堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで   作:タク@DMP

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第2話:覗き行為なんて最低だよ!

「筋肉痛に効く、雷花ちゃん式マッサージは如何かなーっ」

「……」

 

 

 

 風呂から上がってカレーを頂いた後、雷花は唐突に言ってきた。

 

 怪訝な目でつるぎは彼女をじとり、と見つめる。こんな風に雷花が何か言ってくる時は、嫌な予感しかしないのだ。

 

「……嫌な予感がするのだが」

「失礼なっ! 肩を揉むだけですよお客さん。玄関で騒いだお詫びも兼ねて、ね?」

「おい、凍花からも何か言ってやってくれ」

「姉さんのマッサージの腕は確かですよ。私で実証済みです」

「……なら良いか」

 

 大人しくソファにもたれかかる。そして──雷花はつるぎの肩に手を置くのだった。

 

「あはー、すごく大きい肩ーっ! 小さい頃とは大違いだよ。それに凄く硬い筋肉……♪」

 

 ごり、ごり、となかなかに強い力で雷花はつるぎの肩を揉み始める。

 

 だがそうは言っても女子の華奢な手では、この凝りは揉み解せまい、とつるぎはタカをくくっていた。しかし。

 

「えいっ」

 

 パチ。パチパチ。

 

 何かが弾ける音と共に、肩に心地よいよさと痛さが入り混じった感覚が走る。だが同時に、凝り固まった筋肉が物凄い勢いで解されていく。

 

 感じた違和感の正体を確かめるようにつるぎは問うた。

 

「おいお前、”力”を使ってるだろ」

「あはっ、バレた? そうだよ。雷花ちゃんの電気マッサージ! 気持ちいいでしょ?」

「お前、こんな事が出来たのか」

「姉さんは此処数年の修行で能力の制御に磨きを掛けました。今では、電気を自在に操れます。微弱な電気を流せば、こうやってマッサージにも使えるのです」

「そーだよっ。昔みたいに、ビリビリを不用意に暴発させてたボクとは違うのですっ」

 

 鼻高々に言う雷花。その成長っぷりに、思わずつるぎは涙しそうになる。昔は本当に、事あるごとにあちこちに電気を放出させ、つるぎや凍花を感電させていたのだ。

 

「本当に便利な能力になったな。確か、名前は──」

「”ライトニングクロー”!」

「メガラプトル科の肉食恐竜ですね。学名はまだ付いてませんが、ラパトルという恐竜の仲間とも言われてます」

 

 この手の知識に詳しい物知りな凍花が捕捉した。動物霊の種類は古今東西を問わない。読書家の凍花がデータを集めているのである。

 

「恐竜が爪から電気を出せるわけがないのにな」

「出せるわけないです。()()()()()()──動物霊の鉄則です」

 

 つまり実際の動物が電気を出せようが出せまいが、人間がその動物に”光る爪”だなんて名前を付けられてしまった時点で、動物霊は電気を出せるようになってしまうのである。

 そして──雷花や凍花のように、動物霊に憑りつかれ、その力を制御できるようになった人間も、その能力を使えるようになるのだ。

 

「……霊は人間の思念や想像を借りて具現化するからな。何でもアリか。不思議なものだ」

「私の恐竜もそうですよ。……ま、厳密に言えば恐竜ではなく翼竜ですが」

「難しい事は置いておいて、痒いところはないですかー? お客様」

「それはちょっと違うヤツだと思います」

「……ああ、気持ちがいいな」

「ふふーんっ、どう? 雷花ちゃんの超絶テク──」

 

 ぴたり、とそこで雷花は電気を止めてしまう。割と本気で気持ちが良かった上に肩が軽くなったので、物惜しげに振り向く。

 

「む──もう終わりか」

「……こっから先は有料プランだよ」

「金を取るのか」

「ゲンキンな姉さんです」

「ブッブー! ボクはつるぎからお金は取らないよっ」

 

 むにゅん。つるぎの後頭部に明らかに手ではない柔らかい感触が当たる。

 

「……おい雷花!?」

「ねー、つるぎー。ボク、結構つるぎに好き好きーってアピールしてるつもりなんだけどなー?」

「……待て。お前らは妹みたいなもので……」

「ウソ吐き。なんならボクの事、弟みたいに思ってた癖に」

 

 否定はしない。今でこそ髪型が同じだが、幼少期の雷花は髪も短くしており、短パンとシャツスタイルが基本で、傍から見れば男の子にしか見えなかったのだ。

 

「……ボクはもう、立派な女の子だよ」

「あの? 姉さん?」

 

 完全に抜け駆けしに行っている雷花に対し、抗議する凍花。

 

()()()、もう子供じゃないんだけどー? ちゃあんと異性として見てほしいんだけどなー?」

「……いや、あのだな、一応俺はお前達を守るという事で──」

「ボクらの事、女の子扱いしてくれるなら、もっと気持ちいい事してあげるよ──凍花もセットで」

「何で私もいきなり巻き込んだんですか」

「お前達最初からこのつもりで──」

「知りません知りません私は何も知りません、心の準備が出来てません」

 

 ブンブン、と顔を真っ赤にして首を横に振る凍花。にんまり、と悪戯っ子のような顔を浮かべる雷花。

 

 もう逃げ場はない。完全に後ろを取られてしまっている。いつもの無邪気で天真爛漫な雷花とは真逆。獲物を仕留める狩人のような目、そして妖艶な手つきでつるぎの肩に触れる。

 

「ねえ、つるぎ──正直に──しょう、じき、に……」

 

 しかし。そこで雷花の手は止まり、彼女はビクリと震えたかと思えば硬直した。

 

「雷花?」

「姉さん──?」

「じ、じ、じじ、じ──」

 

 顔を真っ青にし、声にならない声を上げる雷花。ソファの背もたれに──台所によく現れる黒光りするGがカサカサと音を立てて登ってきていた。

 

 雷花の肌に蕁麻疹が現れたかと思えば、それが全て爬虫類の鱗と化し、更に羽毛が生えてくる。

 

 

 

「Gィィィァァーッッッ!! G!! G!! Gが居るッ!! Gは滅殺ーッッッ!!」

 

 

 

 彼女の全身から電気が放たれる。

 当然Gのみならず近くに居た二人も巻き込まれるわけで。

 

 

 

「おい待て落ち着け、しびびびびびびびびびッ!!」

「姉さん待って、しびびびびびびびびびッ!!」

 

 

 

 ──電気マッサージは金輪際禁止となった。雷花は虫が大の苦手なのだ。

 

 

 

「ほんとーにゴメンなさい……こんなはずじゃあ……ううう……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(──昨晩は雷花の所為でえらい目に遭った……)

 

 

 

 昨晩は凍花と二人掛かりで雷花をこんこんと説教し(ついでに凍花は抜け駆けの件も含めて)、彼女は泣きながら寝床についた。

 

 流石にちょっと可哀想だったが、万が一能力が暴発して他人に被害が及んでも困るので仕方ないのである。

 

 今朝もしょぼくれてしまっており、お灸は効いたようだった。

 

(優しいんだが、ドジで詰めが甘い所が昔からあるんだよな、雷花は……)

 

 もぐもぐ、と屋上で自作の弁当を食べるつるぎ。彼は体つくりに必要な栄養をキッチリ把握しており、部活のある日は特に気を遣っている。

 

 「弁当くらい作らせてよー」と雷花が申し出てきた事もあったのだが、断ったのは彼自身自分の身体は自分で管理したいからというプロ意識からだ。

 

 ……ちなみに屋上で一人で弁当を食べているのはプロ意識からではなく、自分が教室に居るだけで周りの生徒を怖がらせてしまうのを知っているからである。哀れ。

 

 

 

「またぼっち飯ですか? つるぎさん」

「……凍花」

 

 

 

 そんな時、頼んでも無いのにたまに凍花が傍にやってくる。ふわり、と軽い足取りで彼女は自然とつるぎの隣に座るのだった。

 

「お前に言われたくはない」

「私は静かな場所が好きなだけです。つるぎさんは──喧しくないので」

「……雷花は?」

「確かに喧しいですが──姉さんは別です。嫌いなら一緒に居ませんよ」

「アイツ流石に凹んでたな……」

「あんなに凹んでる姉さんは久しぶりに見ました。ですが残念でもないし当然です」

「だろうな。だが一回反省するべきだ、雷花は気軽に力を使いすぎる」

「甘えてるんですよ。つるぎさんに」

 

 かり、と凍花はコンビニの100円カルパスを齧った。つるぎとしては、この年で酒のアテのようなものが好きなのは色々マズいのでは、と言いたくなる。

 

 家庭料理や甘いものが好きな雷花に対し、ジャンクフードや脂っこいものが好きな凍花。食の好みは真反対である。

 

「……お前はいつか身体を壊すぞ」

「1本要ります?」

「何本も食うな、塩分の摂り過ぎだ」

「むぅ」

 

 ぽりぽり、とカルパスを齧り、コーラで押し流した凍花は不思議そうに言った。小食であまり物が食べられない凍花。せめて雷花に口うるさく言われない場所では好きな物が食べたいのだと言う。

 

「それにしても私達には普通に接する事が出来るのに、難儀な方ですね」

「……仕方ないだろう。皆、この顔を見たら逃げていく」

「つるぎさんのコミュ症っぷりは今に始まった事ではないですが」

 

 強面でも人当たりが良ければモテはしますよ、と凍花は追い打ちをかける。

 

「ま──別に私としては良いんですけどね? つるぎさんは、私達にだけモテていれば良いんです」

「……まさかと思うが、お前らが俺の妙な噂を流して回ってるんじゃないだろうな」

「人聞きが悪すぎます。私だってつるぎさんが健全な交友関係を育むのを望んではいるんです」

 

 なら良いのだが、とつるぎは弁当を掻きこんだ。

 

「普段からお前らは俺をからかい過ぎだ……」

「からかってると思われていたのですか?」

「そうだが」

「……心外、ですね」

 

 凍花は──雷花とは対照的に、普段はあまり表情が変わらない。つるぎは、自分と同じ仏頂面繋がりでシンパシーを感じている程だ。

 

 だが、恥ずかしがっている時と、怒っている時は、とても分かりやすかった。

 

 腕を絡めた凍花は、どこか不満そうにじとり、とつるぎを熱を帯びた視線で睨む。

 

「凍花──!?」

「特に雷花姉さんは、分かりやすくつるぎさんの事が大好きなだけですよ」

「俺達は兄妹のようなものだ。それを勘違いしているだけだろう」

「……私は貴方の事、兄だなんて思った事無いですけどね」

 

 姉さんは知りませんけど、と前置きした上で凍花は言った。

 

「……もっと、分かりやすくアピールした方が良かったでしょうか?」

「……!?」

「私達とは不健全な交友関係を育んでも良いんですよ? ほら、例えば──私、姉さんより胸が大きいです」

 

 ごつごつとした丸太のような腕に、雷花のそれよりも大きく膨らんだ乳房が押し当てられた。

 

 同年代の女子の中でも一際大きく目立つそれは、以前彼女が「男子から邪な視線を向けられて困る」と言っていたほどだったが──

 

「貴方だけですよ。コレを好きにして良いの」

「……それを揶揄っていると言うんだッ!! それにだな、俺達は学生だッ!! 学生が校内でこんな淫らな行為──ダメだろうッ!!」

「この程度で淫らだなんて……いくじなし」

「小さい頃は、もっと純粋だったのに……」

 

 嘆くつるぎ。一緒に野山を駆け回ってた頃は、二人共無邪気にはしゃいでいて──それが今ではこの通り。

 

「勝手に思ってただけです」

 

 しかし、そんなつるぎの不意を突くようにして──頬に凍花の唇が押し当てられる。

 

「ッ……!?」

「……良い事を教えてあげます。姉さんならともかく──つるぎさんが思ってるほど、私──純粋でも良い子でもないです」

 

 思わず赤面し、頬を抑える。

 ぷくり、と膨れたリップが彼の正面顔を捉えていた。

 

 何処か憂いを帯びた表情で彼女は微笑む。

 

「……続き、したいですか?」

「ッ……お、おれは──」

 

 

 

 キーン、コーン、カーン、コーン──

 

 

 

 そんな二人の間の微熱を冷ますかのようにチャイムが割って入った。

 

 それで冷静になったのか、凍花は顔を赤くし──俯く。

 

「……残念。授業に行きましょうか」

「あ、当たり前だ……全く」

「そう言えば忘れてた」

「何だ」

 

 そして、本当に素で忘れていたのか──彼女は言った。

 

 

 

「多分、学園に動物霊が出ました。ソースは姉さんの情報網です」

「……」

「詳細はまた放課後に──」

 

 

 

 次の瞬間には、つるぎの両の手は凍花の頬をもんずと掴んでいた。

 

「それが一番大事な要件だろうッッッ」

「ごべんなさい」

「教えろ、今教えろッ」

「今教えても討伐に行けないでふ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──その日の帰りのHR。

 担任の教師はいつにもなくお怒りだった。

 

 

 

「アドレナリィイイイイイイイインッ!!」

 

【ごく普通の担任教師 阿怒烈奈(あどれな) 倫太郎(38歳)】

 

 

 

 ジャージ姿の体育教師──ではなく家庭科教師の阿怒烈奈は、常に中華鍋を持ち歩いている筋金入りの料理好きである。もう色々何かが間違っているが、この学校の生徒は誰も突っ込まない。

 

「大変アドレナリンがドバドバの事件がこの学校で起こって大問題ドバァ!! 学校の風紀は今日も乱れているドバァ!! アドレナリィィィィンッ!!」

 

(この教師の口癖に何故誰もツッコまないんだ……?)

 

 かねてよりつるぎはそう考えている。この学校には問題点が多すぎる。

 

 理由は簡単──この阿怒烈奈という教師は口癖よりもおかしい箇所が多すぎるからである。

 

 頭髪は常にコンロの火のように揺らめきたっており、ジャージの上にはエプロンという無駄に付与された家庭科教師要素、そして本人はつるぎに負けず劣らずの屈強な体格の持ち主なのだった。

 

「──実は先日、この学校で着替え中の覗き行為があったドバァ!」

 

 がやがや、と教室中はどよめく。

 

「場所は4階の教室、ダンス部が着替えている途中に窓の方から視線を感じたらタイツに頭部を包んだ人の顔が窓から出ていたらしいドバァ!!」

 

(もう犯罪行為だ、警察を呼べよ)

 

「当然警察も呼んだが、事案があった教室の窓外は断崖絶壁、人が足を掛けられるような場所は無いドバァ──とにかく全員気を付けるドバァ!!」

「成程、覗きですか──許せませんね」

 

 カシャカシャと音を立てて伸び縮みするスコープ型ゴーグルを掛けた生徒が言った。

 

 よりによって、つるぎの隣の席に座っているこの少年の名は──覗木タガル。覗き行為を憎む正義感に溢れた少年だった。

 

「この覗木タガルは、覗きという卑劣な行為だけは絶対に許せないのですッ!!」

 

【白亜高校1年 覗木タガル 嫌いな物:覗き行為】

 

「うむッ!! 正義感がドバドバしているなッ!! 皆も覗木を見習うドバァッ!! アドレナリィィィィン!!」

「覗き魔め、一体何者なんだ……!? この覗木タガルの超高性能ゴーグルで必ず見通してやりましょうッ!!」

 

 カシャカシャカシャカシャ。物凄い勢いでゴーグルが伸び縮みしている。

 

(オマエが犯人じゃないなら、誰が犯人なんだ……?)

 

「おお、流石覗木!! 善性と正義感の塊みてーなヤツだぜ!!」

「今日もゴーグルがカッコいいーっ、覗木君!!」

 

(ひょっとしてこの学校の人間は全員目が節穴なのか? 眼球が腐ってるのか?)

 

「いやぁー、それほどでも!!」

 

 カシャコンカシャコンと音を立ててゴーグルが伸び縮みする。何故この学校の教師は、このゴーグルに何も言わないのだろうか、つるぎは不思議でならなかった。

 

 自由な校風ってそう言う事じゃないと思う。本当に。

 

(そもそも今の今まで、こいつのやたらと長いゴーグルに誰もツッコミを入れて来なかったのは何なんだ? 意味が分からない……)

 

 流石に双子は犯人が誰なのか分かっているだろう、とつるぎは雷花、そして凍花の顔を順番に見る。しかし──

 

 

 

「覗木君の言う通りだよ! 覗きなんてサイテーの行いだよ!」

「良い心がけです」

 

 

 

(こいつらも節穴だった……)

 

 それにしても、とつるぎは考える。

 

 断崖絶壁の壁を登り、覗き行為に及ぶのは普通に考えれば不可能だ。そして不可解な事件の裏には──霊といった超自然的なものが隠れている。

 

 

 

(……つまり犯人は動物霊が憑りついた人間……!!)

双子はどっち派ですか?

  • 雷花
  • 凍花
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