「キース!脱出しろ!」
フルバーニアンの全力機動でザクの背後へ回りつつ、コウは叫ぶ。
<アルビオン>も事態を察したのか、転進して向かってくる。
「糞!開かない!出してくれよ!」
開閉部分をザクの手に抑えられ、閉じ込められたキースは半狂乱に喚くだけになっていた。
コウはザクの背後をとったが、トリガーに指がかからない。
一瞬の逡巡を見透かしたように、ザクはスラスターで回転しつつジムキャノンを前面にさらす。
「やっぱりこのパイロット、優しいな。足でも頭でも撃てばいいのに。ガンダムの火力って難しいよね」
ビィはザクマシンガンをジムキャノンの脇から射撃する。
すると相手のガンダムはやや大げさな機動力で回避する。
「火力、機動力ともに化け物だなぁ。バッタみたいに動くじゃないか」
ビィは呆れながら次の手を考えていた。
前方にはガンダム。後方にはMSを抱えた戦艦。
その時、機体に伝わる振動と負荷を感じた。
「放せー!」
ジムキャノンがスラスターを開いたのだ。
咄嗟にビィはマシンガンを捨て、追加で肩に抱き着いた。
2機は跳ねる様に飛び出したが、向きを変え、<アルビオン>の方向へ突進しだした。
ザクのスラスターが小刻みに噴射されている。
コウは今度こそビームライフルを撃つが、稲妻のような動きの2機に当てることができない。
フルバーニアンは出力を上げ、2機を追った。
「敵機、ジムを抱えながら突っ込んできます!」
<アルビオン>艦長エイパー・シナプス大佐は焦っていた。
艦砲で薙ぎ払うことは容易だったが、確実にキースもろともになってしまう。
しかし決断に迷う時間はない。
「副砲は追尾、最至近でのみ発砲を許可する。バニング大尉の部隊を即時発艦。格闘戦に持ち込み、奴を引きはがせ!」
猛追するフルバーニアンはザクの真横へ大きく弧を描いた。
そしてシールドを構えると側面のスラスターを全開にする。
「吹き飛べ!」
高速でのタックル。誰も無事では済まないだろうが、キースの生存に賭けたいギリギリでの決断。
その時、死霊は嗤っていた。
「速くて捕まらないなら、来てもらえば良いだけ」
ビィは即座に両腕を放し、ヒートサーベルを抜き放つ。
そしてジムの背中を蹴り飛ばし、突撃してくるガンダムの側面へ振り下ろした。
異常に硬かったが、手ごたえあり。
辻斬りのようにフルバーニアンの背中を斬りつけたザクは、勢いを殺さず、<アルビオン>から距離をとるように全速で離脱を始めた。
「副砲、撃て!奴を逃がすな!MS隊はコウとキースを保護しろ」
シナプスは肘掛を叩きながら、副砲を避け続ける小賢しいザクをにらみつけた。
装備は寄せ集めにしか見えず、本当に標準的なザクにしか見えない。
「あのようなロートルにしてやられるなど!」
シナプスの怒りと、コウの怒りは似ていた。しかしコウの方が若い分、激発していた。
試作機を受領してからというもの、死ぬ思いで訓練を積んだ。
あのバニングでさえ模擬戦で追い詰めることができた。
たった1機、その辺にありふれる雑魚1機に手玉に取られた無念。
コウは背中のバーニアを切り、他のスラスターで飛び出した。
「ふざけるなよ、絶対に撃墜してやる!」
ビィは背後から迫るガンダムに驚愕していた。
確かに背部スラスターを損傷させたはずだ。それがなぜ高速で追ってくるのか。
やはり化け物。ビィは緊張と恐怖を感じたが、それと共に冷静になる心を見つめていた。
死線を這いまわってきた心は、危機に応じてより冷徹になるよう教育されてきた。
至近まで追い詰められたビィはザクを反転させ、ガンダムの正面に構えた。
「死ねぇ!!」
コウは絶叫とともに、ビームサーベルを抜こうとしたが、目前の敵はすでに背中のヒートサーベルに手をかけていた。
相手の方が速い。咄嗟にコウは逆噴射をかけ距離を取り、ビームライフルに持ち替えようとする。
その瞬間。コウは下から突き上げるような衝撃を受け、意識を手放した。
「コウ!待て!」
バニングは二人の攻防を見ていた。
ザクはヒートサーベルに注意を向けさせ、脚部ミサイルランチャーを放ったのだ。
至近距離での3発命中。爆発から吹き飛ぶフルバーニアン。
そしてランチャーの反動のままに半回転し、逃亡する敵機。
見事な奇襲と逃げっぷりに、あれは間違いなくエースパイロットであると確信した。
「なんて硬さだよ。反則だ反則!」
一方でビィも苛立っていた。
背中への斬撃。普通なら相手を両断できていたはずだ。
続くミサイルも、至近距離で炸裂しているというのにガンダムは吹き飛ばされるだけで爆発しない。
機動力から言って全身がスラスターエンジンと燃料まみれだと思われるのに、だ。
「あんな化け物と戦えるか!僕は艦に戻るぞ!」