Beginning of MAHAartMATA   作:葉隠小太郎

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第六話 鍔迫り合い

 

 

「こんばんは。そして初めまして」

 

そうやって会釈するのはベレー帽を被る白人男性。

其れだけならば誰もが気にすることは無い。

 

しかしあるべき筈の両腕が、鈍色に光る鋼鉄の腕でなければの話である。

 

「…今日は営業終わりだ。申し訳無いが帰ってもらえれば助かる」

「そういうわけには行かない。と言ったならば?」

 

宮本と男の視線が重なる。

 

まるで真剣を構えた侍同士のソレと思える状況に、メアリの顔も不穏が立ち込めていた。

 

「………喧嘩なら表に出ろ」

「ふっ、喧嘩…ですか…」

 

厨房奥へと向かい、長い暖簾をくぐりながら宮本が外へ出るように促す。

対して男も不敵に笑みを作り、ならばと外へと前を向いて歩き始める。

 

街灯に照らされた店の前の小路は小雨から大粒の雨へと変わった事でアスファルトの地面を濡らし、轟々と音を鳴らして支配する。

 

ものの数秒で衣服の生地に雨水が染み込み、身体中をびしょびしょに変えていく中、対に立つ男が口を開く。

 

「では改めて。私は〔ウィル・ラング・ハウザー〕。米国特殊作戦軍(USSOCOM)機械化小隊所属の大尉です」

 

男、ハウザーが名乗りながら。

 

「又の名を…〔クロー・ハウザー〕とも言われています」

 

機械の腕と鋭利な爪刃を見せる。

 

「大層な名前だが、拍子抜けじゃない事を祈るよ」

「ふふっ、期待外れだけはさせません…!!」

 

皮肉を申す宮本にハウザーは距離を詰める。

 

横薙ぎの一閃、ワンステップ後方へと下がった宮本はその横に置かれていたコンテナが見事に輪切り状態に変わったことを把握。

 

「硬質チタン製高周波(ヴァイブロ)ブレード。コンクリートおろか装甲車の正面部すら切り裂けますよ?」

 

ハウザーは笑みを絶やさず、爪による連撃を行う。

 

刃渡り15cmの鋼刃は豪語するだけあり、汎ゆる物質を切り裂き、ガラクタへと変えていく。

 

道路標識のポールは一切の潰れもない丸みを帯びたまま切断され、シャッターやコンクリートの壁も容易く裂く。

 

そんな物が人体を掠めれば、忽ち輪切りの肉塊へと変わり果てるであろう。

 

但し。

 

(…くっ…!?何だコイツは!?)

 

軌道を容易く読む。

其れを実現しているかのように爪の連撃を避けていく。

 

肩幅分のサイドステップで腕の隙間を縫うように、寸前で回避を繰り返しつつ、右のジャブを数発腕の関節部へと打ち込む。

 

「チィッ…!?」

 

ハウザーの余裕めいた顔が苦悩に歪む。

 

打たれた回数自体もさほどではなく、動作等も決まって変な挙動をしているわけでもない。

 

しかし、まるで狙っているかのように集中的に打たれ、何が目的かも分からない打撃を放つ宮本に、苛立ちを募らせることが気になって仕方がない。

 

(一度、打撃を集中的に打ち込んでスイカを割る名人が居たとかなんとか)

 

嘘かどうかは兎も角として、ハウザーが其れを思い出す。

 

可動部である関節は曲げる為の機関故に脆弱性は必ず起こる物。

 

故にスカートと呼ぶ装甲板や防御法を確立することが最優先とされるが。

 

(チッ!?)

 

避け続けられ、途端に大振りになりつつある攻撃を好機と取られられ、右手首を掴まえる。

 

「スピードは良い。爪による攻撃力と考えれば悪くない相性でもあるが…」

 

そのまま回転を活かして捻り込み。

 

「パターンが単純すぎる。もう少しバリエーションを増やすべきだな」

 

ブチブチと音を立てて人工筋繊維やコード等の部品が千切れ飛んでいく。

機械の腕はあっという間にスクラップへ変えさせた。

 

「…ギッ…!?まだだっ!?」

「っ?うおっ!?」

 

壊れた右腕を意を返さず、ハウザーは上段蹴りを放つ。

 

近くにあった硬質プラスチックのパレットが容易く粉砕され、バキバキと音を立てて壊れていく。

 

「…中々鋭いキックだ」

 

これだけの威力を発揮する実力に宮本は目を丸くして驚いていると、ハウザーはステップを決めながら左腕を振りつつ構えを作る。

 

「この爪だけが私の異名の由来ではない。其れこそグリズリーすら屠れる脚力を持っていると自負しているつもりだが?」

「成る程…」

 

下手をすればホッキョクグマすら倒せるかも知れない鋭い脚技に感銘を受ける宮本。

 

だがその暇も与えぬ勢いにハウザーは消え。

 

「シッ…!!」

 

宮本の頭上へと踵落としが放つ。

 

「っ…!?」

 

鼻先一寸も満たない間隔で避ける。

空振りした踵はそのまま地面へ叩きつけられると、その衝撃がアスファルトを割り砕き、その周りを石礫に変えた。

 

「……危ないのは義手のみじゃなさそうだな」

 

吐き捨てる様に口を出し、鼻先を擦る。

靴底を軽く掠ったことで皮膚から血が滲んでいた。

 

「今の一撃を初見で避けるのは早々ないですよ?」

 

対するハウザーの顔は余裕綽々とは言い切れない鋭く強い眼光を発し、その意味を示す。

 

(想定はしていましたが、想像よりも手強い)

 

砕けた右腕の状態を見ながら、予想を超えた実力を目の当たりにされると、次の手を考えつつ構えを取る。

 

「やるか?まだ?」

「これで決着にするほど諦めのいい考えは無いのでね」

 

まだやる気十分のハウザーに宮本は深く息を吸い、構えを作る。

 

2人は恐らく次で決まると考えた。

 

状況を踏まえれば不利の立場であるハウザーだが、右腕の負傷をもろともしない脚技を持つ以上、宮本との差も五分に近い。

 

(後一回、これで終わる)

 

数々の戦場を潜り抜け、数々の任務をこなしてきたハウザーも息を呑む。

 

実時間は5秒程度の中で、何十分と長い時間をかけたように感じながら、相対。

 

「……ふぅぅぅ…」

 

ゆっくりと息を吐く。

 

白い靄が煙突の煙を思わせ、内燃機関たる心臓の脈動を落ち着かせようと息を吸う。

 

一つ一つ乱れない動きを示しながら、最後の息を吐ききった瞬間。

 

足元の水溜りを蹴り上げ、空から落ちてくる雨粒を潰しながら、跳ぶ。

 

1秒も満たない速度で放つであろう正拳突きと回し蹴りはどちらかの身体を破壊する威力を持つ。

ほぼ同時。

其れを決めるのはある種天命以外無いと考えられた其れは。

 

「御遊びはそこまでです。大尉」

 

見えない壁にぶち当たったかのように宮本の身体を潰し、空き店舗となっていたかつてのスナックの扉へと叩きつけられた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「大尉。貴方は仮にも元グリーンベレー。たかが極東に住んでいるカラテマンに何を手間取っているのですか?」

 

そう文句をつけてきたのは佐官階級の票を着ける人物。

 

〔マイケル・ベケット〕中佐。

 

機械化小隊は基本的に別部隊で活動してきた兵士が四肢及び内臓機能を失った事で除隊した者たちで構成されているが、この男だけは生え抜きの小隊育ちである。

 

歳も自分よりも一回り下とティーンエイジャーと見間違えられるほど若く、訓練部隊(グリーンチーム)の兵士と勘違いされたと噂にあった。

 

「……申し訳ありません中佐。中佐の助力が無ければ今頃は"中破"していた所です」

「ふっ、君は謙遜が下手ですね。"大破"の間違いでは?」

「………失礼しました」

 

嫌味ったらしさも佐官待遇にある話だが、こうも鼻を鳴らされると少し棘を感じる。

 

「隊内の規則を重んじる意味でも君の独断行動は目に余る。何故こんな事をしたのかね?」

 

さて、どう答えたものか…。

 

適当なことを言えばこの男はすぐに察するであろうし、正直に申せば癇癪の一つでも起こしかねない。

 

であればどうするか?

 

「………()()()()()()()()()()()

「……ふむ?」

 

正直に話す。

のではなく、自分の心の内に秘めていた事を話す。

 

昼間に襲撃などどう見たところで被害は拡大しかねない。

せめて夜にというのも自分達の存在を悟られにくくする為の絶好の手段と言えるだろう。

 

だが其れを話したところでこの男が素直に認めるとかは無い。

 

むしろわざとと言わんばかりに配備を進めていた人間だ。

 

伊達に虐殺者(スローター)ベケット等という不名誉な異名を付けられてはいないだろう。

 

故に。

 

「かの者は噂に聞く"仙術"使いである事を想定しています」

「仙術使い?」

「ええ。SOCOMでもごく少数…パズル・パレス(NSA)でも前身組織から得た記録映像のみ遺されていただけの存在です」

 

それが何を意味するのかを淡々と話す。

 

其れだけの時間があればあの一撃でもあの使い手は復活するであろうが、その様子はここまで話していても起こらない。

 

「…【九頭竜】。蝦夷から伝来しとされる対仙人用仙術。古い時代、ただの人が最凶の存在たる神々を屠った魔術師(メイガス)…いや、魔法使い(ウィザード)殺しの拳法使いであります」

 

真偽は不確かだが、最後に確認されたのはポツダム宣言後のソ連侵攻の際。

関東軍に所属していたらしい日本軍兵士であった使い手がたった一人で百両を超える機械化旅団を壊滅した。

当時の主力戦車の砲弾を真っ向から受け止め、地雷原を悠々と歩き、弾幕の雨を走り抜け、数千のソ連兵を亡き者に変えた。

 

生き残った兵士はその男をスヴェントヴィトと呼んだそうだ。

 

西スラブの神話に出てくる軍神だ。

 

「怪物。其れの曾孫弟子と言うことかね?」

「それは分からず仕舞いですが?」

「成る程」

 

そう言って中佐はかざしていた手を正面へと向ける。

次に瓦礫となっていた玄関からボロボロの状態になった宮本が飛び出してきた。

 

「…確かに頑丈だ。私の念力(サイコキネシス)で原型が保っているとは思わなかったよ」

「…ボハッ…!?」

 

物理的な防御は意味を成さないベケット中佐の持つ"超能力"の前では如何なる仙術使いもこの通りに腕や脚をひしゃげさせる。

 

やろうと思えばMBTすらカップヌードルサイズまで圧縮させるらしいが見る気にはなれない。

 

使い手も内臓機能に影響してか、胃液混じりの吐血が地面へと散らばり、雨に流されていく。

 

「これは興味深いですが…(トキ)が悪かった」

 

何かを投げ捨てるように、言葉を吐き出しながら後方に待機する兵士達を見る。

 

「店内をくまなく探せ。絶対に居るはずだ」

「…コピー(了解)

 

装備しているSG552(アサルトカービン)を構え、3人の兵士が狭い店内へと入る。

 

その数秒後、けたたましい発砲音と分銅の付いた鎖が飛び出し、侵入した兵士全員を外へと放り出される。

 

これにはベケットも額に手を当て、頭を抱えるように息を吐いて呆れ返った。

 

「全く。だから気を付けろと言ったのだが?」

「す…すみません…」

「損失は許さない。最低人員以外は次のステップの準備を」

「はっ!!」

 

命令が下されてすぐに十数人居た兵士達がその場を離れていく。

要石(キーポイント)へと先回りしている部隊と合流すべく走っていった者を除けば、この場にいるのは私の直属の隊員の半数に当たる6名と私、ベケット中佐の8人になる。

 

さて、ここからどうやって厄介な存在を運び出すのか。

 

「…出てこい!!さもなくばこの男の頸を圧し折る!」

「出るなエンキっ…!!?」

 

使い手の喉に強い圧力が加わる。

空気を吸う為の気道を抑えられれば数分で酸欠にもなるし、頸動脈等の器官を抑えられれば其れこそ脳を含めて様々な場所へ向かう事が出来なくなる。

 

流石の九頭竜の使い手も地上最強のサイコキネシスを前にしては勝ち目がないみたいだ。

 

今自分の吐いたため息はある意味で変わらぬ状況への落胆と仕方がないという諦めの心境が入り混じった物だと考える。

 

「見殺しにするならそれでも構わない。だがそれはある種呪いのようにずっとへばりつくぞ?」

 

中佐の脅し文句も中々に上手いことだ。

 

マッチポンプみたいだと思ってしまうが其れを口にするつもりは無いが。

 

「………出てくるぞ。二種配備」

 

中佐が耳元の無線機に向けて指示を出す。

 

飛び出してくるのは鬼となるか蛇となるか。

 

そう思いながら数秒の静けさが起こると。

 

「■■■■■■■■■■!!!」

「うっ、撃て撃て!!?」

 

金色の体毛に覆われた猛獣が飛び出し、部下達へと襲い掛かる。

 

人体を貫通する5.56mm弾でも神代の魔獣には効かず、その体毛は傾斜装甲の如く弾いては別の場所へと飛ばしていた。

 

「ぐっ…グレネードを!?」

「馬鹿野郎!そんなもの町中で撃てるか!?」

「くそっ!たれが!!」

 

腕で薙ぎ払われれば1人はくの字に曲げられ、もう1人は後ろの電柱へとぶち当てられる。

訓練を受けてきてもここまでの防弾性と聞くことのない存在には対応していなかった故に混乱が起こる。

 

仕方がない。

 

今までの鬱憤を晴らすように、跳躍し。

 

「…ンゴッ!?」

 

猛獣の頭部目掛けて遠心力を極めた回し蹴りを放つ。

 

其れが死神の鎌代わりになり、猛獣は意識を失うと同時に数m先の地面へと転げ回させた。

 

「…ガフッ…ギャウッ…!!」

「ありがとうハウザー大尉」

「……いえ」

 

あまり褒められたものではない。

脅し、決死の行為を示した存在を痛めつける。

其れが星条旗を背負う軍人のやる事なのか?

 

だがそんな物も中佐からすれば犬も食わぬと言うだろう。

 

作戦成功が重要だと述べた。

 

そんな男の部下である以上、腹に収めねばならない。

 

「……麻酔弾を撃て」

《了解》

 

無線機へ指示を飛ばす。

 

此処から100m先のビル屋上に陣取った狙撃手が麻酔薬を充填させた注射器型弾頭を小銃(AW50)に装填され、猛獣に向けて撃たれる。

 

弾頭の特性上、有効射程は100ヤードが限界。

 

それ以上になるとコリオリ効果や空気の壁で遮られ、途端に失速してしまう。

 

だがそれだけ離れていれば大丈夫であろう。

 

「……麻酔弾が弾かれたか…」

 

まさか麻酔弾の針も通さないのか。

象やグリズリー相手にも使える超硬素材だぞ?

 

「……仕方がない」

 

中佐が諦めたかのように目を閉じ。

 

「一体何を…」

 

問おうとした瞬間、酷く軋んだ骨の折れる音が響く。

 

「…実包を使用、撃て」

 

その言葉が放たれた瞬間、飛翔した12.7mmNATO弾が使い手の頭部を射抜く。

 

必殺の射程内である大口径弾が貫くだけでなく、骨から脳漿と頭蓋骨に収まる全ての部位をマドラーで混ぜるように何もかもをぶち撒けさせた。

 

「……■■■■■■■■!!!」

 

猛獣は叫んだ。

 

使い手との間に何かがあった様に、悲しみを帯びた叫喚が辺り一帯を遠くまで響かせる。

 

「騒ぐな」

「ギャウッ!?」

 

中佐のサイコキネシスが猛獣を掴む。

 

「喚くな」

「ギャッ!?」

 

そのまま地面に何回も叩きつけ。

 

「大人しくしろ」

「ガゥゥッ!?」

 

電柱が折れるほどの力で叩きのめした後。

 

切れた電線を操り、猛獣を感電させる。

 

「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!?」

 

たった数秒で猛獣は力尽きた。

ブスブスと体表を焦がし、虫の息に近い動きをするその様子に哀れさも思い耽ってしまいそうになる。

 

「…拘束準備。急げ」

「…はっ!!」

 

負傷していない部下に用意した拘束具を使用させる。

日本刀の一撃でも切れない防刃素材で編まれた拘束具であれば如何なる存在であってもそうそうは抜けられない。

 

瞬く間に何重にもベルトが巻かれ、身動きの出来ない状態へと変わり果てさせながら、水を満たしたアクリルボックスの中へと入れていく。

 

「ヘリを寄越せ。直ぐに出発するぞ」

「コピー!!」

 

全ての作業を終え、部下達はこちらに向かっているであろう輸送ヘリコプターへと指示を飛ばす。

 

数週間の監視任務はこれで終わった。

 

次のステップに向けて行動する事になる。

 

「……大尉、君の処分であるが…」

「…はっ…!如何なる事であっても!!」

「ふっ、その潔さに免じて…」

 

途端、顔に強い衝撃が起こり、身体がその場で宙へと弾かれる。

 

「これで済まそう」

 

その一言を最後に私は地面へと叩きつけられた。

 

痛みに悶える暇もなく、降り立ったヘリに乗せられ、ポイントへと運ばれていくだろうと思いながら目を閉じ。

 

けたたましい発砲音が響いた。

 

 

 

 

…………

 

 

 

軽機関銃。

旧ソ連製のRPKによる波状攻撃が行われ、兵士達数名に負傷者が出る。

 

「…全く」

 

ベケットの顔が更に歪む。

突然現れた闖入者が乗るボルボ社製乗用車は頑丈で有名。

 

少なくともちょっとした追突事故でもそう容易くは潰れないことでも知られているが。

 

「煩わしい…!!」

 

サイコキネシスによるものは想定していない。

フロントがひしゃげ始め、運転手の頭部が弾け飛ぶ。

 

射手が何かを感じ取り直ぐに走る車の外へと飛び出しては転げ回ると、乗用車はあられもない姿にスクラップと化した。

 

「ちぃっ!?テメェ弁償しろや!!」

 

キレた男、張維新はコートの内側からロングスライドの自動拳銃(ATM ハードボーラー)を抜き、応戦をする。

しかしベケットの目の前で45口径弾頭はピタリと回転を止め、進む事が無くなった。

 

「くそ、変な手品を使いやがって…」

 

張はそのまま電柱の陰に隠れ、自ら突っ込んだ厄介事へ愚痴を思い浮かべつつ、タイミングを計る。

 

「…中佐、そろそろ"県警"も止められないとの事です」

「……まぁいい。撤収」

「はっ…!!」

 

時間制限は同じ様にある。

ベケット達は何もすることなく、残った兵士達を連れて雨の中を溶け込む様に綺麗さっぱりと消えていなくなった。

 

其れを見た張はサングラス越しに目を凝らし。

 

「逃げ足が速いな…」

 

そうぼやいた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数分前

 

パラパラとホコリが飛び散り、漆喰などの壁材の粉末化したものが落ちる。

 

「グルルルッ…!!」

 

店の奥からとつぜん出てきた女の子(子供の頃の自分そっくり)が歯を剥き出して怒り、外へと出ようとしていた。

 

「待って!?いま外に出たって何も…「グオッン゛ッ゛!!」……ああ…もうっ…!?」

 

バンバン撃たれてる中をあの子は飛び出していった。

 

エンキドゥ。

ウルクの神々が創り出した神造兵器。

 

その力は神話や物語に出てくる人物そのものと言うほど強い。

 

ただの人間相手では勝ち目はないが、向こうには米軍最凶のサイコキネシスがいた。

 

あの男を前にしたら何も出来なかった。

あの男も私を放置してヘリで飛び去った。

 

私は全く役に立たなかった訳だ。

 

 

 

…………

 

 

 

雨が上がった。

 

「……宮本さん?」

 

今まで雨の音が続いていた中で私は"彼だった物"を見る。

 

身体全体はあらぬ方向へひしゃげされられ、下顎から上が喪失。

 

雨で半分近く洗い流されたその現場は正しく死を意味していた。

 

「……あぁぁ…」

 

私は自分を呪った。

 

こんな事になったのが自分のせいだと。

 

〔ティア〕からただ頼れると聞いただけで、まさかこんな事になるとは思っていなかった。

 

いや、こうなってしまうと考えつかなかった自分の想像力不足でもあっただろう。

 

全くの無関係な人を巻き込んだ。

 

自分は巻き込みたくなかったと思っていても、それは自分の実力不足が生んだ最悪の状況と言える。

 

私はそのまま地面へと膝をつく。

 

水を吸って、びしゃびしゃになる事を厭わずに遺骸へ縋り付いて私は慟哭を上げた。

文字にならない声が辺りを響かせて。

 

「………うるさい」

 

そう聞こえた。

 

「…えっ…?」

 

その声と共に、バキバキとひしゃげて折れ曲がっていた腕や脚が真っ直ぐに元へと戻っていく。

 

「すまないが離れてくれないか?」

「はっ?へぅ??」

 

何を言われるままに離れてみる。

 

下顎のみの顔は黒い靄に覆われ始めるといきなり青白い炎に包まれた。

 

「キャッ!?」

 

何が起こっているのか?

理由の分からぬまま目の前で起こる超常現象の様を見せられ続けて一分程度。

 

炎は鎮火し、少し煙に巻かれながら。

 

「………これで5()6()8()()()()…」

 

少々煤けた顔の宮本がそこにあった。

 

 

 

 

to be continued

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