【悲報】俺達の転生先、ゼムリア    作:石黒 雲水

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とある師弟の再会【後編】

ノーザンブリア大公国 歴史研究所

 

 

 

歴史研究所の応接室、花を生けた古そうな壺や緑に輝く見事な七曜石の置物など見事な調度品が並ぶ部屋でバルクホルンとキツネは資料を前に会談を行っていた

 

「特殊作戦用の飛行艇の協力ですか、ノーザンブリアとしては構わないですよ。ですがメルカバは確か教会とエプスタイン財団との共同プロジェクトとしてた筈では?何か不都合でもあったのです?」

 

メルカバ、七曜教会が開発中の特殊作戦用の飛行艇である。七曜教会が保管しているアーティファクト天の車を基に建造中のオーパーツで七曜教会が外部に秘密としているプロジェクトだ

 

「成程、猊下から聞いてましたが耳がいいですな。実はエプスタイン財団内部にDG教団が入り込み技術や情報を流出させている事が発覚しましてな現在計画が停止されています、リベール王国とも話し合って安全なノーザンブリア大公国に協力をお願いしに訪れた訳です」

「あー、戦術導力器も流出してましたし停止して正解でしょうねぇ。分かりました協力いたしましょう。ま、見返りは頂きますが」

 

手のひらを見せながらそのお願いを引き受けるキツネに何を要求されるかバルクホルンの背に冷たい物が走る、その姿が可笑しいと笑いながら茶を飲むキツネは楽しそうだ

 

「見返りとはまた恐ろしい、財ならば七曜教会よりもノーザンブリアの方が多く持ってる筈。強欲は流石に頂けませんな」

「別に財なんて求めませんよ。友好を深めるだけです、万が一帝国と戦争になった時は教会の威光をお願い出来ればと思うだけですよ」

 

ノーザンブリアといえば教会への献金の見返りに多くの神父やシスターの派遣を要求してくる事で有名な国だ、その国が教会の威光を求めてくるという事は遠くない未来にそういう事が起きると何処か確信を持っていると新たな重要事項の発生に内心頭を抱える。相変わらずキツネは楽しそうだ

 

「……ある意味、財を求められた方が良かったと思いますがな。講和の仲介も七曜教会の仕事であるとするならば引き受けましょうか」

「ええ、お願いしますね。大公閣下には明日にでもそちらの要望を伝えておきますのででは私はコレで」

 

そうしてバルクホルンが持参した資料を片手にキツネは応接室を去っていった、残されたバルクホルンは茶を一気に飲み干してから先ほどの会談とコレからどうするかについて思案する

 

「あれがノーザンブリアの守護獣、メルカバについても知っているとはな。猊下もこの事を予想している節があるようだったし気にする事ではないとは思うが一応気にしておくか。さてとそろそろ夕餉時か、ふむノーザンブリアに来るのは久方ぶりだしウォーレンの奴に店の案内でもしてもらうとしようか」

 

丁度空腹を感じた事もあり取りあえずは地元の物でも食べに行こうと決めてバルクホルンも応接室を後にした

 

 

 

 

「アレがワシの行きつけです、まあ小さい店やけど安くて美味い物が食べれるんで兵士とか遊撃士とか荷運びの作業員とかで繁盛しとるんですわ」

「ほお、手入れが行き届いたいい店だなこういう店は美味しい物を食べさせてくれる物だ」

 

ウォーレンが案内したのは裏路地にある小さな木造の店であった、裏路地だが周りには兵士や作業員のような男達がよく通っており意外と治安は良さそうだ

ウォーレンは店の扉を慣れたように開けて中に入っていく

 

「おーい、レナータ来たでー、2席空いとるか?」

「あん?ウォーレンか、その辺の席が空いてっから座っとけ」

「ほいほい、そんじゃ魚の串焼きと余り物の煮込みを2人前な」

「おいおい、余り物を頼むのは流石に失礼だろう」

 

指で指し示された席に座り何時も頼んでいる料理を注文していく。魚の串焼きに余り物の煮込み、この店の常連客が頼む人気メニューだ

 

「そういう料理なんですわ、確か元々は漁師村の家庭料理なんやっけ?」

「使わない魚の内臓とか骨回りの身とかを肉団子にしてスライスしたキャベツの芯とジャガイモと一緒に煮た料理だな、なんか知らん間にこの店の看板料理になってる。そんじゃアタシは厨房に行ってくるから」

 

家庭料理であるがゆえに地方から出てきた男性客を集められる、それがこの店の繁盛の秘訣だ

 

「ところでどうやらこの店のウエイターは妙に若いというよりも幼い者が多いようだ、まさかと思うがこの店はウォーレン、お主が始めたのではないか?」

「いやいや、ワシは掃除の方法とミラの稼ぎ方を教えて店の許可証貰って来ただけです。料理の腕は子供達が親から教えてもらったもんなんで大した事やっとりません」

「よく言う、そこまでの面倒を見れる者など教会の孤児院でも少ない。法国を飛び出してもそういう所は変わらんな」

 

客の注文を受けているのは日曜学校を卒業してなさそうな幼い子供達、この従業員の年齢層にバルクホルンは覚えがあった、ウォーレンが教会に入る前にやっていた孤児を集めた愚連隊だ

教会を抜けても変わらない事に喜びながら近くにいた子供にたまたま持っていた飴を渡していく

 

「人間そう簡単には変わらんでしょ、だから先生は弟子育てるのに苦労しとる訳で」

「頭を抱えさせた一番の原因が言う事ではないな」

 

そうやって談笑しているうちに厨房の奥から料理を持ったレナータが戻って来た、手にはジャガイモがデカデカと入った煮込みとレインボウの串焼きが乗っている

 

「あいよ、余り物の煮込みと魚の串焼き」

「成る程、コレは美味そうだ、ソレにジャガイモが入って腹も満たされる」

「串焼きは塩で味付いてるから、そんじゃ何か頼みたいならまた呼んでくれ」

 

意外とボリュームのある煮込みと魚を2人でつつき食べ終わって会計を終えた後、ウォーレンは店の中をきょろきょろと誰かを探し始めた

 

「ふう、これだけ満足になれて900ミラとはいい店だな」

「満足してもらって良かったですわ、そういやレナータ今日はカミラはおらへんのか?」

「アイツは客前に出せねぇからな、最近はグレートノーザンブリア展望台で絵を描いてる」

「そか。すんません先生、ちょっとこの後付き合ってもらえません?」

「構わんよ、お主の事だ何かあるのだろう」

「ありがとうございます、それじゃ行きましょうか」

 

そうして2人は店を後にした

 

 

 

「此処に居ったかカミラ」

「あ、ウォーレンさん。どうしたの?」

「今日はお前さんに少し話が合ってな」

 

グレートノーザンブリア展望台、建造中のグレートノーザンブリアが一望できる観光スポット、その端でスケッチブックに絵を描いている少女がいた

少女の片手には手錠が付けられており周りには憲兵が彼女を監視するように1人立っていた

 

「その子供の腕についているのは手枷か、確かノーザンブリアでは重大な詐欺を行ったものに付けられる物だ」

「カミラは親がろくでもなくてミラ稼ぐために詐欺やらされてたんです。おかげで今も憲兵の監視付き、あの店でもまともに働けへん」

「そうか、それでこの子を預かればいいのか?」

「そういう事です、頼めますか先生」

 

ろくでもない親に言われるまま行っていた美人局、子供を買おうとする客など更にろくでなしだがその弱みに付け込んでいた詐欺だが、ある日貴族を嵌めようとして捕まってしまったのだ。その後保護処分として開放されたが彼女の手には詐欺を行った証拠である手枷が残されている

そのままではまともに働けないので七曜教会に預ける事を先ほど決めたのだ

 

「どういう事なの?ウォーレン」

「お前がノーザンブリア出てアルテリア法国に行くって話や」

「何で!私此処にいちゃ行けないの!!」

 

解放後カミラはよく働いた、毎朝街を回って掃除してその後店で仕込みを行う。しかし最近は掃除先でトラブルに巻き込まれる事も増えてきた

 

「カミラお前今月サウナの掃除代貰えんかった事何回ある?やってもない盗みを吹っ掛けられたのは何回や?」

「それは……」

「その枷と憲兵の監視がある限りお前はまともに働けんよ。一度ちゃんと奇麗な身になって帰ってきいや」

「……」

 

七曜教会は訪れる者全てを受け入れる、過去に猟兵を行っていた者やテロに加担した犯罪者等詐欺に比べて遥かに重い犯罪者であっても受け入れて修行を行い改心したならばその罪を免除する。やり直すには一番の組織だ

 

「ふむ、カミラ嬢は今生の別れと思っているのかもしれぬがそうではない。その男の様に法国で修業を終えてその後に別の国に行く者もいる、暫く離れる事にはなるが距離が離れるという事は縁が切れるという事ではないのだ」

「……またみんなとお店出来る?」

「勿論、出来るとも」

 

バルクホルンの柔らかい説得が功をそうしたのかスケッチブックを閉じて立ち上がるカミラ、バツが悪そうにするウォーレンに背を向けてバルクホルンの後ろに歩いていく

 

「先生、すんません。世話かけます」

「いや構わない、故郷を離れるのは誰だって勇気がいる物だからな。それでは私達は行くとしようか、カミラ嬢の旅装も揃えなければいけないからな」

「了解です。ああカミラ、これやるわ選別や」

 

暫くの別れとなる、その前にいつか渡したいと思っていた物を投げ渡す、それは革袋に入ったミラであった

 

「お前さんが毎月ワシにいらん言うても渡してきおったミラや、1ミラも使ってへんでお前さんが稼いだミラやからな。どんな理由があってもお前をノーザンブリアから追い出したんや貰う訳にはいかへんよ、せやから持ってき」

「ん」

「そんじゃ、ワシも行くわ。またいつか会おうでカミラ」

「ウォーレンもまたね」

 

またねと去っていったカミラを見送って帰路へとつく。ウォーレンは知っていた、カミラがバルクホルンに付いていくならばそう遠くない内に一度ノーザンブリアに戻ってくることを

 

 

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