ノーザンブリア大公国
「さっきのワンちゃん達どこに行ったの?」
人気の無い裏通り、いつの間にか先ほどまでのカラスは姿を消し野良犬たちは足跡や抜け毛を残して奥へ奥へと導く様に足取りを残している
その導きに逆らわず素直についていくと地下へと進む扉にたどり着いた
「この扉って」
「そいつは中世時代に作られた遺跡に繋がってる扉だ。遺跡って言っても今でも地下水道として使われてるがな」
「あ、ギルムッド弟さんだっけ?」
「泣く子も黙るギルムッド兄弟、弟の方とは俺の事よ。で?なんだってこんな所にいんだ?警邏中に通報が来て驚いたんだが」
やって来たのはギルムッド弟、背中には何時もの大剣ではなく刃引きされた訓練用の大剣だ
「実はかくかくしかじかで」
「マルマルうまうまと、なるほどなぁ。で、その犬がこの奥に向かった訳だ。しゃーねえ、俺が行くから少しここで待ってな」
「イヤだ、私達も行く!」
「エディン嬢ちゃん戦えないだろ、流石に俺一人だと守れるかわからねえよ」
「大丈夫!むん!」
そう言って扉に対して崩拳を放つ、その姿は余計な力が抜け自然体に近い見事な物だ。そしてその一撃で扉は大きな音を立てて吹っ飛んでいった
「どう?」
「いや、少し見てない間に強くなりすぎやがって。恐るべし成長期」
「毎日シンジのお腹に打ち込んで鍛えてるからね」
「あー、あの大砲すら弾く腹筋か。アレを毎日叩いてたら此処まで強くなるのか」
尚、シンジ本人は最近のエディンの成長に割りと危機感を抱いて嵐の夜に滝行を行いトレーニングに励んだ為さらに強化された模様
「そんじゃあ行くか。あ、ライカ君が暴走した時用のワサビはある?」
「大丈夫、さっき気絶させたから」
「鬼かよこの幼女」
「しっかし、グミやらドローメやら何かブヨブヨした奴ばっかだな。軍で炎エンチャント学んでてマジで助かったぜ」
「うー、手がねちゃねちゃする」
「さっさとセピス回収すっかってこいつは?」
地下水道に入り何度目かの戦闘を終えてセピスを回収していた所道の端に明らかに他の魔獣の物とは違う硬質な素材を見つけたギルムッド弟、コレまで通ってきた道も目を凝らして見れば端にこうした素材が落ちている事が分かる
「昆虫型魔獣の甲殻に水棲魔獣の鱗?なら今までなんでコイツらと遭遇してねえんだ?」
「ねえ?あれなに?」
「ありゃワニだ、ってコイツ死んでやがる。こりゃ何かデカい奴に襲われた傷だな」
ワニの死体は胴体の半分から食いちぎられその痕跡から一噛みによる物である、そう判断出来た。それはつまりそれだけの大型生物の存在を示す物であった
「ブヨブヨした奴しか見ないって事は他のの魔獣はみんなコレをやった奴に食われたって事かよ」
「気をつけないとね」
「そうだな、もう見つかってるかもしれねぇけど」
「うん、たくさんこっちに来るよ」
「マジか」
暗闇の先から大量の吐息と複数の足音が響いてくる、足音からして4足の獣の群れのようだ。その群れは統率の取れた行動で2人をすぐさま取り囲んだ
「囲まれたかってこいつ等魔獣じゃなくて犬かよ!」
「凄い数のワンちゃん、あれ?あの子って外にいた子だよ」
囲んできたのは様々の犬種の犬の集団、大きさや毛色が違う雑多の中にエディンは外で襲って来た犬を見つけた
「そうか、つまりはこいつ等ビビらせたら荷物返してもらえるって事だよなぁ!!」
ドグラァァン!!!
何もない足場に打ち込む本気の鉄砕刃、密閉した空間に響いた爆発音の影響はその範囲にいた生物全てに波及した
「キャン」「ピィ」「クゥン」
「よーし、いい子だ犬共。そんじゃどっちが上か分かったんなら荷物返してくれよな」
「グゥーバウッ!バウバウッ!!」
「って!おい!逃げんな!」
この集団を率いていたであろう隊長犬は他の犬よりも早く立ち直り動ける仲間を連れて再び闇の奥へと逃げ去っていった
そしてそれを追いかけようとしたギルムッド弟は
「キュー」
「あ、エディン嬢ちゃんまで気絶してら」
気絶したエディンが目を覚ますまで足止めをされるのであった
「なので此処からは僕が行く」
「んー、ライカ君になったのか?気絶してたんじゃ」
「エディンが気絶したから起きた」
目を覚ました時彼女の肉体を動かしていたのはエディンではなくライカであった。ライカは軽く体を動かして状態を確認して
「うおっ眩しっ天使化して大丈夫なのかよ」
「僕はエディンみたいに殴れないから、エディンがちょっとおかしい」
「まあドローメ殴り倒すのはおかしいよな」
天使化の光によって辺りを煌々と照らしながら暗い道を進んでいく。明るくなった事で周りに残る骨や鱗などの食べ残しがハッキリと見えるようになった
「見ろよこの死骸共、どれも腐りきってない。犬共が此処に住み着いたのは最近って事だ」
「リカードさんも今日は野良犬が多いって言ってたよ」
「なら本当に2,3日の間に住み着いたって事だな。ソレまでは何処にいたのやら」
「ノーザンブリア中を旅してたとか?」
「ありえそうだな、群れがデカくなりすぎて餌を求めて此処にってか」
そして犬の足跡を頼りにして更に進んでいくと次第に通路の奥から光が見えるようになってきた、通路端には多くの犬がお座りの体勢で2人を歓迎しているように進む道を作っている
2人はその道をずかずかと進んでいった
「成程、コイツがこの群れの親玉か」
「でっかいワンちゃんだね」
「いや、犬なのかコレ」
其処にいたのは体高が4アージュ程もある巨大なゴールデンレトリバーであった
(すまない、私の配下が迷惑をかけたようだ)
「え、君は喋れるの?」
(人の言葉は喋れない、だが人の言葉は分かる。君が私の言葉を聞くことが出来る事も)
音による会話ではない、ライカの頭の中に直接響く大人の声。ソレがこの犬から発せられる言葉である事をライカは感覚で理解した
「感応能力って事か?まあいいや、話が出来るなら助かる通訳を頼む、コイツの望みを聞いてくれないか?」
「うん、あなた達は何が目的なの?」
(群れの目的と私の目的は違う、群れの目的は生存であるが私の目的は生存ではない)
「じゃあ、あなたの目的を教えて」
(私の目的、ただ家族の元に帰りたいのだ)
「家族?」
(私は人と共に生きてきた。別の人の群れに襲われて離ればなれになった、そして奴らに飲まされた薬でこうなった)
「そっか、だから家族の元に帰りたいんだね」
(そうだ、何処に帰ればわからない、色々な所を彷徨い何時の間にか私の周りに群れが出来た。群れを率いるならば群れを生存させなければならない)
「だから此処にやって来たんだ」
「成程な、なあお前の名前ってボンちゃんって言わないか?」
(知っているのか?私を)
「知っているの?ギルムッドさん」
「俺は直接関わってないがな、なあボンちゃん俺と一緒に来てくれないか?お前の家族の元に帰せるかもしれない」
(群れはどうする。私には責任がある)
「此処にいる全員一緒でいい、まあ後は兄者が何とかするだろ」
(分かった行こう、行くぞみんな)
遺跡全体に響きそうな遠吠えの一回で群れを立ち上がらせるとボンちゃんはゆっくりと歩き出した、先頭でソレを率いるのはギルムッド弟とライカだ
(そういえば先程配下が持ってきた君の荷物を返さなければな)
「ありがとう、良かった箱に傷はついて無い」
「良かったな、そんじゃ外に出たら俺は歴史研究所に向かうから」
「ん、僕は技術局に行く。お別れだね」
「おう、お使い頑張れよ」
そして遺跡の入り口に戻ってきた事でエディンとライカの冒険は一旦の終わりを迎えた、後はこの荷物を技術局に届けるだけだ。コレ以上の山も谷もありはしない
「それじゃあ行こうかエディン」
(むー、今日は私の番なのに)
「気絶したエディンが悪いよー」
賑やかな町が先ほどと比べて明るく感じるのは間違いなく気のせいなのだろう
歴史研究所
「いや、何ですかこの犬の大群は!?」
「すまねえ姐さん、さっきウチの弟がDG教団の被害者だって言って連れて来たんでさぁ」
「バウッ!(暫く迷惑をかける、群れの面々をよろしくお願い致す)」
いつも【悲報】俺達の転生先、ゼムリアを読んでいただきありがとうございます
お中元及び暑中見舞いの時期が近づき作者の仕事が余りにも忙しくなる為
暫く休載いたします。
再開時期は8月の後半となる予定です
誠にご迷惑をおかけいたします