デラーズはシーマの態度に違和感を覚えていた。
先ほど彼女にコロニー奪取と軌道投入への指令を伝えていたが、「またコロニー繋がりの汚れ仕事か!」と不満を露にするものと思っていた。
「了解いたしました。工作は海兵隊の得意分野。お任せください閣下」
不気味なほど素直な返事に、デラーズはガトーに視線を送った。
総司令が証拠もなく配下を疑うのは良くない。ガトーもよくわかっていたし、同じ違和感を持っていた。
「閣下、シーマ艦隊はコロニー奪取後にも任務が続きます。一方で交渉時にはコロニーの映像が必要となりましょう。我が隊からMSを一機出し、映像を録画後に本艦へ直行させてはいかがでしょうか」
あからさまにシーマ艦隊の監視役を派遣しようとするガトーに対し、シーマは眉間にしわを寄せた。
「少佐。出歯亀は結構だけれど、こっちにはお守りをする余裕はないよ」
「私からはビィ中尉を出しましょう。優秀すぎて護衛としては役不足だと感じていたところです」
グッとシーマが言葉に詰まり、ガトーはデラーズに視線を戻す。
沈黙をもって勝負あったとばかりに、デラーズはビィをシーマ艦隊へ随伴させることに決めた。
ガトーは自分の執務室に戻ると、ビィを呼び出した。
ビィは少し顔をこわばらせ、ぎくしゃくとあいさつをした。
ガトーは実力に比して引け腰の青年に少し笑いかけた。
「ビィ中尉、貴様はシーマ艦隊に随伴してコロニー工作の映像を記録。その後本艦へ戻り映像を提出せよ」
「了解しました!しかし私が少佐以外の部隊に随伴するのは初めてです。連携に不安が残るのですが」
「中尉、もう少し軍人らしくせんか。まったく、技量は問題ないというのに。決めた私が心配してしまうぞ」
目を泳がせるビィから視線を外したガトーは、机にある書類に視線を動かした。
それは士官学校から見習いとして任官した兵士のリストだった。
ビィはその様子に気付いたのか、話題を変えてきた。
「イザベラ様はお元気でしょうか」
「イザベラ曹長、だ。貴様は彼女にパイロットの手ほどきをしていたな。気になるのか」
いつになく鋭い視線。ガトーは部下に対して滅多にこの視線をぶつけない。
ビィは息をのむ一拍をはさんだが、一歩前に出て声を上げた。
「少佐殿。無礼を承知で申し上げますが、妹君は大佐殿の背中を追っているのです。その点ご配慮なさるべきかと」
「配慮?イザベラは誇りあるジオン軍人になったのだ。彼女の人生にどのような配慮をしろというのだ。あからさまに贔屓でもしろと言うつもりなら許さんぞ」
ガトーは少し語気を荒げた。ビィは背筋を緊張させつつ、ため息をつくという器用なしぐさをした。
それを受けてガトー自身も背もたれに少し寄りかかり、目を閉じる。
「もうすぐ見習いも終わり、少尉に任官されます。そうなれば本作戦の前線に投入される可能性が高いと考えております。少佐殿は曹長になってからの彼女にお会いになりましたか」
沈黙は雄弁にガトーと言う人間を象徴していた。ビィは早口にならぬよう注意しながら舌を回す。
「少佐殿ご自身のお考えあっての事とは承知の上です。その上で、彼女を見て来た私から言わせていただければ、危険です。戦闘の話ではなく、精神の問題として。彼女には愛情によるフォローが必要です」
ガトーは少し椅子を回し、手を組んだ。
酒も、本も、嗜好品が何もない殺風景な部屋に、ガトーのつぶやくような声。
「中尉。私は死んでいった部下たちの為、ジオンの理想の為、駆け抜ける覚悟をしている。私の妹であれば、私の生きざまを見て必ず分かるはずだ」
沈黙はビィの怒りをガトーに伝えていたが、ガトーは揺るがなかった。
「出過ぎたことを申しました。少佐殿、お許しください」
「いや、私も大人げなかった、許せ。そして、そうだな」
ガトーは目を開けてビィに向き直った。
「ビィ中尉、貴様はもはや私の護衛には過剰な戦力だ。イザベラ曹長を部下として遊撃部隊を編成しても良いだろう」
「……感謝いたします。少佐殿の妹君は、必ずやお守りいたします」
妹ではない、イザベラ曹長だ。
敬礼したビィに手を振って退室を促すガトーのしぐさは、戦場よりも疲れ果てているように見えた。
「馬鹿馬鹿しい」
廊下を歩きながら、ビィは吞み込んでいた怒りをため息交じりに吐き出した。