バーサーカーの方のローラン 作:隣の家に晩飯凸する止まらないゴルシ
ちょっとゆっくりやりますね……。
幾ばくかのあいだ、彼らは歩いた。裏路地で時たま襲撃されることはあれど、大概の連中は、ローランがとっとと殺すか気絶させてしまうので、彼から聞かされるほどの実害が出ることは無かった。(最も、藤丸はその現場を見て幾度か吐いたが)
そんな彼らが目指していたのは、ハナ協会にいる友人だった。ローラン曰く、ハナ協会では、己の持つフィクサーのライセンスの再発行―つまり、復職をするのだとか。次いで、友人と会うのは、この特異点が、彼の知るどの段階なのかを、探るためである。
が、まずは腹ごしらえだった。
「どうだ?」
ローランが口を開いて、藤丸へ問いかける。無論、藤丸の答えは決まり切っている。
「美味い!」
「そうだろ~? アーチャーのパジョンも美味いんだけど、やっぱりこの店なんだよな~。」
ハムハムパンパン。どうやら、ローランイチオシの店で、客もそこそこ居る。飯は食えるうちに食わねばならぬ。いつだったか聞いたその言葉に従い、次々と運ばれてくるパジョンを―さては、パジョンしか食わない気か?―貪りながら、以前聞きそびれたあの質問を、藤丸はローランへ問いかけた。
「んぐ……ローランって、どういう人生を歩んでたの?」
「俺? 俺は……そうだなぁ、ちと長くなるが……。」
どうも、彼が物心ついた時、すでに両親は居なかったらしい。亡くしたとか、そういうのではなく、もう居なかったのだと。都市では、こんなことは、そこらでよく耳にする話だとも、彼は言っていた。
そうして、彼は己を拾った祖母に育てられ、その頃に、フィクサーとしての心得を学んだのだとか。そして、彼はまだ子供と言って差し支えない年齢の頃、戦争に参加した。大きな理由は矢張りカネ。それがなければ生きてはいけぬのだから、自然とこうなったのだった。
「そんで、フィクサーとして活動を始めて……ほどなくして、妻と………アンジェリカと出会ったんだ。」
アンジェリカと出会って少ししてから、二人は結婚した。アンジェリカは妊娠が発覚して、二人は幸せの絶頂にいたが、都市はそれを許さなんだ。二人の幸せは、ピアノの旋律と共に引き裂かれ、斯くして彼は復讐鬼に堕ちた。
「ま、こんなところさ。都市じゃそう大して珍しくもない……だが、俺はそれを許容できなかった。」
「……」
「けど、巡り巡って、新しい親友ができて、まぁ諸々何とかなった! 今となっちゃ―良くは無いが、過去の事さ」
彼は、反英霊の様な行動を起こした。それに変わりは無くとも、彼のあり方は、基本的には英霊なのだと、藤丸は、どことなくそう思った。そして。
「ローラン」
「ん?」
「このパジョン食べるの……手伝って…うぷ。」
「雰囲気……。」
シリアスな雰囲気は、その一言でブチ壊れた。
腹ごしらえを終えたら、いよいよハナ協会に到着だ。藤丸はローランと共に、受付カウンターへと足を進めた。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「こんにちは。俺はローラン……あー、今日はライセンスの再発行に来たんだ。それと、南部支部3課の、オリヴィエって友人に会いに。」
「承知いたしました。では、再発行の費用はお持ちですか?」
「あ…悪い、今手持ちがなくて。後払いで頼むよ。」
「はい。それでは、この書類にサインをお願い致します。」
なんだか、トントン拍子に事が進んでいく。こういう時は、たいてい何かアクシデントがあるものだから、藤丸はどうしても身構えてしまう。とは言え、ここは仮にもハナ協会―都市にある12の協会の中でも、トップに位置する場所だ。まさか襲撃などあるはずもない。
「ローラン…? ローランって言ったか、今?」
髪を後ろで束ね、白いコートに身を包んだ男が、いつの間にか隣に立っていた。ローランは隣のその男を見ると、ぎょっとした目をした。「オリヴィエ!」
「ローラン…? お前、本当にローランか?」
「当たり前だろ……それともなんだ? まさか親友の顔を忘れたって言うんじゃないだろうな?」
男は―オリヴィエはひどく困惑した様子で、ローランを見つめていた。まるで―何か、信じられないものを見ているようだった。
「……済まない、君。こいつの要件は俺が引き受ける。ローラン、と……そこのお前は。」
「あ~……こいつは藤丸。訳あって、今一緒に行動してるんだ。」
「………分かった。取り敢えず、それじゃあ二人ともこっちに来てくれ。」
通された部屋は、窓が一つと、ソファやら、なにやらの装飾が施されていて、一目で応接室なのだと分かった。
「……さて、何から聞けばいいやら………まず、お前は本当にローランなんだな?」
「そうだって……。」
オリヴィエは、はーっと深いため息をついて、頭を抱えた。
「おいおい。何をそんな頭抱えてんだ?」
「俺は…てっきり、お前があの時死んだもんだと……。」
「はぁ? あの時って、何時だよ。」
「ピアニストだ……てっきり俺は、あんときお前が死んじまったもんだと……。」
何か、二人の間で決定的な勘違いが生じているのは、藤丸にも分かった。少なくとも、己の知るローランはピアニストに殺されたなんてことは無いし、そもピアニストに殺されたのはアンジェリカで――。
「な……じゃあ、アンジェリカは………」
「? お前、それすら…? アンジェリカは、あの後都市中の怪しい連中を殺しまわって、9級に降格……今は、図書館にいる」
ローランは―いや、藤丸にも分かった。これは―この特異点は、ローランと、アンジェリカの立場が逆転した、そういう特異点なのだ。
話を聞くと、立場がまるきり入れ替わっているのが分かった。アンジェリカは妊娠せず、買い物に行っている間に、家に残っていたローランは、突如現れたピアニストと戦い―そして、死んだ。そういう、世界のようだった。
「……なんてこった…。それじゃあ、アンジェリカは俺の復讐のために、図書館へ?」
「あぁ。まさかお前が生きてるなんて、思いもしなかったからな……何より…あいつは、お前の死体を見ちまったから……。」
ローランにとって、それは最悪の状況に等しかった。愛する妻は、復讐鬼に堕ち、この世界の己は、死んでしまっていた。藤丸にとって、その感情を理解することはできないが、だが、その感情を想像するのは、容易であった。
「…ローラン、お前、ここからどうするんだ。」
「決まってる―アンジェリカを止める。これ以上、アイツの手を汚させるわけにはいかない。マス―藤丸も。それでいいか?」
そんなの分かり切ってる。「勿論!」
「じゃ、ひとまずライセンスの再発行だな……今の所、図書館は都市怪談に指定されている……だが、この分ならすぐにでも都市の星になるだろう…。」
「あぁ……勢力争いがピークになった段階で俺たちも図書館に行く。で、物は相談なんだが……藤丸。正直なところ、図書館に連れて行くのは気が引けるが、置いていくのも危険だ。だから、図書館の突入時、一緒に来てもらうことになる。」
ローランが言いたい事は分かっていた。要は、簡易召喚……即ち、最大の武器を使えない己は足手まといになる。連れて行くのは危険だし、連れて行かないのも危険だろう。だが……。
「それでも、俺も一緒に行くよ。俺は、ローランのマスターだから……。」
「そうか……それじゃあ…オリヴィエ、藤丸を鍛えるのを手伝ってくれ。流石に、今のままじゃ色々厳しいからな……。」
「分かった。だが、一つ聞かせてくれ。お前たち、どういう関係性なんだ?」
どうも、口を開いていては、ボロが出てしまうなぁと、藤丸はふんわりと思った。(最も、それで済ませていい事ではないが)一連の事の説明に手間取ったのは、言うまでもないだろう。