Memory of Debris【完結】   作:びこーず

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Debris22:新星(後日談1)

私、セフィの朝は、所長へ書類を運ぶところから始まります。

ぱたぱたと忙しなく、捕虜収容所の所長室へ向かいます。

 

このところ渡す書類も増えました。しかし収容所の規模を考えれば、最初が少なすぎたのです。

すでにここ、サイド3、ジオン捕虜収容所コロニー<ジャスミン>には400万人の“捕虜や社員”がいるのですから。

 

 

シーマ様は演説の通り、捕虜たちと新たな暮らしを始めたのです。

暮らしには衣食住と職である。シーマ様はあらかじめそれを用意されていました。

 

 

今回の戦で、シーマ様は2基のコロニーをぶつけて1基を落とすように指示されていたらしいのですが。

1基を改造して落とし、もう1基はそのままちょろまかしてしまったのです。

コロニーを1つ盗んだシーマ様はそのまま連邦と交渉し、コロニー<ジャスミン>を捕虜収容所として連邦の物資を獲得しつつ、居場所としたのです。

 

 

私は所長室の扉の前にある表札を見ます。『社長室』

シーマ様は意地っ張りです。正式には所長なのに、社長呼びを諦めていません。

もちろん私は無難に切り抜けます。

 

「シーマ様、書類をお持ちしました」

 

「お、嬢ちゃんじゃねぇか、お疲れさん」

 

偶々居らっしゃったゲールさんが扉を開けてくれました。

顔や口調は怖い人ですが、多分優しい人です。

 

「あー、セフィ、それ置いたらコーヒー淹れてくれないかい」

 

すでに紙束と端末の前で格闘しているシーマ様は、一枚の紙を手に取っていらっしゃいました。

そのヘッダーには『GT』の文字。

 

 

 

捕虜収容所は連邦軍の持ち物ですが、実質的にはシーマ様、いや、GT社(ガラハウ・トランスポート社)が専有しています。

社会復帰の名のもとにシーマ様が立ち上げた、官民共同の企業です。

捕虜収容所で数年間問題が無ければそのままGT社の社員となることができます。

GT社は宇宙の配送業者で、各コロニーや地球の間で物資を運送する仕事を請け負っています。

元々捕虜の人達は船乗りやパイロットですから、輸送船の操艦や、重機操作は楽な仕事でしょう。

 

つまりシーマ様は連邦から社屋と資本、ジオンから人員を堂々と盗んできたのです。

そして連邦軍からの援助もあり、格安の運賃と高い信頼性から、GT社はアナハイムの部品すら輸送しています。

 

当然輸送物資を盗んだり、アクシズへ脱走する者も出てきますが、それは捕虜の脱走として、GT社と連邦軍が協力して追い詰めますから、脱走なんてできません。

それどころか待遇や環境が良いため、辺境のジオン残党軍などは直接ここに投降しに来たくらいです。

 

 

 

私は酸味を強めにコーヒーを淹れながら、お二人の会話を聞いています。

 

「あれは最近どうしてる」

 

「やっと新婚生活が安定してきたのかね、外で暴れ過ぎないように説教する毎日だ」

 

「……乳繰り合っている時が宇宙にとっては一番平和なんて、いや、飼い主のあんたも大変じゃないのさ」

 

「さらっと押し付けんな。飼い主はあんただろ、俺は飼育係だよ」

 

笑うのをこらえながら、お二人にコーヒーを出します。

そう言えばイザベラ様に暫くお会いしていません。シーマ様にあきれ顔で止められたので事情があるのでしょうが。寂しい気持ちはあります。

 

コーヒーの香りを楽しみながら、シーマ様は先ほどとは違う紙をゲールさんに渡します。

シーマ様は端末をいじりながら、指示を与えているようでした。

 

「じゃあ二人に仕事だよ。一方は“この艦には手を出すな”っていう事と、“これは潰せ”っていうリストだよ。潰すほうの塩梅はどうでもいいと伝えときな」

 

「手を出すな?……成程、赤い彗星がアナハイムにね……ハマーン摂政殿とは折が合わなかった感じか」

 

「だろうさ。まぁしばらくは泳がせるよ。実はその摂政殿とも連絡を取ったんだがね」

 

ガタリとゲールさんが腰をあげ、部屋を見渡し、ついでに私も見ていました。

シーマ様はひらひらと手を振りながら笑います。

 

「なんて言ったと思う?『シャアが私の事を嫌っているようなのだが、女性としてアドバイスをもらえないか』って真面目な顔して言うのさ」

 

「なんだぁ!?あの噂は本当だってのか。じゃあむしろくっつけちまった方が楽じゃねぇか、諸々」

 

二人が大笑いしているので、私もニコニコしてしまいます。

すると私の方を見て咳払いをするので、不思議です。

 

「まぁそうなんだよ。近々恋する乙女にプレゼントでも渡そうかと思ってるよ」

 

「なんだ?新型MSの設計図MSN-1122……ハマーン専用、祝式ぃ?これはまた、ブリブリだな。俺がアクシズ兵なら卒倒する」

 

「アタシ面倒くさくて、つい言っちまったのさ、相手が折れるまで押して押して押しまくれって」

 

「……火種どころじゃねぇぞ」

 

 

 

なんだかよくわかりませんが、イザベラ様。

 

「そうだ、セフィ。ゲールがこの後あいつらの新居に行くんだ。明日出発だから準備しておきな」

 

ここは平和です!

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