堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで   作:タク@DMP

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第3話:夜の学校は魑魅魍魎ばかり

 ※※※

 

 

 

「凍花の言っていた動物霊というのは、覗き魔の事で良いのか?」

「ええ。姉さんが情報を集めてくれました」

「あんな高い所に登って覗きが出来るのは、十中八九動物霊の力が無きゃ無理だよ。足場もないし」

「それにしても犯人は一体誰なのでしょう」

「難解な事件だね……このままじゃ迷宮入りだよっ」

「だとしたらお前達の眼は節穴通り越して洞穴だ」

 

 つるぎからすれば、犯人はあの怪しいゴーグルをカシャコンカシャコンシュコシュコしている覗木としか思えない。

 

 だが、犯人の事はさておき、問題は相手がどのようにして覗き行為に及んだか、である。犯行現場は4階の空き教室。壁でも登らない限り覗きは不可能だ。

 

 そこで、部活終わりの生徒達も居ない夜中に,一度現場を調べてみる事にしたのである。

 

「夜の学校ってドキドキするーっ! 何だかイケナイ事してる気分だよーっ!」

「姉さん、はしゃぎすぎです」

「用心しろ、お前達」

 

 常に木刀の鞘に手を掛けているつるぎが、二人に向けて言う。

 

「夜は魑魅魍魎共の世界だ。動物霊が普通に出て来てもおかしくはない」

「……そうだね。気を付けよう」

「ええ」

 

 二人も気を引き締めて頷いた。

 

 問題の校舎に向かう三人。灯りは懐中電灯だけだ。

 

 冷たい空気を肌で感じながら、つるぎは辺りに霊の気配が無いかを探る。

 

 ──その時だった。

 

「──うるさい音」

「ッ!」

 

 ぽつり、と凍花が言い、つるぎも雷花も身構えた。

 

 凍花は耳がとても良い。遥か先の人の声を聴き分ける事が出来る程だ。

  

 それは彼女に憑りついている翼竜の動物霊の力に由来している。尤も、静かさを好む彼女は自らのこの能力を忌み嫌っているのであるが。

 

「……人の声。争う声です」

「何事だ?」

「もしかして、喧嘩!?」

「穏やかではないですね」

「行くぞ。動物霊に襲われてるのかもしれん」

 

 つるぎの声に、二人も頷く。凍花の言う喧騒のする方へと向かって行く。出た先は校庭だ。

 

 しかし、近付くにつれて凍花は「あの、これ絶対動物霊じゃないですよ」と言いたげな微妙な顔になっていくのだった。

 

 耳の良い凍花は、聞こえてきた声の会話内容まで先に分かってしまうのだった。

 

 

 

「あんだオラァ!!」

「スッゾオラァ!!」

 

 

 

 案の定、校庭では言い争うような声。

 

 丈のやたらと長いスカートに黒いマスクをつけた女子生徒達がいがみ合っている。

 

 その手には──

 

 

 

「ストリングプレイスパイダーベイビー!!」

 

 

 

 ──ヨーヨーが引っかけられ、両者は互いに技を見せあっていた。

 

 この平和なのかそうでないのかよく分からない光景につるぎは──「何だコレ」と困惑するしかない。

 

 その疑問に対し答えるのは校内で顔が広い情報通の雷花である。

 

「ほら、うちの学校ってごく普通の一般的な高校じゃん? だからスケバンが普通に生息してんだよね。だからああやってヨーヨーで決闘してるってわけ」

 

「オラオラオラオラ!! 10秒!! 11秒!! 12秒!! もっと続くぞッ!!」

「チィッ!! テメェにゃぜってー負けねえ!!」

 

(今は令和なんだが? 昭和と間違えてないか?)

 

「ボクも護身用にヨーヨー持ってるし」

 

(護身用ヨーヨーって何だ?)

 

「やれやれ、ごく普通の一般的な高校の一般的なスケバンなら仕方がありませんね。先に行きましょう」

 

(ごく普通の一般的な高校じゃないからスケバンが生息しているんだろうな)

 

 つるぎは首を横に振った。しかし──スケバン達は勝負の最中、此方を見ているギャラリー……それも、飛びぬけて背の高いつるぎに気付いたのか、此方を向くなり顔を真っ青にする。

 

 

 

「ヒィッ!! 剣鬼の荒神!!」

「何でこんな時間にこんな所に!? 殺されるッ!!」

 

 

 

 そのまま決闘を捨てて、スケバン共はなりふり構わず逃走してしまうのだった。

 

「……勝手に逃げていきましたね」

「全く、スケバンの癖に小心者だなー、お笑い種だよ」

 

(喜んでいいのか分からない……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 そのまま問題の校舎に向かう最中、今度は雷花がくんくん、と鼻をひくつかせる。

 

 肉食恐竜の力を持つ彼女は人一倍嗅覚が敏感だ。おまけに夜目も効く。そんな彼女が捉えたのは、夜の校舎では先ず漂ってこないであろう匂いであった。

 

「しっ、静かに──」

「……曲者か。む? 何だこの匂いは。肉が焼ける匂い──」

「……こんな真夜中の校舎で? ……事件かもですね」

 

(もし本当にそうなら大事件だが……)

 

 

 

「夜はァァァ~~~、焼き肉っしょォォォ~~~!! FOOOOOO!!」

 

 

 

 つるぎ達が向かった先に居たのは──数人で鉄板を囲み、肉を焼く男子生徒達の姿であった。

 

 何故わざわざ真夜中の学校で焼き肉をするのか。さっぱり不明である。

 

 そんな疑問にお答えするべく、我らが情報通の雷花が指を差して言った。

 

「アレは──”路上焼肉部”の生徒達だよッ!!」

 

(予想の斜め上を行く曲者だった……)

 

「何だ、路上焼肉部でしたか。路上焼肉部なら外で焼き肉をしていても何もおかしくはないですね」

 

(おかしい!! おかしい!! 何もかもがおかしい!!)

 

 凍花が納得したように言った。つるぎは納得できなかった。できるわけがない。

 

 この学校は動物霊以前に、生徒も教師も頭のおかしい奴が多すぎる。双子も例外ではない。

 

 

 

「さぁて次の肉を──ヒッ!!」

 

 

 

 つるぎは、自らの顎の下に懐中電灯を向けてやった。校内で紛らわしい騒動を起こす彼らに腹が立ったのもあるし、事件現場を調査する時に邪魔になるからだ。

 

「ギャアアアア!! 剣鬼の荒神だーッッッ!! 何でこんな時間に!?」

「……」

「何か言えよッ!! こ、殺されるッ!!」

 

 当然、その恐ろしい鬼の如き顔が照らされ、路上焼肉部達は悲鳴を上げて──その場から遁走していく。

 

「これで良し。奴らはもう近付かんだろう」

「……つるぎ……」

「この顔が役に立つなら、幾らでもこうするさ」

 

 そう言ってつるぎは、すたすた、と先に行こうとする。

 

 そんな彼の腕を──雷花は掴む。

 

「……待ってよ」

 

 特に不満そうな顔をしているのは、雷花だった。

 

「自分から怖がられに行くのは、感心しないよ、つるぎ」

「……お前達」

「それに、あの人達、深夜に焼き肉してただけで、ボク達何かされたわけじゃないし」

 

(深夜の学校で焼き肉するのは十分悪い事だと思うが──)

 

「つるぎが友達が欲しいの、ボク達が一番知ってるもん! ……なかなか皆、つるぎが良いヤツだって信じてくれないけど」

「一度植え付けられたイメージというものは、なかなか消えませんからね。ですが、本人がそれを利用したら、余計に悪化します」

「……すまん」

「学校でボクがつるぎに近付かないのは、つるぎに自分から友達を作ってほしいからなんだよ。ほら、昔……それで嫌な噂流れた事があったし」

 

 中学時代、雷花はつるぎが怖くない事をアピールする為に、一緒に居たり、友達につるぎが顔は怖いが根は真面目な良いヤツ、と力説したことがあった。

 

 ──その結果流れたのは、つるぎが雷花を脅しているのではないか? という事実無根な噂であった。どうやっても、つるぎは悪者扱いされてしまうのだ。

 

 人気者の雷花と仲がいいつるぎに嫉妬する人間がおり、そのような噂を流したのだろう、と凍花は分析する。だがこの一件以来──雷花は自分に近付く人間に冷めた思いを抱くようになった。

 

(……偏見や嫉妬でつるぎの悪い噂を流したり、それを信じたりするようなヤツもいるけどさ……つるぎだって、友達が欲しいのに、自分から悪化させにいったらダメだよ)

 

 雷花は普段こそ天真爛漫だが、同時に自分が周囲からどう見られているか自覚的だ。彼女は自分が「人気者」であることを利用して、情報集めをするようになったのである。

 

 故意に他者を陥れたりすることこそ無いが──その実彼女は人一倍人間関係に対してはドライだった。

 

「だから、自分から怖がられに行くのは、これっきりにしてよ。ね?」

「……ああ。悪かったな。これっきりにする」

 

 つるぎは頷く。こんな事を続けていれば、出来る友達も出来なくなる。

 

 雷花は──普段こそ天真爛漫だが、その実繊細だ。つるぎの交友関係に関しては人一倍気にしていた。

 

(俺が不甲斐ないばかりに、雷花に……気苦労を掛けてしまっている)

 

 二度とこのように自分の顔を脅しに使う真似はやめよう、とつるぎは決意するのだった──

 

 

 

「ところで──残った焼肉、どうする?」

「あいつら帰ってくる気配が無いですね。音からして、完全に逃げ帰ったようです」

 

 

 

 ──尚。つるぎが決意した頃には、既に双子たちは焼き肉を囲んでいたのであるが。

 

(……頼むからもう少し余韻に浸らせてほしかった)

 

 どうしてもシリアスになりきれないのは、この3人の宿命のようなものなのかもしれない。

 

「……腐らせると虫が湧くし、食ってしまうか」

 

 ※この後、肉は3人で美味しく頂きました。♨

 

 

 ※※※

 

 

 

「さて、問題の事件現場だよ」

「正直疲れたんだが……」

「周りに人は居ませんね? ……行きますよ」

 

 

 

 問題の教室は4階。断崖絶壁で、登るのは至難の業だ。

 

 しかし、この壁を──凍花なら楽に調べる事ができるのである。

 

「”クリオドラコン”」

 

 その言葉を号令として、凍花の変身が始まった。

 

 凍花の頬には爬虫類の如し鱗が浮かび上がる。そして、彼女は着ていたジャージを脱ぎ捨てる。上の下着のみのあられもない姿になり、つるぎは目を手で覆った。

 

 しかし、凍花の変身に服は邪魔なのだ。それをよく知るつるぎもそれ以上とやかくは言わない。もふもふとした白い体毛が彼女の上半身を覆っていく。

 

 そして腕は──大きな被膜が生えていき、旅客機の如き立派な羽根と化す。

 

 

 

「……さあ、飛びますよ」

 

 

 

 クリオドラ()ン・ボレアス。それは、北風の凍てつく竜を意味する、アズダルコ科の翼竜。ドラゴンではなく、ドラコンである。

 

 アズダルコというと馴染みのない者も多いが──”世界最大の翼竜・ケツァルコアトルスの仲間”と記すとピンと来る人も多い。

 

 大きな翼を持ち、小型飛行機に匹敵する体格も多く、その中でもクリオドラコンは大型の部類だ。

 

 地面を蹴り、空へと羽ばたいた凍花は、慣れた様子で校舎の壁に近付く。しかし、翼と化した腕では懐中電灯が持てない。故に凍花は、爬虫類の如く長くなった足の指で器用に懐中電灯を掴み、校舎の壁を照らす。

 

 ──壁には、爪が食い込んだような形跡があり、直接壁を登ったであろう形跡が認められた。

 

 変身して視力が更に良くなっている凍花は、足跡を観察し、自分の知識と照らし合わせていく。

 

「やっぱり、思った通りです。道具じゃなくて、獣の爪ですね。」

 

 ふわり、と降りてきた凍花は変身を解く。そして、凍花の身体につるぎはジャージをかぶせてやるのだった。

 

「っ! ……ありがとうございます」

「体を冷やす。早く着ろ」

「ねーねー、トーカ! 何の動物だった?」

「恐竜ではないですね。今回のは、恐らく哺乳類かと」

 

 ジャージを着終えた凍花は、壁に食い込んだ爪、そして足跡から今回の敵を推測する。

 

 決め手となったのは肉球の痕跡。爬虫類に肉球は当然だが無い。

 

「となると厄介だな……人間の手で絶滅した可能性が高いのか」

「古い時代の恐竜は単純なフィジカルで元々強いですが……、新しい時代の動物は人間への恨みで強くなりますから」

 

 動物霊としては、どちらも厄介だが──人間への恨みが強いのは当然、絶滅に人間が関与した動物だ。

 

 そのような動物は、恨みによってより強大な力を手に入れる事がある。

 

「結局、どっちも強くて厄介ってことだね!!」

 

 身も蓋も無いが、その通りであった。

 

「壁に大きな穴がありました。5本のうちの指の1つが離れていて大きいです。これを使って壁登りしたものと思います」

「今は憑依された人間が霊の力を利用している状態だが、このまま放置すると霊の方が人間を完全に乗っ取るだろう。急がねば」

「問題はどうやって覗き魔を捕まえるかです。先ずは誘き寄せねば話になりません」

「ふふーん、そこはボクに任せといてっ!」

 

 グッ、とサムズアップする雷花。もう嫌な予感しかしない。

 

 

 

「情報戦と駆け引きは──ボクの出番だよっ!」




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双子はどっち派ですか?

  • 雷花
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