ノーザンブリア大公国南部 フォモール伯爵領 オサイ
「なぁ兄者、俺達生きて帰れるか?流石に相手が強すぎるんじゃ」
「安心しろ弟よ。俺はこの前武器工房で買ったとっておきを持ってきたしお前もあの変人からアルゼイド流を習っただろう」
「クラールさんも合わせて珍しい面子になりましたねぇ、ギルムッド兄弟は実力的にまだまだ厳しいでしょうし何かあれば逃げに徹して私達に助けを求めてくださいな」
「「うぃーす」」
オサイの宿ではクラールがサンプルの土を顕微鏡で確認していた。本人曰く寄生虫の跡を探しているらしい
「みっつかんない!此処まで見つからないとアレかな卵を産む前に宿主が焼け死んだっぽい?取り敢えずは感染広まって無さげだけど薬が試せないのはチョイヤバいか」
「感染が広まってないのは良い事ではないのですか?広まってたら町を焼かないといけなくなるやもしれませんし」
「狐の姐さん、感染者がいないと駆虫薬が効くか試せませんぜ。万が一効かないってなったらそれこそ町を焼かないと感染が止まらなくなりますぜ」
「兄者、俺バカだからよくわからねぇけど感染者は火に飛び込むってんなら街中でキャンプファイヤーでも炊いとけばいいんじゃねぇか?進入禁止エリア決めてふらふら飛び込もうとした奴を縛り上げる感じでよ」
「私としては感染が広がらなければそれでいいっ!」
突如、宿の窓が割られて
コロロロロン
大量の丸い何かが投げ込まれた
「やっばい!」「あ、俺達死んだわ」「早かったな最後」
三者三様に部屋のドアに殺到したが投げ込まれた爆弾の爆発には間に合わず
「狐術激流砲」
キツネの術により宿の一部屋ごと遥か彼方へと押し流された
キツネ視点
「やってくれましたね、尻尾の毛が乱れてしまったではないですか」
目の前には宿を爆破した下手人が1人、両手に先程投げ込まれた爆弾を構えながら此方の様子を窺っている
「遊撃士換算だとB級の最上位ってところですか。よくもまぁその実力で私に立ち向かえますね間違いなく蛮勇です」
「逃げ切れるならば既に逃げている。どうせ逃がす気はないのだろう?」
「勿論、私の毛並みを乱したのです。その罪は万死に値します」
愛用の両手剣は持ってきてはいないがこの程度なら無手でも事足りる。魔法も使えば傷付く事などありえない
「そうですね、先程の爆弾で宿の人を傷つけなかった手腕を讃えて両手両足で勘弁してあげましょう」
「全く、貧乏くじを引いたものだ。爆炎のロードリー参」「遅い」
爆弾を起爆させる暇など与えられる訳もなく下手人の四肢は剥奪された
「貧乏くじを引いたのは誰なのか。少なくとも生き残れる分だけ貴方は当たりを引いたと私は思いますがねぇ」
取り敢えず町の住民の目に映らないように下手人の肉体を宿の陰へと投げ捨てた
「化け物って上の連中から聞いちゃいたが人の四肢を力尽くで引きちぎるかよ、本当に人間じゃねえなぁ。ま、その尻尾を見て人と思う奴はいねぇって話だが」
「人は力で獣に勝てぬのは道理、だから生きる術を磨いたのでしょう?そして貴方はそれを破壊する者。クラールさんから聞いてますよ、自分勝手な本物の外道、エルロイ・ハーウッドさん」
そして最悪が降臨した
クラール視点
「いったーい、爆死するよりましだけど加減してよホントにもー」
喪服のヴェールは流され全身は水浸し。水がクッションとなって爆発では死ななかったがまさか街道まで流される事になるとは
「それでーアタシの相手はあんたなん?ガルド、久しぶりじゃん」
「クラール、悪いが月光木馬団としてお前を殺す」
「うわ、やる気満々って感じ?」
現役暗殺者と元暗殺者は互いに得物のナイフと爪を構え相対する。学んだ戦い方は同じ、同じ師の元で数多の同期を殺して生き残った元相棒の戦いが始まった
「ッシ!」「およっとこっち!」
ガルドのナイフがクラールの頬を傷つけクラールの爪がガルドの目の下を抉る
「いや顔は止めろし、傷が残ったらハズいじゃん」
「安心しろ今ので毒が入った、どうせ死ぬ」
「およ?マジ?」
頬を流れ落ちる血を舌で舐めとると舌全体に痺れが走る。余程強い麻痺毒を使ったのだろうだがしかし
「これなら大丈夫かな。ガルド、忘れた?こういう毒はアタシには効かないって」
「腹の中の特別性サナダムシか。そういうお前は毒の塗り忘れか?血から毒の感覚がしねぇ」
「喪服に毒は似合わないっしょ、それに毒は趣味じゃないし」
クラールの腹の中では今頃サナダムシ君が健気に血清を作っているだろう。偶に育ちすぎて腸を突き破って変な所に寄生する事を除けば可愛いペットだ
「それじゃ続けよっか」
「その前に一つ聞かせろ、なんで団を抜けた」
構えを解いてまで抜けた理由を聞き出そうとする姿に思わず脱力する。
それでもガルドは聞きたかったのだろう
月光木馬団は生きては抜けれない、抜けたならば死で償わせるのは団員ならば常識だ。安心など無く死ぬまで追われてでも成し遂げなかった事は何なのか
何故、追手は死なねばならなかったのか
「え?それってガルドに関係ある?」
「お前が殺した追手の中に俺の実の兄がいた。どういう殺し方したらあんな風になるかわからない凄惨な姿で見つかったがな」
「あー確かにそれなら関係あるかなー」
木馬団を抜けたのは小さな夢の為なのだが確かに追手にはやり過ぎた、あの中にガルドの兄がいたならば知る権利はあるかもしれない。
「アタシね夢があるんだ。その夢を叶えようと思ったら木馬団じゃ無理だから辞めた。それだけ」
「夢だと?」
「そ、何時か生まれるかもしれないアタシの子供が明るい場所で生きてほしい。ちっさな夢でしょ?ホント笑っちゃうよね」
生まれてすぐにマフィアに攫われ木馬団に売られた、前世の様に明るい場所で生きる事が難しいならせめて子供だけでも
「ガキに明るい場所で生きてほしいって、お前に許される夢かよイカレ女」
「は?何でアンタがそれ決めんの?」
「お前、エルロイ・ハーウッドと一緒に人体実験で何人殺したよ?100は殺したんじゃねぇの」
確かに多くの医療薬の開発途中で死者は出したが
「100まで盛るなっつーの、エルロイ兄貴との実験じゃ68人だし今まで殺した奴合わせても97人でギリ大台乗ってないから!」
「結局殺してんじゃねぇか、そんなクズのガキが明るい場所で生きるなんて許される夢かよ」
酷い事を言う物だ、あの実験で出来た殺菌液も抗生物質はゼムリア中の人間の命を救える物なのに
親の罪なんて子供には関係無いのに
「そっか、ガルドは認めてくれないんだ。じゃあそろそろ時間だしサヨナラ」
どうせこの戦いはタイムアップだ、互いに一撃当ててから時間が経ち過ぎた。そろそろギルムッド兄弟の元に行かないといけない
ブーン、ブーン、ブーン
「おい、何処にって蜂?何で?」
見れば空に黒い塊に成る程の蜂の大群、それは何かに導かれるようにガルドに襲い掛かった
「ネイルに塗ったのは毒じゃなくて菌だよ、汗腺に感染して汗から蜂を集めるフェロモンを作り出すアタシのお気に入り。楽しんでよガルド、アンタのお兄さんと同じ蜂の巣にしてあげるから」
「ははっは、そうか兄貴もこれで殺しやがったのか。お前終わってるよアァッァァ!!!」
断末魔を気にせずに街道を走る、弱いギルムッド兄弟が死ぬ前に急がねば
「あ♡♡!サナダムシ君ゴメンて、わざと毒ったんじゃないんだって」
その前に少し休まないといけないみたい