Beginning of MAHAartMATA   作:葉隠小太郎

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第二話 金色の獣

 

 

森羅万象、この世には法則が存在する。

 

引力に逆らう事は出来ない。

上昇する力を得る事は出来たが、引っ張られる事には変わらず、未だ重力の井戸の底でくすぶり続けている。

 

物の流れに逆らう事は出来ない。

いかなる技術を使おうにも強い流れにはただ乗るしか出来ず、終いには全く別の場所に辿り着いてしまいかねない。

 

大気の力には逆らう事が出来ない。

燦々と照らす太陽と7割以上を占める海から放出される水分、そして自転等の力によって起こる風が雨を降らせ、巨大な暴風を生み、大津波を起こす。

 

この星に住み続ける限り、この法則には逆らえない。

 

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ナニカの正体は判別することが出来ない。

姿から見れば10代前半の青少年と言える小柄な体格くらいの大きさと言える。

 

腕は細く、自分の身体を投げる膂力が何処にあったのかと思うが、先程の蹴りの入り具合が少々軽い。

まるで軽気功の遣い手を殴った時とよく似ていた。

 

落ちた羽と同じく、舞っている軽い物を殴ったとしてもその威力が伝わる事はほぼ無く、ただ空を切るだけに終わる。

 

故にパワーで立ち向かうには少しばかり相性が悪い。

 

ではいかなる方法を取るべきか?

 

「──インファイトはどうだ?」

 

如何に身体を軽くする技があろうとも、スーパーボールが跳ねるのと同じく、力の逃がしが出来ない状況にすればいい。

 

「──!!?」

 

寸勁を叩き込む。

足場、腰、肩、腕。

これらの可動を全て使い、呼吸に合わせて打つ。

 

身体と身体が密着するほどの距離間の中で打ち出されるワンインチパンチは避けようが無い程のスピードと防御し切れない密度の威力を発揮できる。

 

空気の壁を割り、音を置き去りにする一撃は、ナニカの胴体に会心の打撃(クリーンヒット)した。

 

少なくとも威力は鉄筋コンクリートを叩き割れると自負している。

 

現に後ろの壁は壊れ、隣の部屋を突き破ってはもう一つ隣の部屋へと叩き込んだ。

 

バキバキと音を立てて崩れる壁。

隣の部屋の住人と目が合う。

 

「……お騒がせしてすまない」

「あっ、へ…へい?こ、こちら…こそ?」

 

おおかた騒音苦情でもしにいこうとしていたのだろう。

こちらの部屋に向かおうと玄関にてサンダルを履いていた途中だった。

 

流石に言い訳も出来ない程の惨状を創り出したことに、まこと申し訳ない気持ちで謝罪をしていると。

 

「■■■■■■■■!!!」

 

此方へと突進。

ソニックブームでも起きているのかと思うようなスピードに油断していた自分はくの字に身体が曲がり、そのまま反対側の壁を突き破り、3部屋ほど破壊してから外へと放り出された。

 

 

 

 

…………

 

 

 

一台の違法改造されたワンボックスカーが月極駐車場に停まる。

 

「良いのか?ここ?」

「はっ、大丈夫大丈夫。ここの持ち主前にボッコボコにしてやったから♪」

「きゃー☆ショーちゃんすごい〜!!かっこい〜い〜♪」

 

中からは男女2組がそれぞれ運転席と助手席、後部座席とドアを開け、外へと出る。

 

「近くのラブホの駐車場だと金取られるし、ここなら俺の名前知ってる奴ら多いから愛車傷付けるやつは居ねぇだろ?」

「ま、まぁ…お前の親っさんの名前聞いたらビビるけどさ…」

「早く行こーよ?ショーちゃん」

「おうおう。待ってろ待ってろ」

 

ショーちゃんと呼ばれる金髪と頭頂部を黒く染めた浅黒い日焼け姿の大男と痩せ気味の男は似たりよったりの日焼けサロン通いの女2人に呼ばれるまま、車の鍵を閉め、向かおうとした矢先。

 

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「「ふへぁ!!?」」

 

軽バンと言われる車種である為、人型に大きくひしゃげた上部とフレームは大きく曲がり、強い衝撃で全てのガラスが細かい粒状に吹き飛ぶ。

 

「……んっ…はぁ……」

 

落ちてきた主は大の字になりながらも息を吐き、何とか上体を起こして立ち上がる。

 

一方で悲惨な目にあった愛車の姿に目を丸くさせ、ショーちゃんは奥歯を鳴らしながら小さく口を開き始めた。

 

「なっ、なんな…ん…だ…!?」

 

信じられない光景に思考も回りづらく、この惨状には付いてきていた女2人も脱兎のごとく走ってこの場から走って逃げていた。

実に賢明な判断だと思われつつ、連れの痩せ気味が呟いた。

 

「……映画のスタント?」

「なわけあるか!?」

 

流石にこれを映画撮影に使うこととは話に聞いていない。

 

確かに他人の駐車場を無理矢理使うような人間ではあろうとも車を破壊する様な事はするわけが無い。

 

では?

 

ショーちゃんは愛車の変わり果てた姿を見つつ、未だルーフの上に立っている人物へ口を開いた。

 

「オイてめぇ!?俺の愛車ぶち壊しやがって!?弁償しろや!!」

「──離れた方がいい」

「アンっ!!?」

 

車体半分近く潰した人物、店主が跳躍からの一回転して着地。

それと同時にけたたましく車体に巨大な着地音が鳴り響き、ワンボックスカーが文字通り"半分"の姿へと変わり果てた。

 

「……全く、とんだ"ケダモノ"だ」

 

呆れ半分にため息を吐いてはスクラップにしたナニカへ視線を向ける。

 

ケダモノと呼んだ様に、ナニカの姿は《金色の体毛に覆われた猛獣》と言い表せる存在であった。

 

「グゥゥゥ……」

「やるか?ただ此処は少しばかり人出が…「■■■■!!!」チィッ!?」

 

猛獣が聞く耳を持つわけが無い。

敵と決めた店主へと跳び、襲いかかる。

 

振られた左手が地面のアスファルトを抉り、店主は寸前で避けては後方へと摺り足で下がる。

 

(当たれば顎辺りが砕けそうだな…)

 

ケダモノは避けられた事に何かを感じつつ、低い姿勢を保ったまま両手での連撃を繰り出す。

アスファルト、風俗店の看板、電柱。

なんの苦も無く、通り過ぎた場所が豆腐かケーキかその程度の硬さにしか感じない様子で破壊されると、街を物色する通行人やプラカード片手に客引きをするキャバクラ店員が目を見開いてただ立ち尽くす。

 

(だが…)

 

店主の体幹の強さは如何なる連撃でも紙一重で避ける。

 

大振り故の隙の多さもあるが、何よりも店主の経験値の多さと高い技術力も相まって、舞踊を思わせる動きを見せていた。

 

「■■■■■■!!!」

 

苛立ちが募る。

 

思う様にいかない事はケダモノの神経に障り、カッカと精神を毛羽立たせる勢いに怒りを昂らせる。

それでも振るう腕を出来るだけコンパクトにする為、脇を締め、面ではなく、点での攻撃にシフトするように右ストレートを放つ。

 

「…っ…!なるほど!?」

 

当たった。

店主の鼻っ面に一発の拳が入り、高めの鼻がグシャリと折れては鼻孔を血で噴出させる。

 

ただ、打ち慣れていない一撃は店主の脳を揺らすほどの力は無く、当たった事に驚いて手が止まると。

 

「お返しだ…!」

 

左脚踏み込みからの右脚踏み込み。

地面のアスファルトが足型に陥没する程の力で、全身の筋肉を連動させる。

 

寸勁同様、強力な一撃には変わらぬものの、その貫通力と全身の制御を精密に行い、放たれた拳は陣地を崩壊させる。

 

「…九頭・右竜徹陣(くず・うりゅうてつじん)!!」

 

溜められたインパクトがケダモノの胸部へ当たる。

 

スローモーションに流れる時間の中、メキメキと拳が骨を砕き、めり込むとその一撃の恐ろしさを物語らせる。

 

「■■■■…!?」

 

吐血。

想定していない損傷にケダモノの叫び声も小さく木霊す。

 

放たれた拳撃が後方まで飛ぶと、時間が元のスピードに戻る瞬間に身体が力場の行くままに後ろの小料理屋へと突っ込んだ。

 

「………しまったな」

 

店主は思わずやり過ぎたと我に返って冷静になる。

 

絶賛営業中の小料理屋の玄関は外から見えづらくなっている様子を開けっぴろげにしてしまった。

 

「なっ…!?何なんだよ!?」

「キャァァアアア!!?」

「け…警察…!?」

「バカ呼ぶな!?」

 

小料理屋で不自然な裸体を見せる男性客と女性従業員が着のみのままに外へと出ては蜘蛛の子を散らすように逃げる。

 

考えてみれば乗用車によるアクセルをブレーキと踏み間違え事故とも見える光景に逃げない人間のほうが少数であろう。

 

「何してんだい!?たくっ…って!?なにこれっ!?」

 

何かの騒ぎと思っては奥から出てきた小料理屋の女主人が顔を出し、その惨状を目の当たりにする。

照明は尽く砕け、部屋は壁を破壊し、水回りからは噴水が上がる。

 

例えるならば発破をし損ねた建物と表現出来る光景だ。

 

これには店主の顔も苦虫を噛み潰したように歪める。

 

「あ、あんた!?何したんだい!?店がめちゃくちゃ…ってナニコレぇ!?」

 

女主人が事の原因を作ったらしい人物である店主へと詰め寄るように店内から捲し立てるように外へと出ると、周りに起こっている惨状を目にして更に驚きに満ちていた。

 

「一応正当防衛のつもりで…」

「馬鹿かい!?街ぶっ壊すつもりでアンタに"(たな)と母屋"を貸したわけじゃないのよ!!〔宮本〕!!」

「……すまない」

 

この上ない正論には店主もとい〔宮本〕も渋い顔をしては一言心からの謝罪を述べる。

 

つい先程まで死闘じみた行為をしていた人物とは思えない様子を見せる男に女主人は次々と鋭い剣で突き刺す黒ひげ危機一発の様に正論を放つ。

 

「大体幾ら直せるからってそんなに暴れ回ってちゃあ困るのはウチ達の方なんだよ!!分かってんのかい!!?」

「本当にすまない。何とかしてみるから…」

「何とか出来ても折角の稼ぎ時にこうじゃおまんまも食い下げってヤツだろが!!?」

「……至極ご尤も…です」

 

体格さでは明らかに勝るも怒られ続けるその様は縮み上がったセーター同様、あまりにもナヨナヨの姿を晒すのだった。

 

「大体なんだってこんな事に…「すまないが後で直すので一旦下がって欲しい」何人の話遮って…」

 

だが何かを察した宮本が小料理屋の奥へ目を向け、女主人を後ろへと下げ、安全を取る。

何をしているのか怪訝そうな表情で見るも、その理由が直ぐに分かる。

 

突然、鎖が飛び出してきた。

 

「…!?」

 

ケダモノの体毛と同じく、黄金に輝く鎖が宮本の胴へ巻き付き、突然引っ張られては小料理屋の奥へと引き摺り込まれた。

 

これには宮本も目を丸くする。

 

所々、畳や破損した壁に節々が当たると流石にくぐもった声を出してしまう。

 

引っ張られた先のである客と従業員の逢瀬をする小部屋の1つに連れ去られる事となった宮本。

木片やら何やらが額に刺さっていたり、砂を噛んでしまったりと散々な目に遭わせられて苦渋を舐めさせられ、流石に怒りが再点火し始めるも。

 

「…抜けん」

 

鎖は意思を持っているかのように両腕までにも巻き付き、雁字搦めの状態にされた。

 

「…ぐむむっ…クソぉ…」

 

何とか力を込めてみるもビクともせず、ガシャガシャと音を鳴らすのみで終わる。

 

(何だ?神性に対して強い捕縛力が生まれるのか?)

 

拘束が解けない理由を踏まえ、冷静さを取り戻すように分析をする。

 

解けない鎖が段々と身体全体を覆っていく様子に流石の宮本も文字通り手も足も出ない。

 

まな板の鯉が捌かれるが如く、為す術ない中。

 

「───グゥ…」

 

鎖の主であるケダモノが寝そべっている宮本の顔を覗き込む。

 

(…よくよく見てみると"少女"にも見える)

 

一体どんな勘違いをするのだろう。

いつの間にかケダモノの身体を包んでいた体毛が抜け落ちており、獣とは思えない白い素肌が見える。

 

「…ガフッ…グルルル…」

 

相変わらず頭頂部だけは長い体毛、というよりも長い髪として残っており、其れが身体の一部分を隠すように覆う。

 

「…スンスン…グゥ…スンスン…」

(…嗅がれてる?)

 

ケダモノの行動は先ほどとは異なり、鼻で宮本の身体を嗅ぎ、何かを得ようとしているのか、深く吸って吐いてを繰り返す。

 

最早姿は人そのもの。

 

イヌ科とも他の肉食獣とも異なる姿であったケダモノがまるで人間の様に変わるのを、宮本はかつてよく見ていた漫画の事を思い出す。

 

(たしかウェコとか何とかだったな…もしくはバンパイヤ)

 

未完で終わってしまった事に残念だと感じていると。

 

「………(ベロンチョ)」

 

顎の下から額までを舌で舐めずられた。

 

「───なに?」

「♪」

 

味を確かめる意味なのか、犬等の動物が親愛を示す為の行動なのか、ニンマリと両方の口端を吊り上げ、爛々と目を輝かせる様子はポジティブと捉えられた。

 

大まかな状況も掴めない中で少なくとも顔中が唾液まみれにされた事だけはなんとなしに理解するも。

 

「食べられないぞ?」

「???」

 

イートだけは避けたいと考える。

 

指先から段々となんて困ると額から汗が浮かび上がるとまた舌なめずりをされ、何がしたいかよく分からなくなってくる。

 

どうしようか?

 

宮本の思考に脱出手段を練っていると。

 

ガラスが叩き割れるような音と共に破片が周りに散らばる。

 

少女は何があったのか、周りをキョロキョロと見回し。

 

「……キュゥゥ〜…」

 

糸が切れた人形の如く倒れた。

 

「……おっと、緩んだ」

 

意識を失った事で、宮本の身体を巻きつけていた鎖が緩み始めて光の粒子へと変わり、消えていく。

 

「大丈夫かい?」

 

そう声をかけたのは叩いて割れたビール瓶を持つ女主人であった。

恐らく宮本が連れ去られた事で心配になり、店内へと戻ってきたと言うことだが。

 

「申し訳ない」

「謝るんならちゃんと直せよ?」

「ああ。跡も残さない」

 

綺麗に元のままにする事を約束した宮本。

 

両手で柏手を打ち、掌からオレンジ色の光の帯が現れる。

 

「製錬、開始」

 

帯を広げ、火花が飛び散らされると宙を浮かぶ魔法陣が現れる。

 

丸や三角四角の図形が重なり合わせ、刻み文字であるルーンや英数字、様々な文字が放射線状に書き込まれた陣を大きく広げて前へと押し出す。

 

直ぐに陣が周りの瓦礫を吸い込み、パズルのピースを埋め込むように積み重なっては修復が始まり、ボロボロだった店内が綺麗な状態でリフォームが完了する。

 

「……なんだいこれ?」

「さぁ?大家さんが知るべきじゃない」

「はい?」

 

元通り以上に直った店内を丸く目を見開いたまま女主人は宮本へと問うが、返答の代わりに。

 

「指先を見てくれ」

「ん?」

 

指から強い光が放たれる。

 

その光を浴びた女主人は呆然とした顔のまま立ち尽くし、宮本は1つ咳払いをしてから口を開く。

 

「え〜…すまない。孤児の子を預かってくれと言われて了承したんだが…あんまり懐いていないのとカルチャーギャップで全裸のままに出てしまい、此方の店に突入してしまった。大変申し訳無いと思うしこれからは気を付けるので何卒寛大な気持ちでお願いしたい」

 

早口で止めるところは止めて語り、この事態をでっち上げる。

 

今までの事を考えればこんな状況あり得ないだろうと言う可能性が高いが。

 

「……ああ、そうかい」

 

少し呆けた顔のまま宮本の説明に納得して頷いたのだった。

 

「では失礼」

 

そう言って手を振り、気絶している少女を抱えてからそそくさと小料理屋から出ていくのであった。

 

 

 

「…見つけた」

 

少し離れたビルの屋上で狙撃用小銃(L115A3)のスコープを覗きながら、夜の中で少女が呟く。

 

 

 

 

 

to be continued

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