Memory of Debris【完結】   作:びこーず

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Memories19:甘美

「はぁ、いい景色だ」

 

戦場を見下ろしながら、ビィは感嘆のため息を漏らした。

ビームや爆発が、まるで星屑のように宇宙を彩っている。

そしてビィはそれ以上の景色を見ていた。

 

「カリウス先輩があんな色で光るの、初めて見たや」

 

彼の視界はビスマス結晶のような七色の複雑な模様と、星のような輝きが見えている。

これらはNTのビィが、人の強い感情に共感した結果だった。

今も自分へ向かってくる模様と色によって、遠くから狙っているジムに風穴を開ける。

トリガーを引く決意すらビィには透けて見える。

 

 

ビィはこの景色が好きだった。

 

「イザベラ、怒ってるなー。ガトーが無意識に煽るからだろうけど」

 

いつまでも見ていたい。

 

「ガトーも委縮から立ち直りつつあるな、そろそろ攻撃も見切られ始める。そろそろ介入しないと」

 

人の輝きを、死霊は愛した。

 

 

 

 

「イザベラ!血迷ったか!」

 

「どっちが血迷ってるか、あの世で親に聞いてみろよ!」

 

がむしゃらな近接攻撃を捌くガトーの手が一瞬鈍った。

今更両親の事を思い出したのか、それがイザベラをより激昂させる。

 

「父ちゃんはお前の志を応援したんじゃない。お前を応援したかっただけなんだ!」

 

「母ちゃんはお前の意地を愛したんじゃない。お前そのものを愛してた!!」

 

スラスターで加速したゼロ・ジ・アールの体当たりは両者の装甲を大きく歪ませ、予期せぬ衝撃にガトーはヘルメットの中に血を吐いた。

 

「もうお前を兄とも、家族とも思わない!お前は名無しの、死んで当然の、戦場に逃げた卑劣漢だ!!」

 

イザベラは電光のようにサーベルを跳ね上げ、ノイエ・ジールのアームを肩にかけて切り飛ばした。

ガトーは堪らず上方に跳ね上がり、ビームの雨を浴びせて来た。

イザベラはここでIフィールドを展開し、同じく飛び上がる。

 

イザベラがあと少し冷静であれば、一方的に有利な射撃戦に持ち込んでいただろう。

ノイエ・ジールのIフィールドジェネレーターは初撃で破壊していたからだ。

しかしガトーはビームで視界をかく乱し、アームの突きを下に向かって放った。

 

「私には数多の運命と遺していったものがある!怨恨のみで私は倒せぬ!」

 

ギリギリで反応したイザベラは回避を選ぶが、肩を掴まれてしまう。

 

「ちぃい!」

 

「消えろ!」

 

ノイエ・ジールの背部からミサイルが打ち出されるが、巨体に遮られ、イザベラは見えていない。

さらにビームと言っても、至近距離ではIフィールドによる拡散も限定的になってしまう。

 

「イザベラ!ミサイルだ!」

 

ガトーはゴンッという鈍い音と共に最後のアームが切断されたと感じた。

2機がふわりと離れる一瞬。下方から切り返すスラスターが見えた。

 

「ビィ!!」

 

イザベラは歓喜の叫びをあげ、スラスターを全開にして横移動。ミサイルを躱しにかかる。

そしてビィはノイエ・ジールの下方から対艦ライフルを撃ちこんでくる。

 

通常の実弾兵器はノイエ・ジールの装甲には無力だ。

しかし背部のミサイルランチャーに当たった弾丸は勢いそのままに貫通していく。

このような装備、事前の準備が無ければ。ガトーはここで黒幕の正体を確信した。

 

「貴様がすべての元凶だな!許せん!」

 

ビームの雨をかいくぐりながら、ビィは笑った。

 

「楽しませてくださいよ、後輩」

 

全身からザクの偏差を読み切った連続射撃。

トリガーを引く瞬間、ザクは回転するように横っ飛び。

誘い込みたい方向から微妙にそれていく軌道。

意図と言う意図が外れていく様を見ながら、ガトーは確信した。

 

「ニュータイプ!宇宙に祝福されながら、なぜ連邦に手を貸す!」

 

「面白いからですよ、適度な戦争が続きそうじゃないですか!こんな景色、また見たいじゃないですか!!」

 

天上と地獄、ノイエ・ジールと交差する瞬間に、至近で放たれたライフル弾はノイエ・ジールのもう一方の肩を破壊した。

 

「くっ!貴様と言う奴は……」

 

「どこ見てんだよぉ!!」

 

正面に戻ってきたイザベラは、咆哮しながら頭部メガ粒子砲のトリガーを引いた。

巨大なエネルギーの柱がノイエ・ジールの頭部を中心に突き刺さった。

その奔流が過ぎ去った後、ガトーは直接宇宙を見ていた。

 

頭部とコックピット前面を溶かされ、両腕をもがれた新時代への祈り。

しかし、血がこびりついたヘルメット越しに、ガトーの闘志はイザベラに向けられていた。

二人が吠える。

 

「死に際しても、私の心はこの宇宙のように震えている!アナベル・ガトー、参る!!」

 

「お前はいちゃいけなかったんだ!ここから、いなくなれェーッ!」

 

 

ノイエ・ジールは最後の出力を隠し腕のビームサーベルにかけ、薙ぎ払うように踏み込む。

ゼロ・ジ・アールは全速での突きを放つ。

 

ガトーの一撃はぴたりと、敵の胴体を目前に停止した。

ノイエ・ジールのコックピットは貫かれ、ガトーの体は一瞬で燃え果てた。

 

 

決着の宇宙に音は無い。

すでに連邦艦隊は撤退する敵を追い、戦場は遠くにある。

 

宴は終わりつつあった。

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