偉くもないし、立派でもない。わかってるのは──────   作:無名のサイドラ使い

2 / 3
中学生時代の探偵部
『折本かおりチェーンメール事件』
前回の回想内で起こっていた事件の後、折本かおりは工藤新一の顔ファンから『彼から嫌われた原因』として恨みを抱かれ、彼女を誹謗中傷する『チェーンメール』が流布される。
それを見かねた比企谷八幡が探偵部に陰で依頼を持ちかけた。がしかし、依頼した本人である彼も事件解決に奔走させられることとなる。
以降、八幡は探偵部に入部させられ、被害者である折本かおりも巻き込まれ中学生時代の探偵部が真の意味で機能することとなった。



File:2 そして彼らは奉仕部に入部する

 

──────お前、雪ノ下…なのか。

 

どこか普段の彼からは絶対に漏れない言葉であることは、悪友である俺はよく知っている。なぜなら奴は初対面なら必ず『仮面』を被って人と話すからだ。なんでもこいつは『小説家』と『探偵』、それともう一つの顔を持ち、それぞれを使い分けているらしい。『総武高のトリプルフェイスとは俺のこと』とこいつは言っていた。

理由は俺も知らない。おそらく俺の知らない過去に関係がありそうだが…こいつは多分『便利だから』という理由でもおかしくはないと思う、こいつだし。俺がそんな思考を巡らせていると、ここに連れてきた張本人である平塚先生が不思議そうに固まっていた二人へ問いかける。

 

「二人とも知り合いなのか?」

 

「……えぇ。まぁ幼馴染ですね……なぁ雪ノ下?」

 

「そこは言い切ってくれないかしら、それとも私がかわいすぎて幼馴染なんて恐れ多いと思ったの?」

 

「いや……確かにお前はかわいいけどよ。

 

おお!!あの工藤が雪ノ下雪乃に対しては普段のキレを見せていない!!いいぞいいぞ、もっと言ってやれ!!そう、俺にとって工藤は探偵として尊敬できる悪友ではあるが、それと同時に探偵部内の仕事を増やすクソでもあったのだ。いつもはこの男を言い負かそうとすると、圧倒的言葉のキレで返り討ちに合うのだが…今は違う!!(ギュッ)

 

「まぁいい、さっきも言ったが君たちにはふざけたレポートを提出した罰としてここでの部活動を命じる。異論・反論・抗議・質問・口答えは一切認めない。それに、君たちは部活が廃部になったばかりだ。後釜としてここに入部するのも悪い話じゃないだろう?」

 

「「えぇ……。」」

 

「というわけで、聞いていたと思うが彼らはふざけたレポートを書くようなかなりのひねくれものどもだ。『ここで彼らのひねくれた性格を矯正する。』これが私の依頼だ。」

 

「お断りします。そこの男の下心に満ちた下卑た目を見ていると身の危険を感じます。」

 

断じて見ていない。その慎ましやかな胸など!!それと前言撤回、こいつは敵だ!!

 

「安心したまえ、この男のリスクリターンの計算と自己保身に関してだけは一年間見てきたがなかなかのものだ。刑事罰に問われるマネは……まぁ決してしない。彼の小悪党ぶりは信用してくれていい。」

 

「…いやそこは断言してほしかったんですけど、それと常識的な判断ができると言ってください。」

 

「『小悪党』……なるほど。」

 

「確かに、こいつはかなりの小悪党だぞ。」

 

いや聞いていない上に納得しちゃったしよ……それと工藤は後で死刑執行な。

 

「まぁ、先生からの依頼ならば無下にはできませんし、承りました。ここで彼らのひねくれた性格を矯正して見せましょう。」

 

「ふっ、そうか。なら頼んだぞ雪ノ下。」

 

そう言って教室から出ていく平塚先生、まるで『平塚静はクールに去るぜ』といった感じだ…いやどこの解説王だよ。確かにあの人にアニメの解説頼んだらすごい詳細に語ってくれそうだが、むしろ自分から語りそうまである。さて、彼女が出て行ったあとは先ほどまでの喧騒が嘘のようにシーンと静まり返って、時計の音だけが教室に響く。ていうか、マジかよ……なんだこの展開?あの工藤ですら静まり返ってるぞ。

その沈黙を破るように工藤が俺に話しかけた。

 

「…ま、とりあえず座ろうぜ。いつまでも立ったままは気まずいだろ?」

 

「…それもそうか、正直訳が分からんが。」

 

工藤から適当な椅子を渡され、礼を言いつつその椅子に座る。グッ…探偵部時代の椅子が恋しい…あれはかなり良い物で学校のパソコン室なんかで使われている椅子と言えばわかりやすいだろうか。学校の備品の中で一番いい椅子というのはおそらく俺の気のせいではないだろう。それに対してこの椅子は教室によくある木と鉄パイプで作られた椅子だ…硬くて仕方ない。

 

「さて、そろそろ何部なのか教えてくれてもいいんじゃないか?雪ノ下。」

 

「…あら、平塚先生から聞いていないの?」

 

「…まぁ、『奉仕活動を命じる』としか言われてないからな。部活内容とかは一切伝達されてない。」

 

「なんというか、相変わらずなのね…平塚先生。」

 

相変わらずなのかよ。それは教師以前に社会人としてどうなんだ?報・連・相は社会人の基本だろうに…。と、考えていると教室の外からなにかどんよりとしたオーラが漂ってくる。これ、もしかして先生教室の外で盗み聞きしてたのか。なんというか…残念な先生だ…。

 

「そうね…伝えられていないのであれば当ててみなさいな。あなた達『探偵』なのでしょう?」

 

「なるほどそう来たか。いいだろう、完膚なきまでに完璧な答えを導き出してやろう!!…工藤が。」

 

「って俺かよ!!」

 

うむ、工藤もいつもの調子が戻ってきたな。さっきまで雪ノ下雪乃という氷の女王にすっかり怯え切っていた工藤もこちらの言動にツッコミを返せる元気が戻ってきたようだ。

 

さて、とは言ったものの推理に必要なものは既に揃っているのでこれと言ってやることはないのだが…工藤は考えるように椅子の上で足を組み、顎に手を当てている。恐らく何かが引っかかるのだろう。

工藤がこの仕草をしている時の推理は長いため、まずは俺の推理から話そうじゃあないか。

 

「ふむ、文芸部ってのはどうだ。」

 

「へぇ、その心は?」

 

「この教室にこれといった特殊な機器・環境が存在していない、またお前は文庫本をずっと読んでいるだろ?その為だ。」

 

ふふん、どうだこの推理は?勝った!!死ねぇい!!

 

「残念外れ。」

 

外れちゃったよ。ま、まぁ元々完膚なきまでの答えを出すのは工藤だったし…いやほんとだよ?

 

「『ボランティア部』または『奉仕部』…か。」

 

「へ、へぇ、その心は?」

 

ん?この反応はもしかして正解なのではなかろうか?流石は我が悪友、工藤新一だ!!

 

「さっき比企谷が言ってたがこの教室には特殊な機器が無く、なにより我々はここに『奉仕活動をしろ』と言われて連れてこられた、奉仕活動は基本的にボランティアと呼ばれることが多い、このような点からボランティア部または奉仕部だと俺は考えた。まぁ恐らくその反応的に『奉仕部』だろうな。」

 

「ぐ…正解よ、流石は探偵ね。工藤君。持つ者が持たざる者に慈悲を持ってこれを与える。人はそれをボランティアと呼ぶの。困っている人に救いの手を差し伸べる、これがこの部の活動よ。ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ。」

 

俺は入ってないのかよ…別に悲しくなんてないんだからね!!…自分で言ってて気持ち悪いなこれ。

と、まぁそんなこんなでグダグダやっているとそれを見かねたのか平塚先生が教室に入ってくる。このタイミングを見計らったような感じ、恐らく本当に教室の外にいたんだろうな…。

 

「どうだ?そいつらの性格の矯正は。まぁ見た感じは手間取っているようだが。」

 

「まぁ、そもそも俺たちが変わる必要があるのかって話っすけど。」

 

「…それはどういうこと?」

 

む?俺がそう言ったとたん、彼女の反応…というか纏う雰囲気が変わったような気がした。さっきまでのどこか『私、あなたに興味ないのだけれど』みたいな雰囲気がこちらを敵視するようなトゲのある雰囲気に変わった気がする。…もしかして地雷だったか?

 

「え、えっと…なんだ、そのー…変わるだの変われだの他人に俺の自分を語られたくないんだよ。」

 

「あなたのそれは逃げでしょう?」

 

…やけに突っかかってくるな。しかし、工藤は雪ノ下と俺の攻防を静観している…幼馴染なんだから止めてくれねーかなー…。と思いつつ俺は少々攻勢に出るのだった。

 

「変わるってのも現状からの逃げなんじゃねーの?どうして現状を、過去を肯定してやらねーんだよ。」

 

「それじゃあ…悩みは解決しないし、誰も救われないじゃない。」

 

鬼気迫る表情で言葉を紡ぐ雪ノ下。その言葉にはどこか彼女なりの信念や、正義を感じた。

…うーんなるほど、分かってきたぞこいつの正体…といってもあくまで推理の範疇だが、しかし確信を持って言えることだと思う。こいつはおそらく『正しすぎる』人間だ。例え、自分の知らない相手だろうと絶対に嘘はつかないのだろう。まぁここまで罵倒やら無視やらされると意地でもわかる。歯に衣着せないと言えば聞こえはいいのだが、それに対して世間はどうかというと…そうではない。世間は彼女を腫物扱いするし、拒絶する。

だからこいつは、雪ノ下雪乃はここにいるのだろう。自分のまたは誰かの、『なにか』を変えるために。

 

…とここまで考えて、ようやく工藤が彼女を止めに入る。

 

「ステイステイ、ここで言い争ってもなにも始まらねーだろ?」

 

「…あなたはどうなの、工藤君。私のように変化を肯とするの?それとも…。」

 

「バーロー、言い争っても始まらねーっつったろ?それに俺はあくまでも『探偵』だ。偉くもないし立派でもないただの探偵。そんな男に『変わるべきか、変わらぬべきか』なんて尋ねられて的確な答えが出せるかよ。ね~平塚せんせ?」

 

「お前の猫撫で声は寒気がするからやめろ。」

 

そう言って平塚先生は肩を竦め…いやこれは鳥肌が立ってるだけだな。

…まぁ、実際俺も熱くなりすぎたのかもしれない。俺たちはあくまでも『探偵』、決して『哲学者』などではないとこいつはよく言っていた。それを忘れてここまで言ってしまったのは果たして何故だったのだろうか。

そう思考を巡らせて、止める。というのも、平塚先生がやけに自信たっぷりの不敵な笑みを携えて口を開いたからだ。なに言うつもりだよ、こえ~…。

 

「さて、古来より互いの正義がぶつかった時は勝負で雌雄を決するのが少年漫画の習わしだ。」

 

「何言ってるんですか…?」

 

「つまりこの部で、比企谷と雪ノ下のどちらが人に奉仕できるか勝負だ!!」

 

「…あのー平塚先生俺は?」

 

「お前は…監督役で!!」

 

「「えぇ…。」」

 

そんな訳で俺と雪ノ下はなぜか勝負をすることになったのだった。報酬は『勝った方がなんでも相手に命令できる』というものらしい…なんでもって言うのはすなわちなんでもっていうことですよね!!?

まぁ、卑猥なことは断じてしない…しないが!!?

 

 





比企谷八幡

俺ガイルにおける原作主人公。中学時代に工藤新一と出会っており、その後行動を共にしている。
性格は相も変わらず捻くれており、目の腐りの方は多少新一と関わったことでマシになっているかも。
基本的には一人を好み、最近では一人になるために新一以外を欺く隠密術、自称『ステルスヒッキー』を会得するに至る。なおこのステルスヒッキーは探偵部の方でも役に立ったらしい。
探偵としての新一を尊敬はしていても悪友としての態度は一切中学時代から変えていないため、工藤からは『自分の素を出せる人間』としてある程度の信頼は勝ち取っている模様。
ただそれはそれとして彼の『顔ファン』が探偵部を介して彼に言い寄ってくるのを助手である自分の仕事が増える(主にどのようにしてデートの誘い等をやんわりと断るかを考え、実行する)ためかなり嫌っている。
なお、彼にももう一つの顔があって…?


*次回からようやく依頼解決編です。多少テンポよく行く予定ですので、一話に数個話を詰め込むかも…。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。