転生者は狂人扱いされながら異世界をファンタジーに生き抜く 作:ケンシーハ
俺の前世は、少しゲームが好きなオタクだった。
今でこそ検証が俺の生きがいになっているけれど、前世では検証そのものに参加するほど熱意があったわけではない。
検証勢の出した動画を、熱心に追いかけるくらいだ。
そんな俺が、何の因果か転生してしまった。
ステータスとスキルのある異世界に。
どうして転生したのかは覚えていない、なんとなく死んだということを覚えているだけ。
で、物心がつく頃に記憶が戻り。
以来、俺はこの世界で暮らしている。
幸いなことに、スキルやら魔術やらの存在でこの世界の文明レベルは低くない。
どころか、一部は明確に現代よりも便利なところが存在する。
魔導袋とかな?
そんな世界の辺境にある村で育った俺は、すくすくと成長した。
多少ひもじい思いをすることもあったが、暮らしに不満はなく。
いい感じの人生を送っていた。
ただ一つ、娯楽がまったくないという不満を除いては。
とにかく娯楽がないのだ、大きな街に行けば本屋があったりカジノがあったり。
娯楽と言える娯楽はそこそこあるそうだが、ド田舎の村にそんなものあるはずもなく。
なんなら魔術とかの研究も俺にとっては興味のそそられる分野なのだが。
村に魔術師は存在しなかった。
そんな俺にとっての唯一の楽しみ。
それがスキルとステータスの検証だったのだ。
ステータスは、「ステータスオープン」と口にすれば、誰もが見ることができる。
STRやDEXといったステータスが表示されて、スキルも確認できた。
幸い俺には転生者だからかユニークスキルと呼ばれる、俺しか使えないスキルを使用できて。
ステータスも、同年代と比べると一段上のものを手に入れていた。
ただ、だからこそ気になったのだ。
このステータスとは、具体的にどれくらい効果があるものなのか。
現実にどれだけ影響を与えるものなのか。
気になるものではないだろうか、オタクとしては。
そうでなくとも、他に娯楽と言える娯楽もないのだから。
かくして、俺はステータスとスキルの検証に時間の大半を費やした。
幸いというべきか、もしくは不便というべきか。
ステータスの数値は正直だいぶあやふやなもので、数値の上では上回ってるはずの相手に状況次第で遅れを取ったり。
スキルはそもそも効果が書いてなかったりと、とにかくいろんなものがあやふやな代物だった。
スキルに関しては、専用の鑑定魔術や鑑定スキルで鑑定することができるらしいが。
それにしたって、書いてある内容はこんな感じらしい。
先日の毒耐性Aを例に取れば、こうだ。
「毒耐性:A
毒に対する体制を有している。
その効果は、あらゆる毒を無効化すると言われている」
曖昧!
いや、なんとなくわからなくはない。
Aランクといえば、ランクの中で最上位。
あらゆる毒を無効化するというのも、あながち間違いではないのだろう。
だが、「と言われている」の一文がある。
つまり、かならずしも完全に毒を無効化するわけじゃないのではないか? という話。
そしてそれは実際その通りだった。
ステータスに関してはもっと厄介だ。
ステータスを上回っているはずの相手に押し負ける。
普通ならばありえない。
でも、実際には起きてしまう。
だからステータスというのはある程度の指標でしかなく。
そこまで絶対視するべきではない、というのがこの世界の常識。
だけど、数値だぞ?
本来なら絶対であるべきそれが、どういうわけか正しく作用しない。
でも、確かに数値としては存在している。
だったら、なにか理由があるのではないか?
そんなことを、俺は日がな一日考え続けた。
といっても大半は家の手伝いや農業やらで時間を消費したものの。
その間も、作業をしながら考察を続け。
空き時間は村の子供達と検証に勤しんだ。
どうやらこの世界は同じ身分ならステータスの高いものが偉い、という価値観らしく。
村の子供で一番のステータスを持っていた俺は、精神年齢が高いのもあって自然と子どもたちのまとめ役になった。
そしてそんな俺のステータスに対する検証は、子どもたちにとっては「体を動かす」娯楽だったようで。
彼らは俺によく協力してくれた。
中でも、俺に次ぐステータスと俺とは異なるユニークスキルを持つ幼馴染で妹分のシェティは、ちょっといろいろゆるいことを除けば、非常に優秀な助手だったと言えるだろう。
とにかく、そうしてステータスの検証に幼少期を費やし。
その後、俺は冒険者になった。
優秀なステータスとスキルのおかげで、すぐに俺は冒険者として頭角を表していったが。
同時に、周囲からは変人、狂人として扱われている。
”偏狂のレトル”なんて呼ばれて。
辺境からやってきたことと、偏屈な狂人であることをかけているらしいが。
まぁ、そんなことはどうでもよく。
俺は、今日も検証に毎日を費やしている。
なお、ステータスを上回る相手に勝利できる要因だが、どうも体の使い方によっては
そうなると、STRだけで受けた相手のステータスをこちらのステータスが上回るなんてこともあり。
結果として、格上殺しが発生するんだな。
他には、一般に知られていないマスクデータみたいなものの存在も俺は確認しているが。
そこら辺は長くなるので、一旦割愛することに使用。
□
俺の日常は、何もなければ冒険者ギルドに来て依頼を受けて、それをこなして終わりの簡単なルーチンだ。
パーティを組むことはほとんどない。
その場で偶然知り合いと行き合ったりすることがなければ、基本はソロだ。
理由は、時間を自由に使いたいから。
俺が依頼を受けて仕事をこなすのは、金を稼ぎながらスキルやステータスについて考察を深めるため。
仕事中に創作のアイデアとか練って、帰ったら形にしたりしない?
しない? そう……。
とにかく、俺はそうやって普段は検証のためにお金を稼いでいる。
高ランク冒険者になれば、普通にクラス分には問題ないだけの金が手に入る。
呼吸に仕送りをしても余るくらいだ。
だが、検証にはとかくお金がかかる。
先日の、毒を使った検証にしてもそうだ。
古今東西の毒は、自費で集めているからな。
で、普段の収入から浮いた部分を検証用にプールしつつ。
アイデアが湧いてくるのを仕事しながら待つわけだ。
ただ、今は少し検証をお休み中。
毒にランクが存在するという事実は、俺の知り合いの研究者が本格的に研究することになる。
だが、俺は発案者として唐突に呼び出されたりするので、日常業務はともかく遠出はできない。
検証も、基本的には時間をかけて行うので休まざるを得ないのだ。
というわけで、のんびり毎日の冒険者業をこなしていると。
レーダのおっさんに声をかけられた。
「急にどうしたんだ、おっさん」
「お前さん、あった時からずっと俺のことをおっさん呼びするよな。俺はまだ三十前だぞ」
「顔が悪いよ、顔が」
坊主でフケ顔なんだもの。
前世の俺は、その年頃ならまだまだ若造って感じだったよ。
いや、俺がいくつまで生きたのかは、正直良く覚えてないんだけど。
もしかしたら、既に俺は精神的には爺さんかもしれない。
「で、今日はどうしたんだ。相談って」
「――ストーンタイガーを攻略したい、なにかいい案はないか?」
「ストーンタイガーを?」
ストーンタイガー。
文字通り、虎の形をした石像だ。
とにかく装甲が固く、火力不足だといつまで立っても倒せない相手。
倒そうにも火力が必要で、コスパが悪いことで有名だ。
「今期のフィオー第二ダンジョンの三階層ボスがストーンタイガーなんだよ」
「そりゃまた、みんな阿鼻叫喚だろうな」
「俺達のパーティもだ」
この世界のダンジョンは、一度階層を攻略したら、そこから転移して続きを探索できる仕様だ。
ただし、定期的にリセットが発生して一から攻略しなおしになる。
代わりに、ダンジョンの宝箱もリセットされるから、いたし痒しってところだな。
俺は普段難易度の高い第一ダンジョンを攻略してるから、第二ダンジョンのボスがストーンタイガーなのは知らない情報だ。
階層は、ボスを倒すことで攻略となる。
ボスがクソボスだと、冒険者的には最悪だ。
「特に最悪なのが、硬い割に状態異常がほとんど効かないことだ」
「アレ? そうだっけ?」
「あん? 有名だろうが、ストーンタイガーはろくに状態異常が効かない。状態異常完全耐性のスキルを持ってるんじゃないかって話」
ああ、と頷く。
基本的に、この世界のモンスターのスキルはマスクデータだ。
鑑定スキル等でステータスを覗いても、表示されないスキルが存在するのは有名な話。
状態異常が効きにくいストーンタイガーは、鑑定スキルでは確認されていない状態異常体制のスキルを持ってるというのが通説。
「どうしたんだよ、検証狂いのお前がそんな事実を知らないなんてありえないだろ」
「俺の中では事実じゃないから、思わず失念してたんだ」
「――どういうことだ?」
おっと、食いついた。
「一般的には知られていないんだが、ステータスには鑑定スキルでも表示されないマスクデータってものがあるんだよ」
「それ、マジか?」
「まだ確定はしてないから、魔導大学で研究されてる話だけどな」
話は単純だ。
ゲームでも、ステータスには表記されないけど炎系のモンスターが氷系の攻撃に弱かったりするだろ?
そういうのは、最初から耐性がマスクで設定されているからそうなるわけで。
この世界でもそれは変わらない。
「つまり、ストーンタイガーの状態異常耐性は、そのマスクデータによる耐性だ。そしてそういう耐性は、
「――状態異常を付与しやすくなる装備で固めて、状態異常スキルや魔術を使えば、状態異常が通る?」
「その通り、さすがレーダはシェティと違って聡い。――で、ストーンタイガーの一番弱い耐性は、スタン耐性だ」
「通れば完封できるじゃねぇか……! はは、なんだよそんな抜け道があるのかよ」
楽しそうに手を叩くレーダ。
「こいつは相談料だ、受け取ってくれ」
「あいよ」
「しかし、相変わらずいいのか? こっちの決めた値段で」
相談料、こういった情報は価値のある情報だ。
売れば金になる。
俺の場合は、検証に費やすための大事な資金源だ。
それを俺は、相手に値段を決めさせている。
理由は二つ、一つは俺の価値観だとこういった情報をどれだけ秘匿すればいいのかわからないから。
前世だと、情報ってのは一瞬で拡散されてたからな。
自分だけ持っておく情報ってのもあるだろうが。
情報を金で売り買いすることはなかった。
そしてもう一つは――
「おっさんを信用してるからだよ。情報を売っても、使い方を間違えない……ってな」
「――それは、買いかぶりすぎだろ」
情報を売るのは、あくまで信用できる相手だけだ。
シェティとかどこで漏らすかわからないから、絶対売れない。
そもそも大半の情報は、検証を終えて誰かに話したいと思ったタイミングでだいたい話してしまうからな。
今回みたいに、もののついでで調査した内容くらいしか、売るものがないのである。
「あと、おっさんが照れても嬉しくないからな」
「……お前、ほんと俺に対して遠慮ねぇよな」
親愛の証だと思ってくれ、レーダは信用してるんだからさ。