転生者は狂人扱いされながら異世界をファンタジーに生き抜く   作:ケンシーハ

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1 転生者は検証をする

 考えても見てほしいのだが、異世界に転生したとして。

 その世界が、いわゆるステータスとかスキルのあるローファンタジーな世界だったとして。

 気にならないだろうか、オタクとして。

 それ、どういう仕様になってるんです?

 ――と。

 

 俺は気になる。

 

 ゲームの中であれば、数値が決められプログラムによって動く以上仕様というものが存在する。

 TRPGやTCGならテキストによって処理方法が決まる。

 だが、現実は違う。

 刻一刻と条件は変化し、再現性なんてものはほとんどない。

 あるとしてもそれは、プログラムのように再現性さえあれば絶対に同じ結果になると保証できるものではないのだ。

 まぁそのプログラムだって、時間とかマシンの劣化とかホットプレートで加熱したりとかで変化するんだけど。

 TCGやTRPGだって、その場にいる人間のテキストに対する解釈で如何様にも処理方法は変わってくるのだけど。

 

 しかし、ステータスとかスキルのあるローファン世界ならどうだろう。

 ある程度はフレーバーとして処理されるのか?

 きっちり数値やテキストに沿って処理されるのか?

 試してみたくなるじゃないか。

 一体どこまでが数値やテキストで処理されるのか、と。

 

 現代人にとって、ファンタジーとはゲーム等の創作にしか存在しない。

 だったらある意味、数値やテキストで物事が動く世界の仕様を解き明かすことは。

 きっと、どんなことよりもファンタジーなんだと、俺は思うのだ。

 

 

 □

 

 

 俺は、一ヶ月ほど離れていた拠点の街フィオーにようやく帰還しようとしていた。

 長く離れていたので、久々に見るフィオーの街がなんだか懐かしい。

 入口の顔見知りな門番に軽く挨拶をしつつ、規則として名前を聞かれる。

 

「レトルだ」

 

 レトル、それが今の生における俺の名前。

 名字はない、平民の出身だからな。

 そしてある程度の荷物検査等々を終えた俺は、ようやく街に足を踏み入れた。

 フィオーの街は、冒険者の街として有名だ。

 あちこちに冒険者向けの屋台や、冒険帰りの冒険者の姿が見える。

 賑やかな街、という印象は最初にやってきた頃から変わっていない。

 俺はそれをなんとなく眺めつつ、時折すれ違う知り合いに「久しぶり」と挨拶をする。

 そうして向かった先は、冒険者が集まる場所。

 言うまでもなく、ギルドだ。

 

「レトルじゃねーか、どこ言ってたんだ?」

「西のアロッド・ダンジョンにな。少し用があって」

「あー、また例の”検証”とやらか。お前さんも好きだね」

 

 知り合いの冒険者が俺を見つけて、親しげに挨拶してくる。

 レーダというおっさん冒険者で、俺の若い頃からの付き合い。

 先輩冒険者ってところだな。

 そんなレーダは、俺の要件を聞くとなんとも言えない顔で苦笑していた。

 そうしてレーダからここ一ヶ月のフィオーの街で起きた出来事について聞いていると――

 

「あ、レトルだ。やーっと帰ってきた」

 

 一人の少女が、そう言ってこっちに寄ってくる。

 長い金色の髪と、デカイ赤リボンが特徴的な小柄少女。

 といっても年齢は俺の二つ下で十八なんだけど、リボンと背丈のせいで子供っぽさが抜けない。

 

「一ヶ月も姿くらまして、どこいってたのさ。私ずーっと探してたんだからね」

 

 あと、言動。

 そんな彼女の名前は――

 

「悪いかったよ”シェティ”、といっても絶対一ヶ月ずっと探してたわけじゃないだろ」

「探してたって! ギルドの机の下まで探し尽くしたんだから」

「嘘つけ、一日の半分くらいはやる気が出ないって呑んだくれてたじゃねぇか」

「レーダは黙ってて」

 

 中身は……怠惰でその日のことしか考えてない典型的な冒険者ってところかな。

 ただし、才能はある。

 まぁ、シェティの事はいいのだ。

 こいつのアホさと類まれなる才能についてはまた今度触れるとして。

 シェティも、俺がこの一ヶ月で何をしていたのかが気になって、わざわざ会いに来たのだろう。

 

「で? 今度の遠征の成果は?」

 

 早速聞いてきた。

 

「残念ながら、あんまり面白いものはないぞ。ほら、”アンチドートタートル”の甲羅」

「結構美味しい素材じゃん」

「――が、百個」

「百個!?」

 

 言いながら、袋から紫色の亀の甲羅を取り出す。

 中身が拡張されている、魔導袋というアイテムだ。

 アイテムボックスの簡易版みたいなシロモノ、こういうのがあると便利なんだよな、異世界。

 

「そりゃそうだ、一ヶ月の間、俺はアンチドートタートルしか狩ってないんだから」

「それにしたって、一日三匹から四匹ペースで狩ってるじゃん……暇人かよ」

「暇人だろ、目標のない冒険者なんて」

 

 一日の半分を呑んだくれて過ごしてた冒険者に言われたくはないわ。

 とにかく、俺は早速本題にはいる。

 

「アンチドートタートル、その特性はなんといっても毒耐性Aのスキル」

「なんだっけ? それがあるから防御系の素材として甲羅が結構高く売れるんだっけ?」

「よく覚えてたな」

「レトルのおかげだよ、物事はお金と紐づけて覚えると覚えやすいって」

 

 それはシェティが現金すぎるだけだろ。

 とにかく。

 

「その毒耐性Aのスキル。気になったんだよ、具体的にどれくらいの毒までなら耐性があるんだ? って」

「はぁ」

「なので、古今東西から集めた毒を、アンチドートタートルにぶち込んでみました。一ヶ月ほど」

「はぁ?」

 

 何でそんな、意味わからないみたいな視線をするんだ君は。

 いや隣で酒飲みながら聞いてるレーダのおっさんも、似たような目を向けてきてるけどさ。

 

「一般的に、毒耐性Aスキルは、あらゆる毒を無効化するって言われてるだろ?」

「そうなの?」

「そうなんだよ。でも、それなら不思議なんだ。”完全毒耐性”スキルでいいじゃんって」

 

 この世界には、ランクによって効果の変わるスキルと、そうでないスキルが存在する。

 世の大型モンスターの中には、完全状態異常耐性というクソみたいな耐性を持ってるモンスターもいる。

 だが、完全毒耐性というスキルは今のところ確認されていないのだ。

 

「気になるだろ、完全毒耐性のスキルがなくて、毒耐性Aスキルがあらゆる毒を無効化するって言われてる理由」

「で、その理由はわかったの?」

「全くわからなかった」

「じゃあダメじゃない」

 

 いやいやここからが面白いところなんだって。

 そもそも、完全毒耐性のスキルが存在しない理由が毒耐性Aスキルに毒をぶち込んでわかるわけがない。

 わかるかも知れないが、その可能性はとても低い。

 それでもぶち込んで見ようと思ったのは、ある仮説があったからだ。

 

「んで、これは実際にぶちこんでみた毒の一例なんだが」

「わああなんてもの出すの、レトル。危ないじゃん」

「いや、どれも体内に取り込まないと毒にならないシロモノだぞ。匂いだけで毒状態にするタイプは取り出してない」

 

 取り出したのは、三つ。

 トカゲの尻尾、紫色の牙、そしてポーションだ。

 

「――この中で一つ、アンチドートタートルに有効な毒が存在する。どれだと思う?」

「え、完全に毒を無効化するんじゃないの?」

「本当に完全に無効化するなら、完全毒耐性ってスキルになるんだよ。ランクが存在するってことは、同じランクの毒なら耐性を貫通するはずなんだ」

 

 基本的に、耐性スキルはそのランク未満のランクの効果を無効化するスキルだ。

 Aランクなら、Aランク未満――つまりBランクまでだな。

 

「ちなみに、それぞれメスポイズントカゲの尻尾、バイオキマイラの牙、そしてヒュドラの毒を凝縮してポーションにしたものだ。言うまでもなくヒュドラ毒のポーションが一番強烈だ」

「えーと、100G(ゴル)、1000G、25000Gだっけ」

「買取額でしか覚えてないのか……まぁ、値段と効果が比例してるってのは確かだよ」

 

 んで、単純なシェティはこう考える。

 

「当然、ヒュドラ毒のポーションでしょ。こんなの、私が呑んでも三日はお腹壊すよ」

「三日しか壊さないのか……残念ながら不正解。正解はメスポイズントカゲだ」

「え、嘘でしょ?」

「嘘じゃない。この中だと、メスポイズントカゲの毒が毒として一番ランクが高いんだよ」

 

 要するに、毒の効果と毒のランクはイコールではないということだ。

 じゃあ何がランクを決めてるんだという話だが、それは不明である。

 そこを解明するのが楽しいので、俺は構わないが。

 

「ま、なんでもいいや。その事がわかったならよかったね。お土産もらってくよー」

「あ、おいちょっと、ここからが――」

「私は忙しいの。じゃあね」

 

 ――俺は、基本的にこういう話をしたら検証の副産物を聞いてくれた相手にプレゼントするようにしている。

 でないと、冒険者はこういう検証話に興味を持ってくれないからだ。

 だもんでシェティみたいなタカリが発生するわけだが。

 別にお金に困ってるわけではないので、むしろ構わない。

 聞いてくれるだけで十分だ。

 というわけで、シェティは俺が机に置いたアンチドートタートルの甲羅を持って早々に立ち去ってしまった。

 おそらくこの後は、これを売っぱらってカジノにゴーだろうな。

 また全財産むしられて、娼館に売られそうになるに違いない。

 あいつ、なんであの調子で貞操守れてるんだろうな……。

 と、そこで。

 

「――――んで、本題はここからなんだろ?」

 

 隣で話を聞いていたレーダが、そう言って寄ってくる。

 俺はレーダにもアンチドートタートルを手渡しつつ。

 目ざといおっさん冒険者に、話の続きを語るのだ。

 

「ああ、毒にランクがあるってことは――」

 

 

 □

 

 

 それから少しして、毒には効果とは別にランクが存在することが、大々的に発表された。

 この発表において革新的だったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 毒耐性が低ランクの毒を弾くように、高ランクの解毒剤は低ランクの毒に有効というわけだ。

 特にメスポイズントカゲは比較的大陸のあちこちで発見されるモンスターである。

 その尻尾は、切り離しても再生するということで入手性に優れ。

 中にはメスポイズントカゲを飼育する者も現れ始めた。

 かくして、それまで食らったら絶対に助からないという毒に対する解毒剤が生まれ。

 同時に高ランクの毒耐性を持つ魔物に、メスポイズントカゲの毒を利用した戦法が考案されるなど。

 毒に対する戦い方は、時間をかけて変化することとなる。

 なお、この発表を行った者は匿名であり、名乗り出ることはついぞなかったが。

 一部の人間は、またあいつか――とどこか遠い目をするのだった。

 

 これは、そんなファンタジー世界でステータスとスキルの仕様について異様な執着を示す。

 転生者レトルの物語だ。




ファンタジーによくあるステータスとかスキルとかをのんびり検証したりしなかったりする話です。
よろしくお願いします。
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