Memory of Debris【完結】   作:びこーず

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Debris23:死霊(後日談2)

かつて過酷な戦場を生き抜いたサウス・バニング大尉。

彼が再び戦果を挙げた。

 

神出鬼没にして無敗の死霊を撤退に追い込んだのだ。

 

死霊と呼ばれる2機のMSは、かつて戦場となった宙域に忽然と現れ、航行している商船や軍艦を攻撃してくる。

船乗りは戦火に散った軍人の死霊として恐れ、それらの宙域ではおまじないとして親指を隠した。

死霊は様々なMSに憑りついて現れ、魂を掴まれたものは冥界に引きずり込まれるという。

 

 

 

レンガ造りの年季が入ったパブの2階。貸し切りの小さなバーラウンジに二人の男がいた。

一人はロマンスグレーを丁寧になでつけた髪型に、ひげを蓄え、やや恰幅のいい男。

制服ではなく、キューバシャツのようなラフな姿だった。

 

もう一人はワークシャツにスラックス。軍人であることが透けて見えるような、彫りの深い顔。

オールバックが勇ましい、しっかりした体躯の男。

 

「バニング少佐、昇進おめでとう。聞き取りの席では堅苦しかったろう、すまなかったね」

 

「い、いえ。マーネリ大佐殿こそ快復おめでとうございます」

 

マーネリが自嘲気味な表情になるのも、バニングは頷けた。

彼はトリントン基地司令だったが、過日のガンダム強奪で重傷を負った。

奇跡的に助かったものの、責任は免れず、准将から大佐へ降格していた。

 

「大佐殿などやめてくれ、ここでは無礼講だし、私は功績調査部のお飾りみたいなものさ」

 

しばらく互いに応酬が続いたが、結局「大佐」「少佐」呼びで落ち着いた。

 

 

 

「少佐、実のところ。死霊との戦闘で何が少佐の気持ちを変えたんだい?」

 

 

バニングはあおった酒でむせそうになるが、マーネリはしてやったりという顔だ。

 

「すまんすまん。どうもお気楽な部署にいるせいで気が緩んでね、悪戯でもしたくなるのさ」

 

「はぁ、大佐は私の戦闘報告に納得していないということでしょうか」

 

「そうではない。ただ、今まで昇進や転属に消極的だった君がすんなり昇進したり、隊長を別に譲ったろう。退役を見据えてのことだとは思うんだが、今回の戦闘も関係しているのかな。と」

 

コツリとグラスをカウンターに置き、マーネリはその琥珀色を見つめながら言った。

 

「責めるとかそういうのではない。私は大失敗したときに人に話を聞いてほしかった。君がもし吐き出したいことがあるなら、私みたいな人間が適任だろうと、自ら志願したわけだ」

 

バニングは懐かしいカクテル『シェリーコブラー』を見ながら、しばし考えていた。

自分がこれを頼んだ訳を反芻し、話を始めた。

 

 

 

「あの時、私は移動のついでに輸送船を護衛していました。そして死霊と戦闘になりました」

 

マーネリは戦闘報告におけるバニングの奮戦を思い出した。

新人とペアで護衛していたバニングは、初撃で戦闘不能になった新人を脱出させ、庇いながら戦闘を開始した。

 

すさまじい機動を見せて幻惑してくる2機に対して迷うことなく突撃し、輸送船を攻撃し辛い位置を取り続けた。

それどころかヒートサーベルを振りぬいた敵に対して、ビームサーベルで小さく剣先を払い、間合いを詰めて手首から先を切り飛ばした。

さらに逆側から突っ込んできたもう一機に的確な射撃を仕掛け、ついに近寄らせなかった。

 

形勢不利とみて死霊が撤退するまで5分程。獅子奮迅の活躍を見せたバニングの映像は輸送船からも記録されていた。

 

 

 

「自身で振り返っても、パイロット人生で一番の動きができたと思います」

 

その顔に誇らしさはなく、寂しさが勝っていた。

カランと鳴るロックグラスが相槌を打った。

 

「ただ。楽しさや嬉しさがなかったのです」

 

上を見るバニングは、はるかかなたの宇宙を見ているようだった。

懐かしむような顔だった。

 

「昔は限界を超えるたびに高揚し、さらに腕を磨く気持ちになりました。そんな日々が楽しかった」

 

「……」

 

「老いてしまったのでしょう。もう私の生きがいは生きがいでは無くなってしまった」

 

「そして妻を残すのが怖くなったと」

 

驚いてバニングは向き直ったが、マーネリはクククと笑いながら、『シェリーコブラー』を指さした。

 

「そのカクテルは大抵ビーチのような観光地で、アベックにストローを二本さして出すものなのさ」

 

バニングはこのカクテルに足りていなかったものに思い当たり、恥ずかし気に頭をかいた。

若き日のハネムーンを言い当てられてしまい、顔も赤かった。

 

「はは、まぁそういう訳です」

 

「そうか。良いんじゃないかな」

 

そうして二人は他愛のない会話をした。

若い者は元気か。新しい部隊は上手く回りそうか。

そのうちに二人はある若者に着地した。

 

 

「ウラキ少尉、か」

 

「残念です。個人的な焦りと戦場での暴走を、私は止められなかった」

 

「彼は純粋だったな、メカが好きでたまらない様子だった。褒めてほしかったという気持ちもあったろうな」

 

「平和な時代に生まれてほしかった」

 

「全くだ。ただそうなると私は閣下と呼ばれなかっただろうな」

 

“我々”が会うこともなかっただろう。

 

二人は無言で杯を掲げ、飲み干した。

戦場の理不尽も、老いの理不尽も。呑み干すしかない。

 

飲んで、寝て、また良い明日が来るように。

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