敵味方不明のMA出現により、<バーミンガム>のブリッジは情報整理に追われていた。
「大型MA2機が突っ込んでくる!各隊近接防御態勢!」
「なぜ試作3号機がいるんだ!?どこが許可を出した!」
そこに一本の通信が、試作3号機があるはずのラビアンローズからもたらされた。
ワイアットは一読して頭を抱え、即座に<アルビオン>へ通信を開いた。
「シナプス大佐、今回も強奪されました、では済まないぞ。今となっては2号機の強奪に協力していたのではないかと疑っているほどだ。それとも何かね、ガンダムは強奪される呪いにでもかかっているのかね」
「はっ、すべては私の責任です。この上はウラキ少尉の暴走を止めるべく、<アルビオン>を発進させ……」
「今の話を聞いていたのかね。もういい、貴官は絶対に動くな。武装を解除してラビアンローズの一室から出るな。試作3号機はこちらで破壊する」
苦々しい顔をしているモニターを殴りつけ、通信を切ったワイアットはため息をついた。
そのまま疲れた様子でラビアンローズに駐留する部隊に<アルビオン>クルーの拘束を命じた。
「ここまで状況を理解しない艦長などあり得るのか。戦争の狂気というやつは本当に厄介なものだ」
そう独り言を残し、参謀長に命じた。
「試作3号機の識別を敵とせよ。あと、もうしばらくで状況が動くので、作戦通りに準備せよ」
「化け物じみた推力だな、3回躱しても全く衰えない」
「ただ小さいミサイルはカンバンみたいですね、ビームライフルを撃ってきます」
「よし!此処は一番、覚悟を決めないとな」
軽口を叩いているが、ケリィは敵を見切っているわけではない。
そこで座席の脇から注射器を取り出し、迷いなく体に突き立てた。
一年戦争からの骨とう品だが、効果は高い。すぐさま心臓がうなりだす。
高G環境で揺らされた頭が冴えわたり、敵が遅く見えた。
コウ・ウラキは好奇心や向上心の強い、本来視野の広い少年だ。
しかし度重なる失敗と、それが原因としか思えない<アルビオン>の解任。
クルーとの衝突を経て、怨恨の根は彼の視界を覆ってしまった。
ある女性エンジニアの協力で3号機を強奪してから、彼は吹っ切れた。
「貴様らがいなければ!俺の日常は!!」
正面に濃紺のザクが見えた。自分に屈辱を与えた存在と重なる。
ウラキはスロットルを開き、トリガーを引いた。
しかし敵は巧みに回避し、当たらない。画面いっぱいに映るように感じた瞬間。衝撃。
下から突撃したヴァル・ヴァロのクローがデンドロビウムのボディに突き刺さる。
ウラキはサーベルを向けようとするが、そのアームごとクローが挟んでいた。
「もらったぁ!」
ヴァル・ヴァロの大型メガ粒子砲のカバーが開き、ケリィは勝利を確信した。
放たれた光線が白いMAを貫き、爆発。ヴァル・ヴァロはとっさに腕をパージして距離を取った。
「やった、俺はガンダムを……」
続く言葉は声にならなかった。ノイズの走るモニターの奥で、ガンダムがライフルをこちらに向けていた。
ケリィは理解した。白い巨体と合体、分離ができるガンダム。
「ハッ、どんな手品だよ」
もはや指一本動かない。しかしケリィは未だに勝利を確信していた。
瞬時にガンダムの首が両断され、飛び上がった影は、真上からコクピットを打ち抜いた。
火花を上げて宇宙をさまようガンダム。そして重々しいボルトアクションを行う紺色のザク。
ケリィは眩しい気持ちで満たされながら、ぼんやりモニターを見ている。
そこにザクのモノアイが点滅し、ケリィにモールス信号を送ってきた。
・-・ ・・ ・--・
R.I.P.(安らかに眠れ)
・-・ ・・ ・--・
「お疲れ様。ケリィ大尉」
死霊がまた一人、戦士を連れ去った。