久しぶりの投稿です。
「『人生は選択の連続である』偉い誰かがそう言い残していた気がします。些細なことから命を左右するような決断まで、僕たちは常に何かを選び歩んでいます。
選択肢が目の前に現れた時、それが正しいのか間違っているのかなんて、誰にも分からない。ただ、その瞬間僕らは『そうだ』と信じる道を歩むしかない。
しかしそれが間違っていたと気づいた時、人はどうすればいいのだろう?
僕はこれまでにたくさんの『選択』をしてきました。そして、その中には、間違いだったと痛感するものも数えきれないほどありま──」
──はいそこまで」
うるさいと言わんばかりに、アリーゼによって口を遮られた。
「……んん」
『…はい』と返事をして黙ると、彼女たちの視線が一斉にこちらへと突き刺さる。その目には冷ややかさと呆れが入り混じっており、逃げ場のない圧力を感じる。
そして、その視線の先には
「……」
「無駄に話をせず、説明すべきことがあるんじゃないかしら」
説明? はて? 僕が聞きたいですよ。朝起きたら四肢がベッドに縛り付けられているじゃありませんか。
原因に心当たりがあります。しかしそれを言ってしまうと望ましくない展開が待っているのも明らかです。
「寝相が悪かったとかですかね、看護師さんが気を利かせてくれたのでは?」
「面白くもない冗談ね?」
アリーゼが鋭い目でじっとこちらを睨む。その視線に耐えきれず、目を逸らそうとするも、縛られた状態では逃げ場がない。
「もう全部聞いてるわ。お見舞いに来るなり、看護師さんから『夜間に病室から消えて、窓から戻ろうとした命知らずがいる』って言ってたわ」
「…ごめんなさい、ということで聞きたいことがあるので話を変えましょうか」
追及されている状況から逃げ出したいと言うのもあるが、気になる話があると言うのも本当、少し強引だけどもまぁいいでしょう。
「先の騒動で……リアちゃんとお母さんは無事だったんですか?」
「……」
その言葉に、アリーゼを含めた全員の表情が一瞬固まる。鋭い視線や冷ややかな態度は影を潜め、わずかに緊張感が戻った。
「……無事よ。リアちゃんもお母さんも、擦り傷程度で大きな怪我もしていないわ。ただ……」
「大丈夫です。それ以上の詳細は結構ですから」
アリーゼが何を言い淀んだか察せられる。
僕が守れたのはリアちゃんのお母さんであり、その場にいた他の人たちは見捨てる形になった。
けれど、それを後悔しているわけでも、罪悪感を抱いているわけでもない。
守りきれないと分かっていたから、最初から切り捨てた。それだけのこと。
状況を見極め、最善と思える選択をしたまで。自分の判断力の早さをむしろ誇るべきでしょう。
(……とは言ったものの)
何も感じないわけじゃない。
胸の奥がじわりと痛む。悲しいし、悔しい。
なにより──怖い。
あの場にいた彼らと同じように、僕も“シナリオの外”の存在だ。
原作に名前のない人間。運命の保護なんてない立場。
だからこそ、次は自分があの列に並ぶ番かもしれない。いや、もしかすると、とっくに順番待ちの列に立っているのかもしれない。
「……やだなぁ」
ぽつりとこぼした言葉が、縛られたベッドの上で虚しく響いた。
だが、落ち込んでばかりもいられない。何かを選び取ってしまった以上、もう後戻りはできないのだから。ならばせめて、今できることをやるしかない。
そんな思考の流れの中で、ふと、空気を変えるように声を上げた。
「アリーゼ。先の戦いで相当頑張った新人がいると思うんですが」
わざとらしくそう切り出し、間を置く。
「もちろん――今まさにベッドに縛られている、健気で不遇な少年のことです」
自分で言い切った瞬間、背後から容赦ない声が飛んできた。
「それ自分で言うもんじゃねぇだろ。普通は誰かが評価するもんだろ」
呆れを隠そうともしないライラに、こちらは肩をすくめて返す。
「こういうのは自分で主張しないと伝わらないんですよ、ライラ。
察してもらえるなんて期待してたら、損するだけですよ?」
「察しろ以前に、その態度で損してる気がするんだが」
ライラが呆れたように肩をすくめる。正直、その通りなんですよね。僕だってわかってます。
でも、こういう時は押し通さないといけないんです。どうせ損するなら、堂々と損した方が気持ちがいい……気がします、多分。
「はいはい、そこまでにして」
アリーゼが手をひらひらと振り、話を強引に打ち切った。部屋の空気が少しだけ和らいだ気がするが、まだ僕の両手両足はしっかりと拘束されたままだ。
「で?結局、あなたをどう扱えばいいのかしらね。反省してるようには見えないし、かといって懲罰ってほどでもないし……」
「療養中の患者をいじめるのは人道的にどうかと思いますよ?」
「そのセリフを窓から出ていった人が言う?」
アリーゼの切り返しに、言葉を詰まらせる。反論の余地がないのは自分でもよく分かっている。ぐうの音も出ない、とはこのことだ。
「……でもちゃんと戻ってきたじゃないですか。
一応、無断外出からの自主帰還ということで、情状酌量の余地ありってことで……」
「自分で“情状酌量”とか言っちゃう人に、情けをかけたいとは思わないけど?」
ライラがくつくつと笑いながら肩を揺らす。その隣では輝夜が呆れたようにため息をつき、セルティが心配そうにこちらを見ている。
「まぁ、元気そうなのは分かったわ。もう縛っておく必要もなさそうね」
アリーゼがそう言って、ようやく拘束を解くよう看護師に合図を送った。腕や足の自由が戻った瞬間、全身のこわばりが一気に抜けて、思わず大きく伸びをする。
「ふぅ……自由って素晴らしい」
「その自由をまた変な方向に使わないでね。次はさすがに見逃さないから」
アリーゼの笑顔は、穏やかというより不気味な警告に近かった。僕は背筋を伸ばして、小さく頷くしかなかった。
──そして、あれから二週間が経った。
深夜。病院の中はすっかり静まり返っている。窓の外では、風に揺れる木々がかすかな音を立てていた。
僕はベッドの端に腰を下ろし、額に手を当てて小さく息を吐く。
「っと……魔力切れか」
視界がぐらりと揺れて、軽い眩暈を覚える。慌てるほどではないが、身体の奥がじわりと消耗しているのを感じる。
無理をしたつもりはなかったけれど、それでも使いすぎればガタはくる。
この二週間、病室から外へ出ることはほとんど許されなかった。
だがその代わり、魔法を検証する時間だけは、嫌というほど与えられていた。
紙の上で組み立てた理論と、実際に使える魔法とでは、まるで別物だ。
それでも、何もしないで時間を浪費するよりは、ずっとマシだった。
退屈しのぎで始めた検証は、いつの間にか日課となり、
今では僕にとって欠かせない“準備”になっている。
[魔法]
【
成長型付与魔法
・『
〔耐久〕を小補正。
〔力〕と〔敏捷〕を微補正。
それが僕に与えられた、現状唯一の魔法。
ここ数日で分かったことは多かった。
まず
この魔法は自分の身体にしか作用しない。
他者への付与や武器への強化はできない。
さらに
肉体の一部だけに限定して付与することも不可能だった。
つまり、使うときは常に全身強化。細かい調整は効かない。
加えて、重ねがけもできない。
一度使ってしまえば、3分間は効果が持続するが、その間に再発動しても時間が延びるわけじゃないし、効果が高まるわけでもない。
──現時点では、応用が利きにくい。
けれど、この魔法には一つだけ大きな利点があった。
燃費の良さだ。
一度の発動で3分間持続。しかも、魔力が最大値の状態なら20回発動できる計算になる。
マジックポーションを飲めば、だいたい5回から6回分は即座に補充可能。
現状、ダンジョンへ行けない僕にとって、地味で目立たないこの魔法は魔力のアビリティを高めるには、最高だった。
食事やトイレ、読書など、睡眠時以外は常に──
ひたすら『
最初は魔力切れの感覚に、強い気分の悪さを感じた。
吐き気、眩暈、頭痛、そしてひどい倦怠感。まるで意識が溶けるような感覚に襲われ、何度も休憩を挟む羽目になった。
「……だけど」
[タクト・───]
LV.1
[基本アビリティ]
力 :I 80 → H 108
耐久 :I 48 → I 96
器用 :I 76 → H 106
敏捷 :I 36 → I 67
魔力 :I 12 → H 172
繰り返し積み重ねた、魔法の発動。
その成果は、数値となって確かに刻まれていた。
魔力が急激に伸びたのは、間違いなくあの“訓練”の賜物だ。
ベッドの上で、ただひたすらに魔法を繰り返すだけの毎日。
地味で、単調で、誰に誇れるものでもない。
けれど、その果てにこの結果がある。
「ただ魔力が増えても使い道がないんですよねぇ」
高まった数値とは裏腹に、使える魔法は依然としてひとつきりだ。
“強化”しかできない自分には、まだ戦術の幅がない。
けれど、それでも構わない。
今はまだ、選択肢が少ないだけだ。
魔力は確かに増えている。
基礎は積み上がり、身体はそれに応え始めている。
この土台は決して無駄にはならないはずだ。
派手さはない。
誇れるような成果でもない。
それでも、何もしなかった時間よりは、確実に前へ進んでいる。
今はただ、“可能性”を育てる時期なのだから。
【
二話前の戦闘+2週間の魔力訓練。
魔力以外のステータスは殆ど戦闘での上昇です。
少し上がりすぎですかね…?。