堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで   作:タク@DMP

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第26話:トロピカルージュ……ってコト!?

「ねえ、学校ヤバい事になってない……?」

「え、ええ……」

 

 

 

 朝、正門前にやってきた雷花と凍花は、驚愕した。

 

 学校全体が結界によって包まれているのである。

 

 結界の中に入り──雷花たちは驚愕した。校庭は──広大な砂浜のような空間に書き換えられていたのである。

 

「これは、かの有名な法定改竄術……いや、これはジュラ紀の海辺そのものを再現している領域型霊術!?」

 

 以前、ヨミが周囲の生態系を書き換える領域型霊術に言及していたのを凍花は思い出す。

 

 ヨミ曰く「相手に出られないようにする強固な結界術と、生態系の書き換えの両立ってすごく高度なことなのよ、私には無理」とのこと。

 

「要するにコレってこと!?」

「無〇空処ではありません」

 

 指で印を結んだ雷花を凍花がとがめた。

 

 領域型の術の殆どは、動物霊が周囲を自らの住みやすい生態系に書き換える為のものだ。

 

 そして、知名度が高い古生物であればあるほど、あるいは霊術師の力量が高ければ高いほど、領域型の技は成功しやすい。

 

「何でそんなもんが学校に──ってか、コレつるぎ大丈夫なの!?」

「分かりません。スマホで連絡しても何にも……本来なら、まだ朝練の時間ですが……」

 

 

 

「トロピカール!!」

「トロピカール!!」

 

 

 

 そして、辛うじて残っていた校舎の中は恐ろしい光景が広がっていた。

 

 校内の治安は完全に崩壊しており、ありとあらゆる生徒も教師も「トロピカール!!」と意味不明の単語を発しながら各々好き勝手にはしゃいでいるのである。

 

 プールの授業でもないのに水着に着替えている者、サングラスを掛けているもの、何なら校庭の海に出て泳いでいる者……様々だ。

 

「環境を海辺に、そして術への耐性が無い人間の認知をバカンス気分に書き換える領域ってこと!?」

「ふざけてますね。こんなふざけた術を使えるのは、憑依者がよっぽどふざけたヤツということなのでしょうね」

 

 その時であった。

 

 

 

「ハハハハハハッ!! 美しい──夏の日差しに当たる私もまた、美しいッ!!」

 

 

 

 廊下の奥から──怪人が姿を現す。

 

 長い首に前後ろ合計4本の鰭を携えた首長竜。

 

 その背中から直に、上半身裸で真っ黒に焼けた男子生徒が生えている。

 

 首長竜の頭部は、不揃いに生え揃った歯に真っ黒な眼窩と凶悪な面構えをしているのであるが、問題は背中から生えている人間が──ふざけていた。

 

 

 

(「おふざけ」の頂みたいなヤツが出てきたーッ!!)

 

【「おふざけ」の頂 プレシオ海鬼】

 

 

 

 変人・奇人で知られる生徒会長・斜陽院 光一だ。

 

「あいつって、確か──!! 3年の斜陽院会長……!!」

「仕事ぶりは真面目ですが、それ以外が壊滅的にアレな方で、事あるごとに自ら脱ぎ散らかして肉体美を誇示するんです」

「ねえ、あの首長竜の首の位置が完全にアレなんだけど!!」

 

 絵面は、よくある白鳥頭付きバレリーナ衣装である。

 

 どうやっても股間の位置に白鳥の首が生えてしまうというアレである。

 

 それが首長竜の首になっているのが、このプレシオ海鬼であった。最悪である。

 

「おやおやおや、まだトロピカルに染まっていない生徒が居たようだ! 既にこの学校は、私の領域──これで私は合法的に己の肉体を見せつける事が出来るッ!」

「今までも見せつけてたでしょ!?」

「そして、この私の力により、この領域全てがジュラシック・コーストへと書き換わった!! 我らの種の繁栄は此処から始まるのだッ!!」

「急に真面目な話をしないでください」

「ねえプレシオサウルス? だっけ。こんなふざけたヤツに憑りつくのやめた方がいいよ、誰も話聞いてくれないよ」

 

 斜陽院の言葉と、斜陽院に憑りついているプレシオサウルス霊が交互に喋っている所為で温度差が酷い。

 

「いずれお前達もトロピカルになるのだ! 赤信号、全員で脱げば怖くないッ!」

「怖いのはお前の思想だーッ!!」

「そういうわけで、じっくりと楽しんでいくが良い! この領域”トロピカル・ジュラシック・コースト”をッ!!」

 

 ざぶん、と音を立ててプレシオ海鬼は高笑いしながら床に水の中のように潜っていった。

 

 既にこの空間はプレシオ海鬼によって、水中のように書き換えられてしまっているためである。

 

「ど、どうしよう! 取り合えず見逃してくれたみたいだし、つるぎを探さなきゃ!」

「ところで姉さん」

「何?」

「プレシオサウルスが見つかったのはヨーロッパ付近、どうやってもトロピカルとは程遠い場所なんですが──」

「今そんな事を言ってる場合かな!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ありゃあマズい……! プレシオの野郎……まーだジュラシック・コースト計画を諦めてなかったのか!」

「おやおやおやあ、大分大暴れしているみたいですねえ。あいつ、知名度を補正を受けて、イギリスでも相当な強敵でしたが」

「プレシオは日本でも知名度が高いからな……! 余計にそれで力を増してやがる……!」

 

 そんな大惨事を、ヴァレットはバット・ザ・キッドの姿で空中から偵察していた。デスモダスも面白そうに笑う。

 

「最近、この辺りで水生生物の動物霊が活発化してたのは……プレシオが噛んでやがったな……!」

 

 プレシオサウルス霊は、あの黒船を動かしていた中枢のような動物霊だ。

 

 かつて、イギリスで大激闘を繰り広げた末にヴァレットが捕獲し、黒船に閉じ込めていたのである。

 

 少なからず逃した自分にも責任がある、とヴァレットは結界の中へと入り込む。

 

「……プレシオは冗談抜きで強いからな……!! 待ってろよ、荒神ッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 恐らくつるぎが居るであろう剣道部の部室に、雷花と凍花は押しかけていた。

 

 そこには──やはりトロピカル気分を味わって各々オバカンスに興じる剣道部員たち。

 

 そして──

 

 

 

「ト、トロピカール……」

 

 

 

 ──校庭の大木に叩きつけられ、がっくりと力尽きているつるぎの姿だった。

 

「つるぎーッッッ!?」

「見て下さい、姉さん!! つるぎさんの練習用刀、ぽっきり折れてます!!」

 

 無理もない。曲がりなりにも長年つるぎが霊力を注いでいた刀とは違い、この代用の刀は真っ新な新品同然。

 

 ただでさえナマクラなのに、切れ味は──最悪に悪いのだ。

 

 言わばレベル1の刀を、レベル50の刀を使う感覚で使ってしまったのであり(使わざるを得なかったとも言える)、刀の耐久性が追い付かなかったのだ。

 

「つるぎ、しっかり!! しっかりしてーッ!!」

「ぐ、ぐう……後少しの所だったが……封印しようとしたら、刀の方が圧し折れてしまったトロピカル……ヤツの霊気、分厚過ぎて貫けなかったでトロピカル……!!」

「語尾が激しくヘンになってる!!」

「そんなあ! クッソォ、新しい刀だったらこんな事にはなってないのに!」

「済まない、緊急信号を送るつもりだっただ、敵の攻撃でスマホが破損してしまって……」

 

 つるぎが穴の開いたスマホを双子たちに見せる。

 

「ねえ、つるぎ。確か、配達してるのって()()()()便()だったよね?」

「あ、ああ……到着は今日だったはずだトロピカル」

「今からでも事情を話して()()()()()にしたら、学校に届けてくれないかな!?」

「いや、そんなバカな……」

 

 ──霊能宅急便。

 

 それは、霊術界一危険でデンジャラスとされる、宅急便業者だ。

 

 たとえば呪具だとか霊刀だとかを24時間何処にでも配達できる上に、()()()()()()()まで付いている。

 

 何がデンジャラスかと言えば、動物霊の力を活用ないし悪用した配達方法の数々であり──イカれた霊術界隈でも特にイカれた連中の集まりなのだ。

 

 実際につるぎ達が利用するのは初めてなのだが──とんでもない噂の数々は耳にしていた。

 

 動物霊や鬼を返り討ちに出来る霊術師たちが当たり前のように勤務しており、積み荷を狙おうものならば圧倒的武力差で轢殺される──等々。

 

「……まあ、やるだけやってみましょう……こんな所に届けてくれるわけがありませんが……」

「と、とにかくヤツを追うぞトロピカル……! 放っておいたら、学校がトロピカールに浸食されるトロピカル」

「つるぎさん、もうトロピカルに浸食されてます!!」

「クソッ!! あいつの認識改竄術の所為だトロピカル……! お前達も気を抜いたら、こうなってしまうぞトロピカル」

「怖いよ!! 今まで戦ってきたどんな敵よりも怖いよ!!」

「つるぎさん、もうしばらく休んでてください。霊気の消耗が激しすぎます」

「くれぐれも気を付けろトロピカル……」

 

 認識改竄術は、相手の常識を改変してしまう精神干渉系の霊能力だ。

 

 つるぎと言えど、霊気が消耗している状態ではこのようにまともに影響を受けてしまうのだ。

 

 まだバカンス状態になっていないのは、つるぎが気力で耐えきっているからなのである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 つるぎを寝かせ、雷花と凍花は強い霊気を追って校庭に広がる海に辿り着く。

 

 この奥底から──プレシオ海鬼の気配を強く感じるのだ。

 

「あの、もしかして……敵の居場所に行くには、潜らないといけないんですか……?」

「水の中ってわけか。疑似的空間だから、溺れたりはしないだろうけど」

「ッ……」

「トーカ。此処で待ってて!」

 

 ニッ、と雷花が笑みを浮かべる。

 

 凍花の顔には明らかな怯えが浮かんでいた。

 

「姉さん、でも……」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。水の中の敵には電気は超有効! ボクが、あいつを領域の中から引きずり出してやるよ!」

 

 ぽんぽん、と雷花は凍花を安心させるように肩を叩いた。

 

 雷花は──泳ぎがとても得意だ。おまけに、水生生物の弱点である電気も扱える。

 

「ボク達双子! でも得意な事も苦手な事も全然違うよね。だから……分け合えば良いんだよ! トーカが苦手な事はボクがやる。ボクが苦手な事は、トーカがやる。いつだってそうだったでしょ?」

「……姉さん、で、でも私──」

「待ってて! あの変態、絶対にオシオキしてやるんだからッ!」

 

 そう言って、雷花は思いっきり地面を蹴り、水の中へと入っていった。

 

 ちゃぽんと水が跳ねる音が聞こえてきて、そのまま彼女の姿が見えなくなる。

 

「……折角、泳ぎの練習、したのに」

 

 ごくり、と凍花は生唾を飲む。

 

 とてもではないが足が竦んで、飛び込む勇気が出なかった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「クックククク!! どうやら、この私のトロピカルな領域に挑むトロピカルな猛者が居たとはね……」

「こんなふざけた領域、さっさと解除するんだ生徒会長ッ!!」

 

 

 

 案の定、この疑似水中空間では酸素の消耗は少ない。

 

 しかし──やはり水中特有の抵抗が存在しており、足をバタつかせなければ前に進む事もままならない。

 

 辺りにはアンモナイトやイクチオサウルスといった動物霊の姿が散見される。

 

 それを見て雷花は得心した。こんな大きな領域、動物霊1匹だけで作れるわけが無かったのだ。

 

 プレシオサウルス霊は、他の動物霊も巻き込んでエネルギーにする形で、このジュラシック・コーストを再現するに至ったのである。

 

「私の美しさに見惚れるのは分かるが……この私のトロピカル・ジュラシック・コーストを否定するというのならば、容赦はしないよ」

「なんでこんなものを──」

「私はね、かねてから私の肉体美を学校の生徒が見る事が出来ないのを惜しく思っていてね……」

「は?」

「……だがしかし、辺りを全てトロピカルにしてしまえば、私は合法的に脱ぐことができる。勿論、他の生徒達もだ!」

 

 駄目だ、全く彼の言っている意味が分からない、と雷花は頭を抱える。

 

 確かに雷花もブッ飛んでいる方ではあるのだが、真のあたおかには遠く及ばないのだ。

 

 最早この斜陽院相手には、ツッコミすら放棄するレベルで話が通じないのである。

 

(ダメだコイツ、動物霊に憑りつかれてる所為で頭がおかしくなってる……!!)

 

 半分は正解である。恐ろしいのは、もう半分がシラフであるという点であった。

 

 こいつが生徒会長になってしまうあたり、白亜高校のモラルの程度が知れてくるというものであった。

 

 変人・奇人ばかりの学校の生徒会長が、変態の極みではないはずがないのである。

 

「まあ、良いか──どうせ水生系の鬼はコイツでイチコロだからね!! ”電導式・プラズマキャスト”ッ!!」

 

 今、この空間は”ジュラ紀の海の中である”と定義されている。

 

 それ故に──逆説的にこの空間が”塩分を含んだ水”に浸されていることが証明されてしまうのだ。

 

 海水は、電気をよく通す。雷花が軽く放電するだけで、周囲のアンモナイトが、イクチオサウルス達が感電して爆散していくのだった。

 

 そして──元凶たるプレシオ水鬼もまた、雷花の放った電撃を受ける──しかし。

 

「おやおやおや? お得意の電気とやらはその程度かな? 全く以て痛くも痒くも無いが!!」

「はいーッッッ!?」

 

 雷花は目を白黒させた。

 

 エオティタノ暁鬼は巨体故に電気が通りにくかった上に空気中であった。

 

 しかし、プレシオ水鬼は大きいにせよエオティタノ水鬼には遠く及ばず、更に霊気もそこまで分厚いわけではない。

 

 にも拘わらず、プレシオ水鬼は電気を受けても尚、ピンピンとしている。そればかりか、身体には電気が迸っているようにさえ見える。

 

「ところで君は、メアリー・アニングという人物を御存知かな?」

「……めありー・あにんぐ……?」

 

 戸惑う雷花に、プレシオ水鬼が突如語り始めた。

 

「……初めて古生物の全身化石を発掘し、絶滅という概念を発見した──化石婦人さ!」

「し、知らない……あ、いや、待って。そういえばトーカがそんな事を言ってたような……?」

 

 メアリー・アニング。世界最初に、魚竜(イクチオサウルスなどの仲間)の化石を発掘した古生物学の祖とも言える人物だ。

 

 女性の地位が低かった時代の風潮的に、世間は彼女が論文を出すことを認めなかったが──後世では、メアリー・アニングは最も偉大な古生物学者として知られている。

 

 そして、彼女が発見した化石の中には──首長竜・プレシオサウルスもあった。

 

「ところで、このメアリー・アニングという人物には、ある逸話があってね──3歳の頃に雷が直撃したんだ」

「え、それ死ぬ奴じゃあ……」

「ああ。現に近くにいた村人3人は死んでいる。しかし──幼いメアリーだけは生き残った」

「ちょっと待て。それじゃあ──」

 

 雷花は顔を蒼褪めさせる。

 

 プレシオサウルスという首長竜の歴史には、メアリー・アニングという人物の逸話が強く絡んでいるのだ。

 

 古生物学の祖とも言える重要な人物なのだ、余計にその逸話はプレシオサウルス霊の力に影響を与えた。

 

 プレシオサウルス霊は──メアリー・アニングの逸話を借りたことで、電気への強い耐性を持つ──

 

「ふっざけんな!! そんなのアリなの!? 自分を発掘した人間の逸話を取り込んで、パワーアップしてるなんて!?」

「ハハハハハハッ!! 君では私は倒せないッ!!」

 

 雷花は水面を見上げる。随分と遠い所に来てしまった。今更戻る事は出来ない。

 

 一方、プレシオ水鬼は巨大な銛を掲げ、雷花に襲い掛かる。

 

 四つの鰭をオールのようにして動かし、暗き底より迫りくる。最早電気への耐性がどうこうとか言っている場合ではなかった。

 

 迫りくるプレシオサウルスの首を何とか両手で掴み、締め上げる雷花。電気を掌から流すが、やはり効果があまり無いようである。

 

 そこに、プレシオ水鬼が銛を振り上げ、雷花を狙う──

 

 

 

「お返しだ──”ワダツミの槍”ッ!!」

双子はどっち派ですか?

  • 雷花
  • 凍花
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