赤いMA<ヴァル・ヴァロ>から降り立った片腕の偉丈夫は、ヘルメットを手すりに引っ掛け、迎えに来たガトーへ歩み寄る。
ガトーもまた歩み寄り、二人は同時に敬礼した。
「ケリィ・レズナーであります。軍籍はございませんが、再び閣下の下で使っていただきたく帰参いたしました」
「歓迎しよう。軍籍など関係ない。私にとって君は武士(もののふ)、ジオンの大尉だ」
どちらともなく手を差し出し、固く握手を交わす。
「また共に戦場を駆けよう。この艦では大尉と呼ばせてくれ、『ケリィ殿』など鳥肌が立つ」
「はは、了解です少佐。しかし大尉に戻る前に一つ確認させてください」
ガトーはケリィを私室に招き、連絡を聞いてから急いで取り寄せた酒をショットグラスに注いだ。
自身は酒に興味が薄いが、戦友の好きな酒はよく覚えている。
窓からは集合した艦隊とMS、そして巨大なコロニーが見えた。
「私は月面都市でジャンク屋をしておりました。そこには女がいます。もしコロニーを月に使うのでしたら、脱出の機会をいただけないでしょうか」
グラスに手も付けない仕草から、ガトーはケリィの思いの丈をくみ取った。
もう作戦続行は決断された。今更作戦内容を話しても問題はない。
作戦計画書をケリィに手渡し、ガトーは対面に座った。
「心配しなくていい。あれは連邦への陽動だ。月と見せかけて地球に落とす」
パラパラとケリィは書面を確認し、しばし考える間を取った後に正面を向いた。
計画と異なる月の静寂を確かめ、この戦が決して有利ではないことを確信した。
両者は覚悟を確かめ合うように視線を交わすと、グラスを掲げた。
「我らが戦場に」
「死んでいった者たちのために」
一息にグラスを空にすると、ケリィは獰猛に笑った。
その顔はガトーにとって懐かしく、頼もしいものであった。
「行くとするか、大尉。私はこれから新機体を見に行く。アクシズでの新型らしい」
「お供します少佐。道すがらこちらの性能もお話しします」
アクシズ先遣艦隊のユーリー・ハスラー司令はガトー達をハンガーに招いた。
ユーリー司令は連邦との交渉で得たこの艦隊の立場について丁寧に説明した。
作戦終了後のデラーズ・フリート残存兵を回収できる時間を確保したこと。
その代わり連邦とアクシズの双方は不干渉であること。
助力したいのはやまやまだが。そう続けようとしたユーリー司令を遮るように、ガトーとケリィは頭を下げた。
「感謝致します司令官殿」
「これで後顧の憂いなく戦えます」
ユーリーは艦内で弱気なセリフを吐かずに済んだことを自覚し、深く頷いた。
たどり着いた先で、ガトーは新型機に目を見開いた。
「これが、アクシズからのせめてもの手向けだ」
<ノイエ・ジール>優美な姿に、他を圧倒する火力を感じさせる各所砲門。
この機体の影に、亡き上官ドズルのビグザムが重なったように感じた。
「素晴らしい……まるでジオンの精神が形となったようだ!」
そう言い放った後、ガトーは隣にもMAがあり、その足元で敬礼をしている二人を見つけた。
グッと詰まる動きにケリィは苦笑いをこらえた。
ユーリー司令も一歩引いて近づけるよう促した。
「お久しぶりです。少佐殿。イザベラ・ガトー少尉着任いたしました」
「うむ。最初に言っておくが、兄妹とはいえここは軍隊。甘えたことは考えるな」
「ジオンの精神でございますね!」
その場にいたケリィとビィ。そして咳払いで隠しているが、ユーリー司令も笑ってしまう。
「心得ております。私も少佐殿の同型ですが初陣になります。ビィ中尉に監督いただき、戦果を挙げて見せます」
しれっと自身の僚機を指定してくるあたりに至っては、ケリィやユーリー司令は感心した。
そしてこのモヤモヤをガトーは戦場に持ち込みたくなかった。
「ビィ中尉!少尉のことは任せる。強力な火力であることを忘れず、投入や離脱のタイミングを指示せよ」
そういって足早に去るガトーを呆然と見送った後、ケリィはイザベラに話しかけた。
「俺はケリィ、ガトー少佐の僚機だが、お嬢ちゃんはやるもんだ。あんなに狼狽えた少佐なんざ戦場でも見たことないぜ」
「あら、全然会いに来てくださらないのですから、このくらいの意地悪は許されると思います」
「ワッハハハ!戦を前にそれなら大丈夫そうだな。ビィ中尉頼んだぞ。必ず」
「必ずお守りいたします。ついでに戦果もご期待ください」
ケリィは満足そうに頷くと、ガトーを追って去っていった。
ビィとイザベラはユーリーとも挨拶を済ませると、再び<ゼロ・ジ・アール>の最終調整に戻っていった。
艦橋へ戻りながら、ユーリーは気持ちの良い戦士たちへ、しみじみとつぶやいた。
「きっと帰ってこい。頼むぞ、デラーズ」