堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで   作:タク@DMP

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第27話:プレシオ海鬼の怪

「勝てないかどうかは──やってみなきゃ、分かんないでしょッ!!」

 

 

 

 電気が封じられたとして。

 

 それでも、雷花の動物霊”ライトニングクロー”は名だたるメガラプトラ類なのだ。反射神経も運動能力もそこらの生き物とは訳が違う。

 

 投げられた銛をすんでのところで身体を反らせて躱してみせる。

 

 そして素早く足をばたつかせ、勢いよくプレシオ海鬼に迫るのだった。

 

 しかし、プレシオ海鬼もまた、その自慢の長い首で雷花に襲い掛かった。

 

「──ほれほれほれ!! 百裂首!!」

 

(バカみたいな技だけど、近付けない!!)

 

 あまりの速度に分身して見える程の勢いで首を振り回すプレシオ海鬼。

 

 そして伸びた首が大顎を開け、雷花の腕に噛みつくのだった。

 

「動かない的は只の的!! 貰ったーッ!!」

 

 凄まじい勢いで迫りくる銛。

 

 しかし──雷花はすんでのところで自らの全身の筋肉に微弱な電気を流し、反応速度を極限まで上昇させる。

 

 そして、正面から迫ってきた銛に素早く噛みつき、歯の力だけで止めてみせる。

 

 鬼となったことで、雷花の咬合力は人間のそれを優に上回るほどに強くなっている──

 

「恐竜ナメんなーッ!! プラス電気を掌に、マイナス電気を銛にセッティング!!」

 

 プッ、と銛を吐き出した雷花は銛を右手で握り締め、電気を流し込むと投げ付けた。

 

 

 

「お返しだッ!! 電導式・レールランス!!」

 

 

 

 手をレールガンの射出装置に見立て、反発させる力で一気に銛を放つ。

 

 それはプレシオ海鬼の身体に深々と突き刺さる。分厚い霊気の皮膚をも貫き──体内から電気を流し込む──

 

「雷に打たれて死なない生き物でも、体内に直に電気を流し込まれて死なないわけじゃないッ!!」

「マズい──ッ!! あっ、刺さって抜けな──」

 

 ──バチバチバチィ!!

 

 激しくプレシオ海鬼の身体が明滅した。

 

「ほぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーっっっ!?」

 

 間もなく斜陽院の悲鳴が水中に響き渡る。

 

 メアリー・アニングの逸話は、あくまでも雷に打たれて生き残ったと言うもの。

 

 その逸話を纏っていたが故に、プレシオ海鬼は外から降りかかる電気への耐性を得ていた。

 

 だがしかし、あくまでも逸話を纏っているだけなので、体内は電気に対して無防備なのである。

 

 悲鳴と共にばっくりとプレシオサウルスの大顎が雷花の左腕から外れた。

 

 ぷすぷすと黒焦げになりながら、鬼は海底へと沈んでいく。

 

「あっ、待てッ!! 逃がさないよ!!」

「こ、今回の所は私の敗けということにしておいてやろう──だが、私が許しても、私の中に居る彼が許すかな!?」

「はぁ!? 一体何を言って──」

「此処からは選手交代だ……!」

 

 めきめきと音を立てて、斜陽院の身体が黒い靄に包まれていく。

 

 そして、雷花の前に現れたのは──全身が鱗の装甲に覆われた人型の鬼。

 

 背中と頭の間にはチューブのようなものが繋がれており、頭部はプレシオサウルスの如き牙と鋭い目が埋め込まれている。

 

 手には長い槍が握られており、足は鋭い刃の如き鰭が生えている。

 

 言ってしまえば──ダイバーの如き姿をした怪人だ。

 

 

 

「──やっと表に出て来れた……始原の海、ジュラシック・コーストは此処から始まるのだ……ッ!!」

 

【プレシオ海鬼<完全体> 爬虫類 首長竜目 プレシオサウルス科】

 

 

 

 ぞくり、と雷花の肌が粟立った。

 

 さっきまでのふざけた姿とは大きく異なる、プレシオ海鬼の真の姿。

 

 霊気も大きく凝縮されており、更に堅牢になっている。人と動物霊の融合が更に進んでいることを意味していた。

 

 完全体──と言えば聞こえはいい。だが、実態は動物霊が主導権を握り、人間側の意識が塗り潰された状態である。

 

「お返しだッ!! ”大禍・メエルシュトレエムの底へ”ッ!!」

 

 ぐるぐるぐる、と搔きまわすようにプレシオ海鬼が槍を振り回す。

 

 大渦がそれだけで出来て、雷花を飲み込む勢いで更に大きくなっていく。

 

 それに飲み込まれ、雷花は激しく回転しながら巻き上げられていく。

 

「わ、わわわわ!? なにこれ、抜け出せないーッ!?」

「良い的だ……ッ!! さっきのお返し、させてもらうぞッ!!」

 

 プレシオ海鬼が槍を振るう。

 

 すると、大量の銛が彼の周りに現れ、次々に雷花目掛けて飛んで行くのだった。

 

 銛は大渦に乗って動いていき、雷花に突き刺さっていく。

 

 そして、銛が突き刺さった部位から、雷花の纏っている霊気が砕かれていく。

 

「や、ばい、大渦に飲まれた所為で避けられない──ッ!?」

 

 大渦はやがて消え失せ、雷花は疑似水中空間に再び投げ込まれるが、銛の突き刺さった場所は霊気が抉れており、変身が解けていた。

 

 鬼にとって、変身中に纏っている霊気を砕かれるのは、致命的。全身の霊気を砕かれれば、動けなくなってしまう。

 

 今の雷花は辛うじて変身を保っていられている状態だ。

 

 追撃を仕掛けるため、プレシオ海鬼が槍を構えながら突撃する。

 

「──貰ったッ!! その命、頂くぞッ!!」

「……マズい……せめて電気が効けば……!!」

 

 掌を翳し、受け止めようとする雷花。

 

 だが、満身創痍の彼女ではとてもではないが止められるはずがない──

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 ──故に。プレシオ海鬼の槍による突撃を止めたのは、突如目の前に現れた分厚い氷の壁であった。

 

 それは、雷花の身体を守るかのようにドーム状に展開されており、プレシオ海鬼の槍を弾いてしまったのである。

 

「なっ!? 何だ──何処から──ッ」

「トーカ……ッ!!」

 

 振り向いた先には──息を切らせる凍花の姿があった。

 

「ごめんなさい、姉さん──遅くなりました……!」

「バカ!! 待機しててって言ったじゃん!」

「姉さんが戦ってる時に……私一人だけ、怯えてるなんて出来ませんッ……!」

 

 つたない泳ぎではあった。

 

 だが、それでも──雷花の姿を追い、凍花は必死に深くまで潜り切ったのだ。

 

 この空間では溺れる心配はない。それがより、彼女の勇気を後押しした。

 

「も、もうっ……ほんとーに、出来た妹だよ……!」

「完全体になってますね……二人掛かりじゃないと──いや、二人掛かりでも危険かもしれません」

「……あいつ、電気が効かないんだ。メアリー・アニング? って人の逸話を取り込んでるから……!」

「メアリー・アニング──化石婦人ですか。となると電気への耐性も納得です……!!」

「でも、あいつの外装を貫けば……体内にダメージを与えられる!」

「その前に二人纏めて始末してやる──ッ」

 

 再び槍を振り回すプレシオ海鬼。

 

 大渦が巻き起こり、更に銛も追尾していくが──凍花が再び大きな球状の氷のバリアを展開。

 

 銛は氷のバリアに阻まれ、突き刺さるも貫くことができない。

 

 そうこうしているうちに、大渦は掻き消えてしまう。

 

「ぐっ、くそ、あの氷が貫けない──!!」

「行くよ、トーカ!!」

「はい、姉さん!!」

 

 そうなれば、後は此方の反撃の番だ。

 

 勢いよく飛び出した雷花がプレシオ海鬼に怒涛の如き打撃を叩き込む。

 

 それを槍で受け止めるプレシオ海鬼だが、妹が来たことで精神的に余裕を取り戻した雷花の攻撃を受けきることが出来ず、とうとう顔面に一撃を受けてしまうのだった。

 

「おのれッ──!!」

 

 しかし、プレシオ海鬼も負けてはいない。

 

 足から生えた鰭を刃のように鋭く尖らせ、雷花に蹴りを見舞う。

 

 掠っただけで雷花の着ていた制服はバッサリと切り裂かれてしまう。切れ味は霊刀と大差がない。

 

「危なッ──!! もう全身凶器みたいなもんじゃん、こんなの!!」

「猪口才なーッッッ!!」

 

 腕からも鰭が生え、プレシオ海鬼はそれで雷花を斬りつける。

 

 だが、彼女を守るのはやはり、後ろで氷の壁を展開する凍花だ。

 

 プレシオ海鬼の刃の如き鰭を、雷花の目の前に現れた氷の壁が受け止めた。

 

「姉さんッ!!」

「オーケイッ!!」

 

 その氷の壁を雷花が渾身の拳で思いっきり殴りつける。

 

 音を立てて、壁が砕け割れて鋭い破片となった。

 

「大間抜けだ!! まさか自分から、防護壁を壊すとは!!」

「──今お前は、ボクが殴ったことでマイナスの電気を帯びている──」

「ッ!?」

「そして、この割れた氷の破片は、今ボクが殴った事でプラスの電気を帯びているッ!!」

 

 氷の刃は、敵を目掛けて追尾する弾丸と化す。

 

 

 

「──電導式・氷結散弾(アイスショットガン)!!」

 

 

 

 プレシオ海鬼目掛けて、大量の氷の破片が突き刺さった。

 

 

 

 ※※※ 

 

 

 

「なんとか、身体は動くようになったが……」

 

 

 

 つるぎは掌を開け閉めする。

 

 時間経過で霊気が回復してきたのだ。

 

 伴って体も動くようになってくる。霊気は気力、変身解除で一気に拡散すると、霊術師は体を動かすのも難しくなる。

 

 だが、こうして回復さえすれば、また動くことができるのだ。

 

「ケ、ケケケケケケーッッッ!! 見つけた見つけた!! 弱った人間ーッ!!」

「む」

 

 ……しかし。

 

 動けるようになったからといって、戦えるようになったわけではない。

 

 つるぎの周囲に、ふよふよと動物霊が浮かび上がっていく。

 

 イルカのような鋭利な口吻を持つ魚竜・イクチオサウルスの霊が何匹も姿を現した。

 

「……悪いが、俺はお前達の宿主にはなれんぞ」

「知ってるさァ!! だから、今此処で始末するってわけよ!!」

「ケケケケケーッ!!」

「……さて、どうするかな」

 

 つるぎは折れた刀を構える。だが、鬼に変身する気力も今は無い。

 

 この群れを前に何処まで戦えるか──未知数だ。

 

 その尖った口吻がぐにゃりぐにゃりと捻じ曲がり、ドリルのように回転していく。

 

 此方の身体に霊気を突き刺し、吸い取るつもりなのである。

 

「おい待てそんなのアリか──ッ!!」

「美味しくいただくとするぜェェェーッ!! ケキャキャキャキャーッ!!」

 

 突貫するイクチオサウルス霊達。

 

 しかし彼らがつるぎに突き刺さることはなかった。

 

 イクチオサウルス達は、つるぎに向かって行く途中で炸裂音と共に爆発したのである。

 

 見ると、魔銃を構えたヴァレットが空中から狙撃をしていた。

 

「ヴァレット!!」

「貸し一つだぜ、荒神。……いや、貸し借りなんて言ってる場合じゃねえか」

 

 地面に降り立ったヴァレットが申し訳なさそうに言った。

 

「どういうことだ」

「プレシオ海鬼は、沈んだ俺様の黒船から出てきたヤツだ。元はと言えば──俺様の所為なんだ」

 

 頭を下げてヴァレットが言った。

 

「この事態は俺様の管理不行き届きが原因だ……すまねえ……ッ」

「……ヴァレット、表を上げてくれ」

「ッ……荒神」

 

 つるぎは、自らの力で立ち上がっていた。

 

 そして──彼の手を取る。

 

「俺は……君の力を高く評価している」

「荒神……! 良いのか?」

「どんなに強い敵でも双子たちと、俺達。4人で力を合わせれば──勝てない敵ではないはずだ」

「へっ……お前は、本当に良いヤツだな」

 

 ヴァレットは心底安心する。

 

 この男は自分のライバルに勿体ない心意気の持ち主だ、と。

 

 それに応えるべく、彼は魔銃に一つの弾丸を込めた。

 

「荒神、こいつはエナジー回復弾。霊気を補給する魔弾だ。受け取ってくれ」

「……ああ。頼む」

「おいおい、すぐに信じちまうのかよ。魔銃を向けられてんだ、警戒くらいしろよな」

「ヴァレット。此処までの君を見ていれば分かる。君は──自分の使命にはとても忠実な男だ」

「……敵わんね」

 

 ヴァレットが引き金を弾いた。

 

 つるぎの胸に弾丸が突き刺さり、そして緑色の光がそこを中心に広がっていく。

 

 たちまち、彼の身体に不足していた霊気が駆けまわっていく。荒神つるぎ──完全に復活。

 

「……体に元気が戻った」

「つっても、元気の前借だ。終わった後、死ぬ程疲れるぞ」

「構わんさ。今戦えればそれで良い」

「双子ちゃん達を助ける為か?」

「いや──俺達は対等。あいつらの隣で並び立ち、戦うためだ」

「だけどその前に──邪魔者の掃除だな」

 

 ヴァレットとつるぎを阻むのは、巨大な牙を持つエビのような姿の動物霊だった。

 

 アノマロカリス、と聞いてピンと来たことがある者は非常に多い。

 

 巨大な鉤爪型の牙と、黒い真珠のような複眼を持つカンブリア紀の節足動物だ。

 

 

 

「──獲物ォ……!! 獲物ォォォーッッッ!!」

 

【アノマロ狩鬼 節足動物 ラディオデンタ目 アノマロカリス科】

 

 

 

 プレシオ海鬼に引き寄せられた動物霊の一匹。

 

 問題は、此処がジュラ紀の海だと定義されているはずなのにカンブリア紀の異物が混入している事である。

 

 非常に巨大なアノマロカリスの姿をしたそれは、咆哮を上げながらつるぎとヴァレットに襲い掛かるのだった。

 

 しかし、今此処に揃っているのは剣と銃、最強の二人。

 

 文字通り敵無し。

 

 

 

「行くぞヴァレットッ!!」

「おうよ、荒神ッ!!」

 

 

 

 ステゴ剣鬼、そしてバット・ザ・キッドが並び立つ。

 

 最早、この二人に倒せない者はない──

 

 

 

 

「お待たせしましたァァァーッッッ!! 霊能宅急便でェェェーッす!!」

 

 

 

 

 ──その前に事件は起こったのである。

 

 突如、トラックのようなナニカがアノマロ狩鬼の上に落っこち、押し潰す。

 

「ギャアアアアアアアアーッッッ!!」

 

 二人は駆けだそうとした足を止めた。

 

 アノマロ狩鬼は押し潰され、動けないようだったが──そんなこと全く気にする様子もなく、トラックの中からお姉さんが現れる。

 

「えーと、お急ぎで、お届け場所を白亜高校にしてた荒神つるぎさんですかぁー?」

「あ、はい……」

「これ、お届けものですねー、受取証にサインをお願いします」

「……」

「はい、ありがとうございました、また霊能宅急便をご利用くださーい!」

 

 お姉さんはトラックの中に戻っていく。

 

 ふわり、とトラックは宙に浮かび──そのまま走り去っていった。

 

 よく見ると、タイヤが火車のように轟々と青い炎で燃えている。

 

 そして──今のでアノマロ狩鬼は完全に沈黙してしまっていた。

 

 首を横に振ったヴァレットが微妙そうな顔で封霊弾を撃ち込み、この場は収まるのだった。

 

「えーと……ジャパンの配達ってあんな感じなん?」

「いや、俺も初めてだ……」

 

 ガッチガチに御札が貼られた荷物を開封しながら──つるぎは言った。

 

 こんなアグレッシブで無法極まりない宅急便は見たことが無い。

 

 たとえ火事場だろうが鉄火場だろうが修羅場だろうが、霊能宅急便は如何なる場所であっても配達を完遂し、そしてサインを受け取って帰っていく。

 

 最早此処まで来ると、執念も良い所である。

 

「で、何を頼んだんだ?」

「……届いた」

「え?」

 

 つるぎは──珍しく口角を上げていた。

 

 中身は鞘に納められた一振りの霊刀。刀工の名は──加具土 朱音だ。

 

(朱音さんが打った霊刀! これで……戦える)

 

 握っただけで伝わるその重厚さ。今まで振ってきた練習用の刀とは比べ物にならない程美しい刀身。

 

 切れ味は、まだ分からないが──幾つもの刀を見てきたつるぎが見た中でも文字通りトップクラスの出来だ。

 

「……どうやら、相棒が届いたみたいだな、荒神」

「ああ、待たせたなヴァレット」

「行こうぜ。黒幕の所になッ」

「ああ」

 

 剣と銃。

 

 最強のコンビが、今度こそ走り出す。

 

「それで荒神! その刀なら全力を出せるんだな? 終わったら、決着を付けようぜ!!」

「望むところだ。俺も、この刀でヴァレットと戦いたかったんだ」

「嬉しいねえ! そんな事言ってくれるヤツは、お前が初めてだよ、荒神!」

「勝つぞ」

「勿論だ、好敵手よ!」

双子はどっち派ですか?

  • 雷花
  • 凍花
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