新訳 ガンダムSeed Destiny オーブの守護神とザフトの燃える瞳 作:faker00
「見えた!なんてこった…」
シンは目の前の光景に心を抉られる。
昨日訪れたときにはまるでお祭りのような賑わいを見せていた市街部は無残にも壊され、機体を収容する格納庫が密集した地帯は更にそれ以上だ。
ーーこれは…前の戦争となにも変わらない…!
思い出したくもない記憶が脳裏をよぎる、上空を飛び交うMSの数々、鳴り響く警報、逃げ惑う人達、吹き飛ぶ風景、そして…もう二度と会うことは出来ない家族。
「くっそ…!」
戦争が憎い、あんな思いはもうたくさんだ。その思いを叶えるためにザフトに入ったというのにここで一体どれだけの数の人が自分と同じような経験をしたと言うのか?
そう考えるだけでシンの怒りは既に最高潮に達しようとしていた。
連合か?オーブか?それとも他の何か?もうそんなものはどうでもよかった。この状況を作った奴をこの手で何とかしてやる。
バーニアの出力を上げオーバーヒート寸前までスピードを上げる。ここまでくれば最悪ぶっ壊してしまっても辿り着ける。メカニックからしてみればありえない、卒倒してしまいそうな考え方だがとにかく早く何とかしたかった。
「…見えた!」
遂に視界に動き回る2機のMSを捉える。
「(緑の見慣れたフォルム…報告にあったザクか?んでもう片方が目的の…確かガイアだっけ?)」
もう少し真面目に勉強しておけばと今更になって後悔する。自軍の最新鋭機の事すらまともに分からないとは自分の記憶力に怒りさえ覚える。
インパルスの搭乗訓練が厳しく他の事に気が回らなかったというのはもちろんあるのだがそれにしてもだ。ちゃんと弱点も把握していれば捕獲も幾分かやりやすくなったかもしれない。
セカンドシリーズ、ガイア。人型形態と獣型形態を使い分ける機動力に優れる機体だったか…必死に記憶をつなぎ合わせてもシンに分かる情報はこの程度だった。
早いうちに細かい情報をミネルバに問い合わせればより詳細な情報を取り寄せることも出来ただろうが、残念ながらシンの思考はそこまで思い至らなかった。
【シン、目的は確認できた?】
「ええ艦長!直ぐに交戦に入ります!」
オープンにしている回線から艦長であるタリアの声が聞こえる。こうも突然に通信が入ると集中の妨げに出来ることならシンとしては切っておきたいと思うのだが重要な報せまでカットするリスクを考えればそうは言っていられない。
【ミネルバはまだ時間がかかります。なのであなた1人であの3機を相手取ってもらうことになるけど…いけるわね?】
「だいたい分かってましたよ…どうせこうなるのは…」
【了解。本部からの指示は捕獲です。撃墜はなるべく控えるように…それでは健闘を。】
「はあっ!?ちょっとまっ!」
一方的に通信を打ち切られる。
捕獲はともかく撃墜するなとは何事なのか、それではあまりにも戦い方に縛りができてしまう。
いくらシンが若いとは言え軍人だ。上の偉い人とやらの言いたいことも分からなくはなかった。議長の肝いりで進行していたと言われるセカンドシリーズの機体を失うというのは単純な金の問題以上に痛すぎる。事実今シン自身が乗っているインパルスもどれたけ重要か耳にたこが出来るほど言われたものだ。
「けどそれとこれとは話が別だろう…!」
だからと言ってこの指示は無茶ぶりもいいところだ。と心の中で吐き捨てる。それだけの熱意で造られた機体が他の量産型のように弱い訳がない。ザクが一機応戦しているがそれは戦力に数える方が難しい。要するに1対3の上にこちらには縛り有りというわけだ。
そんなものはテレビゲームでも躊躇う。
その時だ。ガイアのライフルからビームが放たれ、ザクを掠め商業施設を破壊したのは。
「……!」
シンは見た。弾ける建物の残骸とその中を悲鳴を上げながら走る人達の姿を。
その瞬間、思考は半ば焼き切れた。
「クッソー!!」
地上に降り立つ。目の前で異変に気付いたのか先程の攻撃の衝撃で体制を崩していたザクに追い討ちをかけようとしていた止めるべき相手、ガイアがシンの乗るインパルスに向く。
その姿を見てシンの心の中にあった感情は一つのみ。ただひたすらに純粋で、密度の高い怒り。
「また戦争がしたいのか!!あんた達は!!!」
指示なんてものは既に頭の中から消え去っている。
平和な世界を乱そうとするならば躊躇なく殺す。シン・アスカはまぎれもなく死地を潜り抜ける戦士の資質を持っていた。
ーーーーー
【目標地点まで100秒、パージ時の衝撃に注意してください。】
聞こえてくる無機質な音声にキラはもう一度呼吸を整える。今のところ何者かに強奪された機体と同じくザフト所属の機体が交戦に入ったというのが最後の情報だ。戦局は常に変化している。その言葉に照らし合わせれば楽観視する事はできないがまだやれることはあるはずだ。
「(上手く意図を伝えられるならいいけど…どちらからも敵扱いされるようなことがあると厄介だ…)」
キラからしてみれば戦闘に置ける不安などほとんどないに等しい。
目的がカガリ、そしてアスランの保護ということを考えればザフトと敵対する意味はない。相手をするとしても連合の一部隊程度だ。その程度切り抜けられない自分ではないという自信と自負を不本意ながらキラは間違いなく持っていた。
問題といえばさすがに最新鋭機体を相手取ることになるので自身の駆るフリーダムという機体に前大戦の時のようなアドバンテージがないというところと、介入行為で下手な誤解を生めばその場にいる全てが敵になりかねないという点だ。
いくなんでも基地の全総力+ポテンシャルのある機体3機になってしまえば状況は最悪だ。下手をすれば撃墜までありえる。
「(最悪の場合はオープンチャンネルの回線を開いてカガリの存在を公開してでも…)」
ーーまず第一に優先すべきはカガリの命。
その後に待っているであろう混乱も、面倒も、全て自分が引き受ける。
覚悟を決めてキラは集中のために閉じていた目を開ける。その目に宿るは強い決意。
それが2年前に流れるままに闘い、大切なものをたくさん失った彼の、今度こそ全てを守るために戦うという決意の証だった。
【カウントダウン開始、10,9,8…………0】
「……!」
衝撃と共に機体が宇宙へと放り出される。
その中で素早く機体を制御し、コントロールをつかむ。
視界を埋め尽くすのはどこまでも黒く、果てしない空間。その特殊さに思わず息をのむ。宇宙へと出るのはキラにとって二年ぶり、あの忌まわしきラウ・ル・クルーゼとの一戦以来の出来事だった。
「……」
あまり気分の良いものじゃない、思い出される情景をバッサリと切り捨てる。
そうして目の前に見え始めているコロニーへと進路をとる。
到達まで数分……本来ならば直ぐに事が済むはずのことだった。
あの男がいち早くその存在と危機を察知して状況を動かしさえしなければ。
「いない!?」
【ああ、本来ならオーブ軍所属の君がここにいること自体が問題なのだがそれ不問に付そう。目的はあのお姫様の保護なのだろう?】
「カガリは!?」
【安心したまえ、彼女は無事だ。どうやら連れていたボディーガードがとことん有能だったようだね。】
アーモリーワンに乗り込んだキラを待ち受けていたのは想定外の空振りという事実だった。
そうして誰もいない所に飛び込む形になってしまいザフトに包囲されたがそんなキラに助け舟が出された。
カガリと会談をしていたはずのギルバートデュランダル議長その人である。彼の指示によって厳戒体勢は解かれ今は彼に教えられたパスワードの秘匿回路を使い2人で現状の確認が行われている。それによると襲撃があったのは会談の後らしく、カガリの事を直接把握している訳ではないがそれらしき人物がMSに乗ったこと、そして軍に保護されたと言うことだった。
「それじゃあ彼女は今ここに?」
【いや、それなんだがね…】
ここまで淀みなく紡がれていたデュランダルの口が止まる。こういうときは大体あまりよくない報せがあるときなのだ、キラは若干の失望を心に覚えその続きを待つ。
【恐らくアスハ代表である人物をそのボディーガードをザフトとして保護はした。問題はその場所だ。彼女の乗ったザクは中破しこのアーモリーワンで唯一着艦可能な艦に着陸許可を求めたのだが…】
「それが今日お披露目予定だった新型艦、ミネルバと言う訳ですね。」
【そういうことだ。そしてミネルバはここにはいない。現在は強奪されたセカンドシリーズの奪還任務についてもらっている。】
「……そこまで話していいんですか?」
【なにがだね?】
ーー恐らく嘘はついていない
だからこそその正直さが逆にキラに猜疑心を作った。一体なぜここまで他国、しかも同盟国でもなく中立の自分に本来なら機密中の機密である情報をペラペラと話してしまう?
公明正大である、そのことが逆に疑う余地を作るとは皮肉な思考をしているとキラは自分の考え方をそう評価した。
【ああ、軍事機密、ということか。そんなことは些細な物だ。私はどうせ全てを公表してしまうからね。あの三機も既に実用段階だ、そう遠くないうちに世界に向けて発表する予定だったから今更君に隠すメリットなどどこにもないということだ】
「そう…ですか。」
納得するしかない。彼の話していることは全て理に叶っている。なぜかふと疑ったがそれは深読みだという公算の方が遥かに大きい。
キラは一度湧いた感情を投げてフラットな姿勢でデュランダルの話に耳を傾ける。
【それで…だ。提案があるんだが…】
「何ですか?」
【いや、ちょっとした話だ。恐らく君はこのままアスハ代表の身の安全を確保するべく追いかけるのだろう?良かったらそのついでにこちらの新型機奪還の手助けをしてくれないかね?あれがどこの所属かは知らないがわざわざこちらの領分にまで入り込んできて奪っていくなど尋常ではない。放っておけば間違いなくようやく安定してきた世界に爆弾を撃ち込むことになるだろう。…これはプラントの代表としてではない。この世界の一員としてのお願いだ。】
「……」
言っていることに間違いはない。この画面の向こうで頭を下げるデュランダル議長がどこまで知っているのかは定かではないが、その言葉通り放置して良い問題ではない。それは確かだ。
だがそれではオーブの理念である他国同士の争いに介入しない、という観点上ではどうなのだろうか?恐らくこれは世界中のトップニュースになってもおかしくはない。その時にオーブ理念の象徴的存在である自分が思いっきり介入していたとしたら?オーブ国民に走る動揺は小さいものではないだろう。
どちらも簡単には選べそうにはない。
「(こんな時にカガリだったらどうするんだろう…)」
最初に浮かんだ考えはそれだった。いまこのコックピットに座っているのがオーブ代表として必死に活動し続けている彼女だったら?それを考えれば自分のやるべきことも自ずと見えてくるのではないか…?
「……分かりました。」
キラの出した答えはイエス。
【頼めるかね?】
「ええ、ですが条件があります。」
【いってみたまえ。】
「僕が介入するのは3機の奪還のみです。他の事には一切手は出さない。そして今回の出来事、そしてこのやり取りはあなたと僕、そして今追っているミネルバクルー以外には公表しないでください。それが出来ないのなら僕はカガリをミネルバから降ろし次第即離脱します。」
【……分かった。約束しよう。】
ここで動かない、という選択肢は彼女なら絶対に選ばない。それがキラの出した結論だった。
理念は確かに大事だし守るべきものだ。その信念があるからこそ人は誇りを持って闘える……だが世界が争いの渦に巻き込まれるのを防げる力があるのに指をくわえて見ていることが正しいとは思わないし、たとえ理念にそぐわないものだとしてもやるべき事だ。
「(仮にこの判断が間違っているとしても僕は……全てを背負う。)」
「それでは官制に繋いで現在のミネルバの位置を教えてください。直ぐに出ます。」
【すぐ手配しよう…協力感謝する。】
正解なのか、間違いなのかはわからない。だがキラは信念を持ってその判断を下した。
そうして飛び立った彼がミネルバにたどり着いたのはそう遠くない時間のことだった。
どうもです。
なかなか出会わないなこれ…
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