顔だけはいい幼馴染とだべるだけ 作:ナオー
俺には幼馴染がいる。
すこぶる顔だけはいい、親愛なる幼馴染様だ。
やたら長い黒髪は、手入れされているんだかいないんだかわからない癖っ毛で。
気だるげで眠そうな目つきは、いかにもダウナーな陰キャといった感じ。
小柄で、その割には出るところが出ていて。
ついでに言えば、オタクである。
ある意味で、理想の幼馴染と言えるだろう。
俺に対して、何一つ遠慮がないことを除けば。
「ユズト、カード貸して」
ノックもなしに入ってきた幼馴染が、要件だけ伝えて戸棚に向かう。
カードとはいわゆるTCGのこと、俺も幼馴染もプレイする「
対する俺はゲームで忙しい。
視線を向けることすらせず返した。
「何のカードだよ、ミオ」
俺の名前は坂田ユズトで、幼馴染の名前は
生まれた頃からの付き合いで、腐れ縁という言葉すら古臭く感じられるほどの間柄。
「”幻霊”のパーツ、ユズト持ってたよね。来週のショップ大会で幻霊握ろうと思ってるから」
「いやダメに決まってるだろ、来週の大会は俺が幻霊握るんだよ。お前はいつもどおり”グランデッド”でも握ってろ」
「飽きた。いいじゃん今週くらい幻霊握っても。なんならユズトに私のグランデッド貸してもいいからさ」
聞き捨てならないことをミオがいい出したので、ゲームを中断して視線を向ける。
ミオはすでに幻霊を持ち去るつもりだったのか棚を開けてなかからカードを物色していた。
カードを扱う手つき以外は何一つ遠慮のない、あまりにも無礼極まる所業だ。
「いらない、っていうか俺もグランデッドは組んだから借りる必要もない」
「草。なんで私が持ってるのにわざわざ組んだの?」
「お前が常にグランデッド握ってて離さないからだろーが、というかグランデッドの利点はデッキのやすさだろ、汎用使い回せば三千円で組めるなら俺だって組むわ」
「は? アタシのエルダーロード様は一枚千円するんですけど?」
カードの入ったボックス(百均で売ってるやつ)から俺の”幻霊”パーツを抜き取ったミオ。
そのミオの手にある幻霊パーツを奪い取る。
ちなみにミオの言っている「エルダーロード」とはグランデッド・エルダーロードと言って簡単に言うと「グランデッド」デッキのエースだ。
ミオはそれを一枚千円で購入したのだが、次の日に再録が発表してミオは崩れ落ちた。
以来、意地になったミオはグランデッドデッキを使い倒しているのである。
二ヶ月くらい。
「あ、ちょ! 何をするんだどろぼーねこ!」
「誰が泥棒猫だよ、取っていこうとしてるのはミオのほうだろうが」
「え? 今私を猫系美少女っていいました?」
「俺の前には黒モップしかいないな」
「おい待て喧嘩を売るなら買うぞおら」
最初に売ったのはそっちだろうが、と適当に返しつつ。
カードを手元に置いて、ミオから取られないようにしつつゲームを再開する。
「ねーえー、貸してよー、幻霊貸してよー、来週だけでいいからさー」
「嫌だよ俺だって頑張ってパーツ集めたんだから、ようやく大会で使えるんだから。フリーでなら貸してやるからさ」
「馬鹿野郎この野郎何いってんだよ、私にフリーとかできるわけないだろ、ユズト以外とオフで対面できるわけないだろ!」
なんとか手を伸ばして、俺の手元にあるカードを取ろうとするミオ。
そしてなんて悲しいことを言うんだこいつは。
陰キャであるミオは俺以外の人間と面と向かって話をすることができない。
今みたいにウザ……ダル……絡んでこようとするなんて無茶も良いところ。
ただ、大会みたいにルールが決まっていたりする場所だと普通に対応できる。
本人は「オン」と呼んでいるが、なんというか決まったやり取りしかしないのであれば問題ないんだよな。
ともかく。
「貸してくれないと帰らないー! 私は居座るぞ、明日の朝まで居座るぞ!」
「やめろ、それで何度寝過ごして学校に遅れそうになったと思ってるんだ」
「ふふふ、ユズトのお母さんに生暖かい目で見られるの、最近癖になってるんだ」
ミオの厄介なところは、帰らないと言ったら本当に帰らないところだ。
ただ、途中で飽きて別のことを始めて、いつの間にか一緒に遊んでいるのがよくあるパターン。
そのまま深夜まで遊び倒して、二人揃って寝落ちというのがいつものパターン。
なんか母さんから、ヤることヤってんじゃねぇかと思われてるのが居心地が悪い。
と、そんなことをいい出したからか、ミオが何かを思いついた様子で俺にのしかかってくる。
重い。
「うっふーん、ユズトさまぁ。わたしをすきにしていいからカードかしてぇ」
「おいやめろ。そのクソみたいな棒読みを今すぐやめろ、背筋が凍るから様付けとか一生するな!」
「ちょいまてぇそこまで言うことないだろ!? 辛辣通り越して悪口じゃん、私をバカにしてるじゃん!」
「バカだと思ってるよバカ! ええい、ゲームの邪魔だあっち行け!」
「やだよー離れませんー! 私の柔らかいところでちょっとムラっと来てしまえ!」
いやこねぇよその言動で来るわけ無いだろ。
というか思いっきり体重乗せてるからそんな柔らかさとか感じる余裕ねえよ何いってんだ。
流石にイラっと来たので、完全に無視することにした。
ゲームもそろそろステージ終盤、これをクリアすれば一段落といったところ。
なので、そちらに集中することにしたのだ。
「ねーねー、反応してよー、無視されるとこっちもつらいんですけど?」
「…………」
「ってかゲームいい感じじゃんねー、このままやっちゃえよおらよー」
無視されると意識が逸れるのか、ミオもゲーム画面を注視し始めた。
そうして話すことがなくなったのか、沈黙のなかでゲームのサウンドだけが響く。
やがてゲームをプレイする俺と、俺にのしかかりながらゲームを見ているだけのミオが出来上がる。
ゲームはつつがなく進行し、途中危ないところはあったものの無事にステージをクリアすることができた。
「よし」
「っしゃーおらー! いいぞー! わはは我が軍は無敵じゃないかー!」
「うおあ!」
んで、完全に油断していた状態でミオがはしゃぎだすものだから、俺は潰された。
近くにあったカードの上に倒れることだけは防げたものの、ミオに完全に押しつぶされる形となる。
「うわごめん」
「ぐ、おお……すまん、動けないからどいてくれ」
「――は? お前今私が重いつった?」
「いやなんでそうなるだよ怖えよ、思ってはいたけど口には出してねぇよ」
「思ってるじゃん! 重いって思ってるじゃん! 爆笑ギャグかよおい!」
いやまぁ思ってはいたけどさ。
一応そこは気を使って言わないようにはしてたんですよ。
それをお前……。
「いいか! 私は軽いからな!? 低めに見積もって40kgのかるかるボディだからな!?」
「米袋だって30kgするんだから、体重かけられたら人間は重いものなんだよ解れよ」
「違いますー! ティッシュのように軽いですー!」
こいつ……。
「もういいもんね、幻霊だって握らない! 私はゼガを握る!」
「おい待てそれは人の所業じゃない!」
ゼガとは、一言でいうと自分で自分を回収できるどうして生まれてしまったのかわからないカードだ。
それを使って簡単に無限ループができる厄物。
いくら普段から陰湿系のデッキが好きだからってそれはダメだろ……!
なんて、
これは、俺とミオのなんでもない日常。
どーでもいいようなことしか話さない、腐れ縁のくされた部分すらくたびれた、幼馴染のお話だ。
本当にだべるだけです、ラブコメ要素はあります。