Beginning of MAHAartMATA 作:葉隠小太郎
この世界には今の科学技術を結集しても解明できない謎が存在する。
其れ等は過去の古代文明を滅ぼし、忘却するほどの危険性を秘めていた。
だが此等を狙う者達は多い。
様々な権力を持つ者たち。
自身が優勢種と疑わぬ者たち。
そんな者達から。
【そう言って、祖父は枕元で深く永遠の眠りについた】
現代
中東
シリア国内
広大な砂漠が広がる地域に全く似つかわしくない大所帯が何かを探すように辺りを掘り返しては埋めるを繰り返す。
アラブ系の男達は闇夜に照らされる投光器を頼りに砂塵をかき分け、深く掘り進める。
『急げ!夜明けまで後6時間だ!!』
手を止めようとする者へ咎めるように手にしている小銃の銃口を向けて催促を行う。
胸部部分を守る為のプレートキャリアに暗視装置付きのヘルメット。
現地で手に入れられるであろう7.62mm×39弾を使用できるネイビーグリーンカラーの
傭兵。
この大規模採掘に駆り出された警備員であろうその物々しい雰囲気には作業を続けている者達の不安感を煽っていた。
『此方Bot5。"大外れ"だ』
『了解、後
無線機越しに伝えられた報告に、バラクラバ越しの頬が憎たらしさを思うように引き攣る。
彼等の依頼主、其れから齎された情報から場所を特定するのにも多くの面倒事を抱える事となった。
故に彼等は情勢不安定な独裁国家へ多額の献金と地元住民への雇用を条件にこの業務をまとめたのだった。
しかし、彼等及び依頼主の掘り出そうとしている物を知れば恐らくと曖昧な言葉を必要としない事柄を起こすであろう。
そう、彼等の手に入れようとしている物は
『……ん?』
1人の傭兵が作業員達が何かを見つけた様子を目に収める。
『何だ?硬い物があるぞ?』
『なに?』
『ここか?』
手にしているスコップで砂の中を刺し、一際異なる頑丈な物の感覚を掴みながらその周りを巡っては掘り進める。
一つ一つ、掘っては出てきた所を払い落とし、埋まっていた代物が何なのか、その全容を明らかにしていく。
『…此れは"棺"か?』
砂の中から出てきたのは大の大人が3人は並べるほどの横幅と3mはある縦幅の巨大な長方形の箱であった。
警備員の1人が掘った穴へ滑り込むように降り、胸ポケットの中からペンライトを取り出す。
小さいながらも強い光源を放つライトを照らし、箱の側面に彫られている文字を確認し、顔を上げた。
『よし!クレーン車を呼んでこい!コイツを引き上げるぞ』
目的の物と一致し、警備員の指示の元、付近に止められていたラルテレーンクレーン車が動き始める。
下ろされたフックに箱の四隅をワイヤーで固定し、持ち上げるように指示を示す。
徐々にフックのワイヤーが引っ張られ、長年積み重なったであろう砂や土が空を舞って霧のような埃を生み出す。
箱の大きさから中に入っているのが王族か何かを思わせるもののシンプルな造りとその装飾の少なさから別のものを想像させる。
『あの中身は何なんだ?』
『知らん。知りたくもない』
警備員の1人が同僚と聞かされていない内容について問うも、触らぬ神に祟りなしとその顰めた顔をそのままに警備を続ける。
此れが何であろうとも、中身がどんなものであろうとも給与が変わることはなく、知らなければ幾らでも知らばっくれる事が出来るうと考え、敢えて見ない様子を示す。
それが傭兵として生き長らえるコツと考えていた。
一方で、クレーンに運搬されている箱は貨物輸送を主とするトレーラーに載せられ、ワイヤーを外し、固定用のベルトで揺れ動かぬように括り付けていく。
荷物を確保した警備員達はリーダーらしい人物に集められ、整列を手信号で指示。
即座に自動小銃を下げ筒で構え、背筋を伸ばして整列が成された。
『ラタキアまで120km以上離れている!警備員は速やかに輸送車に乗り、向かうぞ!!』
『『『『『イエッサー!!!』』』』』
短的に指示を飛ばし、警備員達が直ぐ様他のトラックへと乗り込んで行く。
その様子を作業員である現地民は呆然と見る中で。
『……掃除開始』
断続的な発砲音が響き、瞬く間に人々は凶弾に倒れ、物言わぬ屍となって転がっていった。
その後、この場を去るようにトレーラーやトラック、軽装甲機動車等の車列が作り出され、2時間近くの陸路を進んでいく。
地中海沿岸にあるシリア主要港である街、ラタキア。
古くは古代ローマ時代に活動していた地理学者〔ストラボン〕から「ラオディケイア(ラタキアの別名)は立派な都市で良港に恵まれ、豊かな土地である」と評されている。
当時ローマ、ギリシャが消費していたワインの主原料であるブドウも生産され、当時の建築様式の古代都市も発掘されていた。
現在でもシリアの農産物の流通に利用されており、生産された小麦やその他の貿易拠点である。
《此方Bravo6。ターゲットを発見。
「…了解。こちらもエリアに突入します」
《
色様々に塗られたコンテナ群の中の一つ、扉の開かれた内部から1台の黒いバイクと其れに乗る者が1人。
フルフェイスのヘルメットとライダースーツを着け、自身の正体を知らせない姿をしている。
「………フルスロットル」
アクセルを全開にし、電動式エンジンがモーターを回し、一気にトップスピードまで昇る。
後部タイヤの摩擦で起きた煙を上げながら走り出し、蜘蛛の巣のように張り巡らせた通り道を縫うように駆け抜ける。
バイクを走らせて数秒、遠くから響いた爆発音を頼りにバイクの細かな制御を行い、爆煙による視界不良の中を通っていく。
『何が起こっている!?』
『攻撃だ!!?』
ヘルメットのバイザーに表示される人影を抜け、気が付いた傭兵には後部タイヤによる打撃が御見舞され、一瞬で夢の中へと落ちた。
『何かが煙の中にいる!?』
『待て撃つな!?』
乗り手に気が付いた傭兵が小銃を構えようとするも、深い煙の中で無闇に撃てば同士打ちになりかねない。
一部パニックに陥った傭兵が乗り手に向けて発砲をした瞬間、瞬時にスピードアップした事で当たることなく、他の傭兵へとフレンドリーファイアを起こしてしまう。
僅か数分の間、煙が晴れるまでその場の傭兵達が全員泡を吹いて突っ伏した頃、タンカーへ積む様に置かれていた発掘物である"箱"にライダーが迫っていた。
《射程圏内到達》
骨伝導タイプの無線機から声が響き、乗り手はバイクに搭載していた装置を箱上部にセットする。
《敵影補足》
バイザーからアラートが鳴り、上からの攻撃をバイクを持ち上げ、前輪で受け止めた。
金属音がけたたましく響き、強い衝撃が起こる中、上部からやって来た襲撃者が地面へ着地する。
「…成る程。単騎でやって来るだけある」
刃を鳴らす。
「
襲撃者は両腕を機械化させたサイボーグである。
鉄製のコンテナを容易に引き裂く鋭利な爪を搭載し、人体では不可能な可動領域を持つ義碗は大口径のライフル弾すら弾く剛性を誇る。
《…対象、
男の情報が流れる。
この事からアメリカも関わっていると推測できた。
「さて、それは我が国が納めておくべき代物だ。大人しくしてもらおう」
随分と手前勝手な事を申する軍人と評しながらバイクのアクセルを吹かし、電子制御のエンジンを鳴らす。
其れが所謂、
直ぐに暴れ馬のごとくバイクをウィリーさせ、前輪を大尉の顔面へと突き出した。
「良かった。私も退屈していましたから!!」
大尉の顔が上機嫌な様子でニヤリと歪ませる。
カチカチと義腕が最適な状態に組み上がり、目まぐるしいスピードで振るわれる。
「……!?」
「驚きますよね!これでもフィジカルでも強いですよ!!」
爪ではタイヤは傷付かない。
しかしマニュピレーター部分の頑強性も高く、高速回転をする前輪を真っ向から受け止める膂力には並大抵の物ではない。
故にライダーが取った行動は1つ。
「おっと!!?」
腰に備えていた
3連バーストに設定された拳銃はそのまま9mmパラベラム弾を発射、咄嗟に腕でガードし、火花を散らす。
この射撃によって片腕しか使えない状態になった事を機に、後輪のアクセルを振り絞った。
「しまっ…!?」
大尉はバイクの持つ出力に耐え切れず、横へ飛び退き、危うく頭をはち切れかける所であった。
ハウザーの顔も思わず引き攣った様子を見せ、一旦は飛び退いては体勢を整えることとする。
「………」
ライダーの様子を伺う。
フルフェイスヘルメットと黒のライダースーツからでは全体像を把握しようにも悟らせない様に情報の殆どを見せない工夫がなされている。
(…フォルムから見ればある程度成長した"女"らしいが?)
自身の両眼の義眼から読み取った情報では青年期から妙齢期に達している女と思われるも。
(…しかしあのバイクの重さを考慮しても相当な筋力が必要になるのだが…?)
大の男でも苦労しそうな重さと考えられる超高性能バイクを手足感覚で器用に動かせるテクニックに、単なる曲芸とは思えない実力が垣間見える。
故に。
(楽しくなってきましたね)
戦う事を生業としてきた軍人の血が騒ぐ。
両腕を喪い、汎ゆる実験を繰り返しながら今ここまで生きてきた兵士としての感情はまるで意中の人に会ったかのように打ち震えていた。
「……さて、そろそろ貴方の声を聞かせてもらいましょうか?」
爪が鳴る。
ある種、狩りを始めるルーチンワークめいた行為を示し、ライダーを挑発する。
高周波ネイルブレードとして設計された爪は単分子の間を振動で縫って切り裂く代物。
バイクが放つ周波数で無効化されているもライダー自体にはその切れ味は変わらない。
其処で狙い目はライダーの首。
如何に鍛え上げられようとも、柔らかな肉と骨の切った時は面白い感触が楽しめる。
それが楽しみでこの武器を選んだと言っていい。
ハウザーの口角が妖しく吊りあがる。
まるで三日月を模した剣を携えているように。
「…………」
両者一瞬の間にとてつもない静寂が出来る。
夜明け前、本来誰も居ない筈の港で会うことは無かった筈の2人というシチュエーション。
ある種の奇跡的な環境に、思わず身体も揺らしてしまいそうな心躍る状態を抑え、ハウザーは何時か来るであろうその時を待つ。
"鯉口を切る"。
殺陣に於ける抜刀を意味する其れは、互いの得物で攻撃をする事。
ライダーがアクセルをフルスロットル、巨大なバイクが持ち上がり、多くの障害を乗り越えてきた破壊力のあるタイヤがハウザーを襲う。
対し、ハウザーもまた切る事の出来ないタイヤや車体に狙う事は絶対にしない。
如何に特殊合金で重ね合わされた超硬素材とはいえ、分厚いタイヤによる摩擦力等で切れ味が極端に薄れてしまう。
摩耗すればバイクを破壊するおろか、ライダーに一刀入れることも難しくなるだろう。
そうならない為には唯一つ。
(…もう攻撃のタイミングは見切った…!!)
交差する瞬間迄を回避に回し、何処かの部位を切り裂く事。
一番の目標は背中。
バックパックの類が収納されていた場合、それを破壊すれば優位に立つことが出来る。
相手の武器が振るわれるまでの一瞬の間に、其れだけの情報を処理しながら、自身の爪が届く範囲迄を見極める。
コンマ1秒の時が一刻一刻流れ、狙い目の瞬間を待つ。
(……ん?)
しかし瞼を少し閉じてしまった最中にバイクからライダーの姿が見づらくなる。
視覚領域において、物と物が重なり合わさると点や線でしか視ることが出来なくなるケースがある。
運転教育の場合ではこれを蒸発現象といい、夜間に点灯するヘッドライトが対向車のと重なり、一部分だけを見えなくさせる場合がある。
ハウザーは其れに気が付いた。
伊達に黒一色用意した訳でない襲撃者が大振りな攻撃を選んだのも、敢えて対峙することを選んだのも。
(そうでしょうね…
目標から目を逸らさせる為であった。
「……では、チャオ♪」
ヘルメット越しに愛らしそうな少女の声が発される。
既にバイクにはライダーは乗っておらず、目標である箱の側面に張り付いた状態で手を振っていた。
ハウザーは歯噛みしながらバイクを弾き飛ばした。
其れを挑発するような手招きをしたライダーは、そのまま手に握られたスイッチらしきものを押した。
「しまりました」
何を意味するか、ハウザーは理解しながら自身のコートと腕で守るべき部分へとガードをしながら飛び退く。
バイクはスイッチと連動し、内部機関に搭載された自爆装置を起動。
瞬間、目もくらむような発光と共に強烈な衝撃が走り、周り全てを薙ぎ倒さんと爆発が起こった。
巨大なキノコ雲が出来ると、その中から大きなバルーンが膨らむと共に"箱"がライダーを乗せて浮かび上がって、夜の闇へと消えていくのだった。
「……次は逃がしません」
とんでもない置き土産にはハウザーもまた眉間に皺を寄せる。
秘密裏で進めてきた発掘故にこの騒ぎにはシリア軍も動く事になるだろう。
消えた人的資源を一瞥し、無事な者が自分一人だけだと判断すると踵を返し、残していた脱出プランを使う為に走り出す。
《搬入開始》
宙を浮かんでから数分でバルーンは高度1000mまで上昇。
水平線の先に見える陽の光を見ながら"彼女"は後方より飛んできた巨大なターボジェットエンジン機が向かっているのを確認する。
航空機前方に装着されているV字フックにバルーンを繋ぐワイヤーを引っ掛け、そのまま傾きながら運ばれていく。
《揺れるから気を付けろよ?》
「もう既に揺れてる」
《ああそうかい》
ヘルメット内から聴こえる無線に応答しながら彼女は箱にへばりついては、後方に開けられたハッチに載せられる。
フルトン回収システム。
元々は郵便物を運ぶ為の航空機回収手段であったが、冷戦が始まると要人亡命を目的とする高高度回収装置として開発された技術だ。
しかしバルーンによる急上昇や回収の難易度の高さに加え、ヘリコプター等の航空技術が発達した事で米軍特殊コマンド等は使う事を止めたという。
だが今回のような特殊な環境下では理に適った戦術であり、もう少しシステムやマニュアル等を突き詰めていくことを考えている。
「……お疲れさん」
「いいえ。もう少しエキゾチックな街並みを見てみたかったですが…」
「そう言える余裕があるならいい」
機内のカーゴに到着すると、降り立った彼女へ男が話しかける。
ヘルメットから聞こえた声にそっくりであり、顔の半分を整えられた髭で覆う成人男性。
声の訛りから、スコットランド系の人物であると伺える。
「っで?〔お嬢〕。コイツが米軍極秘部隊
「ええ、わざわざレバノン経由で入った程の念入りさで」
お嬢。
そう呼ばれたライダーは両手でヘルメットを取り、長い金色の髪を振って脱ぐ。
見た目は幼さを残しながら、鼻立ちの良さにモデル顔負けとも言える美貌を持ち、
「〔ギャズ〕。貴方の意見は?」
「俺か?唯一つ…」
顎髭を揉みつつ、ギャズは目端を細く伸ばす。
「…
そう言って肩をすくみ、どういう物なのか自身の意見を述べると。
「そう。私も同感」
彼女も同意見と口に出した。
「じゃあどうする?」
「このまま箱はイギリスに持っていく。どんなものであれ"封印"しないとね?」
「……そうだな」
如何なる物であろうとも、今の人類にとっては厄介な代物である。
そう結論を付けながら、彼女とギャズは輸送機の乗員によって固定されていく箱を眺めた。
…………
空の旅も3時間が過ぎようとする中、彼女はふと何かに疑問を覚えていた。
「……ギャズ」
「んぅ…すまないが今寝たばかり…」
「おかしい」
「……ん?」
翻訳をしていたであろう彼女は手帳に走らせていたペンを止め、輸送機の窓へと近づいてみる。
「……太陽の向きが"逆"だぞ?」
イギリスへと向かっている場合、2時間程度の時差がある。
その為、現在10月の時刻では朝焼けが見える程度が正しい筈。
「其れに…昇り具合も既に正午に近いです」
「おいおい…」
何かの間違えでは?
そう感じながらもギャズは顔を上げてみる。
「…間違えじゃ無さそうだ」
そう呟きながらホルスターに納めていた
ギャズの目線先には輸送機乗員4名が何かを話しながら腰のホルスターを開き、拳銃らしきものを抜いて何かを取り付けている。
「…消音器ですね」
「どうやら味方はお嬢1人みたいですけど?」
「不満?」
「いいやまさか?」
数の利では向こうが断然と言える中、唯一箱の死角にいた事で隠れながら強襲出来ると考え、自身も
「…スリーカウント」
「ええ」
交戦距離としてはインファイトに近い。
ここで撃ち合えばタダでは済まないであろうと見ながら。
「……すまんなお嬢」
「えっ?」
彼女の頭に鈍痛が走った。
「すまないなお嬢。俺にも金ってもんがいるんでね」
形のみの謝罪にどんな意味があるのか。
身動きの出来ないように手すりに手錠をされた少女は思う。
「何処に雇われたの?」
「クラウンアーマメント。〔ティア・フラット〕の所より数倍の金を叩きつけられたらな?」
「そう…呆れた」
昔はそうでなかったはずなのに。
長らく一緒にやって来た仲間から裏切られる瞬間を初めて体験するも、感想は熟成途中でカビてしまったワインの様だと思う。
「台湾の支社に届けられば2千万$。俺の口座もウハウハだ」
そう言って口髭と共に口端が吊り上がる。
どうにも忌々しい程に口周りに生えていた髭を毟り取りたくなってくる彼女はこの状況を打開するべく、冷静に周りを見渡した。
(…操縦士含めて18人。銃も無い状況じゃ不利って言葉も不適切なレベル)
どう足掻こうと撃たれるだけ。
せめて武器になりそうなものをと考えるも。
(これじゃあ無理か…)
手錠は外れる様子はなく、ただジャラジャラと金属同士が擦れ合わさる音のみ辺りに響かせる。
「現在南シナ海上空です」
「ああ。そろそろこの旅も終わりだな」
乗員の言葉に踵を付けながら少し足踏みをする。
恐らく煙草が切れたのだろう。
空港あたりに着いたら免税店で葉巻を買って吹かし始めるかも知れない。
(………ん?)
打開策を練るために観察を続けていると、視界に入った箱の側面に描かれている楔文字の列を凝視する。
(…呪文?封印を解くための?)
箱と称していたが、その中身が何なのかを未だに知り得ない。
もしも旧約聖書に記されている
(聖櫃より古い時代の物。もしかして…)
自身の知識から呼び起こした物かどうかは分からない。
それでもこの状況を打破するにはこれしか無いと意を決した。
「……天空神アヌの呼び声に捧げる」
「…ん?何をして」
言葉を放つはシュメール人が話したとされる古代シュメール語。
新バビロニア時期は既に消え失せていたが、読み方だけ粘土板に脈々と受け継がれていた。
天空神アヌ。
メソポタミア文明における神話の創造神で最高位の神として君臨していた。
「大地神アルルの嘆きに捧げる」
「おいおい。お嬢何してるんだ?」
「知恵の神エアの魔に捧げる」
「…まさか…」
側面に描かれている文字を読み取り、詠唱する。
ギャズは少女の言葉が何を意味するのかようやく理解した。
「おいやめろ。何をしようとしてるか分かってるのか?」
裏切り者が拳銃のスライドを引く。
初弾が薬室に装填され、何時でも撃てる状態にすると少女の額に銃口を押しつけた。
「俺に撃たせるなよ?」
「……軍神ニヌルタの強い力を捧げる」
だが止めることはしない。
その姿にギャズは歯噛みしながら引き金へ指をかける。
「クソガキがぁ!!」
トリガーに力がこもると後数センチ引くだけで薬室に装填された銃弾が発射される。
このまま行けば9㎜パラベラム弾がそのまま螺旋状に回転し、柔らかい皮膚を抉り、頭蓋骨を粉砕しながら脳漿を滅茶苦茶に掻き混ぜられる。
一発一殺が可能な武器が今撃たれそうになる中。
その10数分後。
けたたましい音を鳴らして航空機は爆発するのだった。