堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで   作:タク@DMP

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第20話:刀を求めて

「──おいおいおい……こりゃあ」

「……どうなったんですか、これ……」

「相討ち、だよね……?」

 

 

 

 ──双子、そして鹿島は──言葉を失った。

 

 廃工場の中では、転がった霊刀の傍で倒れるバット・ヴァレット。

 

 そして煤塗れ、制服がボロボロのまま壁にもたれかかったつるぎ。

 

 両者共に動く様子が無い。慌てて、雷花と凍花は一斉につるぎの方へ駆けよるのだった。

 

「つるぎさん、しっかり!!」

「ッ……ぐ、何とか……」

「もーう、つるぎ……何で決闘なんて受けたのさ!?」

「……決闘を挑まれて受けないのは野暮、というものだ。結果は──この通りだがな」

 

 目を開けると──ヴァレットも起き上がっている。

 

 双子たちは鋭い眼光を彼に向けるが、ヴァレットは両の手を挙げた。

 

 もう戦うつもりは無いようだった。

 

「……今回の所は引き分けって事にしといてやるよ」

「引き分けか──いや、俺の敗けだ」

「何!?」

「……イチかバチかで刀を投げたが、刀は剣士の命。アレは勝負を投げたも同然の攻撃だった。刺し違えてでもお前を倒すつもりだったが、ああなった時点で剣士失格も良い所だ」

「ふざけるなッ!! それなら、俺様の方が敗けだね!! 手元に集中していた所為で、投げ込まれた刀に気付かなかった──いや、気付く余裕も無かった」

「……そうか。ならば、引き分け、と言う事にしておこう」

「チッ──嫌味なヤツだぜ。ほれ──」

 

 ヴァレットは──霊刀をつるぎに渡す。

 

「コイツが生身相手にはとんだ鈍刀で助かったぜ。霊気をブチ砕かれて、死ぬ程痛かったけどな……体には傷ひとつ付いてねえ」

「……霊刀は人を斬るためのものじゃない。霊の無念を斬って祓い、人を助けるためのものだ」

「よく魔銃とやり合えたな。俺様の魔銃は普通に人が死ぬシロモノだぞ」

 

 さっきまで死合を繰り広げていたとは思えない程に穏やかなやり取り。

 

 パチパチと目を瞬かせると、雷花は言った。

 

「この二人、さっきまでガチンコでやり合ってたんだよね?」

「……そのはずですが」

「喧嘩した後の男同士の友情ってヤツよ。俺も荒神の所の奴と、よくガチンコで喧嘩したっけなあ」

 

 照れくさそうに鹿島が言って、凍花はげんなり。

 

「マジですか……男子ってよく分かりません」

 

 仏像のような鹿を顕現させる若かりし鹿島と、それに霊刀と御札で挑む若かりしつるぎの祖父。

 

 その姿を想像すると聊かシュールになってしまった。

 

「因みに喧嘩の原因は、荒神のバカが女癖をなかなか改めなかったからだ」

「残当ですね」

 

 鹿島さんも相当に苦労している。

 

「決着はまた今度にしてやる。双子ちゃん達も迷惑かけたな」

「結果的に二人共無事だったから良かったけど、決闘ごっこなんてやめてよね!!」

「──ごっこなモンかよ。俺様ァ殺すつもりでやったぜ?」

「え”」

 

 げんなりした様子でヴァレットはつるぎの方を流し見た。

 

「……何で死んでねえんだ? アイツ」

「……頑丈だから、じゃないでしょうか? 人並み外れて」

「マジで殺る気だったの……?」

「アメリカではよくある事さ。銃を持ち歩ける国ナメんなよ」

「そういうことではない気がしますが……」

 

 つるぎもヴァレットも、既に自分の足で歩ける程度には回復していた。

 

 自分の出番が無くて良かった、と鹿島は胸を撫で下ろす。もしも二人共重傷ならば、回復結界の出番だったからだ。

 

「……鹿島さん。やっぱり私達が割って入った方が良かったでしょうか?」

「言っただろ、こういうのは変に助太刀入れた方が拗れるんだよ。以前のつるちゃんならともかく、ステゴ剣鬼がある今のつるちゃんなら……俺が着くまでは大丈夫だと思ったのさ」

「バトル漫画脳を変に正当化してない?」

「ハハ! 予想外だったのは──俺が来るまで持たなかった事、くらいだけどな」

 

 鹿島はヴァレットの方に目を向けた。

 

 噂には聞いていたが──つるぎと真っ向から戦える霊術師など上澄みも良い所だからである。

 

「そこの坊主。バット・ヴァレットってのは、お前の事で良いのか?」

「いや、鹿島さん。彼の名はマイケ──」

「バット・ヴァレットだとも!! んで、あんたは──」

「オカルトショップ”鹿島堂”の鹿島だ。オマエらの国で言う、”ディーラー”ってヤツだよ」

 

 彼は店の地図が付いた名刺を差し出す。

 

 ”ディーラー”とは、霊術師が報酬を受け取る仲介店である。

 

 霊術師は、鬼として暴れる動物霊を封じ込めて「分霊」処理をしたり、空中を漂う動物霊を直接封じ込める。そして、動物霊を封じ込めた呪具(つるぎの場合は御札、ヴァレットの場合は魔弾)を”ディーラー”に提出することで、報酬を受け取る手続きができるのだ。

 

 霊術協会はこの手続きを以て、動物霊が封じ込められた人間を登録して監視対象に置くことができる。

 

 そして、霊術師たちは基本的にディーラーを仲介して報酬を受け取る為、皆懇意の店を1つは持っているのだ。このシステムは多くの国で採用されており、アメリカでも同様だ。

 

「うちは此処にいるガキンチョ達が懇意にしてる店でね。東京で動物霊捕まえたなら、うちに来ればいい」

「俺様はこいつらと仲良しこよしするつもりは無いぜ」

「強い霊術師なら大歓迎さ。それにお前さん──人の好さが隠せてねぇ」

「むッ……」

「魔銃は霊刀と違って人を殺せる呪具って言ったな。だが、幾らつるちゃんが頑丈でも、本気で撃てばつるちゃんは今も立ててないだろうぜ」

「けっ、俺様も甘かったってわけかよ」

 

 ヴァレットが「手加減」のラインを理解している事、そして──それを可能にするほどに霊気操作の技量が高い事を意味していた。

 

「おい、荒神つるぎッ!! 今回は引き分けにしておいてやる。だが──次に会った時までに俺の事を忘れるなよ」

「忘れんさ。お前みたいな強い奴はな」

「……沈みゆく船の中から、こいつだけは持ってきた。俺様は旅先で会ったヤツにいつも、こいつを渡す事にしているのさ」

 

 ヴァレットはポーチをがさごそとまさぐる。

 

 彼が取り出したそれを見て──雷花と凍花は顔を顰めた。

 

 

 

「──こいつを見て、ゴージャスな俺様の事を思い出すんだな」

 

【光る!鳴る!DX魔銃カラミティ・J】

 

 

 

 出てきたのは──本物のカラミティ・Jよりも一回り小さくなり、ちゃっちくなったオモチャの魔銃であった。

 

「いや、激しく要らないよねッッッ!? 何コレ!?」

「何でこんなものを持ってきちゃったんですか、もっと他にあったでしょう!?」

「ほら見てみろ、電源を入れると宝石と銃口の所が光るし、此処の引き金のボタンを押すと──」

『ready』

 

 機械音声が鳴り響く。

 

「そんで引き金を二回引くと──俺様がわざわざ収録した音声が流れる」

『カラミティ・パニッシュ!!』

「何なの、この恥ずかしいシロモノ!?」

 

 必殺技の音声のつもりらしい。

 

 どっからどう見ても、オモチャコーナーに置かれている特撮ヒーローのなりきりグッズであった。

 

「ちなみに技術の限界で音声はこの2つだけだ」

「よくその有様で自信を持って渡せたね!?」

「こいつで皆、友達ってわけだよ。グローバル的にはウケる代物なのさ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──数か月前、イタリア、ミラノにて。

 

「とゆーわけで任務でお近づきの印に、この”DX魔銃カラミティ・J”を」

「何だこの燃えないゴミ」

 

 

 

 ぽいっ

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──と、このように。出会ったヤツとは皆ダチだぜ」

「結べてる!? これ、友好関係結べてるの!?」

「グローバル視点でも燃えないゴミ扱いじゃないですか!!」

「失礼な!! 燃えないゴミとは何だ!!」

「現実から目を背けるなッ!! 思いっきり燃えないゴミって言われてたよッ!!」

 

 しかし──渡された当のつるぎだけが、心なしか目を輝かせている。

 

「……恰好いい……」

「えっ」

「えっ」

 

 双子たちは同時に声を上げた。鹿島さんに至っては「男心がよく分かってるヤツじゃねえか……」と後方腕組み。

 

 ヴァレットはぱぁっと顔を輝かせると、つるぎに近付いた。

 

「お、お前、良いヤツだなぁ!?」

「子供の頃稽古で忙しすぎてこういうのは買って貰えなかったからな……」

「だ……だが、勘違いするな!! 俺様はお前の事を認めた訳じゃあない!!」

 

(もうオチかけてるじゃん……)

 

(完オチですね……)

 

 DXカラミティ・Jをつるぎに手渡したヴァレットは──恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 

「いずれ必ず、お前の事を倒すッ!! その時まで首を洗って待ってろ、荒神つるぎッ!!」

「……ああ。待っている」

 

 ──ヴァレットはテンガロンハットの鍔で顔を隠し、クールにこの場を去っていった。

 

 本当にクールだったかは、さておくとする。クールだったということにしておこう。クールだったと思いたい。

 

「……で、あいつマジでつるぎに喧嘩売る為だけに、黒船沈めてまで日本に来たの?」

「あまりにも割に合ってない気がしますが……」

「友達に……なれそうな気がする……」

「良いの!? ボク、すっごく心配なんだけど、あの友達!?」

「青春って、良いねぇ……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──で、気を付けろよォ? つるちゃん。今回はこれで済んだが、殺す気で襲ってくる相手ならどうするつもりだったんだい」

「殺す気で襲ってくる相手なら、霊気でわかるさ」

 

 鹿島堂で応急手当を受けるつるぎ。

 

 だが、心なしかその顔は何処か満足げだった。

 

「……つるぎ。自分と対等にやり合える相手が居なかったからか、すごく嬉しそう」

「何ならオモチャまで貰ってますから」

「また会えると良いな……」

「ねえ、ボクらといる時よりも嬉しそうなの、やめてほしいんだけど」

「姉さん、嫉妬してるんですか?」

「誰があんなヤツになんかッ」

「だが同時に、ヴァレットは大事な事を教えてくれた」

 

 手元にある鞘に入った霊刀に手を置きながら、つるぎは言った。

 

「俺の実力はまだまだ、発展途上。もっと、強くならねばならない」

「つるぎは今のままでも十分強いのに」

「いや、事実エンコテ触鬼相手に刃が立たず苦戦した。ヴァレットとの戦いでも、決まり手はエンコテティウスの触手に苦しめられた」

「原因は霊刀の切れ味不足だぜ」

 

 霊刀を鞘から抜きながら、鹿島は言った。

 

 つるぎも概ね同意見だった。何のことかイマイチピンと来ていないのは双子たちである。

 

「どういうこと? 霊刀の切れ味は術者の霊気で決まるんでしょ?」

「つるちゃんがどうこうってよりは、コイツがもう、つるちゃんの力に追いついてねえんだ」

「追いついてない?」

「そうだ。つるちゃん、この刀は確か──」

「……刀工見習いが練習用に打ったナマクラだ」

「ウソォ!? そんなので今まで戦ってたの!?」

「霊刀使いの実力は、術者の技量と刀の質の掛け算だ。この刀が2でも、つるちゃんが100の実力なら、そこらの敵は相手にならねえよ」

「じいちゃんは言っていた。安易に刀の性能に頼ると、後が大変だとな」

 

 ここ数年、ずっとつるぎは同じ刀を使って戦っていた。

 

 最初は斬りにくいと思っていたものの、つるぎの霊気が研ぎ澄まされるにつれて、切れ味はバツグンに良くなった。

 

 地元に居た頃は、雷花と凍花の助け無しでも鬼を斬り伏せていたほどである。

 

 しかし──流石に東京に集う動物霊達は一筋縄ではいかなかった。

 

「……最近、東京に出てくる動物霊の強さは、ここ数年でもズバ抜けてる。むしろ、今までよくやり合えてたってカンジだぜ」

「今回のように、雷花や凍花だけでは突破出来ない相手が現れた時、俺が切札になりたいんだ」

「……つるぎ」

「それに、再戦を約束したからな。次までに強くなっていなければ、怒られてしまう」

「ウソでしょう、まだやり合うつもりなんですか、あいつと」

「それだけ嬉しかったんだろ? 全力で喧嘩できる相手がな」

「……ああ」

 

 しかし、問題は如何にして有力な刀を手に入れるか、である。

 

 霊刀は専門の刀鍛冶が居り、各地に職人が散在している。表向きは包丁職人だが、裏の顔は霊刀職人──という者も珍しくはない。

 

 腕前はピンキリ、値段もそれ相応に張る。いずれにせよ高校生には高い買い物だ。

 

「つるちゃんの値段に釣り合う刀は……」

「今までの依頼報酬を全部足しても足りないだろうな」

「ウソ!? そんなに高いの!?」

「私達、結構貰ってる方だと思ってましたが」

「たりめーだ、刀の方が高いんだコレは。それだけ──つるちゃんの実力が高い証拠さね。ざっと──3ケタ万でもおかしくない」

「法外だ……車と同じじゃん、こんなの!?」

 

 その代わり一生使えるがね、と鹿島は言った。

 

 つるぎとしても喉から手が出る程欲しいシロモノだ。

 

 一方、高い買い物であるが故に祖父が買い渋った理由も分かる。

 

「因みに先代からのおさがりというのは……」

「ダメだね。霊刀ってのは、使い手の霊気を練り込んでオンリーワンのものに育てていくんだ」

「最初は必ず真っ新なものを使わなければならない」

「……じゃあ、新品の高い刀を買わなきゃいけないってこと?」

「いや? そうでもねえぜ。こういう時は──ツテを頼れば良い。条件付きだけどな」

 

 鹿島がにんやり、と笑った。

 

 何かを企んでいる時の顔である。

 

「……知り合いの刀工が困っていてな。腕のいい霊術師を探しているんだが──仕事をやってみねえか?」

「やるッ!! つるぎの為に、頑張りたいッ!!」

「成程。媚を売る、というわけですか」

「興味はある。だが、俺の買い物にお前達を付き合わせて良いものか」

「なーに水臭いこと言ってんのさ、つるぎ!」

「私達、一蓮托生のはずです」

「……そうだったな」

 

 つるぎの答えは勿論決まっている。

 

 今、傍にいる双子たちと共に戦い続ける為に。

 

 そして──いずれ訪れるであろうヴァレットとの再戦の為に。

 

 

 

「刀工の名は──出鱈目(でたらめ) 胡散苦斎(うさんくさい)。国宝級の刀工さ」

「……」

「……」

「……」

 

 

 

 つるぎ達は沈黙した。

 

 もう、ダメそうな予感しかしなかった。

 

「ねえ……名前、もうちょい何とかならなかったの?」

「バカお前──何てこと言うんだ!! 国宝級の刀工一族だぞ!!」

「いやしかし、デタラメで胡散臭いって……」

「デタラメで胡散臭いって言うなよ!! デタラメで胡散臭くなかったらどうするつもりだ、ガキンチョ共!!」

「そうだ。名前で人を判断するなんて恥ずかしい事だぞ、二人共」

 

 流石は荒神つるぎ。

 

 以前、覗木タガルという同級生を覗き魔と疑い、全く関係無かった件で学習しているのだ。

 

 学習しているのだが──内心、疑心暗鬼に陥っていた。

 

(どっちにしても嫌な予感しかしない……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ご主人様~、次の獲物は何なんですかぁ~?」

 

 

 

 デスモダスが問うた。

 

「買い物さ。荒神つるぎとの再戦に備え、より強い呪具を手に入れる」

「買い物ォー? 何処にです?」

「以前破損した魔銃の代わりが一刻も早く欲しいのさ」

「……それよりも、ヴァレット様ぁ。船の代わりの方はどうするんですかぁ?」

「帰れるわけないだろ、こんな有様でアメリカに……」

 

 パスポートもビザも無い。

 

 霊術師の間では有耶無耶にされても、今のヴァレットは只の不法入国者でしかなかった。

 

 いや、その気になればパスポートもビザも霊術で偽装はできるのだが、黒船を失った状態でアメリカに帰っては只の笑いものである。

 

 

 

「……それに、俺様は強くならなきゃいけないんだ。荒神つるぎに負けている場合じゃねーのさ」

 

 

 

 ヴァレットは首からぶら下げたロケットペンダントを開く。

 

 そこには──在りし日に、日本で撮った家族写真が入れられていた。

双子はどっち派ですか?

  • 雷花
  • 凍花
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