Memory of Debris【完結】   作:びこーず

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Memories20:終宴

十重二十重の艦隊に追い立てられながら、デラーズは奮戦した。

両翼から包囲された状態で艦隊をまとめ上げ、決死隊を編成。

敵の目前で包囲を一周するように戦場を駆け、残存部隊が反転する貴重な時間を作ったのだ。

 

ただし、撤退できた艦隊もアクシズ先遣艦隊へたどり着けたのは半数ほどになった。

連邦艦隊とは別行動を取り、シーマ艦隊が襲来したのだ。

 

シーマ艦隊はMSも放ち、逃げる部隊の後ろや左右から接近。

攻撃かと思いきや、丁寧に火砲をつぶした後、ブリッジにライフルを突きつけて降伏を促したのだ。

 

 

「私シーマ・ガラハウは故合って寝返ったが、兵士諸君を裏切ることは本意ではない」

 

「我が艦隊に無実の罪を被せたジオン上層部、そしてその無謀な作戦で傷つく人間を見たくないのだ」

 

「考えても見よ、仮に連邦市民をどれほど虐殺しようと、それは双方の過激化にしか繋がらない」

 

「その先は絶滅戦争である。最後の一人となって、食べるものすら無くなって、崇高な思想とやらになんの価値が有ろうか!」

 

「ジオンの精神を叫べば、数多の砲弾は君を、傍にいた戦友を避けたか!否、断じて否である」

 

「私シーマ・ガラハウは諸君らの処遇について、連邦軍司令官グリーン・ワイアット大将より全権を委ねられた」

 

「諸君、もう懲り懲りではないか。戦以外の生きがいを見つけるべく、投降し、私の手を取れ!」

 

 

 

繰り返しオープンに流される降伏勧告は、少ないものの確かに応じる部隊もあった。

さらに拒絶した艦には敬礼をもって見送ったのである。

機関が不調の艦には救助の手を差し伸べ、臨むなら先遣艦隊へのシャトルも出した。

 

 

シーマ艦隊はジオンと連邦の仲介役ともいうべき行動を取ったが、これはワイアットの指示であった。

 

「レディは風評を調えねばな。その点捕虜や敗残兵は懐柔しやすかろう」

 

シーマは嫌々ながらワイアットの考えた悪辣な勧告を録音し、随伴した海兵は大笑いしたという。

投降を促すパイロットたちは通信を切り、反応を秘匿した。

それは随伴した海兵が戻ってくる時に、頸椎コルセットを巻いていたからである。

 

 

「クソ!虎の威を借る女狐め!いつか必ず仕留めてくれる!」

 

もちろんこのような反応もあったが、シーマは寛大であった。

鼻歌交じりに艦の推進器破壊を命じ、わざわざ巡洋艦で先遣艦隊まで曳航してやったのである。

 

 

 

 

そして先ほどまでの戦場では、最後の儀式が執り行われていた。

すでに弾薬も尽き、各所に大穴が空いている<グワデン>に対して、通信が開かれた。

 

「連邦軍大将、グリーン・ワイアットであります」

 

「デラーズ・フリート司令官、エギーユ・デラーズ中将であります」

 

すでに随伴艦も護衛2隻となり、MSも武装が尽きて、艦上に立っているのみ。

デラーズも頬に煤をつけ、宇宙服を着こんで姿を見せている。

 

「中将殿。私を嘘吐きだと思われるでしょうが、貴官の敢闘精神に敬意を持っていることは信じていただきたい。証拠としてできる限りのご要望を実現いたします」

 

「であれば回答は明白。わが命をもって、この場の兵士がアクシズへ撤退することをお許しいただきたい」

 

「デラーズ殿。捨てた命であれば1日ずれても構いますまい。我が艦で話をしませんか」

 

「光栄なことながらお断りいたします。私はすでに覚悟を決めた身。これ以上話すことはございません」

 

「……失礼いたしました。では30分後に我が艦隊は攻撃を再開します。残念です、デラーズ閣下」

 

 

非常に簡素な最後通牒が終了し、最後の艦隊には総員退艦が指示された。

デラーズの眺める先には、遥か彼方にバラバラになるコロニーが星屑のように輝いていた。

連邦の工作艦も出動し、大きな残骸を砕いている。

 

艦橋にただ一人。

その煌めきはそこで戦ったすべての兵を祝福するかのように、デラーズには映った。

 

「はは、見ているかユーリー。無様に敗れたが、ワシは非才の身に閣下と呼ばれ、100隻近い艦を指揮して戦ったぞ……ぐっ、ククッ、ぐ」

 

誇らしさと悔しさと、兵を損なった無念、勇敢な兵を持てた幸福。

万感の思いを噛みしめ、ホルスターから拳銃を引き抜いた。

そしてこめかみに当てたとき、最後に発するべき言葉は決まっていたはずだった。

 

ジーク・ジオン

 

 

「残った者よ、道を切り拓け。そして英霊たちよ、私を導いてくれ」

 

 

銃声は無人の艦を木霊した。

 

 

 

「グワデン艦橋より突発音、確認」

 

ソナー手の報告にワイアットは頷いた。

 

「シーマ艦隊に繋げ、行動を終了して合流せよ、と。そして<グワデン>の曳航準備。デラーズ中将のご遺体を丁重に保存せよ」

 

通信士は振り返りかけたが、こらえて復唱した。

艦長は周囲の緊張をほぐすためにあえて聞いた。

 

「閣下、デラーズ中将は連邦においてはテロリストの主犯格という位置づけですが」

 

「そうだ。敢えて私の名で軍葬を執り行う。そうすれば過激な連中が釣られてくると言うわけだ。アクシズにも動揺が走るだろう。なにせ沢山送ってやったからな。私は残虐な紳士なのでね、死しても利用法はあるというわけだよ」

 

最後の取って付けたような言い方に、艦長は苦笑した。

 

「成程。了解しました。厳かな式になるよう願いましょう」

 

フン、と鼻を鳴らしながら。ワイアットは紅茶にブランデーを注いだ。

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