生まれ変わったら赤髪の幼馴染ができました   作:お米大好き

6 / 14
 
今回の話は主人公が疲労と精神的ストレスでおかしくなっています。


6.運命の女神様に嫌われているようです。

 

 

──???side──

 

「っ!!ふざけやがってッ!!」

 

 真っ暗な路地裏に集められたのは、秩序を乱す

『ならず者』たち。

 ローブで顔を隠した彼らの表情には焦りと不安が浮かんでいた。

 無理もない。

 今の状況を冷静に見れば、そういう反応になるのは当然のことだった。戦いを恐れるならず者の中には、すでに逃げ出したいとでも言いたげな者もいる。

 

「おうおう、結構集まってんじゃねぇか。まぁ、そうなるように追い込んだんだがな」

 

「上出来よ、ライラ!ここでなら市民に被害は出ないもの!さぁ観念しなさい、悪党たち!」

 

「団長、こうも面倒なことなどせず、いつものようにさっさと始末してしまえばいいのでは?」

 

「前回大暴れして屋台やらなんやらを半壊させたのはどこの副団長と新人かしら!」

 

「くっ…ですが、被害を出していたのはあなたもでしょう」

 

 

 アリーゼと輝夜のやり取りに、ライラはうんざりとした顔で肩をすくめる。ライラにとっても、彼女たちのやりとりは日常であり、すでに見慣れたものだった。

 

「……さぁ、悪党ども!神妙にお縄につきなさい!!」

 

「「誤魔化したな」」

 

 唐突に始まった漫才のようなやり取りに、ならず者たちは困惑を隠せず、ただ呆然と立ち尽くしている。しかし、それも無理はないだろう。何せ今現在、彼らの目の前に立っているのは『正義の眷属(アストレア・ファミリア)』なのだから。ならず者たちにとって、これ以上不運な相手はいない。

 

「アリーゼも輝夜も、2人して呑気してんじゃねぇよ。面倒くせぇ、とっとと片付けてホームでゆっくりしたいんだが」

 

「それもそうね!私たちの前に現れたことを後悔しなさい!」

 

 

 ライラとアリーゼがそう言って武器を構えたその瞬間だった。

 

ガタガタッ

 

 路地の隅に積まれた木箱が突然揺れ、不気味な音を立てた。皆が視線をそちらに向けると、まるで何かが中から動いているかのように、木箱が再びガタガタと音を立てて小刻みに揺れ始めた。その場にいた全員の顔に緊張が走り、一瞬、場が静まり返る。

 

「……ぁ」

 

 アリーゼが微かに声を漏らし、周りも固唾を飲んで木箱を見守っていた。

 ならず者たちでさえも動きを止め、その異様な光景に戸惑いと不安の表情を浮かべている。

 

「は?」 「なっ!?」

 

 そして、ゆっくりと木箱の影から現れたのは、どこか所在なさげに立ち尽くしている一人の少年だった。

 不安げな笑みを浮かべた彼の姿は、場の緊張感とはあまりにも不釣り合いで、一目で異質な存在だとわかった。

 

「あ、あはは………はぁ、こんにちは…」

 

 その場にいた全員が呆然とした表情を浮かべた。ならず者もアストレア・ファミリアのメンバーも、彼をじっと見つめながら一瞬、現実を疑うように顔を見合わせた。

 

「「「タクト…?」」」

 

「「「…誰?」」」

 

 ならず者とアストレア・ファミリアの両者が困惑の声を漏らし、緊張感に包まれていた場が思いがけず和んでしまったようだった。

 

 

 

そこから少し時を遡ること2時間前。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 故郷でぬくぬくと日常生活を送っているであろうお父様お母様、貴方達はいかがお過ごしでしょうか、僕が村を追い出されもう5年程経過しました、少し前に13歳の誕生日を迎え最悪の未来まであと3年と迫った今日この頃僕は現在……。

 

 

「着いちゃったよオラリオ…。輝夜もライラも許してくれるでしょうか…」

 

 道中平原しかなかったせいで三日三晩食料も確保できず歩き続けた、既に体も精神的にも限界が来たが、ようやく辿り着いたんだ。

 

 『オラリオ』それは迷宮都市とも呼ばれる巨大な都市であり世界の中心であるとされている場所。

 都市には世界中から様々な種族が集い、常人なら『うわぁ』となるような日々を営んでいる。

 

 昼下がり。僕はようやくオラリオの巨大な門をくぐり抜け、中へと足を踏み入れた。無事にオラリオに入れたことに、心の中でほっと安堵の息をつく。

 

(まさか、こんなに簡単に入れるなんて…検問で引っかかって追い返されるかと覚悟してたのに)

 

 思い返せば、これまでの道のりは決して平坦ではなかった。雨に打たれ、モンスターに追われ、時には人間の欲に絡め取られ、時には神々の理不尽に押し流されてきた。

 

──エルフの少女から逃げた。

 

──ラキア王国でお尋ね者になった。

 

──太陽を名乗る変態と逃走劇を繰り広げた。

 

 それでも僕は進んできた。騙し、裏切り、欺き、玉を潰し、道のりがどれだけ険しくとも諦めることだけはしなかった。

 転んでは立ち上がり、傷つきながらも歩みを止めることはなかった。

 

 我ながら頑張ったものだ。

 

 さて、思い出に浸るのはここまでにしよう。

 

 これからどうしたものか。ようやく辿り着いたはいいものの、次に何をするかは決めていない。オラリオはどこか張り詰めた空気が漂っていて、街の端々に冒険者たちの気配がある。

 

「……暗黒期かぁ」

 

 ポツリと呟いた言葉が、妙に空気に馴染んだ。オラリオの街並みや、すれ違う人々の視線には、どこか険しいものが感じられる。噂には聞いていたけれど、実際にこの地に立つと、その冷たい空気が肌にまで伝わってくる。

 

「やっぱり最初はファミリアかな」

 

 僕の将来設計を考えると、ファミリアに所属することが必須だ。どんな冒険者であれ、この迷宮都市オラリオで名を上げるためには、ファミリアの庇護とバックアップが欠かせない。ただ、問題はどのファミリアに入るべきかということだ。

 

 アストレア・ファミリアのように正義を掲げる組織もあれば、もっと異なる目的を持つファミリアもある。

 この街には数えきれないほどのファミリアが存在し、それぞれが独自の信条や掟を持っている。考えなしに飛び込んでいい場所ではない。

 なにより大抗争で起こる神殺しによる恩恵(ファルナ)の消失だけは避けなくてはいけない。

 となると、入るべきファミリアは絞られてくる。

 

「…候補は」

 

 まず浮かんだのは【ガネーシャ・ファミリア】。

 

 治安維持に徹する憲兵としての役割も担っているファミリア、僕の将来の目的の一つを達成するためには良い選択肢だ。

 

 次に浮かんだのは【ロキ・ファミリア】。

 

 この街でも屈指の実力を誇り、メンバーも精鋭揃いだ。この時代での生存と成長を考えるなら、ここが一番の選択肢かもしれない。力をつけ、己を鍛え上げる環境としては申し分ないはずだ。

 

 三つ目の候補は【ミアハ・ファミリア】。

 

 医療系のファミリアとして知られ、大抗争が起きた際の生存がある程度確約されているのが大きな魅力だ。さらに、主神であるミアハの性質上、穏やかで協力的な雰囲気があり、争いを避けつつ実力をつけるには理想的な環境ともいえる。

 

「…メリットだけ考えるならならこの三つか」

 

 悩ましいな。

 

【ガネーシャ・ファミリア】は憲兵としての役割を担う以上、その仕事に多くの時間を割かれる可能性が高い。

 ダンジョンに潜る時間が限られてしまい、実力をつける機会が減るのは大きな懸念材料だ。

 僕の目的を果たすためには重要だが、現状を考えるとここに所属するリスクも無視できない。

 

【ロキ・ファミリア】はそもそも受け入れてもらえるか怪しい。僕が抱える諸問題を考えれば、慎重な勇者(フィン)が簡単に信頼を寄せるはずがない。

 仮に入団して大抗争を生き延びられても、外伝の内容に突入して僕が命を落とす可能性もある。自分で決めた道を進み死ぬのはいいが、巻き込まれるのは嫌だ。

 そして面接で口を滑らせれば原作知識を見抜かれる可能性もあり所属できなかった場合、それに伴うリスクはあまりに大きい。

 今後がどうなるか想像もつかない。

 

 

【ミアハ・ファミリア】は生存率が高いのは魅力的だが、将来、多額の借金を抱えることになる。

 原因は知っているが、それがいつ起こるかのタイミングまでは覚えていない。

 その借金問題が発生するタイミングによっては、成長やダンジョン攻略に集中する時間が奪われてしまう可能性が高い。

 

「どうしたもんか…」

 

 フレイヤ、ヘルメスは論外、タケミカヅチは多分まだないよなぁ。ヘファイストスは正直ありだけど、多分鍛治師志望じゃない僕は歓迎されないだろう。

 

「いっそのことアポロン…いや、駄目ですね。確実に面倒ごとになるし、最悪心酔している団員に殺される可能性すらある」

 

 他のファミリアも一通り思い浮かべてはみるが、どれも決め手に欠ける。僕が望むのは、安全に成長を重ねつつも、最終的には目標にたどり着ける道。だけど、そんな理想的な選択肢があるわけでもない。

 

 どこかで妥協しなければならないのは分かっているけど、下手にリスクの高い場所を選べば、目標どころか生き延びることさえ難しくなるかもしれない。やはり、慎重に考えるべき…か…?。

 

 

「…ん?」

 

 いつの間にか周囲の人々の視線が僕に集中している?。

 まるで危険物を見るような警戒の眼差しを向けられています、どうして?。

 兎に角このまま変に絡まれる前に早々に立ち去ろう。 そう思って一歩踏み出したその時です。

 

「おう、そこの“目出し帽の坊主”!うちの商品見ていってくれよっ!」

 

 豪快な声と共に話しかけてきたのは、顔に傷跡があるがっしりとした体格の男性。どうやら露天商のようですね。

 

「えっと……」

 

 少し考えましたが、ここは彼の好意に甘えることにしましょう。

 オラリオについて知りたいことがたくさんありますし、知らないことだらけなので聞ける相手がいるのは助かります。

 もし何かあれば逃げればいいだけですし、問題はないでしょう。

 

 そうして近づいていった僕が見つけた物はポーションと呼ばれる回復薬の数々、見た目的には水薬に近い印象を受けます、色はどれも鮮やかな緑色ですね、緑?。

 あ、そう言えばポーションとはどのような味がするものなんでしょうか?気になりますね、折角ですので試飲してみたいですが残念です、一文なしですから買えません。

 

「一本300ヴァリスですか、中々のお値段ですね」

 

「そうか?ウチは他と比べまだマシなんだがなぁ?その格好から見てお前さん旅人だろう?オラリオに来たばっかの奴にゃ相場がわからなくっても仕方ねぇわな」

 

「おぉ、そうなのですか?なら今が買い時と言う奴ですかね?」

 

「おう!買い時も買い時!すげぇお得だぜ!」

 

「んー悩みますねぇ。あ、そうだ購入を検討する前に一つお尋ねしたいのですがよろしいでしょうか?」

 

「ん?なんだい兄ちゃん」

 

「実は先程この都市に着いたばかりなのですけど、ファミリアを探していまして」

 

【アストレア・ファミリア】と【ミアハ・ファミリア】の拠点(ホーム)を教えて欲しいと伝えると店主さんは驚いたように目を見開きましたがその後すぐに笑い出しました。

 

「ははっだよな、坊主みてぇな奴がオラリオに来る理由なんて冒険者に決まってんだ、だがなミアハ様んとこはまだいいが、アストレア様んとこはやめときな、行くだけ無駄だぜ?」

 

「どうしてですか?」

 

「あそこは男子禁制、正義を掲げる嬢ちゃん達の箱庭だ、もう何人もの男が門前払いされてらぁな」

 

 ただ知人に会いに行くだけなのですが、勘違いされてしまったようですね。

 それでも、いい情報を得られたのはありがたいことです。

 やはり、アストレア・ファミリアを候補から外しておいて正解でした。

 

「そうですかわかりました、ではミアハ様の所へ伺うことにしましょうありがとうございました」

 

 そう言ってお礼を言いその場を後にしようとした僕の背中に声がかかりました。

 

「あーまて、ちょっと待ちな坊主」

 

「……はい?何でしょうか?」

 

「聞くだけ聞いといてそりゃぁねーだろ?まさかとは思うが何も買わずにはいさよならってつもりじゃねぇだろうな?」

 

「ふぅむ……また次の機会があればよろしくお願い致します」

 

 そう軽く会釈をして再び歩き出す僕に向けて店主の方は『おいっちょっと待てぇ!』と言っていますがそれで待つ馬鹿はいません。

 

 申し訳ないですがこちらも無一文の身、お金はありませんしどうしても欲しくなった場合は後から正規で買おうと思いますので今回は見送らせて頂きたいものです。

 

 そもそも購入するほどの価値があるのかと言われると違う気もしますしね、暗黒期(この時代)でポーション一つが300ヴァリスなんてありえません。

 

 原作での正規品の価格が1つ500ヴァリス程度な事を思えばあの回復薬の質はかなり低いのでしょう、もしかすると偽物の可能性もあります。

 

 

「あ、【ミアハ・ファミリア】の場所をお聞きするのを忘れていました……」

 

 旅の疲れのせいですかね?まぁ今更戻った所で面倒でしょう。

 かと言って周囲の人達は僕の目出し帽を見て近づいてはくれません。『関わりたくない』と、皆の顔にでています。

 

「やはり怪しすぎますかね?」

 

 かと言って脱ぐのも怖い、もしファミリアに所属する前に“彼女”に見つかってしまえば僕の自由は──。

 

「ねぇそこの君!」

 

 噂をすればなんとやらというやつでしょうね、この世界では初めて聞く、聞きなれた声の方へ顔を向ければそこには空色髪の少女が笑みを浮かべながらこちらに駆けてくるではありませんか。

 

(アーディ・ヴァルマ…)

 

 

 原作や外伝には登場しないソシャゲの周年ストーリーに登場し数々のプレイヤー達を虜にした悲しきヒロイン、文字通り特級地雷少女こと彼女の登場に僕はさっと脚を走らせた────。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「もー何で逃げるかなぁ君は!?」

 

 いや本当にどうしてこうなったんですかね?先程まで笑顔を浮かべながら近づいてきた彼女は今は不満げな顔をしています。

 それにしても近いですね。

 この人パーソナルスペースとか無いんでしょうか?別に構わないんですけど。

 と言うか早くこの場から逃げ出さなければ。

 しかしここで予想外れ、がっしり掴まれた腕によって逃亡は阻止されてしまいましたよ。

 

「……何か御用ですか?」

 

 とりあえず聞いてみる事にしましょうか、用がなければきっとすぐ離してくれる筈です。

 

「いきなり逃げられてびっくりだよ、それに用事ならあるからね?」

 

 意識より先に身体が反応してしまったのだから仕方ありません。

 

「先に言わせてもらいますと決して怪しい者ではありません、少し人見知りなんです」

 

「それは無理があるんじゃないかなぁ、格好も行動も怪しさ満点だよ」

 

「そんな事ないです、とても善良な旅人です。それより僕に何か御用ですか?」

 

 強引に話を切り上げると渋々と言った様子で用件を伝えてくれたアーディさん曰く『怪しいガキがいる』とガネーシャファミリア(憲兵)に通報が入ったらしくそれを受け駆けつけた所僕が目に止まり声をかけてきたと言うわけみたいです。

 

 しくじりましたね、このくらいの格好なら大丈夫だろうと思ってたんですが予想以上に世間の目は厳しかったようです。

 今後はもっと気をつけて行動をしなければいけませんね、これは盲点でした。

 

「君が何を思って顔を隠しているのかは知らないけどそう言う格好をしている人は大体悪い事してる人が多いんだよ?」

 

「否定はできませんね、ですが見た目で判断するのは良くない事だと思いますよ?」

 

「ごめんね、でもこれも仕事だからさ」

 

 困った様に苦笑する彼女を見ているとなんだか罪悪感の様なものを覚えてしまいますね。

 

「わかりました、もうしませんから安心してください。それでは失礼しま……駄目ですか?」

 

「駄目だよ」

 

 腕を離してはもらえない様ですね。はぁ……困りました。

 これ以上怪しまれるのも勘弁ですし大人しく連行されますか、嫌ですけど仕方ないですよね。

 気が重いですが観念するとしましょう。

 

 

「わかりました……抵抗したり逃げたりなんてしません、ですからそろそろ手を離してもらえませんか?」

 

「本当?じゃあいくつか質問してもいいかな?」

 

 素直に従う僕の言葉を聞いてようやく信用してくれたのか腕の拘束を解いてくれました。

 今の僕を傍目から見ればどう見えるのでしょうか?職質を受ける変態?それとも怪しい子供?どちらにせよあまり良い光景では無い気がします。

 ですがこればっかりはちょっとどうしようもないので諦めるしかないのかもしれません、自業自得です。

 

「まずは名前教えてもらえる?」

 

「タクトっていいます。ただの旅人ですよ」

 

「私はアーディ・ヴァルマ、よろしくね」

 

 『知ってます』とは言えないので黙って頷きを返すだけで留めましょう。それから僕らは大通りの隅に移動し事情聴取を始める事になったのですがその内容は主にオラリオへの来訪目的と素顔を見せてほしいとの事でした。

 素顔はまだしも来訪目的については当然ですが彼女相手に正直に答える訳にはいきません。

 

 そこで僕は適当な作り話でその場を乗り切るつもりだったのですけれども運命の女神様はどうやら気まぐれな方らしいようでして。

 

「あ、アーディちゃんだ、こんな所で……あれ?」

 

「あ、久しぶりだねセルティ」

 

「…… oh shit…」

 

 ふと耳に届いたのは女性の名前……そしてその声に思わず顔を向けた瞬間驚愕で声が漏れてしまった。

 

(せ、セルティ!?馬鹿な、どうしてこのタイミングで…)

 

 オラリオの外で出会った正義の眷属は全員で4人、ではない。

 セルティ・スロア、偶然森でモンスターに襲われていたとこを助け、一緒に旅をした5人目の少女。

 

 

「ん?」

 

 何かを察したのか、僕の方へと目を向けた彼女は目を見開きこちらへと駆け寄ってきました。

 

「…君どこかで会った事ない?」

 

 はい、出会ってるんですよ僕達……しかも結構な事をしでかしてまして、主に僕が。

 顔を隠していた1番の理由もそこにありますからね。

 

「いえ、初対面だと思いますが……」

 

 努めて冷静に、動きに動揺が出ないように努力しながら答えたつもりでしたが、その答えを聞いた瞬間何故か彼女の眼は悲しそうなものへと変わってしまいました。

 

 それを見てしまった時正直やってしまったという後悔の念に苛まれましたが、それでもまだ最悪の事態に比べればマシだと思ったんです。

 

「そう……」

 

 顔を伏せてしまった彼女を前に内心おろおろしながらも必死で平静を保ちつつ彼女に気づかれていない事に安堵のため息をつきました。

 けれどそれも次の彼女の言葉で再び凍り付く事となりました。

 

 

「また変な物でも食べたの?大丈夫?気分が悪いとかだったら言っていいんだよ?」

 

「ぇ……」

 

 

……正体がバレてる?何故?もしかしたらカマをかけてるだけかもしれない?

 

 と様々な思いが頭を駆け巡りますが現実は非情なものですね、彼女の顔を見ればわかるじゃないですか。

 完全に確信している顔ですよアレは。

 

「…へ、変な物とは?」

 

「どうして隠すの?私そんなに君に嫌われる事しちゃった……?」

 

 もう手遅れなのはわかっているんですが一縷の望みをかけ誤魔化すべく白を切ってみるべきでしょうか?。

 

 いっそ本当の事を話すべきなのでは?でもそれは今後の展開を考えるとあまりにリスキーすぎるような気がひしひしとするのですよ。

 ここは誤魔化せるなら誤魔化したいところです。

 

「……すみません、お気に障ったのなら謝ります、ですが本当にどこかでお会いした覚えはありません」

 

 嘘をついている手前真っ直ぐに目を見れず俯いてしまう僕に彼女は寂しそうな声色で問いかけてきました。

 

「……私の勘違いなのかな?だとしたら凄い失礼な事いっちゃった、ごめんね」

 

 あああっ!!良心と罪悪感がッ!!謝罪されました!!。

 

  ええわかっていますとも!!自分のやってしまっている事は最低であると!!。

 ですが仕方なかったんです、この歳で責任を背負う覚悟ができるほど僕は大人じゃないんですから。それに子供は嘘に嘘を重ねるものでしょう…?。

 

「だ、大丈夫ですよ、べ、別に気にしていませんからどうか頭をあげてください、こちらも申し訳ないと思っているくらいなんですから本当に、本当に!。それでは!」

 

 

 よし逃げよう。即座に決断すると素早く頭を下げその場から立ち去ろうと振り向いた。

 ここに止まればきっとボロが出る、そうなるとどんな言い訳をしたとしても無意味でしょうから即断するのは当然です。

 しかしそれを許してくれなかったのは他ならぬアーディでした。

 

「はいちょっと待ってね、まだ職質終わってないから逃げるのは後にしてもらえるかな?」

 

 がっちり掴まれた右腕はまるで万力にでも挟まれているかの如くびくともしません、流石は冒険者ですね、文字通りレベルが違うようです。

 

 とは言え諦めるつもりなど微塵もありませんけどね、伊達に波乱に満ちた人生を送ってきたわけではありませんよ、こういう場面の切り返し方もそれなりに心得てますからね。

 

 

 まず手始めに周囲の確認からです。通行人達は突然始まった修羅場のような雰囲気に呑まれてか足を止め興味津々と言った様子でこちらを眺めているようですし上手く立ち回らないと野次馬が増えてしまう恐れがあります、よってこの場でこれ以上の騒動を起こすのは非常によろしくない。

 

 次に逃走経路の確認です、幸い周囲に逃げ込めるような場所があります、薄暗い路地一つ、時期を考えると危険ではありますがこのまま正体がバレるよりはマシかも知れません。ただ残念なことに身体能力の差がありすぎて普通に振り払って逃げられるほどの相手でもないんですよね……つまり詰みです。

 

 

「降参します」

 

 

 早々に白旗を上げて敗北を認めました、こうなってしまってはもはや打てる手は皆無に等しいですからね。まぁいざとなったら泣き落としでもなんでもしてやるくらいの気持ちでいきましょうか。

 

 我ながらなんとも情けないと思いますけどプライドなんて父親の玉袋に置いてきましたので問題ありません。

 

 

「まずは謝罪を、申し訳ありませんでしたセルティ」

 

「謝らなくていいよ、でもちゃんと理由だけは説明してくれるんだよね?」

 

 この口振りだとやはり最初から全部気付いていたようですね、その上で泳がせていたという事で間違いないでしょう。

 

「それは四年前の事ですか?それとも他人のふりをした事についてでしょうか?」

 

「両方…」

 

 当然ですが間違いなく怒ってますよねごめんなさい、立場が逆なら僕だって怒ると思います。

 はぁ、どうしましょうか。

 というか何で気付いたんですかこの子、あの頃とは背丈も服装も違って顔も隠してたのに。

 

「四年前はそうですね、お恥ずかしながら森で迷子になっ──」

 

「あんな事があった翌日にタイミングよく…?」

 

 間髪入れずに言葉を遮ってくる辺り『そういうのいいから』と思ってるのでしょう。

 やっぱり無理ですかね、せっかくここまで平穏無事にやってきたのにまさかのエンカウントイベント発生で終了するだなんて思いもしなかったですよ畜生め。どうなってるんだ僕の運命力ッ!!。

 

「あの出来事は本当にわざとじゃありません、不運な事故です許していただけるかどうかはわかりませんが心から反省しています……」

 

「ならどうして逃げたりしたの?私はあの日からずっと不安で心配だったんだよ、どうしてなのか教えてくれるまで絶対に離さないから」

 

 

 逃げたってバレてますね。

 これはもう観念するしかない。

 ええ分かってますとも、こうなったら洗いざらい吐いて楽になってしまいましょう。

 

 

「わかりました正直にお話致します……実は──」

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 あれは四年前、木々をすり抜ける太陽がジリジリと肌を焼く暑い日の事でした。

 

「セルティ、このキノコは──」

 

「食べたらダメ、毒性のあるやつだからお腹壊す」

 

「こっちの草はどうです、煮詰めてみたら──」

 

「それも食用としてはダメ、薬に使われる事もあるらしいけど飲み過ぎると体の内側から焼かれるような痛みが続いて最終的に死に至る場合もあるみたい」

 

「……なら、この小さな木の実──」

 

「──食べられるけど苦くて不味いし多分好んで食べる人はいないと思う」

 

「そうですか、残念です」

 

 

 無知な僕に色々と教えてくれる少女ことセルティ・スロア、ゴブリンに襲われていたところを助け、友達になり早一ヶ月。

 最初は内気であまり喋ってくれない子だなと思ったものの今ではとても仲良くさせていただいています。

 

 流石は森を住まいとするエルフと言うべきか、薬草や山菜など植物に関しては非常に博識で日々学べることが多いです。

 

「えっと、その手に持ってるそれらを食べてみようとか思わないよね?」

 

「流石にそのような事しませんよ、僕だって命を粗末にするつもりはありませんからね」

 

 そう言うと安堵したように息を吐いていました、余程信用が無いのでしょう僕は。

 

「よかった、また拾い食いするんじゃないかって内心ひやひやしてたから」

 

 そんな事を言いながらホッと胸を撫で下ろすセルティの仕草はとても愛くるしく微笑ましいものです、がそれと同時に少しばかり悲しくなりましたね。

 

「よしてください、その言い方だとまるで僕が常日頃からそん事ばかりしてるかのようなじゃないですか」

 

 酷い誤解だ、いったい何処の誰が好き好んでそんな危ない真似をするのか、僕ほど節度をもって生きてる人もそういないという自負があるというのにひどい風評被害だと思いますよ全く。

 

「でも1週間前に落ちてた木の果実食べてお腹壊してたよね、あれは違うの?」

 

「違います、そもそもあれはセルティも食べていたじゃありませんか」

 

「そうだけど、木から落ちたやつは食べてない、食べたのはタクトだけ」

 

「…うぐっ」

 

「他にも色々思い当たる事がある、虫も鳥もトカゲもカエルも、とにかく目に映ったものは何でも口に入れてた」

 

 言われてみれば……否定できる要素がないですねこれ、それどころか彼女の言う通り最近は調子に乗ってそこら辺に生えてる野草を食べて痛い目に合うことが多かった気が……何故でしょう急に目眩がしてきました。

 

「……ですが虫も鳥も食べる前にしっかり火を通して焼いた物ですし…」

 

「あの時のカエルは毒持ちだった、私が止めなかったらどうなってたかわからない…」

 

 駄目でしたね見事に論破されてしまいました。思えば僕の食生活はいつからこうなってしまったんでしょうか?。

 初めはもっとまともだった気がするのですが…まぁ今気にしても仕方ありませんね。多分、罪人都市での生活が僕の基準を狂わせたんだ。

 そうに違いない。

 それに所詮は子供、三大欲の一つである食欲には勝てないのです。

 

「……わかった?だからこれからは軽率な行動は控えるべきだと思う、もちろん私に聞いてくれれば教えるから」

 

「なるほど、そういう事でしたら納得いたしました。以後気をつけると約束しましょう、それとわざわざ忠告してくれてありがとうございます、セルティのような方が友人になってくれて良かったです、どうかこれからも良き友としてよろしくお願いいたします」

 

「こ、こちらこそよろしくね……?」

 

 そう言って頭を下げると彼女は不思議そうに首を傾げながらも小さく笑ってくれました。ああ、本当にいい子です。

 

 それからというもの時折彼女に助言をいただきながら様々な知識を得ることができました。サバイバル生活で役立つものも多く、独り立ちを視野にいれて行動をしていたのでまさに至れり尽くせりといった状態でしたね。

 

 そしてそんな生活を暫く続けていたとある夜のことです。

 

 

「………」

 

 食欲、睡眠欲と並ぶ人間の三代欲求の一つ、性欲。

 

 落ちている雑誌や漫画の一コマ、果てには親の秘蔵コレクション、ありとあらゆる手段を持ってして満たされなかった衝動を発散。

 

 より強固な精神を、より優れた技術を。

 

 鍛え上げられた集中力は何物をも見抜き、溢れ出す経験値がやがて自身を次の領域へと連れていきます。

 

「……」

 

 ただ、僕の身を置くここは異世界、欲の詰められた聖書などあるわけもなく、いくら手を伸ばそうと手に入らないものばかりで溢れていました。

 

 そんな現実に不満を覚えたある日のこと僕は一つの結論に至ったわけです『そうだ覗こう』と。

 

「……眼福」

 

 一度湧いた好奇心はなかなか消えません。むしろ抑え込んでいた分だけ余計に膨れ上がり大きくなっていきます。

 簡潔に言いましょう、僕の視線の先ではセルティが産まれたままの姿で水浴びをしています。

 

 ここで紳士ならばそっと眼を閉じて謝罪しつつその場を去るのでしょう。しかし残念ながら僕はそこまで聖人君子ではない。

 むしろ性格は悪い方だと自負している。 

 言ってて虚しいですね。

 

「……ただ」

 

 セルティもまだ成長途中…。

 目の保養にはなりますが欲を満たすほどの興奮が得られるかと聞かれれば難しいところですね、やはりここいらで退散するべきでしょうか?そう思い始めた矢先でした。

 

「あ……」

 

 芝生に落としていた視線を上げてしまった時、そこにはこちらへ顔を向けたまま硬直するセルティの姿がありました。

 当然といえば当然の反応ですね、誰だって全裸のままで異性に凝視されたとなれば驚き慌ててしまうものです、()()()()()

 

 輝夜の時と同様に殴り飛ばされるのでしょう。

 自業自得です、別に刺されたって悔いはない。などと考えていたのですが。

 

「……っ!」

 

 あ、あれ……?おかしいですね、他種族と比べエルフは他者との肌の接触などを嫌う者が多いはずなのですが、水浴びを覗かれては憤慨されて殴られるか、悲鳴を上げられるのを覚悟していただけに棒立ちされていると逆に困惑してしまいま・。

 

「責任…とって…」

 

 この後何があったのかは察しの良い皆様の想像通りでして……。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「と、いう事があった翌日に僕は精通を迎えてしまい早朝に怖くなって逃げました」

 

 回想を終えると共に深い溜息が出た、いや本当我ながら最低な奴ですよ全くもって笑えませんよねコレは。

 

 仕方ないじゃないですか、思春期男子の近くにあんなウェルカム美少女がいたなら意識してしまって、いつ過ちが起きてもおかしくはなかったはずですよ。

 だから逃げたのは不可抗力ってやつです。

 

「「最低…」」

 

 二人とも蔑んだ目で見てくる、そりゃそうですよね。

 事情はどうであれ覗かれた女の子を置いて自分だけ逃げてきちゃったんですからね。

 そこは猛省しておりますよ反省してますとも、ですからそろそろ手を離して頂きたいです…痛い痛い抓らないで…。

 

「それで、どうしてまた逃げようとしたの?」

 

「……ファミリア間の結婚って出来ないじゃないですか…だからもしセルティのあの発言が本気だったなら他所属になれば責任関係を解消して普通の友人同士になれるかなと思いまして……」

 

 その言葉に2人は目を丸くしてこちらを見つめている、まさかそんなことを考えていたとは露にも思わなかったのだろう。

 かく言う僕も自分で言っておきながら発言の酷さを再認識しましたが、今更前言撤回するつもりもないわけで、そのまま続きを口にします。

 

「正直もっと遊びたい、子供なんだし責任という重荷を投げ捨てて自由に過ごしたい、という欲には勝てませんでしたごめんなさい」

 

「「……」」

 

 終わりましたね、完全な拒絶まではいかなくてもセルティの性格上僕との関係性は最悪になってしまったに違いない、彼女には本当に申し訳ないことをしましたが…。

 

「……タクトらしいね」

 

 ふと頭上から聞こえた声に顔を上げると何故か少し頬を染めたセルティの姿がそこにありました。おや?てっきり軽蔑されると思っていたんですがどうしたというのでしょうかねこれは。

 

「もしかして怒ってないのですか?僕が言うのもアレですが、覗いたのですよ?それはもう目も当てられないほど隅々まで」

 

「勿論怒ってるよ?呆れの方が強かっただけ……それにあの頃の私達はまだ子供だったから」

 

 

 子供の軽い悪戯として流してくれたということでしょうか?それならばありがたい話ですが彼女の寛容さに少しばかり不安を覚えますよ僕。まぁ何はともあれ今回のことは水に流すということで一件落着みたいですね助かりまし──。

 

「それじゃ皆んなに紹介するから着いてきてタクト」

 

「……え?あの…」

 

「大丈夫、友達として紹介したいだけだから」

 

 何故でしょう背筋に薄ら寒い感覚が襲ってきました、心なしか手を掴む力も先程までと比べて強めに感じるのですが、これ気のせいですかね……?。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、僕にはこの後予定がありまし──」

 

「また逃げるの…?」

 

 目が笑っていない、笑顔でこちらを見る彼女を見て直感した、ここで逃げ出すのは明らかに不味い、下手をすれば更なる追い討ちをかけられ兼ねないと。かと言ってセルティの言う皆んなとはアストレアファミリアの可能性が高い以上、このままついていけば間違いなく修羅場です。なんとしても止めなくてわ。

 

 

「違うんです、本当に用事があるんです」

 

「…用事てなに?」

 

「ふ、古い友人と会う約束をしておりまして」

 

 我ながら苦しい言い訳だとは思いますが実際嘘ではないんですよね。たた順序が変わってしまっただけで元々はそういった理由で来たわけですし。

 

「嘘じゃない…?」

 

「誓って本当です」

 

 断言するとセルティは小さく溜息をついた後、こちらの肩に手を置き真っ直ぐ瞳を覗き込んできます。

 

 ああ、良かったこれで一難は逃れられそうです。

 

「わかった、ならその後に時間作って」

 

「はい、必ずセルティのファミリアに伺わせて頂きます」

 

「うん、待ってる」

 

 嘘はないと確信したのか先程までとは違い、以前のような優しい微笑みを浮かべると彼女はそう言って先に行くように促してくれたので足早にその場を立ち去ろうとしたところ、服の袖を後ろから掴まれてしった。

 

「はい、なんでしょう──」

 

「次会った時にはファミリアに所属している、なんて冗談ないよねタクト」

 

 

 その声を聞いた瞬間背筋が震えるような恐怖を感じたのですがそれも当然で、声の主である少女は先程の微笑みからは想像できないほど不気味な笑顔を浮かべていました。

 

 誰かが言っていました『恋を知ったエルフは厄介だ』と。

 

「………はぃ」

 

 こう答える以外に何が出来ますか?少なくとも今僕に言える精一杯の返答でした。

 

 自業自得なのは承知の上ですが人生こうも上手くいかないものなんですね、きっと今まで積み重ねてきた罪に対する罰なのでしょう…。

 

 その後セルティと別れ逃げるように薄暗い路地へ駆け込んだ僕は頭を抱え途方に暮れていると、ゼェゼェと息を切らせてと怪しげな集団が近寄って来ました。

 

 

(とりあえず隠れましょうか…)

 

 

 今までの経験上、身を潜めるだけではダメだとそばにあった木箱の中に隠れたその時でした───。

 

「おうおう、結構集まってんじゃねぇか。まぁそうなるように追い込んだんだがな」

 

「上出来よライラ!ここでなら市民に被害は出ないもの!さぁ観念しなさい悪党達!」

 

「団長、こうも面倒なことなどせずいつものようにさっさと始末してしまえばいいのでは?」

 

 聞き覚えのある三つの声、どうやら運命の神様は僕のことが嫌いらしいですね……。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 あ、ありのまま今起こったことを話すぜッ!数年越しの旧友との再会に挨拶しましたッ、するとどうですか、僕の目の前に立っていたはずの怪しげな人達は地に倒れ伏し、その側には少女達が立っているではありませんか!。

 

 魔法だとか超能力だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ、純粋な身体能力の暴力を味わいましたッ!!。

 

 

「はぁ……詰みですね」

 

 

 数年ぶりに再会した赤髪ポニテの幼馴染、死別したと思っていたであろう大和撫子、半年間一緒に暮らした小人族(パルゥム)……この都市のエンカウント率はどうなってるんですか畜生め。

 

 

「お久しぶりですね、皆さ──へぐぅっ!?」

 

 そんな再会の言葉を遮るように容赦の無い拳骨、どうやら僕の平穏はまだ遠いようです。この痛みもまた懐かしい気がしますね……。

 

 

「──痛っぅぅ……あ、どうも」

 

 

「……」

 

 

「……えっと、お久しぶりですね?輝夜」

 

 

「……えぇ久しゅうございます」

 

 

 物凄く怒ってますね、その証拠に額に青筋浮いてますし、なにより微動だにしない笑顔が怖いです、これ逃げた方が…いえ、無理ですね。

 

 

「その口調似合いませんね、僕的には以前の様な軽い──いだだだだっ!?ちょっ顔を掴まないでッ、痛いですよ!?」

 

 

「……私は元からこうでございます」

 

 もうっ、ちょっとしたジョークじゃないですか、酷すぎると思いますよ、数年越しの再会にアイアンクローなんて。

 

 

「ぐふぅ…うぅ…いやいや、それは嘘ですよねって、なんなんですかその顔は、冗談にしてはキツ過ぎませんか?まるで汚物をみるような目は流石に傷つきますよ?ちょーっと都市への到着が遅れただけじゃ──」

 

 おっと、僕の隣にあった木箱が二つに割れています、恐ろしく早い抜刀、動作がなに一つ見えませんでした。

 

 

「次ふざけたことを言えば首を落としますので覚えておいてくださいませ?」

 

「き、肝に銘じておきます……」

 

 

 本当に切られる事はないでしょうがそれでも恐ろしいものですね、思わず目を逸らしてしまいました。これが殺気と恐怖ですか、勉強になります。

 

「あ、後ろのお二人もお久しぶりです。元気してました?」

 

 完全に傍観に徹していた二人にも軽く頭を下げておくと、どちらもなんともいえないような表情をしていますね『え、何こいつら知り合い?』みたいな。

 

「……久しぶりだなぁおい」

 

 あ、ライラに腕を組まれましたね、これはあれですかね、よく一緒につるんでいた旧友と偶然街中で会ってついノリで肩を組む的なアレじゃないですか?いやぁ照れますよね〜こういうスキンシップって──。

 

「……あのー?」

 

 なんだか腕を絞める力が増してる気がするんですが?気のせいでしょうか?それに笑顔も引き攣り始めていますよ?やっぱり怒ってますよね、心当たりしかないですよ。

 

 

「てめぇこの数年間どこでなにしてたんだ、おい」

 

「ちょっと待ってライラ」

 

 僕がライラの腕の中から抜け出そうとしていると後ろからアリーゼも同じく腕を組んできましたね、両腕が塞がれてしまいました、なんでしょうかこの状況。

 もしかするとモテ期ってやつでしょうか、困りましたね、今までの行いのせいでこのまま腕が引きちぎられないか心配です。

 

「一応の確認なのだけど2人はタクトと知り合いって事でいいの?」

 

 おや、どうしてでしょう、なんだかとても嫌な予感がします。主に目の前の二人が放つ不穏な空気のせいで……。

 

「あぁ、こいつとはオラリオに来る前に居た都市でな、色々世話してやったってのに金だけ持って何も告げずに姿を消しやがったんだよなぁ?」

 

「止めて下さいライラ、その言い方だと僕が恥知らずの屑みたいになるじゃ無いですか」

 

「……」

 

「いやそんな可哀想なものを見るような目で見ないでくださよ輝夜。あれは事故みたいなものです」

 

「……えっと、否定はしないのかしら?」

 

「はい、否定は出来ないです。ただアリーゼ、あれは仕方がなかったと言いますか、行き違いがあったと言いますかって、三人ともその顔止めましょうよ流石に傷つきます」

 

 そのような蔑んだ目で見られるとか結構凹みますからね?多少自己中心的で寛容的な僕にだって傷つく心はあるんですから。

  

 しかしどう弁解したものか悩みどころですね、流石に『調子が悪く5時間ほどトイレに篭ってる間に、何を勘違いしたのかライラが先走って置いて行かれた』なんて恥ずかしくて言えない、体調もカビたパンが原因ですし。

 

「チッ……まぁいい、とりあえずテメェ今までどこに居やがった」

 

「うーん、話せば長くなるので掻い摘んで言うと旅を続けて人生エンジョイしてました。オラリオもいつか到着すればいっか、と」

 

 

「……そうかよ」

 

 

 ライラは不機嫌そうに顔を背けてしまいました。

 ただ、これに関しては嘘だ、順調に行っていれば流石の僕でも3年前には到着してました、これも全て太陽が悪い。

 数年間追われる身だったなんて言えませんし、特に輝夜に知られれば、将来ベルくんに必須な成長イベントが一つ減るかもしれません。

 

「ライラ怒ってます?僕としては久しぶりに会えた喜びを分かち合いたいのですが」

 

「……別に怒っちゃねぇよ」

 

 そう言ってまたそっぽを向いてしましましたね……どうすればいいのでしょうか?。

 

「んー、あ…そうだ、言い遅れましたがライラ、相変わらず可愛いですよ、それと元気そうで何よりです」

 

「──ッ!!うっせぇバカ野郎!!」

 

「いだっ!?照れ隠しだとしても殴ることはないでしょ…」

 

 

 恩恵持ちのパンチは相手が小人族(パルゥム)だとしても痛い、でも今の感じなら以前のように接しても問題なさそうで──おっと、睨まれちゃいました、まだダメでしたか。

 

「──ふふっ」

 

 あ、アリーゼが小さく笑いましたね、さっきまでのピリついた空気が嘘のように穏やかな表情で笑っていますね。

 

「どうしたんですか、急に笑ったりして」

 

「ううん何でもないわ。ただ少し昔を懐かしんだだけよ」

 

「そうですか」

 

 何か面白いことでもあったんですかね?生憎僕自身は覚えが無いものでしたが嬉しそうなので良しとしましょう。

 

「ええ、さてそれじゃ積もる話もあることだし移動しましょうか!」

 

「はい、はい?あの…アリーゼ?どうして僕の腕を引っ張るのですか?」

 

「輝夜、ライラここの後始末は任せたわ!私達は先に本拠地(ホーム)に帰ってるから!」

 

「え──?」

「「は──??」」

 

 そうして5年越しの再会は終わりお迎え、唖然とする輝夜とライラを置き去りに僕は路地の外へと引きずられて行った。

 





ネーゼは次回登場!。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。