堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで   作:タク@DMP

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第4話:ティラコ獣鬼の怪

 ※※※

 

 

 

(──クッククク、着替えの部屋を移したか……だが、オマエ達の情報は筒抜け、何度でも覗き見してやる──)

 

 

 

 ──数日後。曲者は、壁登りをして着替え場所の2階空き教室を狙っていた。

 

 何ともまあ不用心に窓まで開いている始末。格好の餌場だ。

 

(おほっ♡ お誂え向きに窓まで開いて──)

 

 その隙間から、覗き魔は中身を確認した。

 

 

 

 

(ヴぉおぉえ!?)

 

 

 

 中で着替えていたのは──筋肉ムキムキのマッチョマン。丸太のような腕を持つ大男であった。

 

 覗き魔は吐きそうになった。ムッチムチの女子高生の裸体を期待していたら、飛び込んできたのはムッキムキのマッチョマンの荒神つるぎだったからである。

 

(バカな!! 情報が間違ってたのか!? しかもよりによって荒神だと──ッ!?)

 

 

 

「──そこか」

 

 

 

 その時である。

 

 中で着替えていたマッチョマンの視線が此方を捉える。そして──脇差の木刀を予備動作無しで窓の隙間目掛けてブン投げる。

 

 それは凄まじい速度で飛んで行き、標的の眉間を突いた──

 

「めぎゃんっ!!」

 

 ──悲鳴が響く。

 

 そしてつるぎが駆け付けた時には、曲者は窓から落下していき──大の字になって倒れていた。

 

 この高さからならば、飛び降りても平気だ。つるぎも後を追うようにして地面に降り立った。

 

 折を見て、示し合わせたように凍花、雷花の二人も現れて曲者を取り囲む。

 

 

 

「──ま、その高さから落ちても平気でしょうね。貴方──動物霊が憑いてるので」

「ウソの着替え場所の情報を女子に協力してもらって流したんだ。まさか貴方が犯人だったなんて」

「ああ……こんな事もあるんだな」

 

 

 

「ド、ドバドバドバ……き、貴様らァ……!! 教師にこんな事をして良いと思っているのかドバァ──ッ!?」

 

 

 

 頭を抑えながら起き上がるのは──担任教師の阿怒烈奈だった。

 

 彼は血走った眼でつるぎ達を睨む。彼は全身タイツ姿、そして掌は毛むくじゃらで獣の如き爪が生えていた。おまけに顔にはゴーグルまで付けている。

 

「……阿怒烈奈先生……ッ!! 何でこんな事を──ッ!!」

「クソッ!! お前達ッ!! 何の証拠があって俺が覗き魔だって言うつもりだドバァ!!」

「全身タイツにゴーグル、おまけに頭にはビデオカメラ、言い逃れが出来ると思ってるんですか!?」

「ッ……盲点だったドバァ!!」

 

 盲点なのはこいつの行動全部である。

 

「それに、貴様が覗き魔だろうが何だろうが関係ない──隠れていないで出て来い動物霊」

「アードアドアド! そうさ、俺はな──ある日突然、不思議な力が使えるようになったんだドバァ!!」

 

 めきめき、と音を立てて阿怒烈奈の身体が膨れ上がっていき、3人は後ずさる。

 

 タイツは音を立てて破け、阿怒烈奈は毛皮に包まれていく。眼球はくりくりとした丸っこいものに、しかし口元からは大きな牙を携えた獣人となるのだった。

 

「アードアドアド!! 最初はストレス発散だったんだドバァ!! だけどなァ、教師は部活に授業に上司からのイビられ、挙句の果てにはモンスタークレーマーの保護者共の相手にアドレナリンがドバドバドバァ!! これくらいの役得は許されて然るべきドバァ!!」

「ッ……下種が」

 

 手の指の一つは大きな鉤爪が生えている。これで今まで壁を登ってきたのだろう。

 

 その姿を見て、凍花が叫んだ。

 

「この顔はティラコレオ……! オーストラリアに生息していた、有袋類……要するにコアラの仲間です!!」

「コアラ!? こんな凶悪な顔付なのに!?」

「太古のオーストラリアには肉食の有袋類、つまりお腹に袋を持つ動物が沢山生息してたんです! しかし……人類がオーストラリアに進出すると同時に住処を追われ、絶滅したと言われています!」

 

 現在のオーストラリアには有袋類の大型肉食獣は生息していない。しかし、フクロライオンの異名を持つティラコレオは5万年前程まではオーストラリアの生態系の頂点に位置する生物であった。

 

 現生するクスクスに近い生き物だが、肉食と言うだけあって大型の生き物を捕食し、更に太い親指の鉤爪を器用に使っていたと考えられている。

 

 ……その親指を覗き行為に使われて、間違いなくティラコレオも不服だろうが──それでも動物霊にとって人間は都合のいい養分であった。

 

(マズいな。力が強まっている……阿怒烈奈の中に潜伏していた事で、呪力が増している!!)

 

「これは超能力!! 天からドバドバ与えられた俺の力なんだドバァ!! アードアドアド!! アドレナリィィィン!!」

 

 ブンッ!!

 

 阿怒烈奈は遠慮なくつるぎ達に向かって腕を振り回す。めきめきと音を立てて地面に小さなクレーターが出来るのだった。

 

 既に人間の力ではなくなっている。

 

 

 

「こうなったら逃げるが勝ちッ!! ドーバドバドバドバァ!!」

 

【ティラコ獣鬼 哺乳類 双前歯目 ティラコレオ科】

 

 

 

 大きく膝を曲げると、校舎の壁目掛けて阿怒烈奈──改めティラコ獣鬼は張り付く。親指の鉤爪を壁に食い込ませると、そのまま登り始めるのだった。しかし──

 

「──逃がしませんよ。乙女を辱めた罪、償ってもらいます」

 

 ジャージを脱ぎ捨てた凍花の身体は既に白い体毛に包まれていた。

 

 腕は空を飛ぶための翼と化しており、そのまま空を飛ぶと校舎の壁目掛けて──息を吹きかける。

 

 

 

「──”凍土の颶風(コールドボレアス)”ッ!!」

 

 

 

 息吹は、吹雪となり、校舎の壁を硬く凍らせる。

 

 壁に爪を喰いこませようとしたティラコ獣鬼だったが、つるつると手を滑らせてしまい、再び地面へと落下するのだった。

 

「ぐおおおおおおッ!? ぐぎぎぎぎ!! お、おのれ、人間どもォ……!! ドバババババァ……!!」

 

 しかし、落とされたことで樹上生物としてのプライドが傷つけられたのだろう。阿怒烈奈の中のティラコレオが怒り狂い、更に彼の身体は膨れ上がっていく。

 

 動物霊は力を増すと、憑依した人間の力を奪い取り──「鬼」となるのだ。

 

「ドババババァ!! 城ケ崎ィィィ!! 特にテメェは前から、前カら美味そうだと思っていたんだドバァァァ!!」

「ッ──!!」

「人間……ッ!! 美味ソうだなァ──同胞達の無念、今此処で晴ラしてくれるわァ!!」

 

 阿怒烈奈の声に不気味な別の声が重なる。

 

 目が一瞬赤く光ったかと思えば、地面を大きく蹴って大きく手を振り上げて雷花に襲い掛かった。

 

「俺達の縄張りにィ、侵入してきた人間共ッ!! お前達の所為で俺達の獲物も、住処も、全部消えていったァ!! 覚悟ォーッ!!」

 

 それよりも速く、電光石火の勢いで刀を抜いてティラコ獣鬼を打ち払ったのはつるぎだった。

 

「……下種が」

「アドォッ!? 邪魔だ、荒神ィィィィ!! 貴様ァ、教師を何だと思っテいるんだドバァ!!」

「──ッ!!」

 

 とはいえ、流石に人間のつるぎと、鬼と化した阿怒烈奈では膂力が違い過ぎる。

 

 刀を拳一本で受け止めたティラコ獣鬼は、それを握り返すと力任せにつるぎをぶん投げる。全長190cmの巨漢が、イチョウの木にぶつかり大きく揺れるのだった。

 

 上空から飛行して様子を伺っていた凍花が叫ぶ。

 

「っ──姉さんッ!! ティラコレオの手は獲物を掴むのに使っていたくらい器用ですッ!!」

「うんッ!!」

 

 確かに幾ら剣鬼と言えど、人間のつるぎでは正面から鬼に勝ち目はない。故に、()()()()()()()()()

 

 瞬く間に、阿怒烈奈の攻撃の後隙を狙い、電光の如き勢いで阿怒烈奈の懐に、雷花が潜り込んでいた。その頬には鱗が浮かび上がり、うなじには羽毛が生えている。

 

 スカートの下からは大きく太い、しかししなやかな尻尾が生えて地面を打つ──

 

「なッ──速過ぎるドバァ!?」

 

 雷花は決して振り向かない。何故ならば、つるぎの頑丈さは彼女が一番知っているからである。戦闘に於いて「無用な手助けはしない」。それが3人での決め事だった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のルールだった。

 

(姉さんの電気はあまりにも強力──私も下手に近付けません……でも、この距離なら姉さんは本気を出せますッ!!)

 

「ドバァッ!! アドアドアドォッ!!」

 

 ポイントは──物を掴むことに長けたティラコレオの前脚に掴まれない事。

 

 それに注視し、雷花は自身の身体に電気を流し──自らの反応速度を上げていく。

 

(筋肉は電気信号で動くッ!! 電気を操れば、スピードアップッ!!)

 

「──後ろ脚です、姉さんッ!! ティラコレオの後ろ脚は前脚に比べれば貧弱ですッ!!」

「オーケーッ!!」

 

 ──次々に迫りくる攻撃を躱した雷花は体を大きく反らすと電光の如き勢いで尻尾を振り回し足払を見舞った。ぐらり、とティラコ獣鬼の身体が崩れる。

 

「ドバァッ!?」

「ほんとだっ! 体幹が弱い──ッ!!」

 

 そうしてバランスを崩したティラコ獣鬼を見下ろし、雷花は右掌に電気を集中させた。

 

 雷花の両爪はバチバチと電気が迸っている。

 

「よくもつるぎをやったなァ──ッ!! オシオキ!! ”電気ビリビリ──100パーセント”!!」

 

 相手を痺れさせる電気の鉤爪を持ち、そしてティラコレオよりも古のオーストラリアを駆け抜けた無双の脚を持つ捕食者の名は──”ライトニングクロー”。稲光の爪を持つ者。

 

 全身の電気を右爪にのみ集中させ、それを無防備な腹に突き立てる。熊用スタンガンの数倍は下らない電気ショックが阿怒烈奈を襲った。

 

「アドアドアドアドアドアドアドォォォォォォォーッッッ!?」

 

 雷に撃たれたかのような衝撃が阿怒烈奈を襲う。

 

「お、のれ、人間──ッ!!」

「……動物でも人間でも関係ない。死者が生きてる者に手を出したら、それはもう立派な悪霊ッ!! ボク達は全力で祓うッ!!」

 

 悪霊には決して同情しない。

 

 それがかつて、人の手で絶滅させられた動物であっても関係はない。

 

 死者は生者に手出ししてはならない。逆もまた然り。それが──絶対不変の理なのだ。

 

 そして、ふらふらと脚をふらつかせた彼の眼前にはつるぎの姿があった。

 

「く、く、来るな──ッ!? お、おれは、教師ダぞ!?」

 

(──その立場を利用して教え子を食い物にしたのは、お前だろう)

 

 振り下ろされた爪をつるぎはすんでの所で頭をひねって躱す。

 

 頭部への直撃こそ避けたものの、つるぎの肩には深々と阿怒烈奈の爪が食い込み、血が噴き出した。

 

 だが──つるぎは全く表情を変えてない。体幹も全くブレる事が無い。

 

 ティラコ獣鬼の抵抗を防ぐため、後ろ脚を思いっきり踏みつけ、そして抜刀の勢いで日本刀を阿怒烈奈に突き立てる。

 

 

 

「──”封”ッ!!」

 

 

 

 霊気を帯び、霊を封じ込める力を持つ霊刀。刀身には、霊気を吸い取るための御札が貼りつけられており、それがティラコレオの霊の力を吸い取っていく。

 

「ア、アドレナリィィイイイイイイイン!?」

 

 それでも完全に祓う事は出来ないので、残りは阿怒烈奈の中に封じ込める。

 

 これこそが荒神一族に代々伝わる──封鬼の儀。鬼である雷花や凍花には出来ない、動物霊を鎮め、そして沈めるためのトドメの一撃だ。

 

 御札にはティラコレオの姿がじりじりと音を立てて刻み込まれていく。同時に、阿怒烈奈の身体からは毛皮が消えていき、元の姿に戻っていくのだった。

 

「ア、アドアドアド……」

 

 泡を噴き出し、気絶した阿怒烈奈をつるぎは縄でふんじばる。一仕事終わり、彼は嘆息する。肩に食い込んだ爪の傷跡が痛む。

 

 雷花がティラコ獣鬼を痺れさせていなければ、もっと深く食い込んでいただろう、と考える。

 

「大丈夫? つるぎ」

「後で病院に行くさ──だが、雷花のおかげで軽傷で済みそうだ」

「ほんとっ!? ボク……役に立った!?」

「ああ。大活躍だった」

「ッ……え、えへへへへ、そっかぁ……」

 

(あ、珍しく姉さんが本当に照れてる)

 

 ぶんぶんぶん、と引っ込んだはずの尻尾が降られている。メガラプトルのはずだが、その仕草はまるで犬のようだった。

 

「凍花も、だ。良いアシストだった」

「大した事はありません。私は正面きっての戦闘は苦手ですから」

 

(あ、トーカ、照れてるかわいーっ)

 

 目を逸らすのは決まって凍花が照れている時だ。

 

 凍花は恥ずかしさを隠すためか、さっさと話題を変えて阿怒烈奈を見下ろすのだった。

 

「何もしなくとも、このビデオカメラが全てを物語ってそうですね」

「さっさと警察に突き出しちゃおう!!」

「……ああ」

 

 こうして、覗き魔事件は阿怒烈奈の持っていたビデオカメラによって覗き+盗撮事件に発展した。

 

 間もなく阿怒烈奈は警察に捕まったのである。

 

 当然だが学校どころか周辺地域を巻き込んだ大騒ぎになり、ニュースにもなって学校と教育委員会は緊急記者会見を開く事になったという。

 

 だが、そのような難しい話はさておき──色々落ち着いた日の夜の事。

 

 マンションの部屋のテレビで、連日報道される阿怒烈奈のニュースを見ながら凍花が言った。

 

「教え子を食い物に……先生だけに良い反面教師でしたね」

「全く、とんだ人騒がせ、そして乙女の敵だったね! たっぷり反省すべきだよ!」

「ああ、俺も反省するとするよ」

「うん?」

「なにを?」

 

 キュッキュッ、と竹刀を磨きながらつるぎは言った。

 

「今回の件で思い知った。俺はお前達を()()()()()()()()()()()()()のだ、と。阿怒烈奈のように疚しい気持ちを抱かないようにせねばな」

「……」

「……」

「さて、と。俺は風呂に入ってくる」

 

 双子は顔を見合わせた。

 

 そして──雷花も凍花も、つるぎが風呂場に入ったタイミングで激しく台パンした。

 

 

 

「ねえッ!! 逆効果じゃんッ!! 折角活躍して褒めて貰ったのにッ!! 何でこう変な方向に思い切りが良いのかなあ、つるぎは!! でも好きッ!!」

「……難攻不落のニブチン唐変木堅物め……」

 

 

 

 双子は激怒した。

 

 必ずかの難攻不落のニブチン唐変木を落とさねばならぬ、と決意した。

 

 

 

「……やっぱ、もっとカゲキに攻めなきゃダメみたいだね?」

「……そうですね姉さん」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「それにしても──阿怒烈奈先生捕まりましたか!! 覗きとは卑劣千万、許される事ではないですねッ!!」

 

 

 

 ──カシャコンカシャコンシュコーシュコ。

 

 次の日の朝。覗木は今日もゴーグルが元気よく伸び縮みしていた。

 

 その様を見て──つるぎは考える。明らかに何かがおかしい。

 

(え? じゃあ、コイツ(覗木)は一体何だったんだ……? 目が節穴なのは俺の方だったのか……?)

 

 つるぎは──頭を抱える。この学校の深淵は、動物霊よりも深いかもしれない。

 

 人は見掛けで判断してはいけないという良い教訓だったのかもしれない。そんなわけがあるか。おかしいものはおかしい。これに順応したら終わりである。

 

「おい聞いたかッ!? 荒神の奴がガン飛ばしただけでスケバンを屈服させたって噂!!」

「奥歯ァガタガタ言わせてやったらしいぞ!!」

「ついでに路上焼肉部を襲撃したとか──」

 

(ついでに新しい噂も増えて友達ができる確率も減ったな)

 

 お後がよろしいようで。

双子はどっち派ですか?

  • 雷花
  • 凍花
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