ガトーの血筋は宇宙移民時代に生まれた名家である。
コロニー運営の主導的グループに参画し、地球にも資本を置いていた。
アナベル・ガトーの両親は名家の伝統を受け継ぎ、コロニー運営の面で尊敬される立場を築いてきた。
しかしザビ家の簒奪が起こると、一定の立場を持つガトー家はザビ家に睨まれることになる。
その微妙な綱引きにおいて、アナベル・ガトーはギレンの演説に心打たれた少年だった。
宇宙に産まれた少年はコロニーが自治独立していることは当然だと考えた。
限られた情報や地球の特権が分かるにつれ、彼は戦士にあこがれた。
彼は一途な努力の天才だった。
一方で余計なことを考えない性格だった。
ガトー家の長男がザビ家三男の下で懸命に働く姿は、両家のパワーバランスを完全に崩した。
さらに中立宣言をしたコロニーや地球で伝手のあった関係を失い、多方面の力は衰えた。
アナベル・ガトーは地球降下作戦以降、サイド3の実家に戻っていない。
彼自身は戦士としてけじめをつけているつもりだったが、両親は日に日に覇気を失い、衰えた。
イザベラは許せなかった。
そして復讐のために入学した士官学校で彼女は“先生”に出会う。
偶々アクシズに来ていた先生は、私を一目見てすぐに気づいてくれた。
その場で何か連絡を取り、短期間の指導を認めさせた。
シミュレータでの1対1。先生はわざとゆっくりとした連撃を私に捌かせた。
基本から教えない事に驚いていると、先生はこう言った。
「僕はアナベル・ガトーの僚機だから、その癖をよく覚えてるんだ。君が倒したい敵の動きを知るのが一番早いでしょ?」
びっくりしてシミュレータ内で悲鳴を上げたのをよく覚えている。
そしてその場で全部ぶちまけてしまった。
先生はすべてを聞いた後に、私の協力者になってくれた。
「アレは会敵して最初の射撃の際に目標と同じ方向に、距離を詰めながら撃ってくることが多い。だから見られたと思ったらスラスターを切り返して、予測方向より少し手前に撃ち返すんだ」
先生の指導の下、出来上がった行動補助プログラムはアナベル・ガトー専用と言っていい。
気になって私は先生に尋ねた。どうして助けてくれるのかって。
「僕にとってはね、兄弟姉妹に見捨てられるのは本当につらいことなんだ。そんな兄貴は許せない。それに、偉い人のデカい顔って、癪に障るじゃないか」
「先生!!」
駆け寄ってきたガトー少佐の妹に、ビィは頬をひきつらせた苦笑いで答え、シーマをはじめ<リリー・マルレーン>のクルーたちは目が点になった。
「や、やぁイザベラ少尉。昇進おめでとう」
「いやですわ先生!イザベラと仰ってくださいな」
首を振りながらにじり寄ってくる少女は強めの覇気を振りまいている。
ビィの背後ではクルーに犯罪を疑われている。
前門のタイガーウルフ、後門もタイガーウルフ。言うなれば、ピンチだ。
シッ!っという短い呼吸に裂帛の気合を乗せて放たれた左ストレート。
気をそらしかけたビィに来たのはパンチだった。
ビィは拳の軌道に合わせて体をひねるようにイザベラの懐に流れ込む。
それを予測していたかのように、正面至近の右側頭部めがけて頭突きを合わせて来た。
躊躇の無い全力のヘッドスイングだったが、突如軌道が変わり、ビィの側面を通り過ぎて行った。
イザベラの細い左手首を捻り、勢いのまま膝に足を合わせる。
半回転して仰向けで地面に倒れる前に、ビィが背中に腕を回してキャッチする。
ビィの投げとフォローだけ見ればダンスのピクチャーポーズのように見える。
「頭突きなんて女の子がしちゃいけません!」
「あぁ先生!相変わらずの化け物具合、NTだからって滅茶苦茶ですね」
シーマはこの滅茶苦茶な雰囲気の中、妙に納得していた。
はじめの攻撃で気を引き、本命の隠し玉を当てに行く。
その技は意外である程、反応できない至近であるほど良い。
なるほど確かにこの先生にあってこの生徒なのだろう。
とりあえず言いたい。クルーを代表して言わなければならない。めんどくさい。
「いい加減にしな!駄犬ども!」