「はぁ、いい景色だ」
戦場を見下ろしながら、ビィは感嘆のため息を漏らした。
ビームや爆発が、まるで星屑のように宇宙を彩っている。
そしてビィはそれ以上の景色を見ていた。
「カリウス先輩があんな色で光るの、初めて見たや」
彼の視界はビスマス結晶のような七色の複雑な模様と、星のような輝きが見えている。
これらはNTのビィが、人の強い感情に共感した結果だった。
今も自分へ向かってくる模様と色によって、遠くから狙っているジムに風穴を開ける。
トリガーを引く決意すらビィには透けて見える。
ビィはこの景色が好きだった。
「イザベラ、怒ってるなー。ガトーが無意識に煽るからだろうけど」
いつまでも見ていたい。
「ガトーも委縮から立ち直りつつあるな、そろそろ攻撃も見切られ始める。そろそろ介入しないと」
人の輝きを、死霊は愛した。
「イザベラ!血迷ったか!」
「どっちが血迷ってるか、あの世で親に聞いてみろよ!」
がむしゃらな近接攻撃を捌くガトーの手が一瞬鈍った。
今更両親の事を思い出したのか、それがイザベラをより激昂させる。
「父ちゃんはお前の志を応援したんじゃない。お前を応援したかっただけなんだ!」
「母ちゃんはお前の意地を愛したんじゃない。お前そのものを愛してた!!」
スラスターで加速したゼロ・ジ・アールの体当たりは両者の装甲を大きく歪ませ、予期せぬ衝撃にガトーはヘルメットの中に血を吐いた。
「もうお前を兄とも、家族とも思わない!お前は名無しの、死んで当然の、戦場に逃げた卑劣漢だ!!」
イザベラは電光のようにサーベルを跳ね上げ、ノイエ・ジールのアームを肩にかけて切り飛ばした。
ガトーは堪らず上方に跳ね上がり、ビームの雨を浴びせて来た。
イザベラはここでIフィールドを展開し、同じく飛び上がる。
イザベラがあと少し冷静であれば、一方的に有利な射撃戦に持ち込んでいただろう。
ノイエ・ジールのIフィールドジェネレーターは初撃で破壊していたからだ。
しかしガトーはビームで視界をかく乱し、アームの突きを下に向かって放った。
「私には数多の運命と遺していったものがある!怨恨のみで私は倒せぬ!」
ギリギリで反応したイザベラは回避を選ぶが、肩を掴まれてしまう。
「ちぃい!」
「消えろ!」
ノイエ・ジールの背部からミサイルが打ち出されるが、巨体に遮られ、イザベラは見えていない。
さらにビームと言っても、至近距離ではIフィールドによる拡散も限定的になってしまう。
「イザベラ!ミサイルだ!」
ガトーはゴンッという鈍い音と共に最後のアームが切断されたと感じた。
2機がふわりと離れる一瞬。下方から切り返すスラスターが見えた。
「ビィ!!」
イザベラは歓喜の叫びをあげ、スラスターを全開にして横移動。ミサイルを躱しにかかる。
そしてビィはノイエ・ジールの下方から対艦ライフルを撃ちこんでくる。
通常の実弾兵器はノイエ・ジールの装甲には無力だ。
しかし背部のミサイルランチャーに当たった弾丸は勢いそのままに貫通していく。
このような装備、事前の準備が無ければ。ガトーはここで黒幕の正体を確信した。
「貴様がすべての元凶だな!許せん!」
ビームの雨をかいくぐりながら、ビィは笑った。
「楽しませてくださいよ、後輩」
全身からザクの偏差を読み切った連続射撃。
トリガーを引く瞬間、ザクは回転するように横っ飛び。
誘い込みたい方向から微妙にそれていく軌道。
意図と言う意図が外れていく様を見ながら、ガトーは確信した。
「ニュータイプ!宇宙に祝福されながら、なぜ連邦に手を貸す!」
「面白いからですよ、適度な戦争が続きそうじゃないですか!こんな景色、また見たいじゃないですか!!」
天上と地獄、ノイエ・ジールと交差する瞬間に、至近で放たれたライフル弾はノイエ・ジールのもう一方の肩を破壊した。
「くっ!貴様と言う奴は……」
「どこ見てんだよぉ!!」
正面に戻ってきたイザベラは、咆哮しながら頭部メガ粒子砲のトリガーを引いた。
巨大なエネルギーの柱がノイエ・ジールの頭部を中心に突き刺さった。
その奔流が過ぎ去った後、ガトーは直接宇宙を見ていた。
頭部とコックピット前面を溶かされ、両腕をもがれた新時代への祈り。
しかし、血がこびりついたヘルメット越しに、ガトーの闘志はイザベラに向けられていた。
二人が吠える。
「死に際しても、私の心はこの宇宙のように震えている!アナベル・ガトー、参る!!」
「お前はいちゃいけなかったんだ!ここから、いなくなれェーッ!」
ノイエ・ジールは最後の出力を隠し腕のビームサーベルにかけ、薙ぎ払うように踏み込む。
ゼロ・ジ・アールは全速での突きを放つ。
ガトーの一撃はぴたりと、敵の胴体を目前に停止した。
ノイエ・ジールのコックピットは貫かれ、ガトーの体は一瞬で燃え果てた。
決着の宇宙に音は無い。
すでに連邦艦隊は撤退する敵を追い、戦場は遠くにある。
宴は終わりつつあった。