両軍の戦端は消極的な形で開かれた。
コロニーと共に前進するジオン艦隊に対し、連邦艦隊はその長射程を活かし、後退しながら一方的に砲撃していた。
先行させた戦闘機隊による弾着観測射撃により、砲撃は驚異的な速度でデラーズ艦隊へ収束し始めた。
「第3射、夾叉!」
「よし、一斉射に切り替え、MS接近まで撃ちまくれ。司令、さすがに艦隊戦では我が方に利がありますな」
「その通りだ艦長。しかしその得意分野が十全に機能しておらん。そのうち接近戦になるだろう。MSは展開済みか」
頷く艦長を満足げに見ながら、ワイアットは戦場を俯瞰した。
得意の艦隊戦で敵戦力の大半を揉みつぶす予定だったが、シーマ艦隊を避けている関係でペースが遅い。
早々に接近戦に持ち込まなくては間に合わないが、MSの戦闘では互角に持ち込まれる可能性がある。
「そろそろ敵にも動きがあるだろう。全軍即時後退を準備しておけ」
「後退、でありますか。紳士としては情けない限りですな」
分かり切った皮肉を飛ばす艦長に、ワイアットはカップで口を隠した。
そしてガトー艦隊の位置にある、解析済みのデコイ風船を睨みつけた。
「敵の策を受け流し、そこから一気に逆撃をかける。諸君、忙しくなるぞ」
「やはりだ。連邦の腰抜けめ、多勢で引き撃ちとは。よほどシーマを当てにしているな」
全速で回り込みながら、ガトーは初めて搭乗するノイエ・ジールの推力に驚いていた。
巨体故のすさまじい推進力、多彩な武装、Iフィールドによる強力な防御機能。
一人で扱うには荷が重い代物でありながら、ガトーはすでに感覚をつかみつつあった。
「少佐、興奮しているのは俺も同じだ。しかし奇襲だ。冷静に行こうぜ」
後方を追尾できるヴァル・ヴァロも、化け物のようなスペックを持っている。
それを個人で修理したケリィ大尉の執念。ガトーは目頭が熱くなるのをこらえ、冷静に敵を睨んだ。
「もう間もなく接近戦だろう。頃合いだと思うが、大尉」
「同意するよ少佐。はは、俺は戻ってこれたんだな」
「泣かせてくれるな大尉。部下が見ている」
参ろうか。
満足げに発した声と共に、2機は戦場に駆けだした。懐かしい風が二人を通り抜けた。
最初に感知したのは最右翼の連邦軍巡洋艦<マドラス>だった。
この艦は観艦式の攻撃から辛うじて生き残った幸運艦で、生き残ったクルーは復讐に燃えていた。
艦長もコリニー提督の写真をブリッジに置き、弔い合戦であると公言していた。
「アンノウン2、反応強い!右舷天頂方向より急速接近!」
「ワハハ、教科書通りで拍子抜けだな!機雷に嬲られながら砲撃の洗礼を浴びてろ。撃て撃て撃て!」
<マドラス>は主砲を上下に撃ち分け、敵を機雷原に誘い込んだ。
しかし敵は教科書通りではなかった。
後方の敵機が発射した大型ミサイル。それは一筋の糸を引きながら、巡洋艦の脇を掠めた。
「教科書通り過ぎて逆に警戒しちまうぜ!」
直後の爆発、<ヴァルヴァロ>と<マドラス>の間に真珠のネックレスが現れた。
光の連鎖は機雷を誘爆させ、ガトー達の花道を作り上げる。
「見せてもらうぞ!貴様らの覚悟の程を!」
爆圧の余波から回復した<マドラス>にとって、2機はすでに至近だった。
慌てて主砲を放つも、先頭のMAの前に霞のように消えてしまった。
<マドラス>の艦長は即座に確信し、後方へ無線を開いた。
『こちら<マドラス>!側面の敵はビグザム同様、ビームが効かない!ビームを使うな!』
繰り返そうとするが、その無線は<マドラス>撃沈と共に掻き消えた。
通りすがりに<ノイエ・ジール>のサーベルを振りぬいただけ。
それだけで巡洋艦が横一文字に裂けたのだ。
前面のMSを蹴散らしながら、ガトーは笑った。
「他愛ない。鎧袖一触とはこのことか」
「しかしIフィールドがバレた。少し回避を強いられるだろうが、扱えそうか?」
「君がいるのだ、無茶はせずとも済むだろう?」
ケリィは笑いながら、自分が驚くほど高揚しているのがわかった。
やはり戦場こそ居場所である。自分は戦いたいのだ。
その時、ジャンク屋の隅で悲しい顔をしていた彼女を思い出し、彼は踏みとどまった。
戦場は狂気に満ちており、吞まれるのは一瞬の出来事。
そして狂気は唐突に姿を現す。
『死ねよやぁ!!!』
短距離無線のオープンチャンネルに、ガトーが聞いたことのある声が響いた。
とっさに飛び退った残像を太い光線が貫いていき、ガトーは戦慄する。
天頂から我儘な美女が、バズーカの花を咲かせながら飛び降りて来た。