ凍花、お前は昔っから頭が良かった、何度もお前の作戦で助かった──」
「そうですか──ブチ犯す」
「おい雷花、お前は昔っから明るくていい子だった、辛い時も傍に居てくれた──」
「そうだね──ブチ犯す」
「恐ろしい事に両方共話が通じない……!!」
ブレーキなどと言うものはこいつらには無いのである。
ライトニングクローもクリオドラコンも、こんな事に力を使われてさぞ不服だろう──と考えたつるぎだったが──
フルフル
フルフル
薄っすらとだが、動物霊二匹が少しだけ飛び出しており、首を横に振っている。
無言で「悪い……俺達にこいつら止めるのは無理だわ……死んでくれ旦那」と言っているようだった。
そしてその後自己弁護するように「でもよくよく考えたら悪いのダンナじゃね?」「うんうん」とでも言わんばかりに頷いている。
やっぱりダメそうである。
(肝心な時に役に立たないッッッ)
「ボク達さぁ、つるぎに自分の気持ちを見て見ぬフリされて、すっごく傷ついたんだよ」
「オマケに他の女とデート、すっごく傷つきました」
「その穴埋めは今日やったと思うが……?」
「え、信じられない。この期に及んで、まだこんな事抜かしてるよ、この男」
「私達の受けたメンタルへのダメージはこんなもんじゃないですが」
雷花が鋭い鉤爪の生えた手をつるぎの胸板に這わせた。
凍花がもふもふの毛が生えた手をつるぎの胸板に這わせた。
両者の眼は、完全に爬虫類のそれへと変質してしまっている。
捕食態勢オン──
「とゆーわけで、つるぎ♪ たっぷり愛してあげる」
「たっぷり愛してください、つるぎさん」
「……」
(どうやら俺は──とんでもないものを目覚めさせてしまったかもしれん──)
こうして、人の好意を見て見ぬフリしてきたクソボケ剣鬼はもう一回捕食されたのである。
残念でもないし当然の結末だった。でも、幸せそうならOKである──多分。
──「堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで」(完)
※※※
チュン……チュンチュン……。
(なんか──勝った……)
──力尽きた双子姉妹を抱きかかえながら、つるぎは予想外の結果に驚きながら朝を迎える。
剣鬼は夜の方もフィジカルオバケであったのである。
というわけで、此処まで応援ありがとうございました!
お話としては一度ここで一区切りとなります。
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双子はどっち派ですか?
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雷花
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凍花