堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで   作:タク@DMP

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第28話:剣銃雷凍、揃いて

 ※※※

 

 

 

 その頃、校庭に作られた疑似海中空間にて。

 

 

 

「ウッソでしょ……!?」

「私達の合体技が……効いてない!?」

 

 

 

 雷花が砕いた氷の破片は一直線にプレシオ海鬼を追尾し、突き刺さった──しかし。

 

 プレシオ海鬼が槍を振り回せば、氷の破片は次々に粉微塵になっていき、結果的にすべて弾かれてしまったのである。

 

「さ、流石に今のは不味かったが……此処は水中、空気中よりも抵抗がある……!! バラバラの散弾じゃあ、私の装甲を貫くには至らん──ッ!!」

 

 鰭がオールのように高速で動き、プレシオ海鬼が雷花との間合いを一気に詰めた。

 

 生命の危機を感じ、構えた雷花だったが時すでに遅し。首を掴まれてしまい、水底まで押し込まれてしまう。

 

「姉さんッ!!」

 

 すぐに凍花も泳いで追いつこうとするが、彼女の泳ぎではプレシオ海鬼には遠く追いつかない。

 

 いくら泳ぎを覚えたと言えど、凍花は素人同然だ。泳ぐことに特化したプレシオ海鬼に敵う訳が無い。

 

「ダ、ダメ、私じゃあ……姉さんを助けられないッ──!!」

 

 一方、水底に雷花を押し倒したプレシオ海鬼は右手に槍を出現させると、彼女の首に近付ける。

 

「……良くも此処まで散々コケにしてくれたな……人間風情が……!!」

「は、はは……人間風情って小馬鹿にしてたから、こんな事になってんじゃないの……ッ!!」

「黙れッ!! お前の妹も後でじっくり甚振ってやる……まずはお前からだ……!!」

 

 雷花は──精一杯抵抗するが、プレシオ海鬼を跳ね除けるには至らなかった。

 

 無力感を何処までも痛感する。結局自分は一人では戦えない。そればかりか、つるぎが居なければ──妹を守り切る事も出来ないのだ、と思い知らされる。

 

(つるぎに刀が戻ってくる間だけでも……ボクが、こいつを抑え込んでいなきゃいけなかったのに……これじゃあ、また……!!)

 

 その時だった。

 

 プレシオ海鬼の背中に──黒い影が次々に纏わりつく。

 

 それはコウモリ。コウモリの形をした動物霊だ。

 

「ンな──ッ!?」

 

 それはプレシオ海鬼の堅い装甲に牙を立てて、一気に風船の如く膨れ上がる。

 

 間もなく、炸裂音が響き渡り──プレシオ海鬼は背中で起きた爆発に耐え兼ねて態勢を崩す。

 

 それを好機と見た雷花は、プレシオ海鬼の腹に蹴りを叩き込み、何とかその場を脱するのだった。

 

 こんな離れ業が出来るのは一人しかいない。

 

「ヴァレット!! き、来てくれたの!?」

「間に合ったな──ッ!! 妹ちゃんも連れてきたッ!!」

 

 ヴァレットは右手で凍花の手を繋いでいた。

 

 凍花を引っ張って連れてきてくれたのだ。

 

 ほっ、と安堵する一方──プレシオ海鬼は未だに健在。立ち上がれる状態だ。

 

 しかし、そこに追撃を仕掛けるようにして、何かが飛び込んで来る。

 

 魔弾よりも重い一閃がプレシオ海鬼を水底に叩きこんだ。

 

「双子たちが世話になったようだな──ッ!!」

「ぎぃ、貴様、まだ動けたのか──ッ!!」

 

 ディプロカ底鬼の力で泳力を強化したつるぎだ。

 

 その手には──真新しい霊刀が握られていた。今までのものよりも一回り大きく、そして赤い光を放つ──珠玉の一振り。

 

 刻まれた銘は──「余燼」。つるぎの新しい相棒である。

 

「凄まじい刀だ……まだ霊気を注ぎ込んで間もないのに、切れ味が今までの霊刀よりも鋭い──ッ!!」

「が、くそ、私の、身体がァ……!?」

 

 水圧で阻まれたはずなのに、プレシオ水鬼の装甲は既にズタズタに斬り刻まれていた。

 

 つるぎの全力の抜刀に耐えうるだけの強度、そして水すらも切り裂く鋭さ。

 

 余燼は──つるぎの凄まじい腕力と鍛え上げられた技術を加味した、つるぎの為に存在すると言っても過言ではない太刀である。

 

「全員巻き込んでくれる──”大禍・メエルシュトレエムの底へ”ッ!!」

 

 槍を振り回り、大渦を巻き起こそうとするプレシオ水鬼。

 

 しかし、それを待つほどつるぎの気は長くない。一度刀を鞘に戻し、思いっきり前傾姿勢を取り──抜刀の勢いで思いっきり刀を振り切る。

 

 水さえも切り裂く凄まじい腕力と繊細な技量。

 

 それが合わさった事で、衝撃波が生まれ──水の刃となってプレシオ水鬼に襲い掛かる。

 

 

 

「荒神流抜刀術──”水切り(クロガネ)”ッ!!」

 

 

 

 大渦は真っ二つに斬られ、霧散した。

 

 プレシオ水鬼はそれでも懲りずに槍を振り回し、再び大渦を巻き起こそうとするが──

 

 

 

「エンコテ・カラミティ・パニッシュ!!」

 

 

 

 エンコテウティスの力を借りた魔弾。

 

 それがプレシオ水鬼の胴に深く食い込む。

 

 着弾点から触手が生え、プレシオ水鬼の身体を絡め取り、縛り上げてしまう。

 

 更に凍花が冷気をプレシオ水鬼の足元にぶつけ、氷漬けにしてしまう。

 

 これでもう──動けない。

 

「がっ、ぎっ、何だこれは──動けん──ッ!!」

「荒神ッ!! そいつの動きは封じたッ!! 後は頼むッ!!」

「つるぎさんッ!!」

「──ああ、任されたッ!!」

 

 思いっきりつるぎは前傾姿勢を構え、抜刀の勢いでプレシオ水鬼に飛び掛かる。

 

 狙いは剥き出しの頭部。そこに渾身の突きを見舞う──

 

 

 

「──”封”ッ!!」

 

 

 

 ──霊気が噴き出し、つるぎの握る御札に吸い込まれていく。

 

 そうしてプレシオ水鬼の外殻は崩壊。中からは気を失った斜陽院が現れるのだった。

 

「ようし、嬢ちゃん達!! 撤収だッ!! さっさと逃げるぜ!!」

「は、はいっ!!」

「つるぎ──」

「斜陽院は俺が連れ出す。お前らは先に行け!!」

 

 辺りが崩れ出す。プレシオ水鬼が倒れたことで、空間が崩壊したのである。

 

 全裸の斜陽院を米俵のように抱え、つるぎもまた空間から脱する。

 

 辺りはガラスのように罅割れていき、水底は黒く崩落していく。

 

 ──そして。

 

「あーっ、生きた心地しなかったーッ!!」

「つるぎさんは……ッ!!」

「安心しろ、何とか……なった」

「ぎりぎりだったねえ」

 

 つるぎが空間から這い上がると共に、白亜高校を包んでいた結界も、領域術も全て解除されたのだった。

 

 術にかかっていた生徒や教師たちは未だに眠ったままだが、いずれ意識を取り戻すはずである。

 

 そして、気を失っている斜陽院もまた──同じである。

 

「で、どうしますかコイツ」

「もーう!! 全裸なんだけど!!」

「でも姉さん──この人、心なしか満足げな顔をしてますよ」

「どうでも良いよ、そんな事!!」

「木の影にでもおいておくか……」

 

 

 

「あんがとよ」

 

 

 

 ヴァレットが言った。

 

 つるぎと双子は──振り返る。

 

 ヴァレットは何処か照れくさそうだった。

 

「お前らのおかげだ。プレシオが……これ以上、デカい被害を出す前に止められて良かった」

「いえ。こちらこそ、ヴァレットさんが居なければ危なかったです」

「ん……そうだね。ありがと、ヴァレット」

 

 妙にしおらしく雷花が礼を言う。

 

 それに違和感を感じつつも──凍花が言った。

 

「……しかし、ヴァレットさん。プレシオサウルスを封印したのはつるぎさんですが……プレシオは我々が持っていて良いんですか?」

「構わねえよ。もう、そいつを閉じ込める黒船は無ェ。新しい主人の所でよろしくやってくれればいい」

「……すまない。今回も色々と世話になったな、ヴァレット」

「礼は要らねえよ。俺様は──自分で自分の後始末を付けただけだぜ。これで──心置きなく、決着を付けられるだろ」

「ああ。だが──改めて分かったよ。お前は……素晴らしい霊祓いだ、ヴァレット」

「そりゃあこっちの台詞だ。荒神──そんでもって、双子ちゃん。今までの非礼を詫びさせてくれ」

「……何だよう、急に素直になっちゃって」

 

 むくれる雷花。

 

 そんな彼女を差し置き、ヴァレットがつるぎに手を差し出す。

 

 つるぎも、それを握り返すのだった。

 

 

 

 

 パァンッ

 

 

 

 ──乾いた銃声が、その場を裂いた。

 

 つるぎの身体が仰向けに、力無く倒れていく。

 

 何が起こったのか分からない、と言う顔で雷花と凍花が目を見開く。

 

 引き金を弾いたのは他でもない──ヴァレットだった。

 

「え、あ、え……?」

 

 そして。

 

 引き金を弾いたヴァレット自身も戸惑いを隠せない顔で、魔銃を取り落とす。

 

 目の前に倒れたつるぎ。そして、握手した右手とは逆の左手に握られていた魔銃。

 

 自分が何をやったのかも分からない、という様子でヴァレットは後ずさる。

 

「ち、違うッ……!! 俺は、俺は……!!」

「つるぎさんッ!! つるぎさん、しっかりしてください!!」

「ヴァ、ヴァレットお前──ッ!! よくも、つるぎを……何でッ──!?」

「違う!! 俺は、俺はやってない……!! 俺は撃ってない……!!」

 

 

 

「でも、ご主人様が引き金を弾いたのには変わりないですよねえ? ケキャキャッ!!」

 

 

 

 ふよふよ、と魔銃から一匹のコウモリが飛び出す。

 

「ど、どういうことだ、デスモダス!! 俺は、俺は荒神を撃ってなんかない……!!」

「あーあー、手に掛けちゃいましたねえ、裏切っちゃいましたねえ、ご友人を!! クククククッ!!」

 

 ヴァレットの使い霊のデスモダスだ。それを見て──凍花は何かを察したように叫ぶ。

 

「貴女ですね……デスモダス!! ヴァレットさんの意識を乗っ取って、引き金を弾かせたッ!!」

「なんかこいつ、最初に見た時よりも……イヤなカンジ!!」

「さっきの一瞬、ヴァレットさんから……いえ、魔銃から凄く嫌な気配がしたんです……! デスモダス、貴女は──()()()()()()()ですね!!」

「御名答ー♪」

 

 ふよふよ、とデスモダスは失意に暮れるヴァレットの周囲を飛びまわりながら嘲笑した。

 

「知っていますかァ、皆さまー♪ ドイツのオペラ戯曲、魔弾の射手を──ッ!!」

「……な、なにそれ。ボク知らないんだけど」

「姉さん。魔弾の射手に出てくる”魔弾”は……狙った場所に必ず当たる悪魔の銃弾です。でも、最後の7発目だけは……魔弾の悪魔ザミエルが望む場所に命中するんです」

 

 つまり──此処で言う魔弾の悪魔とは、魔銃と一心同体である動物霊・デスモダス。

 

 デスモダスの手引きにより、魔銃の最後の一発は裏切りの弾丸をつるぎに届けたのである。

 

「……あたしとカラミティ・Jは一心同体……私の意思はカラミティ・Jの意思……逆もまた然り!!」

「ふざけんな!! なんで、つるぎを撃ったんだよ!!」

「おい、デスモダスッ……!! 何で、何でこんな事をするんだ……ッ!! 俺は、荒神とは正々堂々と決着を付けたかったんだ!! こんな、騙し討ちみたいな……!!」

「……ご主人様ァ。旦那様と奥様が死んだときの怒り、悲しみ、今でも覚えていますね?」

「ッ……どういう、ことだ……!?」

「そして、今の貴方は無二の友に出会えたことで、喜び、楽しみに満ちていた! それを塗り潰す”裏切り”──これで、真の魔人が完成する。魔銃の悪魔は完成するッ!!」

 

 ケキャキャキャキャキャ、とデスモダスの笑い声が辺りに響いた。

 

「どういうことかさっぱり分からんぞ!! デスモダス──父さんと母さんが死んでから、俺にはお前しか居なかった!! ずっと一緒にやってきたじゃないか!!」

「……姉さん」

「うん。流石にボクも分かっちゃった……あんまりだよ」

「思い出させてあげましょうか? あの日の夜の事を──」

 

 その時だった。

 

 鎖が外れたかのように、ヴァレットの脳裏に眠っていた記憶の枷が外れた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「や、やめて、デスモダス……!! 私達の息子に、何をしたの……!?」

「クッフフフフ!! 教育方針の違いと言うヤツです。この家の生温いやり方じゃあ、魔銃の悪魔はいつまで経っても完成しない。だから私自身で魔銃の悪魔を育てる事にしたんですよ」

 

 

 

 ──運命のあの夜。

 

 ジョンストン家を襲ったのは夜盗でも霊術師でもない。

 

 魔銃を握ったバット・ヴァレット──当時のマイケル・ジョンストンその人だった。

 

 しかし、その全身は魔人の外装に包まれており、意識は完全にデスモダスに握られてしまっていた。

 

「マイケル様は、才能に溢れた方だ。それを貴方達は長年腐し続けてきた……これでは勿体ない……折角、100年ぶりに魔銃の悪魔の素質になり得る者が見つかったというのに!」

「ギャッ」

 

 婦人の頭がスイカのように破裂し、脳漿と鮮血がぶちまけられた。

 

「この方は……貴方達の代わりに、私が……立派な魔銃使いに育てますよ……!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「デ、デスモダス……嘘だろう……?」

「……ケキャキャキャキャ!! やっと思い出したようですね!!」

「お、俺が……父さんと母さんを、殺した……!?」

 

 ヴァレットは膝を突く。

 

 その背中から黒いコウモリの羽根が生えた。

 

 そして目からは重油の如き黒い液体が流れだしていく。

 

 溢れ出すすさまじい霊気。雷花と凍花は怒りよりも先に危機感を覚え、つるぎを引っ張りながら後ずさる。

 

「な、何!? これ、どうなってんの……!?」

「姉さん!! つるぎさんを運びます!!」

「で、でも、こいつ、生かしておけないよッ!!」

「バカ!! そんな事を言ってる場合ですか!! 魔銃による傷なら……まだ助かります!! つるぎさんを絶対に死なせてはいけませんッ!!」

 

 ヴァレットの身体がヘドロのようなものに飲み込まれていく中、双子たちはつるぎを連れて逃げる事しか出来なかった。

 

「俺が……殺した……父さんも、母さんも、荒神も……この手で……」

「ケキャキャキャキャッ!! さあさあさあ、完成するぞ!! 魔銃の悪魔が!!」

 

 今日、誕生するのだ。

 

 喜怒哀楽を裏切りで塗り潰した事により、壊れた魔弾の射手を生贄にして──魔銃の悪魔が降臨する。

 

 

 

「悪魔の魔銃に魂を売った、愚かな狩人!! 私こそが魔銃の悪魔!! 望むままに弾丸を撃ち抜く、魔銃の悪魔!!」

「そうだ……俺様は……悪魔……魔銃の、悪魔──」

 

 

 

【デスモダ双魔銃鬼<完全体> 哺乳類 コウモリ目 チスイコウモリ科】

 

 

 

 嘲笑する顔。そして嘆き悲しむ顔。

 

 その二つが隣り合わせの双貌の鬼が今此処に顕現した。

 

 手に握られるのは、魔銃カラミティ・J。それが──両の手に二丁。

 

「クククク、この日を待ち望んでいました!! ダメダメなご主人様は、あたしの力が無ければ何にも出来ない!! 最初っから、この私以外は何もいらなかったんです!!」

「そうだ……俺には、デスモダスしか、居ない……」

「そうです! 最初っからその言葉がずっと聞きたかった! なのに、貴方は色んな動物霊や人に色目を使って……挙句の果てには黒船なんてものにまで手を出す始末」

「……俺には、デスモダスが、必要なんだ……魔銃が、必要なんだ……」

「そうですッ!! その通りですッ!! まあ正直、黒船の封印があんなに簡単に解けちゃったのは想定外でしたが……」

 

 もう、ヴァレットには文字通りデスモダスしかいない。

 

 家族もその手で射殺し、友さえも手に掛けた。完全に彼の心は──壊れてしまった。

 

「もう1つの魔銃? そんなものは要りません!! ご主人様は二丁拳銃使い……ならば、カラミティ・Jを2つ持てばいいだけの話なのです!!」

「そうだ……何で、そんな簡単な事にも気づかなかったんだ、俺は……俺には、お前以外、要らない……」

「さあ、ご主人様……先ずは、この日本でッ!! あたしと一緒に、血の雨を降らせましょう!!」

「俺には……俺には、魔銃が、必要だ……」

 

 魔銃に繋がれた魔弾の射手。

 

 その背後には、魔弾の悪魔。

 

 東京に──鉛の雨が降ろうとしていた。

双子はどっち派ですか?

  • 雷花
  • 凍花
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