Beginning of MAHAartMATA   作:葉隠小太郎

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第七話 崩壊のプレリュード

 

 

富士山麓樹海内

 

かつて富士山の噴火で起こった磁場を乱す地層があるという噂から人を迷わせる死の森と呼ばれていた。

 

しかしそれも俗説という事ではあるものの、その深い森は不幸に見舞われた人々を誘い込み、その命を絶つとも噂され、自殺の名所とも言い伝えられている。

 

現在では森林管理組合によって毎日監視の目が出来、殆どの場合は未遂で終わり、保護された後に社会復帰の施設へと送られるとのこと。

 

というのは表向きの話。

 

富士山は古くから霊峰の一つとして数えられている。

 

山岳信仰としても竹取物語の不死の薬を焼いた場所としても、古くから多くの修練者達が登り、修行の場として使われ続けた場所でもある。

 

特に、富士山には【龍脈】と呼ばれる巨大な流れが存在する。

 

風水や古代道教においては龍穴という繁栄をもたらす地へ流れる一種のエネルギーである。

 

かつては古代の結社がその力を我が物へと操る術を探っていたものの、過ぎたる力ゆえに滅び、恐れて使うことを諦めた。

 

現在は龍脈から洩れている龍穴から少しずつ糧として得て行く事を決めた一族などによって、厳重な管理がなされている。

 

 

 

…………

 

 

 

樹海内に一つの小屋がある。

 

横に取り付けた煙突からは上へと上がっていく煙が人のいる事を証明し、中では4人の男が卓を囲んで麻雀に勤しんでいる。

 

「……しかし」

「…ん?どうした?」

「いやっ?なあ…?」

「何だよ、理由わからねぇぞ?」

 

小太りの男が一つ山から牌を手に取り、自身の持ちと比べてから並べていく。

 

「……結婚間近の新郎がなんだってこの警備に居るんだろってな?」

「馬鹿なこと言うなって。ただ持ち回りが来ただけだろ?」

「そりゃそうだがな?」

 

と、一つ牌を捨てる。

他の捨て牌と持ち手を眺めてから(トン)を出す辺りを考えると、四暗刻の単騎待ちと予想する。

 

「まぁ、これが終われば家も安泰だって親父にも言えるから…」

「だな…良い報告は大事だ」

 

小太りの男の対面に座る年長者である中年男は結婚を控えた若い男に同意しながら、山から牌を切る。

 

「…チー」

「ここで鳴くかよ」

 

持ち手の中から牌を自身の横へ並べるとあまりのお粗末さに2番目に若い男がため息を吐いた。

 

こうしていつもの監視の目を作りつつ、夜通し続けられる麻雀徹夜が彼等の日常風景である。

 

「ポン」

「おいおい鳴きすぎて一個だけじゃねえか」

「バカ言うな。これからだ…!!」

 

本当に上がれるのかと思われる中で小太りの男は山から牌を一つ手にする。

 

「…!残念だったな…!!大三元だぜ!」

 

にやりと笑い、揃えた役を見せた。

だが、それに対して若い男が眉をひそめる。

 

「……それ大三元か?」

 

揃えた役が何かバラバラに見えては、訝しむ表情のまま問うと小太りの男が顔を酷く歪めて怒りを露わにし、卓を大きく両手で張り上げた。

 

「馬鹿言うなよ!?紛れもなく大三元ダッ…!?」

 

が、小太りの男は言葉を言い切ろうとした瞬間。

 

「ゴッ…グエッ…!?」

「お…おい?」

 

突然に苦しみだし、赤いあぶくを吹き出しながら卓に倒れ込む。

 

上に乗っていた牌は天井高く飛んでは辺り一帯を散らばせて一瞬で酷い惨状を生み出した。

 

「おいっ…!?どうしっ…」

 

倒れた仲間を介抱しようとその場にしゃがみ込んだ時、何故か自身の視界に赤く染まり始める。

 

「なんな…ん……だ?」

 

突然のことが多く起こる中で、考える暇もなく同じ様にその場に倒れ込んでしまう。

 

それは他の2人も同じく、今の状況を把握することなく、倒れては吹き出している血の噴水がその意味を明らかにする。

 

(……死ぬのか?)

 

この問いを誰かが答えてくれることはない。

 

恐らく最期までその問いを頭の中に反芻させながら、冷たい骸へ変わっていくことだろう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

十数分後…。

 

「……その。平気なんですか?」

「ん?……これがか?」

 

さも特に何もないと言わんがばかりに吹き飛ばされた頭を見てみる。

 

突然炎に包まれたかと思えば再生し始めた顔面と頭頂部はまるで精巧な彫刻師が早送りで作ったかのように見える。

 

一体どういう事なのだろうか?

 

()()()()…って知ってるかな?」

「えっ?」

「かのギルガメッシュがエンキドゥを喪い、死と向き合う事を考えて不老不死の薬を求めて旅をし始めた…」

 

宮本が突然に話をする。

ギルガメッシュ叙事詩における後半の話で、ようやく不老不死の薬を手に入れようとしたが、その際に横からやって来た蛇によって薬は食べられてしまい、不老不死になる事は出来なくなった。

 

「蛇が脱皮するのは不老不死の薬を飲んだ事で、何度も生き返ると信じられているからだとさ?」

「………」

「他にも、秦の始皇帝が水銀を不老不死の妙薬だと信じて、飲み続けたって話がある。ただヒ素を効率よく飲んでたみたいな物だからまぁ…死ぬだろう。知らないというのが恐ろしく感じた」

 

呆れた面持ちで言葉を出しつつ、厨房の床を足踏みで数回叩き始める。

 

何を意味するのか分からないが、突然に蓋のように開き、取っ手を持って開いた。

 

「一種の核シェルターだ。とは言え殆ど倉庫にしてる」

 

現れたのは大人10人程度が悠々と座れる空間。

其処に乾物らしき食材が段ボールに積まれ、隣にはミネラルウォーターが所狭しと並んでいる。

 

「換気システムは小さいし何かしらで動かなくなるかも知れないからそのまま使っていない。まぁネズミが入る可能性は低いがな?」

 

中へ入り、幾つかの段ボールを動かしていくと一つ貴金属製の箱が現れた。

 

「あの…それは?」

「ラーメンの麺が入ってるわけじゃない」

 

それはジョークなのか?

そう思いながらキーらしき数列のボタンを押していくと。

 

「一応用意はしてあるつもりだ」

 

蓋が開き、中からは銃器が詰まっている。

拳銃、散弾銃、自動小銃と大体の物が取り揃えられており、明らかに自衛用(ホームディフェンス)の概念から飛び出している。

 

「ライフルは分解してある。サブマシンは此処に幾つかあるがどうする?」

「あっ…そ…そうですね…」

 

流石にいきなりこれを見せられてと少々混雑が起こっていると。

 

「それじゃあそっちの散弾銃(AA-12)を寄越してくれ。連中のドタマをぶち撒けたい」

「……人の家で勝手にラーメン食べてる人間に貸したくはないが?」

「酷いやつだな。生き返る事知られたら優位性無くなるって言うから助けに来たのによぉ…」

 

いつの間にやら麺をすすりつつ、見つけた自動式散弾銃を所望する人物に少し驚く。

 

彼は張維新という地元チャイニーズマフィアの幹部とのこと。

 

つい先程奇襲をしたお陰で色々と時間稼ぎになったとかどうだとか…兎に角役に立ってくれたとか。

 

「一旦食べてから話に入ってくれ。後このAA-12はテリーの使っている物だから駄目だ」

「ちぇっ」

 

そんな悪態つきつつ、そさくさと店の方へと戻っていく。

 

これだけの銃器を抱えているあたりに相当何かしらの事をしているのだろうか?

 

そう思っていると。

 

「運んでくれ。持って行く物と実包一式だ」

「あっ、はい」

 

選んだ銃器と其れ等の銃弾を詰めたバッグが手渡される。

だいぶ重い。

冷静な顔をしつつ、内側には燃えたぎるような怒りが内包していると伺える。

 

地下から出て一つ思ったことがある。

車の調達をしないといけない。

 

此処に来るまでに色々な手続きを済ませたものの、法令的に運転免許はまだ持てない事に気が付いた。

 

一応同じ右側通行で慣れていたけれど、まさか此処で年齢制限に引っかかってしまうとは何とも言えない。

 

「車は出してくれるんだろ?」

「えっ?俺のか??」

「レンタカーをする訳にもいかないだろう?」

「……参ったな…」

 

困ったように頭を掻きつつ、張はそのまま店の外にてレッカーで運ばれていった廃車を思い出す。

 

少なくとも防弾性に優れた車両を今手に入れる術は中々難しいと考えるも。

 

「………一度だけだ」

「頼む」

「はぁ…」

 

何度目のため息であろう。

安請け合いした訳では無いものの、口に出した事をそのまま腹に飲み込むわけにも行かず、自身のコネから頼める所を探すべくスマートフォンの電話帳から一件一件探していくこととする。

 

一方で宮本は両手で自分の身体を覆うように何かを塗りつけていく動作をしていく。

 

「それは何をしているんです?」

 

不可解な人物だと考えるメアリであるが、その行動に何か意味でもあるのかと思い、思わず口にしてしまうと。

 

「どうせ奴等は此方の様子を伺っているだろう。今は曇り空だから見えていないが…」

「……あっ」

 

宮本が空を指すように上へと指を伸ばす。

 

相手は米軍特殊部隊。

SIGINT(電子通信諜報)を生業とする組織から派遣された可能性が示唆され、航空ドローンまでは飛ばせないものの、監視衛星は使っていてもおかしくはない。

 

「と言うことで釈迦の目でも追えない術式を使う」

「ああ〜。セイテンタイセイの逸話ですね?」

「うん。どうやら〔ティア・フラット〕からよく教わってるみたいだな」

「ええ。よく知られている神話や伝承はだいぶ……って知ってたんですか!?」

「…言ってなかったな」

 

しまったと思いつつ、張り終えたのかそさくさと店の奥へと向かう。

 

「張が手配する迄は少し時間があるな…。少し話そう」

「……はい」

 

厨房へと立ち、しまっている包丁とまな板を手に取りながら口を開いた。

 

「……覚えている限りは、太閤秀吉が朝鮮出兵をしていた時期に遡る」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

慶長2年(西暦1597年)8月15日(現在の9月23日)

 

南原城の戦いと呼ばれている日本と朝鮮及び明国との争いが起こっていた。

 

明軍3000と朝鮮軍1000〜3000からなる戦力に対して各大名勢力合わせて56300と圧倒的な戦力差と豊富な戦術による攻城戦が始まり、5000以上の明・朝鮮兵が戦死したという。

 

その中でも鬼島津で名の通る島津氏の家臣である〔島津豊久〕が先駆けを行い、敵首十三を手に入れたという話が遺されている。

 

この時、齢27。

 

その容貌は美少年と評する話もあれど、その実は島津の合戦を生き抜いてきた実力があり、野太刀を振るいて鎧をつけた武将すら掻っ捌いたという。

 

そしてその傍らにはイスパニアからやって来たという黒壇を思わせる波打つ長い髪と目にも麗しい美女が居たと噂されていた。

 

 

 

…………

 

 

 

「……全然面白くなかぁ!!」

 

そう大声を張り上げながら、割り当てられた陣地内にて炊かれた白銀に光る米を頬張り、狩りで捕れたイノシシの肉を喰らう。

 

「でも〔豊久〕殿?くれぐれも奥に控えよと主将より言われていたことをどうして一番槍と思うのかな?」

「おいはそれなりにゆ事は聞いちょいもすが?だがあん馬鹿たいんゆ事聞いちょったら日が暮るっどこいか、太閤様も墓に入っちまうじゃろ?」

「やれやれ…」

 

癖の強い言葉遣いを容易く聴き取り、美女は肩を竦めては呆れた面持ちで息を吐く。

 

「じゃあおはんはどう思うちょっど?あんまり苦言ばっかりゆとじゃったらおいもおはんの立場にちて改めて考え直すど?」

「……いや?別に変えなくていい」

「…ん?」

 

豊久は想定していない答えが返ってきたことにふと疑問の表情に変わる。

このケラケラと笑う女が少なくとも冗談やたわけた事を述べる事は今まで無く、自分の言葉には注意する賢人の考えを持っている。

 

故に豊久は一つばかりでも聞き入れることにした。

 

「君のやり方は今までも多くの戦場を生き抜いてきた実績と言えるだろう。島津の戦法は先駆けや夜襲、猿叫による威圧的攻撃を主とした戦の化け物そのもの。其れは農民などの徴用兵にとっては早々立ち直れない恐怖を植え付けられるし、騎兵も驚いた拍子に馬の暴れまわって制御不能にさせる。これは相当厄介と言えるだろうね?」

「……お、おう…」

 

冷静な分析能力と今まで行ってきた戦法の数々を一目で見破った観察眼に思わず敵でなかったことに胸を撫でおろす。

 

見た目は本当に美女であるが、如何にしてこの国へとやって来たのかが不思議で仕方がないものの。

 

(まぁ、少なかどん伯父上は信用されちょっごたっどん…)

 

伯父、義弘からは貴重なイスパニアの技術やヨーロッパの情勢、それこそ未だに未開の地と言えるアフリカ等の世界の話を述べる姿は造詣の深さを物語っていた。

 

名前は〔ティア・フラット〕

 

日本語に表すならば【涙雨】と言うらしく、義弘は〔涙雨(るう)〕と呼んでいる。

 

「…るう殿。ないごてそこまで知識が深かとな?しかもまるで自分で見てきたかんような豊富な智慧と学ん広さは並大抵ん物では無かやろう?」

「はは。流石に京の都に学んで居るだけあって、其処を察知するとは」

「バカにすっともえーころ加減にしてくれ。おいはアンタがどげんしなんか聞こごたっだけじゃ」

 

と言うものの、異国の宣教師も含めて日本の人間を野蛮な民族と捉えている節がある。

 

現に他の異人からは奇異の目で見られたことは多々あり、何度ともなく斬り掛かったこともあったほど。

 

ただ、ティアに関しては特段気にしていない様子で接しており、他の異人どころか、公家の人間や他の武士から薩摩隼人は血気盛んで困ると言われ続けた豊久には不思議な感覚でもある。

 

そんなケラケラと笑うティアは1つ口を開く。

 

「なに。ただ()()()()()()()()?それだけ生きていると暇つぶしに古文書とか色んな書物を探ったりしたいだけだからね?」

「……なんじゃそれ?」

 

何か、国の密命でもあったのではないか?と思ったがそんな様子は一切見られず、ティアという人物が相当変わり者だと理解してしまう。

 

「正直、君達もフランク人もローマ、エジプト、アフリカ、ブリテン、レッドマンもそこまで大差無いって感じているよ?なにせ…」

 

()()()()()()()()()()()()?」

 

キラキラと目を輝かせて言う言葉とは思えない。

 

流石の島津の猛者たる豊久の顔もこれには引き攣った笑みを作るしか無い。

 

所々に人でなしな感性が玉に瑕と言える。

 

一体どんな環境下で育ったのかと聞いたら多分答えるだろうが、其れを聞くのも後悔しそうだと感じ、腹の中に収めることとする。

 

とりあえずと少し冷めてしまった味噌汁に手を付けようと膳に伸ばした時。

 

「お豊どん、ちょっとよかか?」

「ん?なに?どげんした?」

 

陣の袖からこの戦にやって来ていた薩摩衆の1人、〔左近〕である。

 

若干、斬り捨て御免な性格はあれどその腕前と豊久を慕う心配りの持ち主故に同輩の〔鹿太郎〕と〔数馬〕と共に士官している。

 

「ちょっと来てもらおごたっど。なんでん兵達ん寝床が足らん物で幾つか見つけた所を借用しようとしたんどん…」

「やったら別によかじゃらせんか。それともないか地元民と揉め事でんあったんか?」

「…お、おう…そうじゃけ…」

 

左近の困った様子を見るに単なる揉め事とは思えない。

 

折角陣を敷いても周りの協調性が足りなければ成り立たない事も多く現れる。

 

仕方がない。

 

そう考えた豊久は手に持った味噌汁を頭と共に大きく傾けては中身の蕪と共に飲み干してから口を開く。

 

「ちょっと待っちょってくれ。おいが話をつくっ」

「お…お豊どん…かたじけのう!」

「馬を持ってけ。おいがだいかをハッキリさせちょかんなな!」

 

暇を潰す機会にと言わんばかり勢いよく立ち上がっては素早く自身の鎧兜を用意させ、具足や手甲といった装具を身に着けていく。

 

「お豊どん。もしも向こうが下手けてきたやどうすっど?」

「決まっとるじゃろ?」

 

自身の丈に近い刀身の大太刀を腰に差しながら。

 

「首を斬っだけじゃ?」

 

 

 

…………

 

 

 

陣から西へ進み、足軽等の末端が駐屯する一帯。

 

其処では豊久同様、昼の支度に釜を用いて飯を炊き、鍋に芋がら縄を入れては湯に溶かし込み、芋がら汁を作る最中であった。

 

しかし雨が降るので屋根のある屋内を探した足軽頭がある物を見つけた。

 

其れは強固な石積みの建築物であった。

 

誰もが見たことのないその形状に不思議がってはいたものの、その場にいた100人近くの足軽達が悠々と入る事が出来る広さがあった事で一時的に凌ぐことにした。

 

誰もがその見慣れぬ建築物に辺りを見回してみると不思議な壁画が見つけられる。

 

それが何なのか?

 

把握しようとした時、近くの村に住んでいる人間が青ざめた様子で様子を窺っていたのを見つけ、問いただそうとした時。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

…………

 

 

 

「っていうとが今ん所ん状況じゃ。ゆであればそん石造りん社は禁忌ん象徴っていうらしい」

「そうかそうか」

 

はたから言えばコチラが悪い。

 

如何に知らなかったとは言え、何があるか分からない場所に無断で入るのも宜しくはない。

 

ただ、此等の情報だけで判断するのも正直に言えばナンセンスと捉えられる。

 

豊久は走る馬の上で1つ顎に手を当てて考えては1つ口を開く。

 

「村人はそん社がないなんか知っちょっとか?」

「そいが分からんって話じゃ。なんでん曽祖父すら最初からこん建物が存在しちょったとん事じゃ」

「ほんまかい?」

 

誇張なのかは兎も角、その社の存在は村が出来た頃にあったと見てもおかしくはない。

むしろ、村が存在する理由こそ、その社の存在と見ても間違いないと豊久は思う。

 

「おかしな話でな?真夜中に物凄か不気味なおらび声が響いて聴けるちゅうもんじゃで妖鬼を封じちょるって信じちょっごたっ」

「妖鬼…か…」

 

その話に思わず口角が吊り上がる。

 

村1つ使って長年監視し続けてきた代物がいかなものかと心躍る状況では笑みも作るであろうと隣馬に乗るティアは思った。

 

「村長も出てくっ事態になっちょっらしゅう、今は鹿太郎と数馬が双方ん間を取り持ちつつ時間を稼いでくれちょいもす」

「すまんな。後で労う意味でおなごを充てがうちゅっててくれ」

「そうゆてくれれば幸いじゃ」

 

だが今は兎も角と目的の場所へ辿り着く。

 

其処では今にも小競り合いが起こりそうな一触即発と言える状況が起こっていた。

 

「■■■■■■■!!!」

「分かんねぇよ!日の本言葉喋れや!?」

「■■■■■■■■!!!」

「ぶった斬っぞ!?」

 

これには流石の豊久も頭を抱える。

 

陣地掌握から村人を全員根伐りするのは珍しくはないが、率先してやる理由もない。

 

手にしている農具もボロボロの木製ばかりで衣服もこれから冬に向かうばかりにしては薄手が過ぎる。

 

噂に聞けば明国への献上が多く、しかも朝鮮王朝は傀儡政権とも呼ばれ、明国からやって来た政治家達に支配されている。

 

故に、末端であるこういった村は枯れに枯れる程吸い付くされてしまったのである。

 

「…るう。通司せぇ」

「分かったよ」

 

豊久の言葉に従い、ティアは手で空をなぞる様に切る。

 

ある種の(まじな)いらしいものの、其れが何かまでは把握出来ていない。

 

(まぁええ)

 

其れでも重宝している。

そう思いながら、こちらを見る足軽達が一斉に頭を下げ始め、その場は静かさを生み出す。

 

そのまま辺りを見つつ、村長であろうヒゲを蓄えた老人の姿を見つけ、その前まで歩く。

 

「おはんらは麓ん村んもんじゃろうか?騒がせて申し訳なか」

「…………」

「本当なら色々ち言おごたっこともあっじゃろうが、此処は落ち着いて欲しか」

「…………」

 

答えは来ない。

 

通じてないのか?と思い、ティアの方へ顔を向けると。

 

「通じてるけど薩摩弁は伝わってないみたいだよ?」

「……おまんが話せい」

「了解した」

 

言語として分かりづらいと言われている薩摩弁では向こうは通じづらい事にやきもきさを感じ、仕方がなくティアに話すよう促す。

 

「……おほん。『此方の方はこの兵達の大将です。失礼をかけたと言って申し訳なく思っていますのでどうかお鎮まりください』」

『……アンタらは分かってないな』

『おや?其れはどういう意味で?』

 

言葉が通じた事で村長から話が続けられる。

 

『これは"封印"だ。神の如き力を持つ方が秩序を壊し、天変地異を引き起こそうとした悪鬼を封じて居る。その為、新月の頃には呪詛めいたうめき声が村まで響いてくるのだ…』

「…はぁ…成る程…」

 

村長の言葉に何か妙な部分を感じつつ、目を社の方へと向ける。

 

(造りは天竺の仏閣に近い石造り。呪文らしきものがつらつら彫られて居るから相当長い間蓋していると…)

 

自身の知識からパッと見た想像を膨らませてみると、その執念深さにゾッとした。

 

(悪鬼羅刹というより、汚い物とか汚点的な物を深くしまい込んだ感じの封印だよねこれ?)

 

例えて言うならばとてつもなく熱い物質を鉄やら頑丈な貴金属の容器に入れておく所を少し頑丈な程度のペットボトルに入れる様な行為に近い。

 

天変地異を引き起こしかねないならば、もっと呪詛が漏れないように密閉する式でないとこの辺り一帯は死の土地へ変わり果てている。

 

そんな用途違いな術式をしていることに疑問を感じつつ、村長へ兵を下がらせる旨を伝えようとした時。

 

「ちょっと待ってろ。おいが中には入ってそん悪鬼羅刹とやらん首を取ってくっ」

「あっ、ちょっ…!?」

 

痺れを切らしたのか、薩摩隼人と所以される豊久は腰の愛刀を抜き、歯を見せて笑いながら社の方へと向かい始めた。

 

「■■■■■■■!!!」

「分かっか!?日ん本語喋れや!!」

「あ〜…もぅ…左近、とりあえず兵達下がらせて」

「お、おいつかまつる」

 

滅茶苦茶だと思いながら、左近へ伝えながら豊久の後を追って社へ向かう。

 

渋々帰る足軽達の姿を見送りつつ、ズカズカ遠慮なしに向かう狂戦士(バーサーカー)をどう止めるかと考えていると。

 

「ほう、ないか変な絡繰りが見ゆっな…」

「封印してるんだもの。そりゃ闖入者用のヤツは付いているだろうね?」

「……ぬんっ!!」

 

気にするつもりは毛頭なく、仕掛けの1つに飛び込む。

 

何が起こるか分かったものでないと心配するも。

 

「成っ程…壁やら足元から刃が飛び出してくっとな…。今度島津ん城につけてみるかな?」

 

と大太刀によって見事に破壊され、無残な情景へと変わり果てさせた辺りに呆れが漏れる。

 

その後も設置した人物が泣くのでは?と思う程、数々の罠を看破と破壊が行われ、全ての関門が突破された頃。

 

「なんじゃ?」

 

最後の部屋と思われる広い空間に四方の柱から大きく頑丈な鎖が伸び、中央にある箱状の代物に何重にも巻き付けられている。

そして、中央には銀色の液体が並々と箱の半分が浸っており、その様子は重々しい空気を作る。

 

「成る程…ふむふむ」

「ないか分かったんか?」

「そうだね。あの周りの液体には触らないほうが良いよ?かの始皇帝が好んで飲んでいた毒である"水銀"だから」

「水銀じゃと?」

 

ティアの言葉に豊久は顔を顰め、箱の方へと見る。

 

その言葉の通りに、液体のようで固体めいた様子を見せる其れは秦の始皇帝が不死の薬として摂取していた水銀である。

 

今では使用されていないが温度計にも使われていた物質で、その特異性から錬金術の触媒としても利用されてきた歴史がある。

 

「魔は銀を嫌う。かのドワーフ達しか知り得ぬ魔銀(ミスリル)しかり"アダマント"しかり、其れ等は封印に用いる事が多い」

「ちゆことは、こん中身はそれ程厄介だって事け?」

「だね。だからこんな大掛かりな仕掛け作る理由だよ」

 

ここまでの道程から納得出来ると肩を竦める。

 

壁面を見渡せば異なる文字が幾重も書き足され、まるで解かせないような暗号文を思わせる。

 

「これ全部解くっか?」

「ふふん♪私を舐めないで欲しい」

 

と、得意げな表情で杖を振るう。

 

豊久は京の都帰りと言うことで、彼自身も陰陽道を習う術師の仕事ぶりを見かけた事がある。

 

どれも静かながらにソワカと真言を唱えながら人に憑いた鬼を祓うが、ティアは全くそのような素振りを見せず、手から光を帯びさせ、翳したりするだけで術を完成させる。

 

本人曰くは既に式を完成させてあり、其れをただ発動する状態にしているだけと聞いている。

 

石や物体に文字を刻み、時間差等で発動する事も出来るので別段呪文を唱えたりする必要も無い。

 

「さて、本当にやるの?」

「ん?何度も言わすっな。鬼が出たやそん首たたっ斬っだけじゃろ?」

「だよね。うんうん」

 

時折豊久の見せる姿に満面の笑みを見せるティア。

 

それには何か不穏さが見え隠れしているものの、当の本人は都合が良いとお得感を持っている。

 

恐らく其処から何が出ようとも、島津の侍は変わらずにその刃で斬り裂こうとするだろう。

 

ティアはそのまま術式を発動。

強固な柱は4つとも根元から折れて砕け、鎖は緩み始める。

 

封印を施されていた水銀も、その場から蒸発し始めては鎖と共に消えて失せていく。

 

その場に残るは箱のみ。

 

その正体が石棺であると気が付いたのは。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

to be continued






宮本「これがティアと俺のファーストコンタクトと言うことだ」

メアリ「殆ど最初じゃないですか!?導入長すぎですって!?」

宮本「基本そんなものだ。それから訳あって色々とあるんだが…今は語るべき時ではない」

メアリ「それは探偵の決め文句ですが?」

宮本「やれやれ…」

メアリ「…それでは随分と長生きですね…慶長と言ったら確か……400年!?そんなに長く!?」

宮本「さて。そんな事は今はどうでもいいだろう」

メアリ「……?」

張「お嬢さんの位置が分かったぞ?いつの間にか忍ばせてたGPS機器のお陰でな?」

メアリ「…と言うことは?」

宮本「場所は何処だ?」

張「あ〜。場所はどうやら…富士山麓だな」

宮本「富士山麓…」

張「あと…関係してるかは分からんが……」

張「───()()()()()()()()()()()()()()()()()()3()()

次回に続く。


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