週に一回は投稿…。
「幼少の頃、と言ってもまだ幼いですが、両親や村人、時には子供の口からも『
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているのだろうか、略して『ダンまち』
主人公ベル・クラネルがダンジョンに出会いを求め、恋をしたり、冒険をしたとりと、なんやかんやで偉業を達成して英雄を目指す、まさに王道と言える物語。
最初は喜びましたよ、喜びましたとも。だって、ダンまちの世界ですよ?愛読書だったんですよ?もうテンション上がりまくりでしたよ。
しかし……現実は非情であると知るのに時間は掛かりませんでした。
だって隣人が"あの"アリーゼですよ?
アリーゼ・ローヴェルですよ?。
成長したらオラリオに行こうという考えが一瞬で『え、無理』に早変わりしました。
原作開始時点でアリーゼは既に亡き人です、確か享年が18歳だったはずなので逆算すると今は原作の約15年前であり、オラリオは現在、暗黒期と呼ばれ闇派閥達が蔓延る、まさに世紀末と言え──」
「話が長いッ!!」
「あうっ!?」
突如後頭部に激痛が走り、僕は思考を中断した。
「うぅ痛いじゃないですか、それにまだ話の途中ですよ
「長い、それにお前の話はよくわからん」
「はぁ……そうですか」
僕は後頭部をさすりながら、目の前で呆れている少女を見据えて言った。
「簡潔にいいますと、村を追い出され吹っ切れたのでオラリオで冒険しようと思います」
「それは昨日聞いた」
先程から溜息をつく少女、ゴジョウノ・輝夜は1週間前に森で出遭った少女だ。
食糧も尽きて行き倒れてしまった僕を拾ってくれた心優しい女の子……に見えますけど、ただ荷物持ち件夜間の見張り役が欲しかっただけみたいです。まぁ夜間の見張りに関しては僕が寝落ちするせいであってないようなものですが。
まぁ、そのおかげで僕は今こうして生きているわけですから感謝はしています。
「あ、そうでしたね。しかし輝夜は美人ですよね」
「なんだ急に?」
いきなりの褒め言葉に少し動揺を見せた輝夜だが、すぐに平静を装いながら睨みつけてきた。
「いえ、ただそう思っただけです」
「…そうか、だが私はお前の様なガキは嫌いだ。だからあまり近づくな」
「あ、はい」
しっしっと手を払う仕草をする彼女に僕は苦笑いで返す。
「それで、後はどうする?」
「そうですね……もう日も落ち始めていますし、とりあえずは寝床探しを最優先事項に」
「寝床など何処にでもあるだろう、あそこはどうだ?」
そう言って輝夜が指さした先には洞窟があった。
「駄目ですよ、このご時世に天然の洞窟なんてありません、ああいった洞窟は大抵モンスターの住処です」
「そうなのか?」
「えぇ、間違っても入ろうなんて考えない様に」
「そうか……まぁ、私は中で寝るからお前は外で寝ればいい」
「そうですか、まぁ輝夜なら大丈夫でしょう、それでは良い夜を」
そう言って洞窟の中に入っていく輝夜を尻目に僕は近くの木へと背を預けた。
◆◆◆◆◆
薄暗い森の中で焚き木が弾ける音だけが聞こえる。
「やはり夜は少し冷えますね…」
僕はそう呟き夜空を見上げた。
この世界は前世の日本とは違う、電灯もなければ舗装された道路もなく、携帯だってない。辺りを見渡せば文明レベルの違いが如実に現れている。
確かに前世の暮らしに比べれば不便な所もある。でも、僕はこの生活に不満はなかった。それはきっと僕が今世を楽観的に考えているからだろう。
「それにしても、まさか輝夜が『
この2週間、僕たちは5度にわたりモンスターと遭遇した。相手は地上産のゴブリンだったこともあり、対処自体はそこまで難しいものではなかった。輝夜が一度刀を振れば、モンスターはあっという間に灰へと還る。その一方で、僕は一体を倒すのがやっとなのに、輝夜はすでに二体、三体と次々に片付けていた。
僕と輝夜の間には、確かな実力差がある。技術、才能、身体能力、そのどれを取っても輝夜は僕を遥かに凌駕している。彼女の動きは洗練されていて、一切の無駄がない。戦いのたびにその差を痛感せざるを得なかった。
しかし、その実力差がどれほど大きく感じられたとしても、届かないわけではない。輝夜は確かに強いがまだ『人』の域を出ていないのだから。彼女の力が圧倒的に思えてもそれは人の限界の範囲内での話だ。
そう考えると彼女は恩恵を得ていないとの答えに行き着いた。
「でもどうしてだろう」
輝夜の家系、ゴジョウノ家には代々とある【
「僕の記憶違いか、それとも本来あるべき歴史が変わってしまったか……まぁどっちでもいいか」
「何がいいんだ?」
「うわっ!?」
突然背後から声をかけられて、僕は思わず飛び上がる。振り返ると輝夜が呆れた顔で立っていた。
「まだ起きていたのか」
輝夜の声が、静かな夜の中に響いた。
「えぇ、まぁ……ところで、洞窟はどうしたんです?」
「血生臭くて寝れん」
その淡々とした口調と冷ややかな視線から、何があったのかはすぐに察することができた。やはりモンスターが潜んでいたらしい。輝夜はそれらをためらうことなく斬り捨て、血の臭いが充満した洞窟を嫌ったのだろう。
(……ん?。でもそれじゃ…)
「ちょっと待ってください、まさか、そういうことですか?」
モンスターは死ねば魔石を残して消える、文字どうり血も肉も残すことなくだ。しかし動物や人間は違う。
僕の言葉に、輝夜は軽く頷いた。
「…察しがいいな」
その言葉に僕は一瞬戸惑ったが、さらに驚いたのは、彼女がほんの少し顔をそむけたその瞬間、見逃せない微かな変化があったことだ。普段は冷静で感情をあまり表に出さない少女が、わずかに眉を寄せている。そして、唇の端がかすかに震え、そこにほんのわずかだが、怯えにも似た影がよぎっているのを見て取れた。
普段の輝夜なら見せるはずのない、ほんの一瞬の不安。それは、彼女の内面にある何かが揺らいでいることを物語っているかのようだった。
「……あぁ」
そう、彼女もまだ子供ということなのだろう。
どんなに強く見えても、どれだけ冷静で完璧に見えようとも、輝夜もまた、不安や恐れを感じる年齢だ。普段はそれを隠しているだけで、本当はどこかで支えが必要なはずなのだ。
僕はそんな彼女を見つめながら、自然と手を伸ばしかけたが、すんでのところで止めた。彼女はおそらく、そんな同情の眼差しを嫌うだろう。それに、輝夜にとっては、ただの一瞬の『隙』にすぎなかったのかもしれない。
が、しかし。
僕は空気を読むことが嫌いである。つい、その沈黙が耐えられなくなり、気づけば軽口を叩いていた。
「なんだか意外ですね。輝夜もそういう表情をすることがあるんですね」
自分で言った後に、しまったと思った。余計なことを口にしてしまった、と。だが、言葉は取り消せない。輝夜は一瞬、鋭い目でこちらを睨むように見たが、すぐにふっと表情をゆるめ、半ば諦めたように小さく息をついた。
「……別に、ただの気の迷い。それだけだ」
少し拗ねたような、照れ隠しのような口調に、僕は内心でほっとし、少し笑みを浮かべてしまう。そんな僕を見て、輝夜は少しムッとしたように肩をすくめると、再び視線を逸らした。
「……」
気まずさを感じつつも、心のどこかで興味が湧いてきてしまう。彼女が語らない過去には、一体どんな出来事が潜んでいるのだろうか。数年後には現実主義者を謳っている彼女にも、忘れられない『何か』があるのかもしれない。
気づけば、好奇心のままに口を開いていた。
「大丈夫ですか?話せば楽になることだってもありますよ」
興味を隠しきれずにそう尋ねると、彼女は少しだけ目を見開き、微妙な表情を浮かべた。
「…空気が読めないのか戯け者め」
「読もうとしないだけです」
軽く肩をすくめてそう返すと、輝夜は口をへの字に曲げ、視線をそらした。どうやらこの会話が気に入らないらしい。それでも、僕はもう一歩踏み込んでみたくなった。彼女のその隙間から、普段見せない彼女の一面が垣間見える気がしたからだ。
「輝夜の過去ってちょっと興味が湧くんですよ。どんなことがあって、今のあなたがいるのか、知ってみたいなって」
その言葉に、彼女は一瞬だけ動きを止めた。振り向いた輝夜の瞳には、どこか遠くを見つめるような影が差している。
「……興味本位で踏み込むものじゃない。誰しも、触れてほしくない過去のひとつやふたつあるものだ」
鋭く突き放すわけでもなく、ただ淡々と語るその口調には、思っていた以上に深い思いが隠されているように思える。
輝夜は普段、強く冷静で、隙を見せない。けれど、今の彼女の言葉には、何かしらの重みと切なさが滲んでいる。もしかしたら、彼女が背負ってきたものは、僕が想像する以上に大きいのかもしれない。
彼女の姿を見つめながら、何か適切な言葉を探している自分がいた。そして、ふと気づいた時、自然と口から出てきたのは、思いのほか素直な感想だった。
「やっぱり輝夜はすごいですね」
「っ……なんだ急に?」
僕は輝夜を真っ直ぐに見つめながら、静かに言葉を続けた。
「輝夜、僕たちってまだ出会って二週間しか経ってないじゃないですか」
彼女は黙ってこちらを見つめ返し、いつもの冷静な瞳のままだった。けれど、その奥に何か揺れるものが見える気がした。
「でも、僕は輝夜とはとても仲良くなったと思うんですよ」
その言葉に、彼女は軽くため息をつくと、呆れたように顔を横に振った。
「それはお前の気の所為だ」
「そうかもしれません。でも、僕は輝夜ともっと仲良くなりたいんです」
少しだけ間を置いてから、ゆっくりと言葉を選びながら続けた。
「だから教えてください、輝夜のこと」
静かな夜風が、僕らの間を通り抜けていく。輝夜はしばらく黙っていたが、やがて小さく口を開き、どこか遠くを見つめるように視線を落とした。
「……私のことを知って、何になる」
その問いは、拒絶というよりも、どこか諦めが混じったような、苦さが滲んだものだった。僕はその言葉に対して、ただ笑みを浮かべながら答える。
「何になるかなんて、正直なところ僕にもわかりません。ただ、偶然出会った恩人であり、共に旅をする友達な君のことをもっと知りたいんです」
輝夜は少し驚いたように眉を上げたが、すぐにその表情を消した。視線を下に落とし、どこか考え込むような様子で、ゆっくりと息を吐いた。その沈黙が、僕の中に緊張と期待を混ぜ合わせたような感情を芽生えさせる。
それからしばらくして、彼女はぽつりと呟くように言葉を漏らした。
「友達、か……そんなことを言う者は、これまでいなかったな」
その声はほんの少しだけ柔らかく、何かを思い出しているような響きがあった。その声色にはほんの僅かな寂しさが滲んでいる気がする。
「輝夜?」
僕がそっと声をかけると、彼女は微かに微笑み、いつもの冷静な表情に戻った。
「……いいだろう。ただし、私の話を聞いて寝れなくなっても知らんぞ」
そう言って、彼女は夜空を見上げた。星が微かに輝く夜空の下、彼女の横顔がどこか影のように映り、僕はその瞬間、彼女が背負っているものがどれだけ重いのかを感じ取った気がした。
「ええ、構いませんとも」
その言葉に、彼女は小さく頷き、少し遠くを見つめたまま話し始めた。
◆◆◆◆◆
寝ることも忘れ僕らは静かに語り合っていた。輝夜は少しずつ、自分の過去を言葉にしていった。普段は見せない表情や仕草が、その話の中で少しずつ顔を出す。その断片を紡ぎながら、僕は彼女がどれだけの重圧や孤独の中を生きてきたのかを、少しずつ理解していった。
朝日が昇り、周囲が淡い光に包まれるころ、ようやく彼女は話を終えた。僕も何度も相槌を打ちながら、その一言一言を大切に心に刻んでいた。輝夜は小さく息をつき、朝の光の中で穏やかな表情を見せた。
「これで満足か?」
彼女の問いかけに、僕は微笑んで頷いた。
「はい、聞けてよかったです、ゴジョウノ家って、恐ろしいですね!」
僕の冗談めいた言葉に、輝夜は少し驚いたようにこちらを見つめ、それから呆れたように眉をひそめた。そして、ほんの一瞬、肩をすくめながら、かすかに微笑んだようにも見えた。
「戯け者め。やはりお前は、空気を読まないな」
「ええ、まあ。でも、こうやって普通に話せることが大事なんじゃないですか?」
彼女は少し考え込むように視線を遠くに向け、しばらくしてから、口元にほんの少し柔らかい笑みを浮かべた。その表情には、昨夜にはなかった穏やかさが宿っている。
「……そうかもしれんな」
朝の光が僕たちの間を温かく照らし出し、夜通し語り合った時間が夢のように感じられた。でも、確かにこの瞬間、僕と輝夜の間には、少しだけ距離が縮まった気がした。
◆◆◆◆◆
夜更かしをしたあの一夜から、気づけば2週間が経っていた。長く続く旅の道中、輝夜との距離は少しずつ、けれど確実に縮まっているように感じる。彼女は相変わらず冷静で辛辣だが、ときどきふと見せる柔らかな表情や、以前なら言葉を交わさなかったような些細な話題にも耳を傾けてくれるようになった。
その変化に、僕は少しだけ胸の高鳴りを感じていた。あの夜に見せてくれた輝夜の過去の断片は、今でも心に残っている。そして、僕もまた、彼女にとって信頼できる存在になりつつあるのかもしれないと思えたのだ。
が、しかし。
そんな信頼が芽生えた矢先、僕はなんとも不埒な考えを抱いてしまった。
夕暮れの静かな時間、輝夜が一人で水浴びに向かったのを見て、僕は好奇心に負けてしまったのだ。
「ちょっとくらい、覗いてもバレないバレない」
と自分に言い聞かせながら、こっそり茂みへと忍び込む。男としての本能というか、なんというか……。だけど、父が昔言っていたことがふと脳裏をよぎった。
『雄とは何か? それは、ただ獰猛で圧倒的なパワーを持つ存在という意味ではない。内なる獣を飼い慣らすことこそが真の男の在り方だ』
父の教えを思い出しながらも、僕の好奇心はなかなか抑えきれない。気持ちと理性の間で揺れ動きながらも、僕は葉の隙間からそっと湖を覗き込んだ。
「……むむぅ」
輝夜と出会ってから、早三週間。モンスターに襲われたり、泣きたくなるほどの場面もあったし、怪我もした。さらに、彼女の荷物持ちとして重い荷物を担がされ、ひーこら言いながらもなんとか頑張ってきたのだ。そんな僕にだって、たまにはこんな『イベント』があっても許されるんじゃないだろうか?。
そう思いながら、茂みの中でこっそり息を潜めていると、かすかに水面がきらめく音が耳に届いた。緊張と期待が入り混じり、心臓が少し早く脈打っているのがわかる。
「……むむむぅ」
中々にどうして、興奮とまではいかないものの、この役得感がじわじわと込み上げてくるのを感じる。黒の長髪をなびかせる輝夜の姿――数年もすれば、きっと立派な大和撫子になるだろうと思える彼女の水浴びを、こうしてこっそり覗き見るとは。まさにスリルと背徳感の極致だ。
もちろん、見つかれば社会的にではなく、物理的に抹殺されかねないだろう。しかし、このハラハラとした緊張感と、ほんの一瞬の「特別な瞬間」を楽しんでいる自分がいる。
──僕は今を猛烈に生きている!
そう心の中で叫びながら、息を潜めている自分に苦笑しつつ、その場から立ち去ろうと足を引きかけたその瞬間、乾いた『パキッ』という音が足元から響いた。思わず息を呑んで足元を見ると、踏みつけた枝が無情にも割れている。
「……oh shit」
「た、タクト……?」
輝夜と目が合った
声には驚きと疑いが入り混じっている。僕は焦りながらも、必死に言い訳を考える。
「輝夜……これには訳が……!」
しかし、僕の言葉が終わる前に、彼女の顔はみるみる怒りに染まり、拳がギリギリと震え始めた。次の瞬間、彼女の怒声が夜空に響き渡る。
「こんっのバカぁぁか者がぁぁ!!!」
その一言と共に、僕は一瞬で彼女の怒りの渦に飲み込まれ、逃げ場のない状況に追い詰められるのだった。
◆◆◆◆◆
あれから二日、三日、四日と日が過ぎていった。例の一件以来、輝夜は頑なに口を利いてくれなくなった。彼女と顔を合わせても、冷たい視線を投げかけられるだけで、話しかける隙すら与えてもらえない。
「……ごめんなさい」
小さく呟いてみるものの、彼女がどう反応しているかすらわからない。食事の準備や旅の支度をしていても、必要最低限の指示だけで、それ以上の会話はなくなってしまった。
あの時の軽はずみな行動を思い返すたびに、心の中で後悔がじわりと広がっていく。二人の間にあったささやかな信頼関係も、今や遠い記憶のようだ。とはいえ、何とか謝罪する機会を見つけようと様子を伺ってはみるが、彼女の冷たい態度に押され、うまく切り出せないまま時間だけが過ぎていく。
我ながら、あの時の行動は軽率だったと痛感している。相手は選ぶべきだった。輝夜との信頼関係がようやく築けたと思っていた矢先に、まるで自分からその絆を壊しに行ったようなものだ。
なら謝り続けよう。彼女が許してくれるまで、どれだけかかっても謝罪を重ねて、関係を取り戻したいと願っている。
だが、現実はそう甘くはなかった。僕らには、そんな悠長な時間は残されていなかったのだ。
旅は進むにつれて、さらに厳しさを増していった。次々と現れるモンスターや、困難な地形、そして厳しい気候が、僕たちの行く手を阻んでいた。輝夜との距離を縮めたいという思いも、状況が厳しさを増すたびに、ただの願望に過ぎないと感じさせられた。謝るどころか、まともに話す余裕すら奪われていく。
やがて、後悔は徐々に焦りに変わり始めた。
そんなある日、僕たちは敗れた。
険しい山道を進んでいた途中、不意に空から影が降り注いだ。突如として現れたのは、翼を大きく広げた一体のハーピィ。獰猛な眼差しと鋭い爪が輝き、瞬く間に僕たちに襲いかかってきた。
必死に応戦しようとしたが、ハーピィの動きは俊敏で、予想以上に手強かった。何度も攻撃を受け、疲弊していく中、僕と輝夜の連携も乱れていった。互いの隙を補い合うどころか、息も合わずに防戦一方となり、最後には力尽きてその場に倒れ込んでしまった。
僕たちは、そのハーピィに完全に敗北したのだ。
「……っ」
ハーピィの鋭い鳴き声が響く中、僕はボロボロの体を引きずりながら、最後の力を振り絞って立ち上がった。視界の端に、傷だらけの輝夜がうずくまっているのが見える。彼女も限界だった。体は傷だらけで、疲労で動きも鈍く、もはや後がない。
「タクトッ!!逃げろ、ここは私──」
輝夜の叫びが耳に届いたが、僕は答えなかった。久しぶりに自分の名を呼ばれたことに、思わず口元がほころんだ。笑みを浮かべつつ、僕は彼女のそばに駆け寄り、そのまま押し倒すようにして、腰に差してあった小太刀を奪い取った。輝夜の目が驚きと怒りに見開かれたが、もう止まるつもりはない。
きっと察しのいい彼女は、この絶望的な状況で僕が何をしでかすかを理解しているのだ。これが、最善の手段だということも。
「……待て」
輝夜が静かにそう言った。その声には、かすかに揺れる何かが込められていた。僕はその声に少しだけ足を止めたが、すぐに意を決して振り返る。
「輝夜に出会ってから僕は守られてばかりでしたね」
自分でも驚くほど、穏やかな気持ちで言葉を紡いでいた。輝夜と出会ってからの数週間、彼女に助けられてきた場面が頭をよぎる。強い彼女に引っ張られ、背中を追いかけるばかりだった自分。
「待てと…言って──」
「だから今度は、僕が君を守ります」
輝夜の目が微かに揺れたのを確認しながら、僕は軽く微笑んでみせた。
「水浴びの件は本当にすみませんでした」
そう言い残し、ハーピィに向かって一気に駆け出した。『行くなッ!!』と叫ぶ輝夜の声がより一層僕の脚を躍動させる。
「…ぎっつぃなぁ」
怒り狂ったハーピィの鋭い爪が、容赦なく僕の肩を裂く。その痛みに顔を歪めながらも、僕は必死に耐え、握った小太刀をハーピィの胸元に向けて突き刺した。
(また会いましょう、輝夜……)
その言葉を最後に、僕はハーピィを道連れに崖の縁を踏み外した。瞬間、体が宙に浮き、重力に引かれるまま、ハーピィと共に谷底へと落ちていく。風が肌を切り裂くように吹き抜け、視界はぐるぐると回る。
ハーピィの怒りに満ちた鳴き声が耳元で響くが、それも徐々に遠のいていく気がした。頭の中には、輝夜の驚きと悲しみの表情が焼き付いて離れない。だけどそれがとても嬉しかった。
谷底が迫る中、輝夜との再会を願い、ゆっくりと目を閉じた。
いくら"あの"輝夜さんでも幼少期なら恥じらいもあるのでは?と…。