誤字報告ありがとうございます。
正直、どうしてこうなった?と自問したくなる。
僕の目線の先ではアストレア様が堂々と椅子に腰掛けている。
しかも、部屋の隅っこには他の眷属たちが並んで僕を見守ってるっていう始末。
アリーゼに関しては見守るっていうか、完全に
『待ってました』とばかりにニヤニヤしてるのが丸見えだ。
『疲れた…』と内心で叫んでみたところで、もちろん誰も助けてはくれない。
いや、むしろ手ぐすね引いて待ち構えてるとしか思えない。
せめて知り合ってるメンツだけならまだしも、否定派がいないってどういうこと?。
僕は頭の中では、最後の頼みの綱としてリュー・リオンが『異議あり!!』とか、ドラマチックに割って入ってくれる展開を期待してたんだけどね。
そのリューさん本人がいざこざの前に、輝夜とライラにあっさりと押さえ込まれてどこかに引きずって行かれてしまった。
どうして?あの“無口”で“クール”なリューさんがそんな扱いされていいの?。いいか。
で、そうこうしてる間に、僕はアストレア様と向かい合ったまま、緊張に耐え続ける羽目に。
ああ、こんな状況から抜け出したい。
でも、今は逃げ場もない。
唯一あるとしたら、天井に向かって逃亡用の穴でも開いてくれるミラクルか、それとも地面に吸い込まれて消えてしまうマジックくらい…。
僕は何を考えているんだ?…そうだ、疲れてるんだ。
こんな状況で奇跡の脱出劇なんて、冷静に考えればあり得ないに決まってる。
現実逃避にも程があるって自分でツッコミたくなる。
長旅の疲れと転々とする状況に精神が悲鳴を上げてありもしない妄想を展開しちゃってるだけなんだ。
疲れてるんだ、間違いない。
でも我が儘は言ってられない。一度深呼吸して冷静になろう。
そうだ冷静に状況を整理しよう。
もう、この状況に陥ってしまったものは仕方がない。
落ち着いて僕にとって、この状況における利益と不利益を考えてみるんだ。
面接に通った前提で、利益のほうから見てみよう。
1.大抗争での生存率。
・メンバーを厳選して同行すれば、生存確率はかなり高い。確約されていると言ってもいい。
・ 抗争の日には、ガネーシャ・ファミリアと共に任務を受けることになっているから、アーディ・ヴァルマの運命にも影響を与えやすい。
これは、僕の目的を果たす上で大きな利点だ。
2. 親しみやすい環境
・構成員が女性ばかりとはいえ、その半分は幼馴染に友人、さらには旅を共にした仲間たちだ。
おかげで、普通にやりやすい空気はある……はずだよな?。
こうやって整理してみると……かなりいい感じじゃないか?生存率も上がるし、知り合いばかりだし、思った以上に悪くない……。
でも……ちょっと待てよ。そんな上手い話があるか?世の中、得ばかりの状況なんてないはずだ。
ここで不利な点もよく考えてみよう。
1. 大抗争のメインシナリオに絡む。
・格上との戦闘回数が多いことに加え、毎度死地に飛び込む覚悟が必要になる。
2.ジャガーノートの脅威。
・ジャガーノートに蹂躙される未来が待っている。
しかも原作でベルくんが戦った個体よりも強いときた。
正直、魔法反射のギミックを知っていたとしても勝ち目はない。
これも致命的なリスクだ。
3. 町の治安維持活動。
このファミリアに属する以上、日常的な治安維持活動も義務となる。
場合によっては、些細な事件や騒動にも駆り出される可能性があり、戦闘以外でも厄介ごとに巻き込まれる機会が増えそうだ。
これが成長の機会となればいいが、どちらかといえば負担が大きい気がする。
こうして整理すると確かな不利益がある……あるんだけど…。
大抗争については元から乱入を考えてはいたし…。
同行するメンバーを厳選すれば、ヴァレッタやエレボスを避けられる。
18階層での対アルフィア戦も、輝夜と共にヴィトー戦に参加すればいい。
ジャガーノートに関しては、そもそも30階層へ行かせなければいいだけで…。
最悪他のファミリアが犠牲になっても、魔石を内蔵してないから数日で寿命を迎えて灰になるし。
30階層まで救援依頼で行けるのなんてアストレア・ファミリア以外だと、
ロキかフレイヤのどちらかだろうし、うまく情報を流しておけば、被害を最小限に抑えられるかもしれない。
治安維持に関してはアリーゼに頼み込めばうまく調整してもらえるかもしれない。
こうして見直すと、不利益がないわけじゃないけど、なんだか意外と何とかなりそうな気がしてきた。
冷静に対処すれば、利益のほうが上回るかも。
そもそも、僕は男子禁制と聞いていたから、アストレア・ファミリアなんて最初から候補外だったんだよな。
実際、僕自身もそれを前提にいろいろと考えていたわけだし『あり得ない選択肢』って思ってたからこそ候補から省いていたんだけど……。
でも、こうして状況が変わってみると、男子禁制の壁があっさりと崩れてしまったわけで。
なんだか今さら『断る要素なくない?』と戸惑ってる自分がいる。
「それじゃあ、面接を始めようかしら?」
アストレア様の声で、ふっと現実に引き戻された。ああ、そうだ、今は彼女の前で正式な面接中だった。
深い思考に入り込んでいた僕は、少し焦りつつも姿勢を正す。
「まず最初に、強引に連れてこられたみたいだけど、あなたの意見を聞きたいわ。入団の意思はあるかしら?」
アストレア様の静かな眼差しに見つめられ、真剣な質問が投げかけられる。そしてその言葉が耳に届いた瞬間、僕の口はなぜか反射的に動いていた。
「入団したいです」
あまりにも即答すぎて、言葉が自分でも驚くほどはっきりと響いてしまった。
目の前のアストレア様が少し驚いた表情を浮かべ、その隣の眷属たちも、口をぽかんと開けて僕を見ている。
部屋全体が、時間が止まったような静寂に包まれた。
「あら、嘘がないわ…」
アストレア様が、驚いたように僕を見つめたまま、ぽつりとそう呟いた。
その反応に僕も少し照れくさくなって気まずく視線をそらしながら応じる。
「はい、嘘偽りなく」
そう答えた瞬間、周りの眷属たちは一層驚いた顔でこちらを見ている。
いや、そんなに驚かなくても。
ちょっと心境に変化があったんですよ、それに決して嘘じゃないんだから。
少しの沈黙が続いたあと、アストレア様が柔らかい笑みを浮かべて僕を見つめる。
「そう。なら、ようこそアストレア・ファミリアへ…と言いたいところだけど、まだ面接の途中ね」
その言葉に場の空気が少しほぐれ眷属たちもクスクスと微笑む。
それから、アストレア様は真剣な眼差しに戻り、僕の覚悟を確かめるように再び質問を続けてきた。
「では、まず一つ目の質問よ。何故、あなたは
その問いを投げかけられ、僕は一瞬考え込む。
思えば、ここまであれこれ理由を考えてみたものの、実際にどう答えるべきかとなると、急に言葉が浮かんでこない。
しかし、ここでつまらない理由を言うわけにはいかないし……。
そうだ、僕が本当に思っていることを正直に話せばいいんだ。少し息を整えて落ち着いて口を開く。
「オラリオの未来のためです、
そう答えた僕の言葉に、アストレア様も他の眷属たちも少し目を見開いた。
嘘は言っていない。
色々やりたいことをするにはアストレア・ファミリアが最善ですし。
本当のところ、僕はただ原作にないストーリー展開を見たいだけなんだ。
だけどアストレア・ファミリアが生存すれば、間違いなくオラリオの未来にも大きな影響を及ぼすだろうし、それは本当にオラリオにとっても大きな利益になるはずだ。
だから嘘はない。
「そう……オラリオの未来のため、ね」
アストレア様は、僕の目をじっと見つめる。
その優しさと厳しさが同居した視線を受けながら、僕は自分の選択が間違っていないことを改めて心に刻んだ。
「では、二つ目の質問よ。あなたはどうして冒険者になりたいと思ったのかしら?」
アストレア様の問いかけに、僕は一瞬言葉に詰まる。
明確な答えは心にあった。
上に付け加えるなら『悲劇的な未来を変えつつ、お金を稼いで豪遊したい』だ。
これが僕の正直な気持ちだ。
ただ、こんなことを素直に言ったら、アストレア様やアリーゼ達がどんな顔をするか想像できてしまう。
「そうですね……」
だからこそ、ここはもう少しマシな答えを考えないといけない。
自分の気持ちをもう少し建前で包みつつ、嘘にならないギリギリの範囲で…。
「長く旅を続ける中で、いくつもの出会いがありました」
僕は少し間を置いてから、続ける。建前として話しているとはいえ、嘘ではない気持ちだ。
「──腕っぷしは強いのに、心がどこか不安定で支えてあげたくなる人。
──狩りも踊りもどこかぎこちなくて、つい手を貸したくなる人。
──厳しい環境で育ちながらもひたむきに生きている姿を見ると守りたくなる人。
──孤独を感じているようでそっと手を伸ばしたくなる人。
──予知夢を周囲の皆に『妄想』と無視されていた弱々しい人…」
ひとりひとりの顔が思い浮かんでくる。そばに立つ何人かが小さく声を上げたが、気にはしない。
出会ってきた人たちのことを思い出しながら、僕は自然と視線を落とした。
「……そうした人たちと過ごしていく中で、僕自身ももっと強くなりたいと思うようになりました」
建前として話しているけれど、限りなく近しい本音。
「困難や危険に立ち向かう力があれば、僕の手が届く範囲で、その人たちの未来を守ることができるんじゃないかって。だから、冒険者になって、もっと強くなって……大切な人たちを少しでも助けたいんです」
我ながら詐欺みたいな話だな、と思いなが場の雰囲気がぐっと真剣になったのを感じた。
何故か皆が妙に真剣な顔してこっちを見ている。
アストレア様は目を細めて優しく微笑んでいるし、横にいるアリーゼたちもどこか感動したように僕を見つめている。
いやいや、待ってくれ。
これはあくまで建前で、少し脚色を加えた話だってのに……まぁ、嘘はないけどさ…。
『他人ならまだしも、友人が死ぬのは嫌だ』くらいの話ですよ?。
もう少し軽く話しておくべきだったか?そうすれば、こんなに真剣な空気にならずに済んだのに……。
気まずいけどボロが出ないように平静を保っておこう。
「素晴らしい考えね、あなたのその想いがあれば、きっと仲間たちも力強く支えてくれるでしょう」
アストレア様が微笑みながらそう言うと、アリーゼたちもさらにうなずいている。
なんか、僕の想像以上に話が大きくなってしまっている気がするんだけど、これはもう引き返せない。
「それじゃあ、最終的な確認として、もう一つだけ質問させてもらうわね」
アストレア様の真剣な表情に戻るのを見て、僕は心の中でこっそりとため息をついた。
果たして次はどんな質問が飛び出すのか…。
頑張ろう。
「貴方にとっての正義とは何かしら?」
アストレア様の問いかけに、一瞬迷ったものの、僕はシンプルに答えることにした。
「集団です」
そう答えた瞬間、アストレア様は少し驚いたように目を見開き、周りの眷属たちも一瞬戸惑った表情を浮かべた。
けれど、僕としてはこれが一番しっくりくる答えだ。
「1人では勝てない巨悪だって、仲間が集まれば打ち負かすことができる。それが僕にとっての正義です」
そう言い切りながら、心の中でこっそりと付け加えた。
前世で見ていた特撮ヒーローたちだって、5対1で敵を囲んで戦ってたし。敵を囲んで、みんなで殴る蹴る…。
文字にするとなんだか正義の味方っていうよりも、ただの集団暴行っぽい気もするけど、まぁ、巨悪が強すぎるから仕方ないよね。
そんなことを考えながらも、アストレア様の前ではあくまで真面目な顔を装っていると、彼女は再び優しく微笑んで頷いた。
「そうね、みんなの力を合わせることで、より強く、より正しく進んでいける。それがあなたの信じる正義なのね」
その言葉に周りの眷属たちも微笑み、僕の考えに賛同してくれているようだった。
ちょっと複雑な気もするけど、こうして受け入れてもらえたなら、それでいいか。
この面接もいよいよ終わりが見えてきたんじゃないか……と安堵しかけたその時、アリーゼが勢いよく前に出てきて僕の肩をポンと叩く。
「ふっふっふ!タクトがこんなに熱い正義感を持ってるなんて、私も改めて感動しちゃったわ!これから一緒に戦うのが楽しみね!」
僕が思わず苦笑いを浮かべる中、隣にいるネーゼも少し微笑みながら僕を見つめている。
感動しているアリーゼの顔と比べて、ネーゼの目にはどこか鋭さが残っている気がするけど、きっと気のせいだろう……たぶん。
「それじゃあ、タクトも私たちと一緒にオラリオの平和を守っていくんだね」
セルティが嬉しそうに言い、僕の背中をポンと叩いた。
「ええ、よろしくお願いします」
『まだ合否はわからないんですけどね』とそんなことを考えていた僕に、アストレア様が優しく告げる。
「これで面接は終了よ、タクト。あなたを歓迎するわ。今日からアストレア・ファミリアの一員として、どうかよろしくお願いね」
その言葉に周りの眷属たちが拍手で迎えてくれる。無事受かったことに安堵し、軽く頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いし…ます…?」
みんなの拍手が続く中、僕はふと頭がぼんやりしていることに気づいた。
ここまでの緊張や、これからへの不安、そして長旅の疲れが一気に押し寄せてきたみたいだ。
「あれ、なんか……」
視界がゆらりと揺れたかと思うと、足元が急にふらつく。
気力で立っていようとしたけれど、体がまるで言うことを聞かない。
『あ、これはまずいかも』と思った時には既にその場に倒れ込んでいた。
「タクト!?」
アリーゼの驚いた声が響く。
すぐに駆け寄ってくる気配がして、ぼんやりした視界の中でアストレア様や他の眷属たちの顔が心配そうにこちらを覗き込んでいるのが見えた。
「だ、大丈夫…です…少し……疲れ…」
力なく言葉を絞り出しながらも、意識がどんどん遠のいていく。
無理もないよな……まだ長旅が終わったばかりだ、ここまで倒れなかった自分をよく頑張ったと思う。
最後にアストレア様の優しい表情が見えた気がして、そのまま僕の意識は闇の中に沈んでいった。
◆◆◆◆◆
目が覚めた時、部屋の中は深い闇に包まれていた。
どうやら夜もだいぶ更けた頃のようで、窓の外には月のかすかな光が差し込んでいる。
少し体を動かそうとすると、布団の柔らかな感触が身を包んでいることに気づく。
どうやら寝かされたまま、アストレア・ファミリアの誰かの部屋で休ませてもらっていたらしい。
「……」
ぼんやりとした頭を振りつつ、体を起こそうとすると、すぐそばに人の気配があった。
目を凝らしてみると、ベッドに輝夜が腰掛けていた。
暗闇の中でも、彼女の整った横顔がはっきりと見える。
ただ、その眼差しは僕の方を向いているものの、どこか遠くを見ているようにも感じられた。
「「……」」
しばらく、二人の間に静寂が流れた。
眠気が抜けていくにつれて、なんとなく、言葉にしがたい緊張感が場を支配しているのがわかってきた。
そんな中、輝夜がぽつりと呟くように口を開いた。
「……何故、もっと早く来なかった…」
その言葉が静かに、しかし重く響く。暗闇の中で、彼女の瞳は僕にまっすぐ向けられている。
僕は笑ってみせたものの、その笑顔が輝夜には通じないことは明白だった。
彼女の眼差しは、揺らぎなく僕を見据えている。
きっと今の輝夜には冗談やごまかしは通用しない。
「……それで、本当に済むと思っているのか?」
輝夜の低く抑えた声が静かに響く。
彼女の言葉には怒りや悲しみ、そしてどこか諦めのような感情が混じっているのを感じた。
「……輝夜」
名前を呼びかけたものの、どう答えればいいのかもわからないまま、言葉が消えていく。
輝夜の言葉が静かに、しかし鋭く胸に突き刺さってくる。
「お前を探して谷を降りた。だが、死体は見つからず、あったのは血痕だけだ」
その言葉に僕は息を飲む。
彼女の視線は暗闇の中でも鋭く、逃れることなどできない。
何も言えずにいる僕に、輝夜は続けた。
「周囲を探してもお前は見つからず、生きていると考えた。オラリオに向かえばまた会えるだろうと思い、ずっと待っていた」
僕は目をそらしたくなった。
彼女の声に含まれた痛みが、僕に鋭く響いてくる。
待っていた?あの輝夜が、ずっと僕のことを?。
「だが、お前は来なかった。一年、二年と経つうちに、だんだんと疑念が芽生えてきた。もしかしたら、あの時モンスターに食い荒らされて、もう跡形もなくなっていたのではないか、あるいは私が見つけられなかっただけだったのではないかと……」
その言葉の中に、どれほどの思いが込められているのか、痛いほど伝わってくる。
輝夜にとって僕の失踪はただの別れではなく、ずっと引きずってきたものだったのだろう。
「わずか二ヶ月程度の付き合いだったが……私にとっては……」
輝夜は言葉を途切れさせ、息を飲み込むようにして目を伏せた。
彼女がどれだけの感情を抱えてここにいるのか、僕にはもう逃げ道がないのだと悟らされる。
輝夜の言葉を聞きながら、自分が彼女にしてしまったことの重さを改めて実感していた。
彼女の幼さを利用して輝夜の心に踏み込んでしまった。
その強さと孤独を知ってしまい、その寂しさに気づきながらも、僕は何もかも投げ出して姿を消してしまった。
彼女の心を故意に覗き込んでしまったツケが、今になって僕に返ってきている。
自分に素直でいられない彼女だからこそ、あの短い時間の中で築き上げた信頼や感情は深いものだったのだろう。
「輝夜……」
名前を呼んでみたが、彼女の鋭い視線はまだ僕を捉えて離さない。
彼女の瞳の奥には、怒りと悲しみ、そしてほんの少しの期待が混ざっているように見えた。
彼女はそんな自分の感情を隠そうともせず、ただ静かに言葉を続ける。
「わずか二ヶ月の付き合いだったが……私にとっては、ただの出会いじゃなかった。お前が私の心に踏み込んだなら、最後まで付き合う覚悟を持つべきだったんじゃないか?」
その言葉に、僕はぐっと胸を締めつけられる思いがした。
彼女の言葉はまっすぐで容赦がない。
僕が何も言えないでいるのを見て、輝夜は小さくため息をつく。
「……それで、今さら戻ってきたお前は、どう答えるつもりだ?」
彼女の問いは、僕に本当の覚悟を問うているようだった。
輝夜の問いに、僕は一瞬迷いながらも、もう一度小さく微笑んでみせた。
ここで重苦しい顔をしていても仕方がない。
せっかく再会できたんだ。彼女の怒りや悲しみを晴らすには、まず僕が明るく応えなければいけないような気がした。
「全部輝夜の言う通りだ。だから、これからちゃんとそのツケを払わせてもらうよ」
そう言って、輝夜の目を真っ直ぐに見つめる。彼女は驚いたように僕を見返し、口元が少しだけほころんだ。
「……そうか。なら覚悟しておけ、私はいつもやりすぎてしまうからな」
「……ははっ。君がそれを、でもいいね。うん、輝夜に失望されないよう頑張るよ、どんなに巨大な壁でも今度は2人で乗り越えようか」
僕の軽口に、輝夜は小さく肩をすくめてため息をつく。
そして、少し笑いながら、ぽんと僕の頭を叩いた。
「貴様というやつは本当に……昔から、そうやって人の心にずかずか入り込む」
「それが僕の特技だからさ。怒られそうになったら、こうやって笑って逃げるのが得意技なんだよ」
すると輝夜は、少し呆れたような顔をしつつも、笑いをこらえるように口元を手で覆った。
「……仕方のないやつだ」
二人の間にあった沈黙と緊張が、いつの間にか消えていた。
どこか張り詰めていた空気が和らぎ、まるで昔に戻ったような感覚が僕を包む。
輝夜の微笑みが、やけに懐かしく、そして温かく感じられた。
「これからは、ちゃんと僕がそばにいるから。約束するよ」
僕がそう言うと、輝夜は頬を少し赤く染めて、照れ隠しのようにそっぽを向く。そして、静かに呟いた。
「……戯け者」
その言葉には、少しの苛立ちと、どこか優しさのようなものが混じっているように感じられた。
僕は彼女の肩越しにその表情を見ようとしたが、彼女は微妙に顔を隠すようにして視線を合わせてくれない。
「そうかもしれないね。でも、僕はこれからもこうやって戯けたままでいるよ。それが輝夜を笑わせられるならね」
そう言うと、輝夜は一瞬だけこちらをちらりと見て、再びそっぽを向いた。ほんの少し、頬が赤くなっているのが見える。
「……それ以上余計なことを言うな」
その声はぶっきらぼうだったけれど、僕には彼女のほんのりとした微笑みが見えた気がした。
◆◆◆◆◆
早朝からファミリアの全員が居間に集められ、僕はアストレア様に
背中に刻まれた紋様が徐々に熱を帯びる感覚を覚えながら、僕は期待と緊張を抱いて待っていた。
やがて恩恵の刻みが終わり、アストレア様が静かに告げる。
「タクト、あなたには魔法とスキルが一つずつ発現しているわ」
魔法とスキルが一つずつ発現していると聞いて、思わず顔がほころんだ。
スキルだけならともかく、まさか魔法まで手に入れるなんて。
これは前世でアニメや漫画を読み漁っていたおかげだろうか? 魔法に対する知識やイメージが豊富だからこそ、発現したのかもしれない。
大抗争に備えて、多少無茶をするつもりでいたけれど、魔法とスキルがあればいい後押しになってくれるかもしれない。
そんな期待に胸を膨らませていると、アストレア様が少し気まずそうに僕へステータスの写しを手渡してきた。
「……まじ?」
ステータスの内容を確認した瞬間、思わず頭を抱えた。
目を疑いたくなるような魔法の効果と、最悪なスキルの説明欄に期待に満ちていた気持ちは一瞬で崩れ去った。
【
次はライラかネーゼか、それともセルティか。
それとも他の団員か…。