偉くもないし、立派でもない。わかってるのは────── 作:無名のサイドラ使い
今作の主人公二人が立ち上げた部活。
基本的には『生徒たちが持ち込んできた事件を解決する』ということを命題に活動している部活であり、持ち込まれる依頼は『犬の捜索』や『恋人の浮気調査』など多種多様。
時には『ストーカー撃退』などの危険な依頼が持ち込まれることもあり、生徒たちからの評判は悪くないが、教師たちからは疎ましく思われている模様。
俺は、今でも覚えている。あの日の事を。
あの日、俺の
ただでさえ一世一代の告白を振られて痛んだ心に追い打ちをかけるが如く、奴らの笑い声が俺の心に突き刺さる。
突き刺さった言葉は俺の心を徐々に腐らせ、それがついに目まで伝搬したその時。
『あ?何やってんだお前ら。』
声が教室中に響き渡る。きっとこのクラスにいる人間は誰もが知っている声だ。
サッカーがうまく、容姿は整っている。このクラスでクラスカーストの頂点に入れるスペックを持っているにも関わらず、カーストの事を一切気にせず『シャーロック・ホームズ』に夢中な寡黙で冷静な男。
あぁ、きっとこいつも同じだ。俺はそう思った。
こいつもあの女子と同じく
だが、あろうことかこいつは奴らとは違った。
『
そう言ってあいつは黒板に俺の名前を書き、笑い話のように語っていた告白相手のグループを追い払い、いそいそと黒板に書かれた名前を消していく。
その行動にグループの奴らはやれ『空気が読めない』だの、『ありえねー』だのブーイングが巻き起こる。
しかし、あいつはそんな同調圧力を一切気にも留めず、呆れたようにこう言ってのけた。
『ありえねーのはお前らだろ。自分から告白もしたことねぇ癖に勇気出して告った人間バカにしてんじゃねぇよ。』
教室中が静まり返る。まぁ一人だけその様子に『ウケるー!!』とか言って笑っていたのだが。いやウケねーから。
ただ、まぁ教室のそんな様子に俺はほんの少し胸がすいたのは確かだ。
きっと、ここが始まりだったのだろう。
俺のあいつの助手として探偵を始めたすべてのきっかけのあの事件。その始まり。
俺をあいつが助けた。それがきっかけで今の奇妙な関係は始まったのだ。
お礼の一つも言おうとすれば、あいつはきっと『人が人を助けるのに論理的な思考は存在しない』などとキザなセリフを堂々と言ってのけるのだろう。まぁ俺は今でもあいつに心の中で感謝し続けているのだが。
そんなこんなでこの俺比企谷八幡は工藤新一を尊敬し、彼にとってのワトソンとして今も今もこの部活、『探偵部』で探偵を続けているのだ。
♦
「探偵部が廃部!!!!!????」
「うむ、そうだ。」
そうやって彼、『比企谷八幡』が頭の中でかつての思い出を回想していると、彼の隣からこの世の終わりのような声が聞こえてくる。うるせぇ、と八幡は心の中で毒づくと共に隣に立っている少年『工藤新一』をチラリと見る。
彼は中学時代の『寡黙で冷静な男』という八幡のイメージとは打って変わって、どこかコミカルな様子で驚愕し固まっていた。
「…。おい、こいつ固まったまま動かないぞ比企谷。」
「多分相当ショックだったんでしょうね…。」
どこか遠い目をして語る八幡に溜息を吐く教師『平塚静』。取り敢えずこのままでは話が進まない、と新一を再起動させるように八幡へ促した。
彼は即座に新一を再起動させると、彼とともに今一度彼女へ向き直る。
「で、なんで急に廃部なんてことになったんすか?一応、俺と工藤はしっかり部活存続条件の『報告書』を提出してたと思うんすけど。」
「そうですよ!!『部員数は足りないがうちは自由な校風を謳っていてね。活動報告書を逐一提出するのであればこの部を存続させてやろう。』って言ったのは先生じゃないですか!!」
「…その異様にうまい声真似に関してはツッコまないでおく。まぁ、そうだな。君たちは報告書を提出しているのはこっちでも把握している。」
新一の異様にうまい声真似を見事にスルーし、机から彼らが提出した報告書を挟んであるファイルを証拠を見せるように出す。表紙には『探偵部活動報告書』と文字が書かれている。
この報告書は探偵部を始めた頃から提出していたものであり、彼らが解決した出来事を逐一記録したものだ。『犬の捜索』や『恋人の浮気調査』などの多種多様な依頼の内容がそこには書かれていた。
平塚はその報告書がまとめてあるファイルを徐に開き、現状報告書が挟まれている中で、最後のページにある報告書を彼らへと見せる。そこには『女子高生ストーカー事件』というタイトルの報告書があった。
「…これがどうかしたんすか?確かに自分らが最初に取り扱った明確な犯罪者がいる事件ではありますけど。」
「実は、この犯人がナイフを懐に隠し持っていた…というのは知っていたか?」
「えぇ、知っています…というか捕まえたの俺達ですしね。」
「それが問題になったんだよ。この前の会議でね。」
その言葉になるほど、と納得し相槌を打つ八幡。その情報から彼らはある程度の推理をする。
「これ以上危険な事件に首を突っ込めば俺たちの身の危険に繋がる。そこで部活というシステムを使って探偵をしている俺たちを事件から遠ざけるには部活そのものを廃部にさせればいい。」
「ってとこですかね。先生。」
「ま、そういうことだ。さすが数々の案件を熟してきただけあるな。」
「…納得はできないですけどね。」
そう言って不貞腐れる新一。普段の彼であれば得意げに胸を張るところであったが、今の彼にはそんなことができるほどの元気は残っていなかった。隣で肩を竦めている八幡もどこか残念そうに見える。
そんな二人を見かねたのか、ゴホンと咳ばらいをして二人にとあるものを見せた。
「…さて、実は今回呼び出したのにはもう一つ理由があってな。」
「「なんです?」」
「『高校生活を振り返って』。」
「「ん?」」
ちょっと雲行きが怪しくなってきたぞ、とそれを見て二人は顔を見合わせる。そしてゆっくりと平塚の方に視線を移動させると、彼女が先ほどの真面目な表情とは打って変わって彼らを呆れたように見つめて、否睨みつけている。
彼女はそんな二人の姿に溜息を一つ吐くとまずは八幡の作文を音読し始めた。
「えーなになに?」
『青春とは嘘であり悪である。青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺き自らを取り巻く環境全てを肯定的に捉える。さて、そんな肯定的に捉えられた環境で起こされる様々な事件は一体どこへ向かうのか?答えは我々探偵部である。日々我が部に持ち込まれる事件はペットの捜索や恋人の浮気調査など多種多様なものであるが、それらのような明確な依頼以外は全て持ち込まれた本人がなんとかできるものばかり。我々はボランティア団体ではないのだ。これ以上仕事を増やすようであれば貴様らの秘密を暴き、学校掲示板に公開してやる。ああ、青春の悪徒どもよ砕け散れ。』
「…なぁ、比企谷。私が出した課題は一体何だったか復唱してみろ。」
「『高校生活を振り返って』…ですけど。」
「それがなんでお前のテロ予告になっているんだ…振り返るのは犯罪履歴じゃないんだぞ。」
はぁ…と何度目か分からない溜息を吐きながら眉根を揉む平塚。読み上げている途中に時折、彼の隣にいる工藤がニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべていたので彼女の『自慢の拳』が飛び出そうになるが、そこはご愛嬌である。
しかし、ふと読み上げてみて気になった点があったのか一つの疑問を書き上げた本人に問いかけた。
「この『それらのような明確な依頼以外』というのは?」
「…こいつの顔ファンからの依頼っすね。例えば『今日一日デートしてください!!』とか。」
「デート…デートかぁ…。」
平塚は、どこか悲哀を含ませてその言葉を呟く。今までに彼氏の一つもできないアラサーの悲しみが滲み出るような呟きだった。おお、悲しきかな平塚静。彼女が結婚できるのはいつになるのやら。
彼女はトリップしそうになっていた頭をなんとか再起動し、次は貴様だと少々殺意を込めて新一の原稿を読み上げようとする。しかし、あまりの文章量の多さに断念した。
「工藤、お前に至っては長すぎる。最後の一文はかなり気に入ったがなんだこの長さは。長編の小説か?」
「えー、いいじゃないですか。ちょっと今まで探偵部やってきて思ったことを記述しただけですよ。」
「確かに、振り返ってはいるが…振り返ってはいるがなぁ…。」
「ま、途中ホームズを例に挙げて様々な事件の解決法なんかを書いてたのでかなり長くなってしまいましたが。」
「明らかにそれが原因じゃないか!!」
コテンッと拳を額にぶつけて『てへぺろ』と舌を出す彼におちょくられた平塚はついに怒りが爆発し、彼女の拳が新一の体を捉えるが、彼は持ち前のフィジカルによってその拳を避けた。そして彼は不敵に笑う。
「ふっふっふ、甘い甘い。まだまだですね平塚せんせぃ゛!!?」
「甘いのは貴様だ小僧。」
「確かに先生の年齢からしてみれば俺らは小僧ですけどぉ゛!!?」
「女性に年齢の話をするなと教わらなかったか?馬鹿者。」
平塚の『自慢の拳』を受け、二人は無様に呻きながらその場に倒れ伏す。果たして教師が生徒に暴力を振るのは法的な問題で大丈夫なのだろうかという疑問はさて置き、倒れ伏した二人はビクリと一度痙攣すると腹部を押さえつつよろめきながら復活した。そんな二人に、平塚は今後の二人の処遇について話す。
「とりあえずレポートは再提出だ。」
「「はい…。」」
「それと、このふざけたレポートの罰として奉仕活動を命じる。」
「「はい…はい?」」
♦
その後はあれよあれよと話が進み、結果俺たち元探偵部の二人は平塚先生の言う『奉仕活動をする場所』へと連れていかれることになったのだった。いや、奉仕活動をする場所ってなんだよ。校庭とかで草むしりとかじゃねーのかよ。
「ここだ。」
「ここって言われても。」
目の前を歩いていた彼女が立ち止まったのは様々な部室がまとまっている棟のプレートに何も書かれていない教室だった。隣にいる工藤がこちらを見て意味わからんというジェスチャーをしている。いやこっち見てそれやられると俺が意味わかんない存在って言われてるかと思ったからやめて?
そんな馬鹿みたいなサイレントコントをやっていると先生が横開きの扉をガラリと開けた。
「入るぞ、雪ノ下。」
そう言ってずかずかとその教室に入っていく先生の後から教室に入ると、空き教室であるはずのそこには一人の少女がいた。煌めく黒髪、雪のように透き通った白い肌というどこか詩的なフレーズが頭に浮かぶほどその少女の容姿は整っており、一瞬だけ目を奪われた。
少女は、手に持っていた文庫本を閉じるとこちらを見る。
「平塚先生。入る時はノックをお願いしているはずですが…。」
「ノックをしても、君は返事をした例がないじゃないか。」
「それは先生が返事をする間もなく入ってくるからじゃないですか。」
おお、あの平塚先生に対してまともに言い争っている…っていうかこれは二人のお約束みたいなもんか。と思考していると、かの黒髪美少女の視線が先生から横へと移動し、俺を捉える。
「それで、そのぬぼーっとしている人は?」
「………。」
…そういえばこいつ、知ってるぞ。
探偵部をやっているときに時折名前を出されていた少女。名前は確か『雪ノ下 雪乃』だったか。
国際教養科である二年J組の生徒であり、学内で誰もが知る有名な生徒だったはずだ。
成績は上から数えた方が早く、その見た目も相まって告白される回数も非常に多いのだとか。
最も、多いだけで実際は誰とも付き合ってないらしい。
「あ、どうも比企谷です。探偵をやっているものです。」
「…そう。それで、探偵さんが一体何の用?」
「いや、俺は「入部希望者だ。」…はい?」
おいおい、どういうことだってばよ。俺らはいつからこの何部かもわからん部活への入部届を書いたのだろうか?
いや待て、もしや。
「これが奉仕活動…ってこと!!?」
「ワァ…キッショ…。」
「あの工藤君?確かに自分でも気色悪いとは思ったがそうやって口に出すのやめて?俺が傷つく。」
いいじゃねぇかちいかわ。あのいかにもちいさくてかわいいやつの『平穏な生活』を描いていると思ったら、むしろ生活することに対しての厳しさとかをバチバチに描いてるのすごい好き。
さて、そんなコントをやっていると置いてけぼりになった雪ノ下がポカンと工藤を見ている。
「………工藤君?」
「……お前、雪ノ下…なのか。」
え、と困惑の声が俺の口からポロリと漏れてしまう。
マジ?雪ノ下と工藤って知り合いなのか?工藤が、こんな美人と?
工藤新一
「工藤新一、探偵さ。」
今作の主人公である。
普段は『探偵』として生徒たちの悩みを解決しているが、父の影響故か小説家としての顔も持っている。(ちなみにこのことは八幡及び数名を除いて誰にも知られていない。)
かなりのシャーロキアンであり、教室では誰とも会話せずにシャーロックホームズに関する小説を読んでいる。しかし、決してクラスメイトとの仲は悪いわけではなくむしろ良好といっていい。(顔は整っているため彼の読書している姿はファンからは人気なのだとか。)
比企谷八幡とは中学二年生から友人関係を結んでおり、共に探偵部を立ち上げて日々探偵活動を行っている。