堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで   作:タク@DMP

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第5話:バッタもん

 ──東京で初めての動物霊退治は大成功に終わった。

 

 だが、動物霊退治の後には後始末が必要である。此処は都内秋葉原のオカルトショップ”鹿島堂”。ティラコレオ霊の一部を封じた御札を、つるぎは此処に預けていた。

 

 

 

「──これで良し。安全に呪具として使えるよ」

「有難うございます、鹿島さん」

「よせやい、自然体で居てくれ。昔みたいに鹿島のおっちゃんって呼んでくれよう」

 

 

 

 禁煙パイポを咥えた鹿島はフッと口元に笑みを携え、つるぎに3枚の御札を手渡す。

 

 初老の店主は、荒神家と昔から交流があったらしく、呪いの道具の扱いに長けていた。表向きには普通にオカルトグッズを売っている店だが、つるぎのような「本業」の人間相手には本物の呪物の加工や取引をしてくれるのである。

 

 つるぎの祖父も「東京で困った事があれば鹿島の店を頼れ」と言っていたほどである。

 

(雷花と凍花にとっても、良いニュースだ。御札は複製すれば誰でも使える。二人の戦いも楽になるだろう)

 

「戦う時に、こいつを斬る事で中の動物霊の力を一時的に借りる事が出来る。それで、元々の憑依者に眠る動物霊が暴れたりはしないから安心してくれ」

「リミッターを付けた、と言う事ですか」

「そうなるな。出力は落ちちまうがね。でも、安全第一だろ」

 

 ──つるぎが行ったのは、ティラコレオの動物霊を憑依者の中に閉じ込めて出られないようにする”封”。その為には、霊の力を一部、御札の中に吸い取る必要があった。

 

 「分霊」と呼ばれる霊能力界隈では比較的ポピュラーなリスクヘッジの手段である。祓えないならば、一部を御札に、残りを相手の体に封じて制御してしまおうというものである。

 

 霊体の一部を御札に封じられた動物霊は、封じ込めた術士と否が応でも主従関係を結ばされる。そして、術士側の許可が無ければ自分の体に封じられた動物霊の力を使えなくなるのだ。

 

 これによって「分霊」を解かない限り、阿怒烈奈は金輪際自らの能力を悪用することが出来なくなってしまったのである。

 

(一方で俺は、戦闘時にティラコレオの力を借りることができる──これが俺の初めての使()()()か)

 

「それにしてもつるちゃん、城ケ崎の所の双子は元気してるかい?」

「……今回も助けられました」

 

(元気過ぎて困っているくらいだが……)

 

「分霊を解いて2年か……早いね」

「暴走の兆しも無い。今のところは大丈夫です」

 

 城ケ崎姉妹も以前、つるぎの祖父による「分霊」の措置を受けていた。しかし、つるぎの祖父の元で指導を受け、能力の制御ができるようになったため「分霊」は解除された。今では自分の意思で能力を行使できるようになったのだ。

 

「それでよう──つるちゃん。決めたのかい?」

「何をですか」

「──娶るなら、あの子達のどっちにするんだよう!?」

「ッ!?」

「何だい何だい、顔が変わったね。あの子達、つるちゃんの事大好きだし──」

「お、俺は──」

「大体、あんな可愛い子放っておけないだろう」

 

 ぱくぱく、と池の鯉のように口を開け閉じしていたつるぎ。

 

「……俺は……防犯の為に、彼女達を守っているだけです」

「ええ? そりゃあ無理があるんじゃないのかい? 両家の親御さん達から順調に堀を埋められてるよ?」

 

 しかし、そのうち彼は目を伏せる。

 

 何処か後ろめたいものを押し隠すかのように。

 

「……彼女達に好かれる資格なんて、本当は無いんです」

「祠の事、まだ気にしてんのかい?」

「……元は俺の所為ですから」

「それであの子達の好意を見て見ぬフリしてんのか?」

「……」

「あの子達の事が嫌いなのかい?」

「それは──ッ! ……有り得ません」

「だよな」

 

 そうでなくては、命を懸けて彼女達を守ろうとはしない。

 

 それは鹿島も分かっている。つるぎは──誠実で真面目だ。

 

 だが、それ故に──結果的にそれが彼自身を苦しめているのである。

 

「有り得ないからこそ……俺が、あいつらと結ばれるなんて……あっちゃいけないんです」

「……あー成程」

「俺は、あいつらを守らないといけませんから」

 

(つるちゃんは……頭ァ固すぎるんだよな……ま、コイツのじいちゃんに似なくて良かったとは思うけどよ)

 

 ──テメーッ!! 8股してやがったわね!!

 

 ──いったい誰と結婚してくれるのよ!!

 

 ──ひぃぃ!! 許して!! てか助けて鹿島ァ!! 殺される!!

 

 ──ええ……。

 

【つるぎ祖父 当時:21歳】

 

(いや、困ったら俺を頼れとは言ったけどね? そう言う事ではなくない? マジで見捨てようかと思ったわ、あの時は……)

 

 子供や孫が似なくて良かった、と本気で鹿島は思うのだった。

 

「ま、いいさ。若いモンの恋愛に口出すのは野暮だったな、忘れてくれ」

「……」

「それより──こっちのが大事だ。あの子達にも伝えときなよ」

「何でしょう?」

「最近、東京中の動物霊の祠を荒らしているヤツが居るのさ」

 

 それを聞いてつるぎの顔が更に強張った。

 

「……何のために」

「また誰かが百鬼夜行を起こそうとしてるのかもしれねーな。20年前みたいに」

 

 20年前──世界中の動物霊がこの日本に集結し、未曽有の大戦争が巻き起こった。

 

 鹿島もまた、その当事者の1人だっただけに鮮明に記憶が残っている。動物霊と人間による血で血を洗う殺し合いだ。

 

 民間人も巻き込まれて憑りつかれたり殺されたり、と大惨事になったのである。

 

「気を付けな。増えるぜ──これからな」

「……はい」

「くれぐれもヤバくなったら、俺達を頼りな。まだガキなんだからな」

 

 つるぎは──頷く。

 

 彼自身も慢心は決してしない。鬼人化した動物霊の力は、つるぎの力など軽々超えてくる。

 

 故に雷花と凍花の力が無ければ祓うことなど出来ないのである。

 

 しかし同時につるぎは──双子たちに万が一の事があってはならないように、より気を引き締めるのだった。

 

 店を出るころには、もうとっぷりと日が暮れていた。

 

(そうだ、存外遅くなったから、あいつらは心配しているだろう)

 

 双子たちに外でご飯を食べる、とメッセージを入れると──後ろから鹿島が声をかけてきた。

 

「あ、そうだつるちゃん!」

「……何です?」

「腹減ったろ? おすすめのラーメン屋があるから、教えてくぜ」

「ラーメンか……」

 

(たまには良いかもしれんな……鹿島さんのオススメなら美味いんだろうし)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「へい、アドレナリィイイインッッッ(気さくな挨拶)」

 

(待て待て待て待て──)

 

 

 

 そうして教えられた「ラーメン麟二郎」。

 

 よくある二郎系ラーメンなのか、店の近くからはニンニクの匂いが漂ってきていた。

 

 だが問題は──妙に閑散とした店内、そして扉を開けた途端に響いてきた妙ちきりんな掛け声であった。

 

 カウンターの店主を見やる。

 

 先日捕まったばっかりの担任教師とそっくりどころか瓜二つの顔をした大男が立っていた。思わずつるぎは身構える。すぐに釈放された、という情報は無い。だが、それでも警戒してしまうのだった。

 

「阿怒烈奈……ッ!?」

「む、その制服は──兄貴の学校の生徒か!?」

「……?」

 

 つるぎを見るなり、店主は頭を下げて答えた。

 

「俺は弟の麟二郎…………教師の兄貴がやらかして捕まってな……前みてーに人がドバドバ来なくなっちまったドバァ……」

 

【阿怒烈奈 麟二郎 ごく普通のラーメン店主】

 

(弟だったのか──ッッッ)

 

 世間は狭い。あまりにも。ついでに、兄のやらかしで客足が減ってしまったのはシンプルに気の毒であった。

 

「は、はぁ……」

「ま、そんな事はお客さんにはどうでも良いドバァ!! 食券は買ったドバァ?」

「……これを」

「ドバドバラーメン一丁ッ!!」

「……」

 

 しばらくして出てきたのは、肉と脂野菜マシマシの特盛ラーメンであった。ついでに自家製のチャーシューまでセットである。

 

(肉と脂がドバドバ過ぎる……)

 

 つるぎからしてもあまりにも量の多いラーメンがお出しされる。

 

 しかし──味は上々。

 

(……脂っぽいし、味は凍花は気に入ってくれるだろう。雷花も、ラーメンは好きだし……今度3人で来ても良いな。いや、しかし凍花は小食だし──この量は……)

 

 そこまで考えて──つるぎは、自分が事あるごとにすぐ双子を思い浮かべている事に気付いた。

 

 良い事があったり、美味しいものがあると、真っ先に二人に教えたくなる。

 

 真っ先に──双子の顔が浮かぶのだ。

 

(凍花……雷花……)

 

 恋人を作るなら1人。つるぎはそう決めていた。だから──こんな時に二人同時に浮かんでしまう双子とは付き合えない、と考えていた。

 

「ごちそうさん──」

「あいよー」

 

 ひと通りラーメンを平らげ、つるぎは店を後にする。

 

 二人同時に付き合うなんて、二人の社会的な将来を考えれば絶対にありえない。そして、どちらか片方を選べば片方は確実に悲しい思いをする。

 

 双子の事を考えれば、彼女達を恋愛対象として見ないのがそもそもの正解だ、とつるぎは考えている。

 

(……俺は保護者みたいなものだ。あいつらの事を考えるのは当然なんだ)

 

 ぴたり、とつるぎは徐に立ち止まった。

 

「……そこに居るヤツ、誰だ」

 

 故に。

 

 もしも双子たちに危害を加えようとする者がいるならば、真っ先に遠ざけるべきだと考える。

 

 隠しもしない動物霊の気配を感じ取ったのである。

 

 竹刀に手を掛け、つるぎは振り向きもせずに凄んだ。近付いてきている。足音、そして気配両方共。

 

「……ッ!!」

 

 背後から飛びかかってきた曲者。

 

 それを返り討ちにするため、つるぎは思いっきり竹刀を振り抜いた。

 

 しかし──残るのは空を切るような感覚だけ。

 

 暗がりでよく見えないが、人影だったものが崩れ落ちたかと思えば地面を張っていき、再びつるぎの背後に回り込む。

 

「やっぱりな。オマエじゃあ俺には勝てないということが分かったぜ、荒神つるぎ!!」

「……何者だッ!」

「動物霊を狩って回る術士が居ると聞いてな。先回りして、潰しておこうと思ったのさ……!!」

 

 ぶわっ、と音を立てて何かがつるぎの身体に集った。

 

 小さい生き物のようだ。しかし、1匹や2匹ではない。ダマになった大群が一斉につるぎに襲い掛かってくる。

 

 カチカチカチカチ──

 

 小さい何かが体に喰らいついている事につるぎは気付く。

 

 間もなく彼の体中にソレの群れは群がっていく。竹刀を振り回すが、一向に振り払えない。

 

「確かに俺の能力はチャチで力はないかもしれない。だが──こういう事が出来るのさッ!!」

 

 無数の黒い塊は──声の主の号令でつるぎの体から一斉に去っていった。

 

 ……つるぎの体には傷ひとつ無かった。何なら痛みらしい痛みも感じない。

 

 だが──

 

 

 

「……え」

 

 

 

 ──つるぎの身体は一糸纏わぬ全裸になっていた。何なら握っていた竹刀も跡形もなく無くなってしまっている。

 

 そうしてつるぎは気付いた。自分の纏っていた衣服が「食い荒らされた」と言う事に。

 

「抹消してやる……社会的に抹消してやるぞ、荒神つるぎ!! 罪状は、公然わいせつだーッッッ!! ギャハハハハハッ!!」

 

()()ってそう言う事かァァァーッッッ!!)

 

 全裸のままつるぎは顔を青くした。不味い。敵への有効打が与えられないばかりか、全裸になった今、つるぎの体を隠すものは何も無い。

 

 もしも通行人がやってきてでもしたら、彼の人生は終わる。

 

「せいぜいそのまま、全裸で自宅まで帰宅するんだな!! 国家権力に見つからないように気を付けろよ!! 通行人に出会っただけでもアウトだろうがなッ!!」

「貴様──」

「おっと、お前の攻撃は当たらねえって言ってるだろう!! 今のお前は、フルチンで刀を振り回す変態だッ!!」

 

 

 

「”オシオキッ!! 電気100パーセントォ”!!」

 

 

 

 ズドォン、と音を立てて稲光がつるぎの前に降り立つ。

 

 暗がりであるが故に、電光は一際強く輝く。

 

「雷花ッ!?」

「お待たせつるぎッ! 遅いから心配して迎えに来たら、緊急信号が来るんだもん! びっくりしたよ!」

「緊急信号~~~!?」

 

 もしも出先で動物霊に遭遇した時に備え、すぐさま互いの居場所を知らせて警報を鳴らすアプリをつるぎと双子はスマホに導入している。

 

 ちなみに製作したのは、物知り凍花である。

 

「と、ところで──何で全裸なの!?」

 

 ただし──電光は素っ裸のつるぎも照らし出していた。余計に通行人に見られるリスクが上がる。

 

「そいつにやられたッ!! 気を付けろ、お前もこうなるぞッ!!」

「えッ!? ウソでしょ!?」

「ぐぬぬ、援軍か……!」

「暗くてよく見えないよ! どうやってウチのつるぎをひん剥いたのさ!! つるぎをひん剥いて良いのはボク達だけだぞ!!」

「おい恐ろしい事を言うな頼むから!!」

 

 電力、更にアップ。

 

 全身が光り輝いている雷花は、目の前でたじろぐ下手人の男の姿を照らし出した。

 

 ニット帽にサングラス、そしてマスク。敵の顔は分からない。だが──問題は、敵の体には無数の虫がカサカサと音を立てて集っていた事であった。

 

「虫……虫ッ!? バッタッ!?」

「くくく、見られちゃあ仕方ない……!! むしろ女子の方が本命ッ!! その服、食い荒らしてくれるわッ!!」

 

 じり、と雷花は後ずさる。

 

 カサカサと音を立てて、バッタたちは敵の体から分裂して襲い掛かる。

 

 つるぎは得心した。敵は──全身を無数のバッタに変えて相手を食い荒らす能力の持ち主だったのである。

 

 だが、それはそれとして虫を苦手とする雷花にとっては地獄のような光景であったことは言うまでもない。

 

 彼女の身体を駆け巡る電気が、急上昇。これまで見たことが無いほどに、爪には電気が迸っている。つるぎは止めるのを諦めて引き下がったが──もう遅い。

 

(あ、マズい奴だ)

 

 

 

「虫、虫虫虫虫虫──ムシは、嫌ぁぁぁぁーっっっ!!」

 

 

 

 ──まるで雷でも落ちたかのような轟音。そして光。

 

 とんでもない量の電気が雷花の体から放たれた。

 

 辺りを焼き焦がす程の稲光が放出されていく。

 

「なっ、何だ!? 危険すぎるぞ、コイツは!! 撤退──!!」

 

 バッタたちも次々に焼き焦がされ、消滅していく。しかし、その程度では大きなダメージにはならないのだろう。敵はそそくさと逃げていくのだった。

 

「雷花ッ!!」

 

 

 電気が止まり、思わずつるぎは駆け寄った。

 

 雷花の変身は解除されている。だが、本来ならば制御するべき電気の力を無制限に解き放ったからか──雷花はへたり込み、そして倒れてしまう。

 

 倒れ込んだ彼女を受け止め、思わずつるぎは痛みで目を瞑った。未だに彼女の体には電気が流れており、抜けきっていない。

 

 

 

「大丈夫ですかっ!? 凄い音がしましたが──って」

 

 

 

 幸い、程なくして空から凍花が降り立つ。彼女は自宅で待っていたので、到着が遅れたのである。

 

 しかし──全裸のつるぎに、苦しそうに呻きながら倒れている雷花という異常極まりない光景を前にして──流石に眉をひそめた。

 

 周囲の気温がガクッと下がる。凍花の口から冷気が漏れていた。

 

「……詳しく……説明してください。私は今、冷静さを欠こうとしています」

「緊急事態だったんだッッッ、本当にッッッ」

「何処がですッ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ヴぉぉええええええええええええッッッ」

 

 

 

 ──その日、自宅のトイレで、つるぎを襲撃した犯人の男は激しく吐き散らかしていた。

 

 理由は簡単である。

 

 

 

「よくよく考えたら俺──男の服と下着まで食っちまったって事じゃねえかァァァァーッッッ!! おえーッッッ!!」

 

 

 

 食ったのは彼が使役するバッタだ。しかし、それでも──バッタは彼の体から分裂して生み出される。

 

 冷静になったら、非常に気持ち悪い行為に及んだ事に敵は気付いてしまったのである。

 

 

 

「おのれ、絶対に許さん、絶対に許さんぞ荒神つるぎ……ッ!! 今日の恨み、絶対に晴らすッ!!」

 

 

 

 当然だが、ただの逆恨みであることは言うまでもない。

双子はどっち派ですか?

  • 雷花
  • 凍花
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