Beginning of MAHAartMATA   作:葉隠小太郎

5 / 9
第四話 殺意

 

 

彼女を引き入れて一週間が経った頃。

 

最初の頃は…。

 

「ガゥッ!!」

「それは食べ物じゃないぞ?」

「…ヴェッ」

 

店に置いていた食品サンプルを齧って吐いていたり。

 

「し」

「…シィ?」

「ん」

「…ンッ」

「の」

「ノ…」

「す」

「ス?」

「け」

「ケ」

 

「真之介」

「シンノスケ!!」

 

一応日本語が通じるのか、発音が独特なれど土が水を吸うように覚えるスピードが速くなっている。

 

「君の名前は?」

「……エ…」

「え?」

「エン…〔エンキドゥ〕…」

「エンキドゥ…?」

 

名前を聞き、少しばかりよくわかった気がする。

 

メソポタミア文明における世界最古の物語。

ギルガメッシュ叙事詩のメインキャラクターであるエンキドゥ、またはエアバニとも言われていた存在。

 

だが泥となって消えたと言う話があったが。

 

まぁ書物と事実は似て非なる事は珍しくもない。

 

様々過ごしてきてわかった事だが、存外に恥ずかしがり屋であったこと。

人見知りが強く、部屋で待つのも嫌らしいが、外へ出ていくのも大分難しい。

 

理由は変な音が沢山あるからだそうだ。

 

考えてみるとメソポタミアには車もスピーカーも無いだろうからその気持ちも分からなくはない。

 

不快な音をどうにかしようと考え、難聴向けの補聴器を用意することにした。

これならばノイズキャンセリングが使えるのであまりにうるさい音や甲高い音も防いでくれる。

 

エンキドゥも喜んでくれたのかだいぶはしゃぎ回っていた。

 

ただ如何せん野獣みが強く、もう少し女の子らしい振る舞いを教えよう。

 

次に色々と考えねばならない事がある。

 

洋服、というより衣類だが…これは化繊が苦手なのかそういった服は着ない。

 

その為、100%ウール素材か綿の類で手を打ってもらう事にする。

 

ともなると手芸用品を売っている店で生地を買い、幾つか集めていた宝石や魔銀を触媒に細い糸にして織り上げる。

 

ミシンを使うのも何年ぶりだろうか?

 

いや、そもそも使った事があったのかも忘れたが。

 

「うん…出来た」

 

会心の出来と思う衣服が出来た。

生地を大量に買ってよかったお陰で色違いだとか形違いの服を作れたので少しばかり胸を張って自慢出来る。

 

「…んん?」

「と言うことで着てみてくれ」

「りょっ!」

 

と何処かで学んだのか変な掛け声と共に着替えるべく寝室の方へ向かう。

 

一応着替え方は知っているとは思うし、エンキドゥの力でも多少は保つ様に編み込んだつもりだが…。

 

「んっ!」

「おお…」

 

デニム生地で作ったショートパンツとTシャツにパーカーのセット。

同世代も着ているとのことで作ってみたが中々の出来だと思う。

 

「んっ!!」

「これもいいな…」

 

次はフレアスカートと半袖Yシャツのコーデ。

まだ暑さ残る時期には丁度いいだろうし、上のシャツを長袖にすれば体温調節もし易い。

 

「ん〜〜♪」

「おお…」

 

最後には紺をベースとしたノースリーブワンピース。

腰のベルトがウエストラインを際立たせる程の細さを見せております、4つのボタンも良い感じに仕上がっている。

くるりと回ればふんわりと舞ってはためくスカートがよく出来たと自画自賛してしまう訳だ。

 

「さて、これで外でも良さそうだな」

「うん!!」

 

服も揃えたし、出掛けるにはもって来いの晴天が広がる今日。

軽く散歩でもして周りに慣れようと思っては軽食を持って出掛けよう。

 

ん?そう言えばなにか忘れているような…。

 

「やぁ〜〜!!」

 

………あっ…。

 

スカートの中から覗く丸みを帯びた素肌。

 

「とんでもない事を忘れていた」

「んなぁ〜〜!!」

 

こういう時に限って下着という概念を忘れていた。

流石にショーツ等の類は作ったことが無い。

 

さてさてどうするべきかと思っていると。

 

「…【アマゾネスドットコム】?」

 

ネット通販のやつらしいが。

何でもコットンや絹等で素肌に優しい素材の女性用下着を購入出来るとのこと。

 

とりあえず、エンキドゥが履けそうなサイズを選んで押すと。

 

(ピンポーン♪)

 

「……早くないか?」

 

時空間航行とか無いよな?

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

《ポートランドよりグラスゴー。対象は未だに変化なし》

《此方グラスゴー。そのまま監視を続けよ》

 

ビルの屋上には何も無い。

 

しかし目を凝らして見続ければ空気が揺らいで何かがいるようにも感じ取れるだろう。

 

了解(コピー)。ポートランドアウト》

 

言葉と共に、場が静まる。

 

「……全く、随分と暇を持て余す仕事だぜ」

 

揺らめきはしゃがむように動き、大人一人分の"それ"はそのままの様子で待ち続ける。

 

「どうして家の方見てるんかね?今朝出てくの確認したっしょ?」

 

誰かに話すわけでもなく、ただ独り言の様に文句を吐露し、呆れていると。

 

我が国(アメリカ)の諜報力を持ってしても確認の取れない人物です。警戒には越したことは無いでしょう?」

「わっ…!?た、大尉!?」

 

いつの間にかと言わんばかりに現れた人物、〔クロー・ハウザー〕大尉は隣にいるであろう監視者へ苦言めいた物申しをする。

 

こればかりは肝が冷えたと言うのか、心臓が止まりそうになったのか、うっかり動いて被っていたとされるシートがはだけ落ちた。

 

「気が緩む事は致し方ないですが、それでも仕事である以上モチベーションは保っていただきたい」

「す…すみません」

「…まぁ、眠たくなるほどに動きの無い対象を見るのは少々鈍ってしまいそうですがね」

 

と自慢の高周波(ヴァイヴロ)ブレード仕様の爪では無く、偽装用義手で指を鳴らしてはふぅと鼻を吹かせる。

 

宮本の住むアパートメントを監視して4日目になる。

 

ここまでで動いている範囲は仕事場である店へと向かう時と帰宅。

休日には"姪御"と浜北公園へピクニックに行ったり、中華街等で食べ歩きをしたりと、何ら変わった動きは無い。

 

現在出せる人員の半分を充てる理由があるのだろうか?

 

そう監視者が思う事をハウザーもまた承知しているが。

 

「とはいえ。室内に設置しておいた隠しカメラや盗聴器は総て利用不可能にされ、指向性マイクも通じない…。店内も同様で我々の決死の努力が水の泡にされた以上」

「遠くから監視以外の手段は無いと?」

「そう言うことです。では後1時間程で交代と食事、休憩を入れますので其れまではしゃっきりお願いします」

了解(コピー)

 

ちょっとしたエールのような物言いで部下へ伝えた後、ハウザーはそのままビルからビルへと跳んで行った。

 

「………あの人全身じゃないよな?サイボーグ率?」

 

その身体能力の高さに驚かせつつも、監視を続ける。

 

 

 

…………

 

 

 

一方で宮本はあいも変わらず。

 

「小籠包お待ち」

 

蒸し上がった蒸籠ごと皿へと乗せて注文した客へと渡す。

 

「炒飯、唐揚げ、春巻き、肉まんお待ちどう様です」

 

出来上がった料理をカウンターへと置き、素早い動きで次の注文へと進む。

 

「だから言ったろ?この店めっちゃ速く出てくるってでTacTokkたんだ」

「へぇ…」

 

恐ろしく手元の見えない速さに一部の界隈からは〔ターボおっさん〕だとか〔スーパーマン〕だとか言われているらしい。

 

なお本人は全く知らないが。

 

「ごっそさん」

「ありがとうございました」

 

食券方式の店であるため、客は食べ終われば直ぐに出ていく。

 

そうなればカウンターテーブルの上にある皿や蒸籠を直ぐに下げ、ふきんで綺麗に拭き取り、ピカピカの状態へと変えてすぐに次の客を呼ぶ。

 

「3名様どうぞ」

 

外の行列の中からサラリーマンと思わしきリクルートスーツに身を包む男性3人組が店内へと入る。

 

「いやぁ〜待った待った…」

「飯何にしたっけ?」

「俺、A定食」

「この店定食あるの?」

「ああ。スープとサラダに飯付きで何種類か選ぶんだってよ?」

「ははぁ〜…」

 

空いた席へと座り、宮本の出された水のコップを手にとって軽く飲む。

 

定食は昼のみの提供であり、頼む人間も少なからず居る。

 

そのため硬めに炊かれた銀シャリと牛骨鶏ガラで取ったスープにワカメと長ネギの輪切り、業務用のかに風味かまぼこを1人前分鍋で温めて提供される。

 

「お待たせしました。A定食、餃子3人前、唐揚げと炒飯、ラーメンです」

「は…はえぇ…」

 

席について約3分。

明らかに早くないか?と疑問に思いつつ、卓上調味料の醤油のボトルと酢のボトルを順に小皿へ注ぎ。

 

「……美味っ」

 

少し付けて頬張る。

 

麺料理である厚めの皮に包まれた中身が口の中で大洪水の様に押し寄せる。

 

大量の肉汁と中に入っているシャキシャキと音を立てる野菜。

旨味に溢れた其れ等は紛れもなく出来合いや焼いて冷めたものをレンジで温め直したとは思えない味わいがあった。

 

「ラーメン美味っ」

「ちくしょう、次は定食にする」

「だな」

 

まさかセットメニューがあるとは思わなかった同僚2人はそさくさと素早く食べすすめ、カウンターに書かれている注意書きの通りに店を後にする。

 

『この店は速さが売りです。提供されてから10分以内に食べていただける事をオススメします。尚ゆっくりと食べられたい方はテイクアウトや出前も行っていますので何卒そちらの方もお使い下さいませ。後家庭調理向けの冷凍パッケージも御座いますので欲しい方はそちらもご用意しております』

 

家でも店でも何処でも用意する。

 

そんな作り手の心籠もった言葉が其処にある。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

エンキドゥとの生活で分かった事は、こちらを見続ける存在は非正規部隊である可能性が高いと思われる。

 

横須賀米軍基地勤めであるニュージャージー出身兵士から幾つか世間話に聞いてみた所、そのような噂もないとの事。

 

機密には引っかからない程度の会話であるが、一応間柄を知られぬ様にはしているが、どこから漏れてもおかしくなく、注意は怠らない様にする。

 

今のところは外から見張る程度で収まっているものの、下手な事をすれば蜂の巣を突くような事態になりかねない。

 

穏便に済むなら良いが、相手の目的がエンキドゥであるなら其れは不可能であろう。

 

さて…どうしたものか…。

 

「…しん?おきゃくさん」

「おっと、ありがとう」

「にひひひ!」

 

若干上の空になってた自分に声をかけてくれたエンキドゥは無邪気さと優しさを内包しているだろう。

将来良い子に育ってくれれば良いとは思いつつ、このままこうするにも難しい事を考えて誰か宛を探さないといけない。

 

「いらっしゃ……」

「やあ店長」

 

探す理由が一つある。

 

伊勢佐木異人町には3つの勢力が存在し、大手極道組織が手を出せないで続いている。

 

神奈川を中心に活動する暴力団【横浜星龍会】

中華街等の活動をするチャイニーズマフィア【横浜流氓(ハンピンリューマン)

異人町の半島系住民の情報網や街中の防犯カメラから情報を得る韓国系マフィア【コミジュル】

 

その中でも横浜流氓は立ち位置的に平静を保っているが昔は横浜星龍会と血で血を洗うシマ争いを繰り広げていた武闘派マフィアとして知られている。

 

いま、店へと訪れた男は横浜流氓の幹部会に属する若衆頭であり、かつては香港三合会から出向してきた厄介な男。

 

「そんな顔で俺を見るなよ?男前なのは良く分かっているから」

「そうか。そちら側にはそう見えたんだな?」

 

張維新(チャンウァイサン)

 

黒いサングラスを着ける飄々とした人物である。

 

 

 

 

to be continued

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。