ノーザンブリア大公国 公都ハリアスク ノーザンブリア技術局
技術局局長、ネヴィル・ラフリーの朝は早い。彼の仕事は始業開始時刻の丁度1時間前に出勤し自らの事務室の掃除から始まる
秘書もまだ出勤していない時間の掃除は彼の精神の集中を図るルーティーンだ
「ふむ、やはり朝の掃除は格別だ。しかし、この試作の導力はたきは少々性能が足りぬ。改良の余地があるな」
愛娘が独自に作り上げた試作品だが如何せん性能が足りていない。起動すると回転するヘッドは分厚すぎて本棚の隙間等の細かい場所には入りきらず結局普段使いのはたきを使用する事になってしまった。
掃除を終わらせて休息の紅茶を飲んでいると突如ドアがノックされた、秘書が出勤するには少々早い。誰だろうか
「おはようございます、特務技術室のアンヘルです」
「入りたまえ、君が研究室から出てくるのは珍しいな。前は導力トラックが完成した時以来か。
それで、今日はどうした?君の頼みならば研究室に風呂場を作るぐらいはするがね」
入って来たのは頑丈な木箱を台車に乗せた銀髪を顔が見えなくなるまで伸ばした男性、ノーザンブリア大公国の期待の天才と呼ばれる男であった
「いえ、先日作成していただいたシャワールームと寝室で十分です。それよりも導力飛行装置が完成しました。此方が設計図です」
「なんだと!!遂に完成したのか!」
三高弟の1人アルバート・ラッセル以外には開発が未だに成功していない導力飛行装置、これさえアレば帝国など恐れるに足りん
「そしてこちらに入ってるのが小型飛行装置を使用した模型です。飛行艇の完成はまだ先ですがお披露目の時にでも使用してください」
「ほう、確かに軍部や財務局を説得するのにはあった方が早いが。既に小型化にまで成功していたのか、流石だな」
「それでは私は家に帰りますので」
そう言って台車に乗った木箱を下ろして事務室を後にしていった。
確か、彼が最後に帰宅したのは飛行装置の開発に着手する前に彼の研究室に寝室とシャワールームを設置した工事の時以来だった筈
「仕事が恋人と言えばいいのか、開発中毒と言えばいいのか。優秀だが変わり者と評価せざるを得んなこれでは」
とりあえず彼が去って暫くしてやって来た秘書に技術局による特別会議をバルムント大公に要請するように指示を出して木箱の開封に取り掛かった
1:北国の技術者
完成!!今こそ帰宅の時!!
2:名無しのゼムリア民
お疲れ、何連勤だっけ?
3:名無しのゼムリア民
俺達がノーザンブリアに到着する前から帰宅してないらしいから40連勤ぐらいか?
その間、帰宅はしていない
4:名無しのゼムリア民
トラック開発で帰宅しなさ過ぎて研究室に寝室とシャワールーム作られたのホント草
5:名無しのゼムリア民
食事もしなさ過ぎて最終的に研究室に食事が届けられてたんだっけ?
6:北国の女狐
受け取ったラジコン用飛行装置を渡しに行ったら空腹で倒れてたのは肝が冷えました
7:北国の技術者
あの時はご迷惑をおかけしました
8:クロスベルの技術者ネキ
それで?出来上がった飛行装置の性能はどんな感じに仕上がったんだ?
9:北国の技術者
それなりですかね?計算上の高度は地上から2000アージュ、ホントは町工場でも作れる部品だけで作成して量産性を確保したかったんですが流石にそこまでは出来ませんでした
10:名無しのゼムリア民
2000mか、地上からの高さだから山越えは問題なく出来そうだが
11:名無しのゼムリア民
戦場だと対空砲に撃ち落されそうだな
12:名無しのゼムリア民
装甲厚めにすればまだなんとか行けそうじゃない?
13:名無しのゼムリア民
ちなみに、飛行艇の完成は何時頃になりそうです?
14:北国の技術者
大型飛行艇は来年の4月頃ですが小型飛行艇は今年12月には数隻出来るでしょう
飛行船なら来年1月までに10隻ってとこですかね
15:名無しのゼムリア民
いや、作りすぎぃぃ!!
16:名無しのゼムリア民
ほぼほぼ月間で何かしら出来るのか
17:名無しのゼムリア民
まぁ、塩の杭が起きる来年の7月1日までに作れるだけ作っとかないと
18:名無しのゼムリア民
というか3種類も作ってたんかい
19:北国の女狐
ふーん、それだけ出来るなら塩の杭避難計画を大幅に変更してもいいかもしれませんね
20:北国の技術者
もっとも、今月中に施工に入れればですがね
21:名無しのゼムリア民
いや、造船所の屋根ぶっ壊してでも作るだろこの国なら
22:北国の女狐
なんなら私が造船所を確保してもいいですし、足りないなら作らせてもいいです
23:名無しのゼムリア民
いや、作るの俺等ですよね
24:名無しのゼムリア民
屋根なしでデカい壁と梁だけならまだ作れない事はないけど
25:名無しのゼムリア民
それよりも、狐さん裏で何か企んでません?
26:北国の女狐
企んでるのは何時もの事なのでどれの事か分かりませんね
27:名無しのゼムリア民
はは、くろーい
ノーザンブリア大公国の未来を決める特別会議、会議室にはバルムント大公を筆頭に軍部のヴラド、外務局局長のフォモール伯、財務局局長のロビンソン。
緊急の為に出席者こそ限られたが重い面子である
「しかし、何故貴女が此処にいるのです?キツネ殿、貴女は中枢から引退して歴史研究所に隠居中の身では?」
「いえいえ、飛行装置が完成したそうなのでノーザンブリアの躍進をこの目に映したいそれだけですよ」
「耳が良すぎるのだ女狐が」
「雌のキツネですが何か?」
誰も彼女に飛行装置の完成を知らせていない筈、この会議も誰にも知られぬように極秘かつ緊急の物だ。
バルムント大公の指示により女狐の席を部屋の隅に置いて模型を取り出す
「これはアンヘル技師が開発した飛行艇の模型です。中には小型化された飛行装置が内蔵されておりこのように浮上し空中を移動する事が可能です」
模型の一つを起動し操作装置で動かすが意外と難しい、上手く操作しないと室内の調度品にぶつかってしまう
「ふむ、どうやらその模型は操作の難易度が高い様子だ。いや、完成したのは今朝という事だったな、それで此処まで操作できるならば難易度が低いのか?」
「設計図を見たが小型ならば数か月で出来る量産性は魅力だ、大型は取り敢えず1隻作ればいいだろうな」
「軍事用ならば飛行艇は分かるが輸送用ならば飛行船でも良いのではないか?」
「直ぐに造船所を押さえろ、軍による警備もだ。コレが完成したらゼムリア大陸西部の情勢が書き換わるぞ」
拙い操作であったが出席者に好印象を与えられた様だ。
そして、議論が更に白熱し飛行艇の作成が決定された時、部屋の隅でニコニコと笑っていた女狐が不気味な笑みを浮かべながら動いて。
「ところでです、この飛行装置を開発したアンヘル技師ですが。歴史研究所で調べた所、婚約者も思い人もおられない様子。コレはまさに国の一大事です。そこで私からの提案ですが、今ここにいる何方かの家に婿入りさせるのはどうでしょう?」
大げさに身振り手振りしっぽを振り会議に爆弾を投下してくれやがりました
(やりやがったな女狐、此処にいる面子の中でアンヘル技師と婚姻を結べる娘を持つ者など私しかいないではないか!)
「いや、確かにそれは良案ですな。彼ほどの逸材がノーザンブリアから流出するのは国の一大事。何方かの家の婿とすれば防げましょう」
(何、言ってくれちゃってんのフォモール。お前の所は男しかいないからって煽るな)
「ふむ、功績を考えれば大公家の末席に入れても良いが如何せん良い娘がいないどうした物か」
(ちらちらと此方を見るな大公)
「軍部もいないな、女性軍人とも考えてみたが彼の人柄を考えると軍人では合わないだろう」
「私達による強制的な婚姻となる、ならば少しでも相性の良い女性を相手に選ばなければな。ところでラフリー子爵には今年で15歳の娘がおられるとか」
「そういえばそうですな。何でもラフリー子爵に似て技術工芸に深い関心を持っている才女だとか」
「ははは、私に似てしまって機械いじりを好む変わり者ですが。とりあえず、この縁談を家に持ち帰ってみましょう」