堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで   作:タク@DMP

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第22話:ないものねだり

「ヴァレット……!」

「ッ荒神つるぎーっ!!」

 

 既に両者──出会えた事に喜びを隠せていない。

 

 もうこいつらは友達ということで良いんじゃないだろうか、と雷花は呆れるのだった。

 

「……と、オマケの女か」

「オマケ呼ばわりすなーッ!?」

「全くお前達は、くっつき虫のように荒神つるぎについて回る……」

「お前こそ行く場所行く場所についてきて!! 鬱陶しいんだけど!?」

「目当ては火縄レールガンか。魔銃使いらしいと言えばらしいが」

「日本に伝わる伝説の魔銃……喉から手が出る程のゴージャスなお宝だぜ」

「魔銃? あんた達何言ってんの? 霊刀火縄レールガンは、立派な刀よ!」

「???????????」

 

 ヴァレットの脳に宇宙が広がり、猫が真顔で振り向いていく。

 

「ほらぁ!! ヴァレットの頭がフリーズした!! その反応!! その反応が正しいんだよ、ヴァレット!!」

「それに、火縄レールガンはレプリカ、既に別の霊術師に渡しているわ」

「ならばまた作れば良いだろが? その為の金は用意した!」

「もしかしてそのために日本に来たの!?」

「黒船と引き換えにしてでも手に入れるには足る代物だろう、火縄レールガンは!! だってレールガンだぞレールガン、絶対強いに決まってる!!」

「そんなアバウトな理由で欲しがってたの!? 小学生か!!」

 

 動物霊をエネルギーにして動き、電力も補給可能、おまけにステルス機能まで付いているハイパー黒船を犠牲にしてまで手に入れる代物なのだろうか、と甚だ疑問に思う雷花。しかし、

 

 しかし、作れない。作れるわけがない。火縄レールガンを作ったのは、今寝たきりの血迷った当代なのだから。

 

「悪いけど、当代は今、寝たきり……それにアレは当代がノリと勢いで作ったモノだから、二度と同じものは作れないわ。それに、仮に作れても電気の霊気を持ってる霊術師じゃなきゃアレは使えないのよ」

「逆にノリと勢いであんなもの作れたんだ!?」

「おいどうなってるんだ、話が違うぞ!! ゴーストバスターご用達のレビューサイトでは、この工房が優れた魔銃工房だって書かれたのに!!」

「噂が海外まで飛んで捻じ曲がってる!! 此処は魔銃工房じゃなくて刀工房なのにーッ!!」

 

 そこまでツッコんだところで──雷花は、今まで陳列されてきたものを思い出す。

 

 重機、焼き肉プレート、精霊場、ガンプラ、そして──火縄レールガン。

 

 

 

「ごめん、やっぱり魔銃工房で良いかも!! ボクが悪かった!!」

「雷花ッ!! お前までそっちに行ったらお終いだッ!! 戻って来いッ!!」

 

 

 

 必死につるぎが雷花の肩を掴んで揺さぶった。

 

 常識人がこれ以上減ったら、御せる気がしないのだった。

 

「え……火縄レールガンって魔銃だったの……?」

 

 そして、約一名は刀の概念が揺らぎ、脳が破壊されていた。

 

 刀って何だっけ……。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──結局。

 

 作れない物は作れないので、大人しくヴァレットは引き下がる事にしたのだった。

 

 そして、肝心の仕事の時間である。言ってしまうと、近所のため池の調査と言うものだが──当然、霊術師に依頼するような仕事が一筋縄で終わるわけがない。

 

「この池の下には、刀塚があるの。だから──刀池って呼んでる」

「刀塚ってなに?」

「昔この地では、持ち主が死んだ刀を沼の底に刺して供養するって風習があったの。だから、今も無数の刀が沈んでるはず」

 

 それ自体は問題ない。だが──そこに、霊刀鍛冶特有の問題が絡んで来るのである。

 

「私達霊刀鍛冶は此処にある刀の付喪神の声を聴くことができる──ってか勝手に聞こえてくるのよ」

 

 げんなりした様子で朱音は言った。

 

 霊刀鍛冶は、荒神家の人間同様に動物霊が憑依しない体質でなければ仕事ができない。

 

 しかし、その代わり──霊刀に一心不乱に打ち込む事で、刀に宿る付喪神の意思を薄っすらとだが感じとる事が出来るのだと言う。

 

 刀塚から聞こえてくる声は、その最たるもの。朱音にとっては幼い頃から慣れ親しんできた声だ。

 

「でも、此処最近、刀塚の底から悍ましい声が聞こえてきて……作業の途中も寝てる間にも聞こえてくる始末! こんなんじゃ、仕事に集中できないわ!」

「それで目に隈が出来ていたのか……」

 

 現に霊感のあるつるぎも、刀塚の底に巣食う悍ましいものを感じ取り、戦慄していた。

 

 これをより強く感じ取れる人間にとっては、大きなストレスそのものだろう。池の底で何かが起きていることは確実だ。心底雷花は同情した。

 

「本当にイライラする! 今だって目が痒いし、取り出して洗いたいくらいだわ!」

「何か心当たりはないの? 刀池で何か起こったとか」

「全然心当たり無いわ!! 強いて言うなら、依頼を出す数日前、この辺で二人組の迷惑系ユーチューバーたちがたむろしてたくらいで……」

 

 

 

 ──ため池の水全部抜いてみよう企画ーッ!!」

 

 ──FOOOOOOOOO!!

 

 ──再生数爆上がりのバクアガルガンってカンジィ!?

 

 

 

「……」

「あ、でも、そいつらその日を境に見なくなったから、多分偶然ね! ため池の水も抜かれてないから、結局断念して逃げ帰ったのよ!」

「いや、偶然なわけあるかーッ!?」

 

 3人は同時に叫ぶ。

 

 どう考えても、迷惑系ユーチューバーがちょっかいを出した所為でため池に異変が起きたとしか思えない。

 

 付喪神、霊、彼らは領域を侵されれば直ちに怒り、そして災異を引き起こす。そのとばっちりが無関係の人に向く前に止めねばならない。

 

「こりゃいかん……緊急性の高い案件だったのかもしれんぞ」

「待って頂戴、そいつらが現れる前から、ため池から変な声がしてたのは続いてたわ。此処まで酷くはなかったけど……」

「どっちにしても関係あるでしょ!! 悪化してんじゃん!!」

「それにしても、この禍々しい霊気……恐らくこの池の底に居るのは”複合霊”だぜ」

「ッ!?」

 

 ヴァレットが肩をすくめながら言った。

 

 それを聞いて、雷花は青い顔で額から汗を伝わせる。ぼんやりと単語は浮かんでくるが、肝心な時に思い出せない。

 

「ふ、ふくごーれい……何だっけソレ」

「おいおい、荒神。彼女にはちゃあんと霊の勉強はさせとくもんだぜ」

「ぐにッ……!! こいつ──ちょっと忘れてただけだもん!!」

「落ち着け、雷花。……ヴァレット、お前も挑発するようなことを言うもんじゃない」

「複合霊は……複数の種類の霊が混生して、より強い霊になる現象さ。この池の霊は、刀塚の付喪神に加えて、土着の霊が絡み合っていると考えられる」

 

 その根底にあるのは、集落にあった刀供養の信仰だ。

 

 それが、時を経るにつれて人の手を離れて大きくなっていき、周囲の霊を取り込んで大きくなったのだ、とヴァレットは言った。

 

 もし複合霊が動物霊も取り込んでしまった場合──スケールの大きな異物混入。池から聞こえる霊の声が悍ましくなったのも納得だ、とヴァレットは言うのだった。

 

「……厄介な事になるな。動物霊は鬼の核となる人間を捕えに行くはずだ」

 

 電気を放ちながら威嚇する雷花を抑え、つるぎは御札を取り出す。既に手筈は決めている。

 

「おい、荒神つるぎ。オマエ、水に潜れる動物霊は持っているか?」

「じゃなきゃこの依頼は受けていない」

「オーケー。じゃあ、俺は外で待っておこう。そこの嬢ちゃんに水の中で噛まれたら感電どころじゃ済まない」

「こいつ、覚えときなよマジで……!!」

「落ち着け雷花。頭に血が昇った状態で鬼と戦うつもりか?」

「ッ……ご、ごめん」

 

 ヴァレットの事を、つるぎを傷つけた相手として雷花は認識している。

 

 そこに、更にあからさまな挑発までされれば怒るのも無理はない。

 

 だが、その気持ちのまま戦うのは危険である。うっかり雷花に水中で放電でもされたら感電するのはつるぎの方なのである。

 

「──雷花。お前は待機だ。俺が1人で行く」

「はぁ!? ど、どうして!? ボク、泳げるよ!?」

「今のお前を水中に入れる訳にはいかない。能力を制御できた、と口では言ってるが──お前は感情任せに能力を暴発させる悪癖がある」

「ぐっ……! そ、そうだけどぉ!?」

「直せと日頃から言っていたはずだ」

 

 図星だった。雷花は反論することが出来なかった。だが、それをよりによってヴァレットの前で指摘されたことで雷花は大きな屈辱を味わう事になるのだった。

 

(つ、つるぎのヤツぅ……!! ボクを、知らない男と二人っきりにさせるなんて……!!)

 

(アレ? 俺様もしかして、この子と二人っきり? 遠まわしな意趣返しか、荒神!?)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 さて、問題のため池である。

 

 水底は藻の色で見えないが──底には刀が突き刺さった刀塚があるのは確実である。

 

 先ずはそこの様子を見に行くため、つるぎは水着に着替えた上でディプロカ底鬼の封を切るのだった。

 

 顎下に鰓が現れ、この札の力を纏っている間は水中でも呼吸ができるようになるのだ。

 

「とはいえ、俺も水中での戦いが得意というわけではない。危なくなったらすぐに上がる。いつでも戦えるように準備しておけ」

「りょーかい♪」

「……了解だよ」

「雷花。仕事に私情は持ち込むな。良いな?」

「分かってるッ」

 

 つるぎは霊刀を構え、池に飛び込んでいく。その様を、雷花は不満げに見つめるのだった。

 

「あーあー、結構厳しいんだねえ? 俺様は女の子には優しいぜ?」

「そーだよ。つるぎは厳しいんだ。小言も多いし、妥協とか絶対許さない」

 

 口惜しさを覚えつつも、雷花は納得していた。これがつるぎの選んだ「最善」なら、苦虫を嚙み潰したような思いをしても雷花は従う。 

 

「……そんなところも好きになったんだよ、ボクは」

「マジの顔じゃん。でもさー、良いのかよ? 俺様──お前みたいなタイプはかなり独占欲が強いって思ってんだよね」

「うん」

「うん?」

 

 雷花は即答した。そして──にこりと笑いもせずに言った。

 

 

 

「──(トーカ)じゃなきゃ許してないよ?」

 

(……こっわ……)

 

 

 

 ヴァレットは心の底から冷え切るような思いをした。

 

 天真爛漫で無邪気な姿に隠れていたが──この双子姉妹で怖いのがどっちなのか、ヴァレットは一発で見抜くのだった。

 

「……はぁー、天才様は愛されてるでやんすね。やっぱ女の子は強いヤツに惹かれるのね」

「天才ってつるぎの事? 悪いけど、つるぎは天才じゃない。誰よりも努力して、今の実力を手に入れたんだ。血のにじむような──努力をしてね」

「あいつと同じ年の頃、俺様は──あいつと同じ量の霊気は練る事が出来なかったんだ。俺は大して会った事もない荒神と、いっつも比べられてたよ」

 

 後からヴァレットは知った。

 

 自分の訓練量が、同年代に比べても遥かに多かったこと。そして、自分の練る事が出来る霊気が同年代に比べても多かったこと。

 

 荒神つるぎは──それと比較しても膨大な量の霊気の持ち主であったことを。

 

「お前らは荒神しか見たことねーから、そんな事が言えるんだよ」

「確かにつるぎは、霊気の量は多いよ。でも、それはつるぎだけじゃなくて荒神家の人は代々そうなんだよ」

「……マジかよ。一族皆バケモノか」

「でもね。霊気が大きいだけじゃ、動物霊は霊刀で封じられない。霊刀の切れ味は、霊気を如何に鋭く研ぎ澄ますかで決まるから」

「……何だよ。俺様がコンプ拗らせてるだけみてーに言うじゃねーか」

「大事なのは、生まれて持ったものじゃない。生まれて持ったものを、どうやって生かすか──だとボクは思う。つるぎは……必死に努力して、今の力を手に入れた」

 

 それが並大抵の努力ではない事は雷花が一番知っている。

 

「拗らせたのはボクも同じさ。一度、つるぎと同じ霊気制御の特訓をして──体を壊した」

「えっ……」

「精神統一と滝行、そして、体の中の霊気をマニュアル操作して自在に動かせるようになる訓練。体の中を針がチクチク刺すみたいで死ぬ程痛いヤツさ」

「……それ俺様やった事あるぜ……あんまりにも効率が悪いからやめろって親から言われたヤツだ」

 

 だが──それが効率が悪いとされる理由は「あまりの苦痛に常人では成し遂げられないから」であった。

 

 つるぎは成し遂げたのである。ナマクラ刀でも今までつるぎが戦えて来れたのは、彼の研ぎ澄ます霊気があまりにも鋭いからだ。

 

「ボクも早く電気を制御したくて、同じ事やったんだ。2日で体壊してしばらく寝込んで……トーカにはすっごく怒られたし、つるぎには泣かれたよ」

「あいつ泣くんだ」

「うん……”つるぎみたいになりたかった”って言ったら”二度とやるな”って言われたよ」

 

 結局、つるぎと同じ霊量、何よりすさまじい精神力と肉体も無しに成し遂げられる修行ではなかったのだ、と雷花は語る。

 

「つるぎが大好きだから、つるぎみたいにカッコよくなりたかった。でも、ボクじゃ無理だった」

 

 そして、その精神と肉体もまた、つるぎは努力で身に着け、鍛え上げたものであることは言うまでもない。

 

「つるぎはすごいんだ。ボク達にないものを沢山持ってる」

「……そーさ。人間は結局、持ってるモノで勝負するしかねェ。弾数足りてねえなら、持ってる弾でどう戦うか考えるしかねぇんだ」

「それが分かってるなら、何でつるぎに勝負仕掛けたのさ」

「試したかったんだ。今の俺様が──どれだけあいつに通用するかをな。ありとあらゆるツテで居場所を調べたんだぜ」

「うわぁ……ドン引きだ」

「小さい頃親に言われた事は、それだけつっかえたままになるって事だよ」

「良かったじゃん。今のヴァレット、つるぎと互角だったんでしょ? 悔しいけど……ヴァレットは強かった、ってつるぎも言ってる」

「……居ねーんだよ」

「え?」

 

 ぽつり、とヴァレットは言った。

 

 いつもの陽気さは消え失せ──曇天の先を見上げる。

 

 

 

「……もう、居ねーんだよ。ママもパパも──居ねーんだ」

 

 

 

 彼は首からぶら下げたロケットペンダントを強く握り締める。

 

 

 

「……俺様に残ってんのは魔銃と、デスモダスだけだ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(さぁて、見つけたぞ)

 

 

 

 ゴーグルで視界を確保し、水底に淀む霊気をつるぎは確認する。

 

 

 

「た、助けてくれぇ……!!」

 

 

 

 水の中から声が聞こえてくる。

 

 水底に更に近付くと、つるぎは言葉を失った。

 

 池の中にある刀が──全て抜かれ、散らばっている。

 

「なんてバカな事を……!! 供養されていた刀を引き抜いたのか!?」

 

 その時だった。水の底が──ごぽごぽと音を立てて動いた。

 

「お前も、刀を取りに来たのかぁ……?」

「ッ……出たな」

 

 水が濁る。

 

 刀が散らばっていき、池の底だと思っていたものは大きな顎となって開くのだった。

 

 巨大な犬歯、全長6メートルはあろうかという巨体。

 

 つるぎは霊刀を構える。だが、此処まで巨大な鬼は──見たことが無い。

 

(ワニ……? 水生爬虫類? いや、何となくだが、そのどちらとも違う気がする……!!)

 

 

 

 

「あ、あ”ァあああ……腹ァ、減ったァ……!! やっと来た、次の獲物ォォォーッ!!」

 

 

 

 それは、暁の巨神の異名を持つ巨大な哺乳類型爬虫類。

 

 いうなれば──単弓類。ペルム紀に大繁栄した、生態系の頂点。

 

 その姿を言い表すならば、サーベルタイガーの如き犬歯と身体的形状を備えた巨大なトカゲだ。

 

 巨大な鬼の体には、散らばった刀がひとりでに動き、次々に体中に突き刺さっていく。

 

 

 

「刀を獲るヤツは……食い殺ォォォーッッッす!!」

 

 

 

【エオティタノ暁鬼 単弓類 エオティタノスクス科】

双子はどっち派ですか?

  • 雷花
  • 凍花
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