【悲報】俺達の転生先、ゼムリア    作:石黒 雲水

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トリスタ、若き剣士の青春(後編)

エレボニア帝国 トリスタ トールズ士官学院

 

 

 

【何故殿下が此処に?】

【前に貴様の事を話した事があってな、貴様に仕事を頼みたいと仰っていたのでちょうどいいと思ってな】

 

既に学院を卒業したやんごときお方を前に失礼な事など出来ようもないので同門として培ったアイコンタクトで会話する。

要するにヴィクターの方も付き合いの仕事をついでに片づけたいという事だ。皇族相手にこの対応、この男も大概フリーダムである

 

「リカード殿に依頼をしたい探して欲しい人がいるのだ」

「殿下の頼みを断れる者などこの帝国にはおりませんよ。名前と特徴が分かれば探しましょうか、今日の黒の史書の写し、無料で頂くには余りにも虫が良すぎましたので」

 

広い帝国内で人探しの依頼、本気で姿を消されたら遊撃士だとしても余程の事がない限り見つからない。しかし、この男ならば別だ、何せ既に探す相手と居場所が分かっている

 

「名はアリエル・レンハイム。薄い茶色の髪にエメラルドのような芯の強い瞳を持つ女性だ、今はどこにいるか分からないが見つかるだろうか?」

「アリエル・レンハイム……お一つ確認したいのですが。その方はもしかして殿下の淡い思い出の方と捉えてよろしいので?」

 

隣のヴィクターに探し人を知っている事がバレない様に依頼の詳細を聞き出していく、涼しい顔をしているが内心はガクブルだ

 

「淡い思い出か、かもしれないな。笑うかな?」

「いいえ、まったく。ノーザンブリアの守護獣が聞けば羨ましすぎて手紙を書くほどには健全でしょう」

「そうか、大公家も大変なのだな」

 

 

 

「殿下の思い人の行方に心当たりがあります」

「誠か、アリエルどこにいる!?何故学院から姿を消した!?」

 

ある程度聞き出した辺りに探し人の心当たりがあると伝えてみる、ここまで来たならヴィクターの目も安心だ

 

「黒の史書の写しを探して僕は帝国中を旅してきました、その中でアルスターという里に寄った事があります。アルスターの名前に心当たりはありませんか?」

「アリエルの故郷の名がそのような里であった筈、場所を知っておるのか?」

 

故郷は最初に探せよと内心思いながらも続けていく

 

「ラマール州の辺境です。僕はアルスターの宿屋に泊まりその質に驚きました、見事な料理に美しい音楽。奏でられたのは『琥珀の愛』でした」

「琥珀の愛……彼女の得意とした曲だ」

 

思い浮かぶのは物悲しく遠くにいる人を想う優しい歌、宿屋に流れるリュートのちょっとした音楽会だ

 

「料理はリゾット、聞けば宿で3本の指に入る程の人気メニューらしいです。リゾットの名はレンハイム・リゾット、レシピの開発者の性を冠したメニューです」

「レンハイム・リゾットか、成る程アリエルは故郷に戻ったのだな。だがなぜ学院から姿を消した?」

 

掲示板では教えてはならないと言われたがハイ分かりましたと従うような男ではない、若干の思考の後に後々の為に教えておこうと結論づけた

 

「次世代を授かったからですよ。僕が宿泊した時アリエルさんはオリビエという赤子を連れていました。金の髪と紫の瞳、殿下と同じですね」

「まさか私の子だというのか!?」

「さて?僕にはそこまではわかりかねますので。ですが、もしもそうなら理由になります」

「……理由か、もし私が次期皇帝でなければ彼女は姿を消さなかったのだろうか?」

 

そんな事は分からない、仮に相手が皇族ではなかったとしても別の問題が起きるのは目に見えているからだ

 

「それも分かりかねます、僕はアリエルさんではないので。ですが居場所が分かったなら会いに行けば良いのでは?歩く足と体力はあるでしょう、ならば後は覚悟だけです」

「会いに行くか、確かにそうだな今ならば背負った物は少ない、遠出するなら今なのだな」

 

 

 

 

「いやーこの制服が着れるだなんて感無量だよ僕は」

「はしゃぐな、一応お前は潜入中という事を自覚せんか」

「面白い人なのだなリカード殿は」

 

トールズ士官学院、石造りの歴史ある学院を妙に目立つ3人が歩く

 

「それでさ?古文書みたいなのが保管されてそうな場所に心当たりはあるのかい?」

「あるとしたら図書館だろう。あそこは書物の他に古い資料も保管しているからな。他には文芸部も可能性もある」

「交渉は私がしよう、仮に手に入らなくても黒の史書の写しとやらを書き写す事ならば出来るはずだ」

 

 

「あっさりと手に入ったね」

「うむ、何というか拍子抜けというか」

 

図書館に保管されていた過去の皇族が書いた記録資料、その中に丁寧に挟まれていた写しを司書と交渉して頂いた。殿下の威光の強さに割と慄きつつも先ずは翻訳しようと翻訳書と合わせて解析していく

 

「それで何が書いてあるのだリカード」

「ちょっと待ってね、今から解読するから」

 

 

 

「……なる程ねぇ」

「何が書かれている?余程の事か?」

「ノーザンブリアにとってはシャレにならない事ですかね」

 

古文書に書かれていたのは

 

『七曜歴1178年7月1日ノーザンブリア大公国 公都ハリアスク近郊にて巨大な塩の柱が出現し土地を侵食する大災害が起きる。そして忌み子が目を覚ます』

 

「本当にシャレにならないよ」

 

来年の滅びを示す予言であった

 

 

 

 

 

1:リーヴェルト家の変人

そんな訳で来年の塩の杭は確定ね

 

 

2:名無しのゼムリア民

うん、そっちも重要なんだけどなそれよりもお前のやらかしをどうにかしないといけないんよ

 

 

3:名無しのゼムリア民

何ですぐにオリビエの存在を殿下にバラしてるんですかね?コイツは

 

 

4:北国の女狐

やってくれましたねぇ、リカードさん

 

 

5:名無しのゼムリア民

掲示板で本名呼びとかキツネさんマジギレやん

 

 

6:北国の女狐

オリビエさんの存在を知っているのは今のところノーザンブリアとユーゲント殿下の周辺のみ、何かあったら戦争の火種としては十分すぎます

 

どうするつもりですか?

 

 

7:リーヴェルト家の変人

どうって言われてもちゃんと護衛するしかないんじゃない?襲われないようにさ

 

 

8:名無しのゼムリア民

護衛って隣国でどうやって護衛するんだよ

 

 

9:名無しのゼムリア民

それ相応の名分が必要やぞ

 

 

10:リーヴェルト家の変人

あるじゃんアルスターならではの偶然を装って訪れる名分が

 

 

11:北国の女狐

アルスター、貴方まさか

 

 

12:リーヴェルト家の変人

何年物買ってこようか?多分キツネさんも好きでしょスタインローゼンのブランデー

 

 

13:名無しのゼムリア民

コイツその為に!

 

 

14:北国の女狐

貴方という人は本当に……

 

 

15:リーヴェルト家の変人

他にも今バラしといた方がいい理由はあるけどね、ソレはコレからの殿下の行動次第ってことで

 

 

16:名無しのゼムリア民

まだ何かあるんか……

 

 

17:リーヴェルト家の変人

ま、皇室守護役にも誇りって物があるって事さ

 

大した実績の無い若者ではその誇りは動かせないよ

 

 

 

 

 

 

エレボニア帝国 ラマール州 アルスター

 

 

 

「ここがアルスターか、此処にアリエルが……すまないマテウス殿とヴィクター殿は待っててくれ此処からは1人で行きたい」

「「御意」」

 

冬の帝国は辺り一面が白い雪で静まり返る、辺境ならば尚更だ。そんな辺境の里に訪れた3人。次期皇帝ユーゲント・ライゼ・アルノールと護衛であるヴィクター・S・アルゼイドとマテウス・ヴァンダール。3人は入口で解散し2人と1人に分かれて行動を始めた

 

 

「此処が陽だまり亭か、此処にアリエルと子供が……」

 

宿屋の入口に手をかけるも体が強ばる、会っていい物か自らの重しに巻き込んでしまうのではないかと思い悩む。一度体に積もった雪を落として来ようと言い訳して扉から手を放そうとした時その扉が内側から開かれた

 

「誰か知りませんけど室内が冷えるので早く入ってください!って、殿下!?」

「あ、ああ。久しぶりだなアリエル」

「何で此処に……」

 

「……とある人から君の居場所を聞いた、子供がいる事も知っている。だから会いに来た」

「そう…ですか…」

「中に入っていいかな?」

「どうぞ」

 

室内には酒を飲む客しかおらず聞いていたリュートの演奏は夜だけとの事だ

 

「ちょうど昼時ですので何か食べますか?」

「そうだな。レンハイム・リゾットを頼む」

「そこまで知っているのですか」

 

暖かいリゾットを食べながらアリエルと少しずつ話していく、お互いに離れていた間の事やコレからの自分の立場の事。そして厨房の奥から赤子の泣き声が響いてきた

 

「オリビエが起きたみたい、少し行ってきますね」

「いや、私も行こう。一度見てみたい」

 

厨房の奥にいたのは生後半年程度の小さな赤子、母とは違う金色の髪と紫の瞳をもった男の子だ

 

「その子が私の子なのか?小さいな…」

「生まれた時はもっと小さかったんですよ。オリビエ、挨拶してね」

「アイアイ」

 

促されるまま赤子を抱き上げて持ち上げる、泣くかもしれないと思ったが泣かずに笑いながら手を伸ばしてくるオリビエに何か自分の中の価値観が変わっていく実感があった

 

「小さくそれに弱弱しい…だが握る手は力強いな。そうかコレが未来か……」

 

正史では起きなかった再会、本来よりも早く訪れたモラトリアムの終わり。しかし今の若い2人には物事を決める力は無い、そして皇族の血を引く者の存在を皇室が放っておく訳もない

後日アルスターの里に帝国の二大剣術の道場が並んで建てられて遠巻きに護衛を行うことが決定した




今年はコレで終わりです、来年もよろしくお願いします
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