一から書き直してたら遅くなりました!。
再会を果たしたものの、喜びの余韻に浸る間もなく、僕は緊張と怒りが交錯する不穏な空気に巻き込まれてしまった。
険しい目つきで睨んでくる輝夜と、腕を組みながら不満げに顔を背けるライラ、彼女たちの視線に逃げ場もない。
そんな中、突如アリーゼが僕の腕を引っ張り、路地裏から出るようにと勢いよく歩き出したのだ。
「アリーゼ、そんなに急がなくても……」
思わず声をかけるが、返事はなく、僕の抗議もどこ吹く風とばかりに足を速められてしまう。
後ろからは、置き去りにされた輝夜とライラの不満げな声がかすかに聞こえてくるが、振り返る間もなく彼女の引きに合わせて進むしかなかった。
(あれ、身長負けてない…?)
そんなことを考えながら、僕はただアリーゼに手を引かれるまま、街の中を無言で歩いていた。
彼女の指先は温かく、けれどどこか冷たい感触も含んでいて、その不思議な感覚に、何も言えずに引きずられるように歩を進めてしまう。
周りの人々がちらりと僕たちに視線を投げかけているのがわかる。
僕らが少し異質に見えるのか、あるいは彼女の引く手に、何か特別な雰囲気が漂っているのかもしれない。
結局、そんな視線にも気づかないふりをして、アリーゼの後を追うように歩き続けていた。
しばらくして、ついに10分が経とうとしていたとき、僕は意を決して口を開いた。
「あの、アリーゼ?」
わざとらしく、少し間を置いて彼女に声をかける。アリーゼは歩調を緩めることもなく、返事だけを口にする。
「ん、なにかしら?」
振り返ることなく、彼女は軽く答える。その声にはどこか楽しんでいるような響きがあった。
「手を離してくれませんか?」
その言葉に、アリーゼは足を止め、こちらを振り返った。
薄い微笑がその唇に浮かび、その目には、何か挑発するような光が宿っているように見えた
「逃げない?」
「いったい僕が何から逃げるっていうんですか」
「それをいつも言って逃げてたのはどこの誰かしら?」
流石に幼馴染だけあって、彼女は僕のことを熟知している。
以前も何度か彼女の目を掻い潜って逃げ出したことを考えれば、彼女の警戒も無理はない。
それにしても、ここぞとばかりに確信を突いてくるところがまた彼女らしい。
「……それで、どうして僕をここまで連れてきたんですか?」
気づけば、僕たちはオラリオの中央にある広々とした大広場に出ていた。
円形に広がる巨大なスペースには色とりどりの屋台が立ち並び、人々が行き交っている。
歓声や笑い声が響き、空気にはどこか甘く香ばしい匂いが漂っていた。
活気が溢れているというほどではないが、のんびりとした賑わいが広場全体を包み込み、独特の温かさを感じさせる場所だ。
「一つ聞いてもいいかしら……?」
アリーゼは足を止め、真っ直ぐに僕を見つめてきた。
彼女の視線には、ただならぬ鋭さが宿っていて、まるで僕の心の奥底まで見透かそうとしているようだった。
内心の動揺を隠すため、できるだけ柔らかな笑顔を作って返す。
「……えぇ、どうぞ。なんでしょう?」
「あなた、これからどうするつもりなの?」
突然の問いに、一瞬だけ息が詰まった。
どうやら彼女は、僕がずっと避けてきた核心に踏み込むつもりらしい。
冷静さを装って、軽く肩をすくめてみせる。
「そうですねぇ、安定した職について、のんびりと過ごすとか──」
「嘘ね。少なくとも、私にはそう見えないわ」
容赦ない一言に思わず乾いた笑いを漏らした。
「あはは、何を仰いますか。こんなにも誠実さに満ち溢れている僕が、嘘をつくわけないじゃないですか」
皮肉を込めて言ってみたものの、アリーゼは少しも笑わず、半ば呆れたように目を細めてため息をつく。
「あなたは昔から本当に変わらないわね。そうやって誤魔化そうとするところが特に」
その指摘があまりにも的確すぎて、反論の言葉を失ってしまう。
しばらくの間、沈黙が続いた。
図星を突かれたことが悔しくて、内心で舌打ちしたくなるが、表情には出さないように努める。
ポーカーフェイスにはそれなりに自信があったはずなのにどうしてだろう、彼女の前では何もかも見透かされている気がする。
「……どうして、僕が嘘をついているって思うんですか?」
意を決して尋ねてみた。アリーゼは少し考えるように視線をそらし、そして再び僕の目をじっと見つめる。
「簡単よ。あなたの目が笑っていないから。あなた、いつも嘘をつくときは口元だけが笑ってるけど、目は冷たいままなのよ」
アリーゼの静かな声に、返す言葉を探してしまった。
これ以上隠し続けるのは無意味なのかもしれない。
彼女の前では『何もかもをさらけ出してしまったほうが楽なのだろうか?』そんな思いが頭をよぎる。
「今のオラリオは
アリーゼの言葉がまるで針のように鋭く僕の心の奥深くを突き刺してくる。
彼女は冷静な表情のまま、確実に僕の本心にたどり着こうとしていた。
「……」
言葉が喉に詰まり、視線をそらしてしまう。
ここに来た理由を話すべきなのか、それともまだ隠し通すべきなのか、心の中で葛藤が渦巻いていた。
軽い気持ちでこの地を訪れたわけではない。
けれど、それを言ったところで彼女がどう反応するのか、自分でも見当がつかない。
アリーゼはじっと僕を見つめ続け、何も言わない。
その沈黙が、逆に重く、言葉の代わりに僕を圧迫してくるようだった。こんなにも本音を引き出そうとする視線を向けられたのは、いったいいつぶりだろうか。
流石はアリーゼ・ローヴェルというべきか──
大抗争の最中、ただ一人、シル・フローヴァの存在に“違和感”を感じた勘の良さがここでも冴えている。
結局、僕は彼女の前で心の葛藤を隠しきれず、静かに息をついた
「…確かにそうですね。アリーゼの言う通りです。ですがそれはあなたが持つ5年前の僕へのイメージでしかないでしょう?」
僕の言葉に、アリーゼは少し微笑みを浮かべながらも冷静に返してきた。
「そうね。でも私が知ってるタクトは自分の利益にもならないことをするような子じゃなかったはずよ」
「いえいえ、そんなことはないですよ?損得を考えた上で動くことが多いですが、情に流されることもあります。実際、こうしてオラリオにいるじゃないですか」
アリーゼは腕を組んだまま、じっと僕の目を見つめてくる。少し険しい視線に、内心で軽くため息をつく。
「なら聞くけど、あなたにとって今のオラリオで得られるものって何かしら?」
「……はぁ」
あぁ、面倒だ。
そう思いながらも、やはり彼女の前では逃げきれないのだと覚悟を決める。僕は小さく息を吸い込み、思い切って問いを投げかけた。
「アリーゼ…君は物語の結末を変えたいと思ったことはありませんか?」
その問いに、アリーゼはほんの一瞬目を見開き、驚いたように僕を見つめた。そして次の瞬間には、小さく頷いて即答していた。
「あるわよ」
意外にも即答だった。僕は驚きと共に、彼女が真剣な表情でこちらを見つめ返しているのに気付き、内心少しだけ安堵する。
「意外ね、タクトがそういうことに興味を持つなんて」
アリーゼが軽く首をかしげながら、僕をじっと見つめる。
その表情には少し驚きが滲んでいて、彼女にとっても予想外だったのだろう。
幼馴染としてずっと僕を知っている彼女には、僕がこんなことを考えるなんて信じられなかったのかもしれない。
「……別に、バッドエンドやデッドエンドが嫌いというわけではないんです。物語の中で避けられない悲劇や苦悩が必要だということも理解しています。むしろ、そういったものが描かれることに、美しさすら感じるくらいです」
不意に口を開いた僕の言葉に、アリーゼは少し戸惑ったように眉をひそめた。
その反応がどこか可愛らしくて、僕は続ける言葉に微妙に迷いながらも、心の奥にあった思いを少しずつ言葉にしていく。
「えっと……それって、何が言いたいの?」
「でも、時々思うんです。もし、その結末を変えられるとしたら……悲劇を少しでも和らげたり、苦悩を乗り越えられる道があるとしたら、どうなるんだろうって」
自分でも意外なほど真剣に話しているのがわかって、少し恥ずかしくなった。こんなことをアリーゼに話すのは初めてだったし、僕自身も口に出してみて初めて気づくことが多かった。
「と、真面目な話はここまでにしましょうか」
僕は照れ隠しも兼ねて、わざと軽い口調に戻し、笑ってみせた。
アリーゼと話していると、どうしても肩に力が入りがちになるけれど、こうやって冗談めかすのが僕なりのリラックス方法だ。
けれど、彼女の視線は真剣なままで、僕の軽口には微塵も動じていない。
「……答えになってないわよ」
その冷静な返しに、思わず苦笑いした。
「ははっ、別に明確な答えを示すつもりはありませんからね」
「むぅ、タクトの意地悪……そんなに言えないようなことなの?」
アリーゼは少しむくれたように、頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。その拗ねた表情が可愛らしくて、思わず口元が緩んでしまった。
「拗ねないでくださいよ、アリーゼ。別に悪いことではないですから、これ以上は幼馴染を信じるってことで勘弁してください。あとそろそろ手を離してください」
周囲の視線が気になり始め、早くこの場所を抜け出したいのだが、アリーゼはなかなか手を離してくれない。
一体どうしたんだろうかと彼女の顔を伺っていると、彼女は微笑んでこちらを見つめた。
「ふふっ、やっと捕まえたんだから離すわけないでしょ」
「勘弁してくださいよ。幼少期の恋心をその歳まで引っ張らなくてもいいでしょう」
僕が苦笑混じりに言うと、アリーゼはあどけない笑顔を浮かべ、言葉を返してくる。
「引っ張るのが私の流儀よ。それに……久しぶりに捕まえたんだもの、少しぐらいこのままでいさせてくれてもいいじゃない♪」
彼女の言葉に返事をする間もなく、アリーゼは再び僕の手を引き、そのまま歩き出した。
道行く人々がちらちらとこちらに視線を向けてくるのを感じつつ、僕はただ彼女の後に従っていた。
だけど恥ずかしさと、どこかくすぐったい気持ちが胸に渦巻く中で、なぜか彼女の手はしっかりと温かかった。
(……なにがここまで好感度を稼いだのか…)
疑問を抱えつつ、アリーゼの軽快な歩みに合わせて進むと、次第に周囲の喧騒が遠のき、静かで荘厳な雰囲気が漂う一帯に出た。
そこに見えたのは、広い敷地に佇む立派な建物。そしてその前で風になびく、見慣れぬ紋章の旗。
「ここが……アストレア・ファミリア?」
「ええ、そうよ。ようこそ、
アリーゼは振り返り、誇らしげに微笑んだ。その表情は真剣で、どこか穏やかな温かみがあった。
僕はそのまま彼女に促され、息を飲みながら大きな扉の前に立つ。この建物の中で、彼女たちは“正義”を掲げ、数々の冒険を繰り広げてきたのだろう。
アリーゼに導かれ、広い廊下を進むと、さらに奥から賑やかな声が聞こえてきた。
その声に耳を澄ませながら居間へと近づくと、温かな光が漏れ出し、そこには活気あふれるファミリアの仲間たちが集っているのが見えた。
彼らは談笑しながらくつろいでいて、皆どこか和やかな雰囲気に包まれている、その光景に少し気圧されながらも、僕は静かに息を整え、アリーゼの後ろから部屋へと足を踏み入れた。
「皆、ちょっと聞いてくれる?新しく紹介したい人がいるの」
アリーゼの声に、部屋にいた眷属たちが一斉にこちらへと視線を向け、興味深そうに僕を見つめる。
皆の視線が僕に集中する中、どこか疑わしげな視線がちらほらと混ざっているのが分かる。
僕が男性ということもあり、彼らにとってはどこか“怪しい”存在に見えているのかもしれない。
『それじゃ、順番に紹介するわね』と、アリーゼが軽い口調で言いながら、次々と眷属たちの名前を挙げていく。
その中で、僕の視線が一人の少女に留まる。5年前に出会った獣人の少女、ネーゼだ。
彼女は僕を見るや否や、わなわなと肩を震わせている。
懐かしさと緊張が入り混じった表情で、まるで感情がこみ上げてくるのを抑えきれないようだ。
僕が『久しぶり、ネーゼ』と声をかけようとしたその瞬間、彼女は勢いよく僕に向かって飛びついてきた。
「タクト!」
ネーゼが勢いよく僕に飛びついてきた瞬間、受け止めきれずにそのまま後ろに倒れ込んでしまう。
思わず息を飲んで倒れた僕の顔に、彼女の嬉しそうな笑顔が近づいた。
「約束通り、また会えたなタクト!」
彼女の目には涙が浮かんでいるのが見えた。何も言わなくても、彼女がずっと僕との再会を待っていたことが伝わってくる。
「お久しぶりです。また会えて嬉しいですよネーゼ」
その光景を見ていたアリーゼが、少しむくれたように頬を膨らませて腕を組み
『あら、私だって久しぶりに会えて嬉しかったのに』と、少し嫉妬交じりにつぶやいていた。
なんとか体を起こし、ふたりの視線の間で思わず笑ってしまう。
その後、僕は周囲の視線を感じ改めてアストレア・ファミリアの面々を見渡した。
(やっぱ美少女揃いだなぁ…でも5年後には全員ジャガさんに蹂躙されるのかぁ)
アリーゼは腕を組んで少し拗ねた表情を見せているが、彼女の視線の先には好奇心や温かさが滲んでいる。
他の眷属たちは動揺と少しの警戒が入り混じった視線を送ってくる。
「さあ、みんなに紹介しておくわね。こちらが、今回特別に入団の候補に挙げたタクトよ。彼は…少し、
いえかなり変わり者だけれど、信頼できる人だから」
その言葉に、眷属たちの中からも少し笑いが漏れる。中でもネーゼは目を輝かせていて、興奮を隠せない様子だ。
彼女は改めて僕の前に立つと、顔を見上げてにっこりと微笑んだ。
「タクト、私、ずっと待ってたんだぞ。お前が約束を守ってくれるってずっと信じてたんだからな…」
(…これぞ感動の再会だなぁ、うんう…ん?)
ネーゼの言葉に、思わず微笑んでいたが、ふと我に返った。
「えっと…あれ?僕、入団するなんて一言も言ってないんですけど?」
僕の言葉に、居間が一瞬静まり返った。ネーゼは驚いた表情で僕を見つめ、アリーゼも腕を組んだまま冷ややかな視線をこちらに向けている。
視線の先で、セルティが持つ杖が『ギシッ』と音を立てているのが見え、緊張を覚えた。
「タクト、それって、いまさら逃げるつもり?」
誰の台詞か、1人か2人か、それとも3人か。
アリーゼがわざとらしくため息をつき、鋭い目で僕を見据えてきた。
その視線には『逃がさないわよ』と言わんばかりの気迫が込められている。
逃げ道を完全に塞がれている感覚に、僕は内心冷や汗を感じながらも、どうにか状況を収めるべく視線を泳がせた。
「いや、逃げるというか…ね?誤解があるかもしれないんですが、僕はただ再会を…」
「再会だけで済むなら、ここまで来てないでしょう?」
ネーゼが少し頬を膨らませ、逃げ道を塞ぐように僕に詰め寄ってくる。
彼女の眼差しには、これ以上の言い逃れを許さない気迫が宿っていた。
「タクト、あなたの狡さ卑劣さはこれから先絶対に役立つわ!覚悟を決めて、私たちと一緒に戦いなさい!」
『酷い言い草だ』と、反論しようとしたが、視線の先にいるセルティを見て静かに口を閉じた。
「まぁ皆が納得してるわけじゃない事もあるし、とにかくアストレア様を呼んで一度面接してみましょう!受けるわよね、タクト?」
「え、あ…それは」
「受けるよなタクト!」
「…ネーゼ、ちょっと落ち着いてください」
「また逃げるの?」
「………受けます」
アリーゼにネーゼ、セルティのプレッシャーに負け、提案を受け入れた。
セルティが僕の背中をポンと叩き、微笑んで『その調子、その調子』と励ましてくる。だが、その笑顔には少し含みがある気がしてならない。
さらに視線を感じてそちらを見ると、いつの間にか帰って来た輝夜とライラも、興味深げにこちらを見つめていた。
輝夜は腕を組み、じっと観察するような眼差しを向けてくるし、ライラは薄く微笑みを浮かべながら、どこか面白がっているようにも見える。
逃げ場がないことを改めて感じながら、僕はその場に立ち尽くすしかなかった。
次回『恩恵』?