【悲報】俺達の転生先、ゼムリア    作:石黒 雲水

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トリスタ、若き剣士の青春(前編)

エレボニア帝国 トリスタ 東トリスタ街道

 

 

キツネが共和国に出張しシンジが山でヒツジンに弟子入りした頃リカードはキツネに頼まれた黒の史書の写しを集めるためにエレボニア帝国を旅してまわっていた。

少しずつだが確実に集めていったリカードはトールズ士官学院に写しがあると睨んでトリスタへと赴いた

 

 

「せいや!」「よっと、からのソレ!」

 

夕暮れの街道に2つの木剣が打ち合う音が響く、片方は白い学生服を着たトールズ士官学院の学生、もう片方は質の良い旅装に身を包んだ若い男。

どちらも同門らしく振う型は似ており剣の打ち合いは数分に及んでいる。

 

「こういうのはどうかな?」「ぬぅ、目潰しか!」

 

振り下ろした木剣で土を救い上げて土塊として学生の顔にぶつける、想定していなかったのだろう学生はその土塊によって目を閉じてしまった

 

「隙あり!」

 

そしてその隙を見逃さず男は剣を弾き飛ばした。遠くから木剣のカラカラという音が響く、間違いなく一本である

 

「目潰しとは、いつの間にそんな小細工を覚えたのだ」

「ノーザンブリアにこういう事が得意な奴がいてね。それにしても集中出来てないじゃないか、アルゼイド流はお行儀のいい道場剣術じゃなくて実戦剣術だろう?この程度の生兵法簡単に対応しないと」

「かもしれないな」

 

剣を弾かれた学生は落ちた木剣を拾って構え直す、どうやらもう一度打ち合うつもりの様だ

ソレに対して男は剣を置いて汗を拭いている、やる気は無い様だ

 

「辞めておこう、集中出来てないんじゃ何も身に付かないって。真面目で堅物の君が部活動サボってこんな事してる時点でおかしいんだ。それよりも休憩にしよう、ちょうどお湯も沸いたからさ」

 

道端で火にかけていた飯盒片手にリカードはヴィクターにそう言った

 

 

 

 

「味が良いな、この即席スープとやらは」

「粉にしたスープを溶かしてトマト缶を入れるだけで完成する手軽さが魅力だよね。ノーザンブリアの保存食はかなりの物さ」

 

道端の岩に腰掛け粗雑な木の器に飯盒から盛ったスープを飲む、動いた体にはその塩気がちょうど良かった。

気が落ち着いたのだろう、ヴィクターは最近何が起きたかを話し始めた

 

「先日、皇帝陛下主催の闘技大会が行われてな」

「アルゼイド流が負けてヴァンダール流に優勝された訳か」

「いや、優勝はどちらでも無い。軍の下級士官だった」

 

意外な事もある物だとリカードは興味を持って聴き続ける

 

「見事な物だった、父上の剛剣もヴァンダール流の柔剣もどちらも完璧に対処して見せた。百式軍刀術の可能性に驚かされたよ」

「へえ、百式軍刀術。アレは身に付けるのも大変な上に拡張性の無い代物と思ってたけど達人が居る物なんだ」

「アルゼイド流とヴァンダール流から取り出され拡張出来ないほどに作り込まれた100の型は逆に言えば全て身につければあらゆる戦場に対応できるという事なのだろう。完全に使いこなせる者などほぼほぼ現れないだろうがな」

 

例えるなら将棋の様にどれだけ上手く詰め将棋に持っていけるかを求められる剣術。上手く詰め将棋に持ち込んでも型を身につけていなければ打ち負ける難しい代物だ

 

「面白いな、誰なんだい?師匠を打ち負かした下級士官って」

「名はギリアス・オズボーン。正規軍の遊撃隊に所属している士官だ」

「ギリアス・オズボーンね。いつか手合わせ出来る事をエイドス様に願っておくよ」

 

転生前の記憶にあるヒゲの宰相が出てきた事に驚くも顔には出さずに続きを促す

 

「武闘大会で平民が優勝するなど前代未聞、越えなければならないが将来私がアルゼイド当主になった時にアレに勝てるイメージが湧かなくてな」

「そうだね、トールズを卒業したら暫く武者修行でもしてみるのは如何だい?遊撃士になって帝国中を回るんだ」

 

大袈裟に手を広げて帝国は広いとアピールする。実際、帝国中を旅したリカードの知見は今のヴィクターに比べて広く経験も豊富だ

 

「貴様の様な放蕩ならば出来るだろうが私はアルゼイド家次期当主だ、そんな事出来るわけ無いだろう。貴族社会の目もあるのだぞ」

「貴族社会ね、コレから先帝国貴族は腐敗していく。そんな物に気を使う必要なんて無いと思うけどね」

 

「貴族社会が腐敗するだと?何を根拠に」

 

リカードはしまったと思ったが既に遅い、隣にいる武門貴族の代表からしたら貴族社会の腐敗は見過ごせない物だろう

 

「コレから言う事は他言無用で頼むよ。今年アルバレア公爵家に次期当主が生まれたろ。あの子、現アルバレア公爵じゃなくて追放された弟の方の子供だよ」

「冗談を言ってる目ではないな。事実か」

「追放の際に護衛したのは僕だからね。アルバレア公爵だけじゃない、カイエン公爵の方も内に爆弾を抱えている、その内当主争いが起きるだろう。間違いないよ」

 

理に至り暴走してレグラムの山を魔獣の血で染め上げた時の様な冷たい目、その目を見てヴィクターは貴族の腐敗が真実である事を察した

 

「そうか、四大名門までもその体たらくなのか。ならば尚更遊撃士になる訳にはいかないな、武門の代表であるアルゼイド家まで自由に動いてしまったら帝国貴族の腐敗は取り返しのつかない所まで落ちてしまう」

「相変わらず固いなー、ヴィクターがソレで良いなら良いけどさ。さてと、ソレじゃ今度はこっちからの相談に乗ってくれないかな?」

 

リカードは道端に置いた鞄から丁寧にまとめられている古い紙束を取り出してヴィクターに手渡す

 

「コレは?随分と古い古文書のようだが」

「黒の史書と呼ばれてるアーティファクトの写しだね。黒の史書ってのは皇室が保管している予言の書みたいな物らしいよ」

「予言の書、つまりはここに書いてある出来事は将来起きるということか。何が書いてあるのかあまり知りたい物ではないな」

「まあね、それにあまり表に出したくなくてね。何せ黒の史書本体の閲覧は皇帝の地位にいる人にしか許されないらしいからさ」

「そんな物持ってくるなたわけ!!」

 

思わず拳が飛んだのは仕方ないだろう

 

 

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