堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで   作:タク@DMP

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第7話:怒れる北風

「──結果から言えば逃げられました」

「そうか……想像以上に厄介だな」

 

 

 

 その日の夜、再び作戦会議となった。

 

 バッタの事を思い出すだけで嫌な気持ちになるのか、雷花はずっと毛布を抱きしめている。

 

「オマケに既に被害が出てます」

「女子生徒の服を狙って食べる新種のバッタって事でニュースになっているよ。襲われたのも一人じゃないみたい」

「下種が……」

 

 被害も白亜高校を中心として起こっており、犯人が学内の人間であることを示していた。

 

 問題はロッキー飛鬼を倒すのが非常に難しいという点である。相手は非常に警戒心が強く、凍花が冷気を使うと見るや逃げに転じてしまった。

 

 そして、バッタの飛行速度は想像以上に速い。凍花は飛べはするものの、バッタの群れに追いつけはしない。

 

 今日だけでロッキー飛鬼は方々に被害を出していった。

 

「キャアアアアアアーッッッ!! 服が全部食べられたッ!!」

 

 服を食べられた女子生徒は勿論だが──

 

「オデ達の野菜がバッタに食われたっぺぇぇぇーっ!?」

 

【校庭菜園部:グラウンドに許可なく畑を耕す牧歌的な部活】

 

「ああああーッッッ!! 俺達の流し酢こんぶ台がバッタに食われたァァァーッ!?」

 

【流し酢こんぶ部:校内に流しそうめん台を置いて、酢こんぶを上から流す、風流な部活】

 

 ──それ以外にも、バッタが通り過ぎただけで多くの部活が被害を受けている。

 

「と、このように被害は大きいです」

 

(バッタの事がどうでもよくなるくらい頭のおかしい部活が見えた気がしたが)

 

「自分に直接的な戦闘力が無い事が分かっているので、直ぐに逃げに徹する事が出来るのでしょう」

「現実のバッタと同じだ。通り過ぎるだけで被害を出す。そして通り過ぎた頃には手遅れだ」

 

(問題はバッタに負けないくらい被害を出してそうな部活がこの学校には多すぎる事だが……)

 

「……どーしたもんか、だよ。うう……ボクが戦えれば」

「姉さんが気に病む必要はありません。どっちみち、近接格闘タイプの姉さんでは不利ですよ」

「せめて奴が逃げられなければ封印出来るのだがな」

「しかも、あの様子だと私達が双子だと分かっているようです。既に私達のどっちがどの能力を使うか、敵に割れているでしょうね」

「策はあるのか」

「勿論」

 

 凍花は表情一つ変えず、不安そうな雷花を抱き寄せた。

 

「うにゅ……?」

「あの乙女の敵は……私が今度こそ滅殺します」

「……作戦立案は任せる。昔から、一番頭が良いのはお前だからな」

「ええ。お任せください」

 

 凍花の眼には怒りが灯っている。

 

 彼女にもプライドがある。知恵比べなら負けるつもりは無い。

 

 

 

「……私を怒らせたこと、死ぬほど後悔させてやりましょう」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「おっはよーっ、皆ーっ!!」

「あっ、雷花ちゃんだ!」

「おはよー!」

「あ、そうだ雷花ちゃん、今日ウチの部活の助っ人入ってくれない?」

「ゴメン! 今日はパス! 用事があるんだっ!」

 

 

 

 ──作戦は簡単です。前提として、お互いの位置をアプリで把握しておく事。

 

 ──そして、それぞれ私の指示した通りの行動を取って下さい。

 

 

 

「なんか今日の凍花ちゃん、いつにも増して顔が険しいよ……!?」

「何か怒ってるみたい……ッ!?」

「……何か考え事してるのかな──本、逆さまだし」

 

 

 

 ──そして、放課後になったら、つるぎさんは部活を休み、私達は指定の配置につきます。

 

 ──部活を休む?

 

 ──パトロールをしてもらいます。いつ何があっても駆け付けられるように。

 

 

 

「荒神──相も変わらずスッゲー顔してこっち睨んでんな……」

「俺、チビりそうだ……」

 

 

 

 そんな教室でのやり取りを──物陰から一匹のバッタが覗き見していた。

 

(ハッ、馬鹿共が……テメェらの行動、まとめて筒抜けだ!)

 

 バッタたちの視覚から得た情報は、本体である在都蛇に全て伝わっている。

 

 放課後、つるぎは凍花と合流して学校を回り始める。そして──雷花は一人、正門を出て学校を出始めた。

 

 当然その動向も在都蛇には見えていた。

 

(何だァ? 氷を使う妹の方が荒神と一緒に行動しているぞ)

 

『恐らく、2人がかりで俺達を封じようとしているホパァ』

 

(だが姉の方は一人だ──ははぁん、そうか。虫が苦手な姉は足手纏いだから先に帰らせて……って事か。だとしたら間抜けだッ! こいつら、自分達の行動が筒抜けなのに気付いてねえ!!)

 

 じゅるり、と在都蛇は生唾を飲む。

 

 一度、学校の美少女姉妹を剥いてみたかったのだ。

 

 るんるん、とスキップしながら、通りがかるクラスメイトに手を振って「またね!」と声を掛ける雷花。

 

(姉が襲われたと知った妹のクールな顔が、どう歪むか……今から楽しみだぜ!!)

 

 ロッキー飛鬼は行動を開始した。

 

 狙いは一人で帰っている雷花。自身の身体を無数のバッタに変えて、人気が無くなったタイミングで降りかかる。

 

 

 

「ヒッ!?」

 

 

 

 怯えた顔でターゲットは振り返った。

 

 視界には無数のバッタ。雷花にとっては、悪夢とも言える光景だ。

 

 すたすた、と音を立て、バッタたちを操る大元であるロッキー飛鬼が迫りくる。

 

 あまりの恐怖でか雷花は腰を抜かしてしまう。そして、間もなく無数のバッタに集られてしまうのだった。

 

「やっ、やだやだ!? 虫!? 虫虫虫虫──ッ!?」

「俺はなァ、やられたことはやり返さなきゃ気が済まねえタチでよォ……!!」

 

 カサカサと音を立てて灰色のバッタたちが雷花の顔に集まる。

 

「……悪いのはお前の妹だぜ。俺の邪魔をするなら、1人ずつ二度と俺に逆らえないくらい痛めつけてやるよ……ッ!!」

「や、やだやだやだ──ッ」

「おらぁ、電気の1つ出してみろォ!! お前の放電範囲はこないだので把握してるがなあ!!」

 

 放電されることは計算済みだ。だからこそ、分身のバッタを全て放出はせず、本体は安全な距離まで下がっているのである。

 

「あ、あう──ッ」

「おっとぉ、腰を抜かしちまって電気も出せないかァ!? じゃあ、ありがたくひん剥かせて貰うぜーッッッ!!」

 

 一斉にバッタが雷花に齧りついたその時だった。

 

 

 

「……凍土の颶風(コールドボレアス)

 

 

 

 バッタたちは、一斉に凍り付いた。

 

 そればかりか目の前に居たロッキー飛鬼の体も冷気の余波を正面から受けてしまった所為で身体に力が入らなくなってしまう。

  

 昆虫に冷気は大敵。前回は分裂していたが、今回は放電でバッタたちが倒される事を見越して、ロッキー飛鬼は本体を残していた。

 

 それが仇となる。冷気を浴びた事で、バッタたちは分裂して拡散出来なくなってしまったのだ。

 

 昆虫は気温が下がると動きが鈍る。そして、群れる生物は寒い中では集まって暖を取ろうとする。

 

 全身に霜が降ったロッキー飛鬼は、もう分身を出す事が出来ない。憑りついたロッキートビバッタの霊が、バラバラになることを拒絶しているのだ。

 

 冷気を放ったのは──()()()()()()()()()()ターゲットだった。

 

「な、何でだ、姉の方は電気使いのはず──ッ!! き、貴様らッ!! 入れ替わっていたのか!?」

『か、からだが凍って、動けねえホパァ──』

「……やれやれ、です。私は姉さんの近くで姉さんの仕草、姉さんの振る舞いを見て育ちました」

 

 すん、と雷花──のフリをしていた凍花の眼がいつもの冷たいものへと変わる。否、いつも以上に視線は冷たい。

 

 相手は弱い者をターゲットに自分の欲望を満たしてきた下種野郎。決して容赦はしないし許しはしない。

 

「私達の姿を見分けられない間抜けを騙すくらいは出来ますよ。それに、群体型能力は分身と本体が視界を共有できる。知らなかったとでも?」

「俺が、お前達を監視している前提で猿芝居を打ったのか……!?」

「姉さんがボロを出さないか若干心配でしたがね」

 

 故に、凍花は雷花に指示をしたのだ。「今日一日、自分のフリをして過ごすように」──と。

 

 そして、用心深いロッキー飛鬼は決して凍花には近寄らない。つるぎと一緒に居れば、猶更避けるはずである。

 

 だが同時に、この手の変態は懲りない上に味を占めたら必ず同じ手段で獲物を狙いに行く。雷花が虫が苦手であることが分かっている以上、それを利用して付け狙うはずだ、と凍花は読んでいた。

 

「だから、敢えて誘ったんです。姉さんが独りになれば、貴方は必ず襲ってくる」

「ぐ、ぐぎぎぎ、騙したなぁ、卑怯者ォォォーッッッ!!」

「どっちが卑怯ですか。……恥を知りなさい」

 

 逃げようとするロッキー飛鬼。だが、バッタたちにもう飛ぶ気力は無かった。

 

 ロッキー飛鬼は、この双子相手に拡散と集結、真逆の選択肢を取る必要があった。

 

 故に、双子が入れ替わっている事を見誤った時点で勝負は決していたのである。

 

 

 

「──しばらく反省するといいでしょう、氷の牢獄の中で」

 

 

 

 ピキ、ピキピキ、パキパキ。

 

 音を立ててロッキー飛鬼の身体が凍結していく。

 

 間もなく──バッタ男の氷漬けが完成した。そして、凍花の身体に纏わりついていた氷漬けのバッタたちも次々に砕け散って消滅するのだった。

 

 しばらくして、アプリの緊急信号を辿ってやってきたつるぎと雷花が走ってやってくる。

 

 そこには、氷像と化したバッタ男と、それを見張り続ける凍花の姿があった。

 

「姉さん。もう大丈夫です」

「あはは……やっぱりトーカはすごいや」

「いいえ、私一人では取り逃していたでしょうね。これもチームプレイです」

「後は俺に任せろ」

 

 そう言って、つるぎが剣を抜き──ロッキー飛鬼の身体に突き立てる。

 

『ち、畜生!! 後少しで俺達の天下だったのに、無念ホパァァァーッ!!』

「”封”ッ!!」

 

 動物霊の力は御札へと吸い込まれていく。

 

 そして、ロッキー飛鬼は本来の姿である人間の姿に戻っていくのだった。

 

「あ、この人、2年の在都蛇先輩だっ!!」

「やっぱり学校の人間でしたか」

 

 ピキピキと音を立てて、在都蛇を覆っていた氷が解けていく。

 

 そして息を吹き返した在都蛇はゲホゲホと咳き込むと、恨みがましく3人を見上げて言うのだった。

 

「お、お前達、こんな事をして許されると思っているのかァ!?」

 

(この期に及んで、猛々しいな……こっちの台詞なんだが)

 

「良いかッ!? 俺のやった事は、証拠が何もない、俺の力は科学で立証なんざ出来ない、つまり俺がやったって分からないって事だ!」

「コイツ……まだこんな事言ってる!」

「……それに引き換え、そこの荒神つるぎの悪評、俺はよーく知ってるぞ!! 覚えとけ──俺がお前にイジメられたって吹き込んで、学校から居場所を無くしてやるからな!!」

 

(無駄に狡賢いヤツだが、見落としている事があるな)

 

「……貴方、何か勘違いしていませんか?」

 

 つるぎが何か言う前に、冷え切った声で凍花が言った。

 

「……貴方が法の外に出る、と言う事は……貴方自身が法の守りを外れるということですよ?」

「お前は、()()()()()()のルールで今後生きていかなければならないということだ」

「こっちの、世界……?」

「つまり、()()()()()()()()()って事だよ」

 

 3人は真面目な面持ちで、在都蛇に詰め寄った。

 

「前提として、動物霊が封じ込められている人間は皆等しく”霊術師”として登録されるんです。特に、貴方のように悪意を持って人に能力を振るう人は、危険人物として認定されます」

 

 無論、元々職業として霊術師をやっている人間や、つるぎのように動物霊が憑りついていなくとも霊に関わる仕事をしている者も皆、”霊術師”として一律に登録される。

 

 つまり、全員がその所在が分かる状態になっているのだ。

 

「世間には俺や双子たちのような霊術師が沢山居る。東京なら猶更だ。お前は今この瞬間、そいつら全員から監視対象になったわけだ」

「名前も住所も控えてあるしねー」

「あっ、こいつ、俺の生徒証を勝手に──」

 

 慌てふためく在都蛇の手元に、つるぎは竹刀を突き刺した。

 

 

 

「お前には秘匿義務がある。霊能力や霊の事をみだりに一般人に話してはいけない」

「決まりを破ったり、他の霊術師に危害を加えた場合、()()()()()()文句は言えないよ」

()()()()()()()()()()()()()()()。相互監視、そして実力主義の拮抗関係で成り立っています」

 

 

 

 つまり、在都蛇は自ら法律に守られない道を選んでしまったのである。

 

 彼を守る能力も、後ろ盾も何も無い。そんな状態で霊術師に監視される実力主義の世界に放り出されてしまったのだ。

 

「もう分かった? 先輩は今度から悪い事すると、霊術師に”お仕置き”されるんだよ」

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ──」

「私達のように良識のある霊術師だけではないので、()()()()()()()()()()()()にされるかもしれませんね」

 

 尤も自業自得だ。在都蛇が今までやってきたことが自分に跳ね返ってくるだけの事である。

 

「た、助けてくれよ!! 知らなかったんだッ!! 俺は、これからどうすれば良い!?」

「……自分の胸に聞くんだな。助けて貰えるような事をしてきたか、をな」

 

 もしもつるぎ達や霊術師界隈に直接ないし間接的にでも危害を加えようとすれば、その瞬間に──彼は「消しても問題ない存在」として霊術師に認定されるのだ。

 

 自分の置かれた状況が分かってきたのか、涙を流し、ヒューヒューと過呼吸気味になりながら這いつくばる在都蛇に、つるぎが言い放つ。

 

 

 

「……せいぜい気を付けろ。俺達はお前を見ているぞ」

「ヒィイイイイイイイイイッッッ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──結果。

 

 在都蛇は一生、何処にいるのか分からない霊術師たちに怯えながら「危険人物」のレッテルを貼られたまま過ごす事になった。

 

 これならばまだ、阿怒烈奈のように刑務所の中の方がマシだったまである。今では見る影もないらしい。

 

(あれだけキツく脅せば、二度と悪さは出来ないだろう)

 

 部活帰りで遅くなったつるぎは、ヘトヘトの体でマンションの部屋の扉を開けた。

 

「ただい──」

「おっかえりーっ、つるぎーっ!!」

「うお」

 

 びっくりはしたものの、つるぎは飛び込んできた少女を抱き留める。

 

「ねえねえ、つるぎーっ、ゴハンにする? お風呂にする? それとも──ボク?」

「……いつまで雷花のフリをしてるつもりだ? ()()

「……」

 

 即座に言い当てられ、凍花は──不服そうに顔を上げた。

 

「髪まで同じにしてるのに。どうしてバレるんですか?」

「長いことお前達の傍にいるのに、分からない訳がないだろう」

「……そうですか」

「上機嫌だな」

「分かってしまいますか、ふふっ」

 

 表情はあまり変わらない。

 

 だが、愛おしそうに凍花はつるぎの腕を抱きしめる。

 

 普段言葉にこそしないが、やはりつるぎは──自分達を大切にしてくれている事が伝わってくる。

 

「……引っ付き過ぎだ」

「姉さんと同衾したんだから、これくらい許されるべきです。ね? 姉さん」

「むぅぅぅー……」

 

 指を咥えながら向こうの方で雷花が見つめてくる。

 

「やっぱ我慢なんて出来ないっ! ボクも、つるぎに引っ付きたいーっ!」

「あっ、ズルですよ姉さん!!」

「お前ら……俺は一応、疲れてるんだが……」

「じゃあボクと一緒にお風呂入ろーっ!」

「な、抜け駆けはダメですよ、姉さん!」

「入らんッッッ、頼むから普通に休ませろーッッッ」

 

 今日も荒神つるぎは両手に花。理性との戦いは続く──




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双子はどっち派ですか?

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