新訳 ガンダムSeed Destiny オーブの守護神とザフトの燃える瞳   作:faker00

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逆鱗とスイッチ

「これより作業にとりかかる!グズグズするなよお前たち!!インパルスのパイロット、お前は俺と来い!グフとザクは向こうだ!』

 

 

「……了解です。」

 

 

 名前くらい覚えてくれよ。

 そう言いたいのをグッと堪える。ここで言い返したところで何か変わるわけではない、というよりも怒られて終了だろう。

 どちらかと言えば感情が高ぶりやすい、言い換えればケンカっ早い人間であるシンだがそれは分かっていたのでここまで無難な返事に終始していた。

 

 

 

「あの、ジュール少佐……」

 

 

「なんだ?」

 

 

「先程アスランがどうのと言っておられましたがお二人は仲が宜しいのでしょうか?」

 

 

「あん!?」

 

 

「……!?」

 

 かと言ってこんな気まずいというかギスギスとした空気の中にいるのは気が進まない。

 そう考えて話題を振ったつもりだったがどうやら失策だったらしい。

 子供や女子が聞いたらそれだけで泣くんじゃないかと思うほどトゲトゲしさ全開になったイザークの声にシンはやっちまったかと心の中で呟いた。

 

 

「あいつと仲がいいだと!?断じてありえん!!……おいお前、二年前は一体どこにいた。」

 

 

「オーブであります。」

 

 

「オーブ……?となると移民か。道理でそんなことを真面目に聞けたわけだ。ラウ・ル・クルーゼという男は知っているか?」

 

 

「名前くらいなら……ザフトの元エースであったということ以外はわかりませんけど。」

 

 

 激昂から突然冷静に。

 ジェットコースターのようなテンションの上げ下げに辟易しながらもそれを表には出さないように細心の注意を払いながら対応する。

 せっかくまともな会話が出来そうな空気になったのにわざわざ自分から崩しにいくのだけは願い下げだ。

 

 

 

「まあそうだろうな。一般人が知っているのはその程度だろうよ。確かにクルーゼは優秀な軍人だった。そして俺とあいつ……アスラン・ザラは士官学校を同期で卒業した後に揃って彼の部隊に配属された。そして前大戦中期、とある重要任務につくことになった。」

 

 

「その任務とは?」

 

 

「話くらいは聞いたことがあるだろう?今のお前たちとは全く逆の状態……連合の新型機体強奪任務だ。」

 

 

「噂に高いG強奪部隊……」

 

 

「その通りだ。そして俺とあいつはそれから暫く同じ戦場で戦った。それだけだ。」

 

 

 ラウ・ル・クルーゼ、24才という若さで黒服にまで上り詰めたエリート中のエリート、ということ以外はほとんどシャットアウトされているザフトの前大戦の闇の一つ。

 ザフト入隊に際してその名を調べようとしたことはある。だがその名の高さに比例せず全くと言っていいほど彼本人の情報、経歴は出てこなかったのだ。

 

 

「ラウ・ル・クルーゼって一体……」

 

 事実、今イザークの語ったザフトによる連合のG強奪、この出来事もそれ自体はかなり有名な出来事である。

 だがそこにクルーゼが絡んでいたということは初耳だった。

 

 

「お前たちのように若い世代に何も伝えない、というのはフェアではないと思うのだがな……んっ?!」

 

 

 何か遠くを見つめたかとおもうと何か言おうとしたイザークだったが突然鳴り響いた警報音にかき消される。

 そしてその音はインパルスのコックピット内にも同じようにけたたましく響いていた。

 

 

「モビルスーツ!?10……15……なんでこんなに大量に!?」

 

 

「おいディアッカ!!一体どうなっている!?」

 

 

『あー……アクシデント?ちょっとやばいわこれ。機体はザフトの何だけどさ。』

 

 

 イザークは通信機を通じて別方向の指揮をとっているディアッカを怒鳴るように問いただす。

 そんなイザークのやり方を熟知しているディアッカは特に気分を害した様子もなく返答するがその声は文面とは違い切迫感が漂っていた。

 

 

「ザフトだと…?ここにいるのは俺達だけじゃないのか?」

 

 

『だからアクシデントだって言ってんの。なんのつもりか知らないけどコンタクトはガン無視、しかもこっちを……っと!!』

 

 

 一瞬声が途切れたかと思うと直後に大きな爆発音が響く。

 それを聞いた瞬間イザークとシンは同時に息をのんだ。その音の指し示す内容は軍人ならば誰にでもわかる。

 

 

「交戦しているのか!?」

 

 

『今の聞けば分かるでしょ。なんか知らないけど俺らにユニウスセブン壊されちゃ困るみたいよこいつら……こっちはこっちでなんとかするからそっちは頼んだ!あんま時間もないしこれ、壊されたらもう地球お終いだぜ。』

 

 

 最後にとんでもなく不吉なことを軽い調子で告げたディアッカとの通信はグウレイトォー!という台詞と共に一方的に打ち切られた。

 

 

 

「……~~!話は後だ!とっとと片づけるぞ!」

 

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「10……20……くそ!なんなんだよ!こいつら!」

 

 

 

「ごちゃごちゃ言ってる暇があったら手を動かせ手を!……こいつらかなり訓練されている、手を抜いたら死ぬぞ!!各自持ち場を守れよ!?一番に守るはメテオブレイカーだ!」

 

 

 

 こんな大軍シュミレーションでもお目にかかれないぞ!?

 

 想像以上の多さに驚きながらも順調に撃墜していく。が、それ以上の動きを見せる機体が怒鳴り声と共にシンの乗るインパルスの横をすり抜けていく。

 

 雑魚はさっさと片付けろと周りを叱咤しながらも凄まじい勢いで敵陣を切り裂くイザークにシンは内心舌を巻いていた。

 

 

「これが……大戦を生き残った戦士の力……」

 

 

 自然と口から感嘆の声が漏れる。

 

 はっきり言ってレベルが違う……一つ一つの動作のキレ、機体制御、そして踏み込みの限界点の見極め。まるで自分の身体の動きをそのままトレースしているかの如き動きは今の自分では全く及ばない。

 

 

「……っ!」

 

 

 そこまで思ってしまってから唇を咬む。

 

 

 今、無意識に負けを認めなかったか?

 

 

 否定できない内側からの問い掛けに怒りが湧いてくる。

 

 こんなことでは、何も守れやしない……!

 

 

 守れない、その言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、シンの理性は吹き飛んだ。

 

 

「……くっそ!」

 

 

 

 ざわめく心を静めようとするかのようにシンは一直線に敵MSが固まるポイントへと飛び込む。

 

 あの集団を潰せばイザークと戦果は変わらない!…… そんなくだらない意地での行動が命取りになることをシンはまだ分かっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「チイイ!!あの大将機を落とせば!!」

 

 

 シンとは対照的に口汚く目の前を飛び回る敵を罵りながらもイザークは冷静だった。

 多少の訓練こそ受けているようだがそこまでの脅威にはならない。だが問題はその数だ。

 

 

 

「頭さえ崩せば……こっちは少しでも被害を受けたら負けだと言うのに!」

 

 

 これが通常の戦闘ならばここまで迷うこともなかったはずだ。手当たり次第に蹴散らしていけばいい。

 しかし今回は違う。こちらはメテオブレイカーを理想としては一基たりとも失わずにこの戦局を乗り越えなければならない。

 

 だからこそイザークは正直なところ不安を感じるシンに防衛を任せてまで打って出た。

 頭を探すためにだ。こういったゲリラ陣は頭を抑えられると一気にその動きから統一性が失われことが往々にしてある。やはり軍とは違い逃げ帰ったところで責める相手はもういない。そうなると人間の本能である生存本能、それを支える「臆病」という大事な感情が突然表面化するのだ。

 

 

 

「どうした!!ザフトといってもそんなものか!……だろうな、デュランダルに迎合した軟弱者など所詮その程度よ!!」

 

 

「このっ…!」

 

 かくして目的の相手は予想よりも早くに見つかった、のだがここでイザークの中で誤算が生じた。

 想定を遥かに上回ってその相手が強かったのだ。

 

 

「だから先の大戦でも連合を叩きのめす直線までいきながら和平などという……パトリック・ザラの遺志を踏みにじった愚か者どもめが!」

 

 

「大戦の真実も知らぬ愚か者が……!」

 

 シンマイバニューバ、別段クオリティの低い機体と言うわけでもないか取り立ててアドバンテージを持てる機体でもない。だというのにその動きはシンの駆るインパルスよりも遥かに強いだろう。

 互角に近い闘いを強いられながらイザークは思わず舌打つ。

 

 

 これだけの動きが出来て尚且つザフトの機体、そうなれば乗り手が誰なのか大体想像がつく。

 

 

「サトーか……怒りをぶつける場所が間違っている!」

 

 

 戦後の混乱にまみれてザフトも多くの脱走兵が出た。その中にはエース級の活躍を上げた者もちらほらと……恐らく今回の首謀者であろうサトーもその1人だった。

 データベース管理で誰がいなくなったのかは直ぐに割れたこともあり粛清をとの声も上がったがデュランダルは全てが変わったザフトから離れたいと思うのも個人の自由だと敢えて追わないという指示をイザーク達ザフトに下していた。

 だがその指示の結果が最悪に裏目にでたいうことをこの瞬間にイザークは悟らざるを得なかった。

 歴戦の戦士がザフト。そして人類に牙を向く。こんなことはあってはならない。

 

 

 

「んなっ!?」

 

 

 再びビームライフルを構えるべく一旦カメラを横に向ける。

 その時イザークの目に信じがたい光景が飛び込んできた。

 

 

 インパルスが持ち場を離れている……?

 

 

 そこまで離れた訳ではない。だが自衛機能を持たないメテオブレイカーには充分過ぎるだけの隙。

 

 

「あんのクソガキがぁ!!」

 

 

 こうなってしまえば優先順位を変えるほかあるまい。

 

 

 任せる、という判断をした自分への怒り、そして任されたにも関わらずそれを全うしなかったシンへの怒り、全てを一つの咆哮と共に吐き出すと180度旋回しメテオブレイカーへ向かう。

 

 2……3……幸いなことに周りの敵機の数は少ない。これならば数秒で片を……

 

 

「俺に背を向けて生き残れると本気で思っているのか?」

 

 

 

「しまっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

「ザフト機は離れてください!!一掃します!……ターゲットマルチロック……いっけぇぇぇ!!!」

 

 

 色鮮やかな大小多数のビームが空間を埋め尽くす、そうしてその先の射線上にあったものは何もかも例外なく宇宙空間に浮かぶ塵とかしていた。

 

 

 

「一体なんて威力……」

 

 

「これがフリーダムの力……」

 

 

「流石、としか言いようがないな。あれほどの数の重火器を完全に操るとは。」

 

 

 

 その威力を初めて目の当たりにした面々の衝撃は大変なものだった。

 なにせ自分達がてこずり続けた相手がフリーダムの登場後僅か数分で壊滅してしまったのだから。

 ミネルバクルー、および宙域のザフト兵はフリーダムが前大戦の英雄と呼ばれる所以を初めて肌で実感していた。

 

 

「ヒュー、相変わらず派手だねそのやり方。」

 

 

 もちろん全員が全員というわけではなかったが。

 

 

 

 

「ディアッカ……」

 

 

「久し振りだな、キラ、アスラン。なに?また乗ることにしたのか?」

 

 

「成り行きでな、ずっと乗るつもりはないさ。」

 

 

「ふーん……まっいいんじゃない。お前はちゃんとしてれば大丈夫さ。」 

 

 

 約二年振りの再会だが思った以上に話すことがないなとアスランは苦笑した。

 MS越しに対峙するディアッカは全く変わっていないようだったが。

 

 

「イザークはどうした?ここにいるんだろ?」

 

 

「あっちで交戦中。まっ、大丈夫でしょ。あいつはこんな所でやられるようなたまじゃないよ。」

 

 

「なっ…!まだ敵がいるのか!?」

 

 

 まるで全部終わったような空気出して何をしているんだお前は!?

 そういえばそんな性格だったと思いだしアスランは頭を抱える。いくらイザークを信頼していると言ってもこれは全くの別問題だ。

 

 

「そんな!?一体どっちに!?」

 

 

 同じ感想を抱いたのかキラも声を挙げる。

 しかし当のディアッカは落ち着き払ってのんびりと言い放った。

 

 

「まあ落ち着けよ、2人とも……俺は別に一言もこっちが終わったなんて言ってないぜ?」

 

 

 

 

「レーダーに反応!距離60からアンノウン集団、きます!」

 

 

 

「まだいたのか!?」

 

 

「そういうこと。……まああっちも1人で退屈してるだろうし……ミネルバと一緒に行ってこいアスラン。ここは俺とキラで引き受ける。」 

 

 

 

 

 





どうもです!久し振りの更新です!

長らくお待たせいたしました……次回でユニウスセブン編終了になります。
イザークを間接的とはいえ窮地に陥れたシン、今後が非常に恐ろしいですね。


それではまた!

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