ノーザンブリア大公国 公都ハリアスク
「今年もエイドスの加護のあらん事を」
「「エイドスの加護のあらん事を」」
ノーザンブリア大公国の重鎮が揃う年明けの重役会議、参列した面々からしたら何時もの顔なじみという間柄だが一応は国の重役だ、年明け最初の会議とも会って普段よりも真剣に議題を話し合う
粛々と課題について話しあい取りあえずは最後の提案をキツネが行った
「最後になりましたが外務局代理局長の地位を6月を持って退かせていただきます」
「歴史研究所所長としての報告です、与太話思いながら聞いていただいて構いません。歴史研究所の研究の結果、今年の7月1日にノーザンブリア大公国を揺るがす大災害が起きる事が判明しました、各局及び軍部の方々はその事を留意しておいて下さい」
…………部屋に沈黙が走る。その後、ある者は遂にボケたと苦笑しある者はつまらない冗談はやめろと怒る。その反応が一区切りついた後にキツネが持参した資料をバルムント大公へと手渡した
「信じて頂けないのも当然です、むしろいきなり信じられたらそれは問題なので。大公閣下、此方が根拠となる資料となります」
「コレは?古い古文書とその翻訳の様だが」
「帝国に伝わる未来予言のアーティファクトの写しです、本来エレボニア皇帝のみに閲覧が許される代物ですが時々写しが流れます、それを入手しました」
「未来予言のアーティファクトとはまた胡散臭い物を、その写しが信用出来る根拠はあるのですかな?」
一部の大臣が嘲る様にキツネに問いかける、その問いもキツネはふざける事なく淡々と返す
「別にありませんよ、何せコレから起きる可能性の話なので。ですが報告せずに天変地異が起きる方が問題と判断したので報告しているに過ぎません」
「一つキツネ殿にお聞きしてもよろしいか?」
「なんでしょう?バレスタイン大佐」
規則通り手を挙げて質問を行ったのはノーザンブリアを代表する英雄、バレスタイン。彼は真正面からキツネに向き合った
「キツネ殿は何時から大災害の事を知っておられるのでしょうか?キツネ殿の部下にはギルムッド兄弟の様な優秀な者がゼムリア大陸全土から集まっておられる、ソレはキツネ殿の言う大災害と関係があるのではないか?」
「大災害について知ったのは最近です。私の部下については別の脅威、女神の残した7つの至宝の対策目的です」
会議室から失笑があちこちから響く、無理もない女神の至宝等という実在するか怪しい代物に大真面目に対策してますなんて普通なら正気を疑われるだろう
だが今問いかけてきているのはノーザンブリア屈指の傑物バレスタイン大佐だ
「成る程、つまりは女神の至宝で人材を集めていたら大災害の対処に活用されそうという状況という訳ですな。キツネ殿は至宝の実在を確信していると思ってよろしいか?」
「確信どころか実際に獅子戦役で見た事がありますよ。それにバレスタイン大佐もリベール王国でその力の一端に既に触れていると報告を受けています」
「リベール王国でですか?」
「現在歴史研究所に所属しているシンジ・グロウル、彼が戦った騎士甲冑の女騎士です。彼女は私と旧知の仲でしてねぇ、220年程の付き合いをしている不老不死の武人ですよ」
「不老不死!?」
不老不死、古今東西の権力者が求めて非実在に諦める夢。それが実在するという事に会議室の面々は驚き声をあげてざわついた
「女神の至宝の実在は疑いますが不老不死には興味があるのですねぇ、正直そんないいものでは無いのですが人間性というものでしょうか?バレスタイン大佐はあまり驚いていない様子ですが」
「まあ獅子戦役の頃から鍛えていたのならばあの人間離れした武力も納得できるという物なので、ちなみに帝国にはそのような不老不死の人間が他にもいるのですかな?」
「リアンヌは特殊ですからねぇ、一度死んで埋葬されて何時の間にか蘇った存在。少なくとも同じように至宝に選ばれたドライケルスは普通に死にましたし蘇りませんでしたよ」
思い出すのはリアンヌ・サンドロットの一度目の死、死後一年後に蘇って再会した時は分かっていても驚いたものだ
「成程、つまりはキツネ殿が知っている不老不死は1人と。ですがソレほどの力を持つ女神の至宝がノーザンブリア大公国の脅威となる確信についてお聞きしたい」
「ノーザンブリアではありませんゼムリア大陸全ての人類の脅威です、だからゼムリア大陸全土から人材を集める事が出来た。そして申し訳ありませんが根拠となる物は示せません、広範囲の人間に認知される事で起動する至宝もございますので」
「ふむ、ゼムリア大陸全土に波及する脅威…ならばアレだけ多様な人種が集まるのも分かりますな。そしてそれだけ広範囲に至宝の脅威が伝わっている事にも理解が出来る。了解しました、軍部はキツネ殿の言う大災害の可能性を考慮して行動いたしましょう。説得は私がします任せてもらいましょう」
あっさりとキツネへの協力を確約したバレスタイン大佐に周りの軍幹部達はうろたえ中には大佐を罵倒するような言動をぶつける者も、しかしバレスタイン大佐は気にも留めずに
「現状可能性の話だ、我々も帝国が侵略を企てている情報を入手したならばその正誤に関わらずに対応するだろう。それが大災害に変わっただけで同じである」
「場合によっては帝国との戦争よりも国防的な作戦になるかもしれない、ならば可能性を精査して準備を行う。国民を守る軍人として当然の事だ」
会議室に沈黙が流れる、先ほどまでのキツネと違って英雄としての在り方。それは多くの人を説得するのに十分すぎる物であった
「これでどうですかな?キツネ殿」
「貴方がノーザンブリアに生まれていて良かったと今ほど思ったことはありませんよバレスタイン大佐」
軍は動いた、他の重役にも可能性という種は蒔いた。とりあえずはキツネの目的は達成されたのである